オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳
「う~ん……」
唯の困ったような声が聞こえてきて、私は家計簿から顔を上げた。
見ると、テーブルの反対側にいる唯は、
珍しくも考え込んでいるような表情を浮かべて、
手にしたボールペンで紙を叩いていた。
「どうかしたの、唯?」
「あ、あのね、
あずにゃん……」
首を傾げてそう聞くと、唯は結婚後も変わらない呼び方を口にして、
「字にならないの……」
続いた言葉に、私は反対側に首を傾けていた。
「もう、またどうでもいいことに一生懸命になるんだから……」
「ぶー、どうでもよくないよぉ。家族にとって大事なことです!」
私の言葉に唇を突き出す唯。
そんな唯にため息を吐いて、私は渡された紙に視線を落とした。
そこには無数の縦線が書かれていた。
一見無秩序なようで、でも唯の話を聞いてから改めて見ると、
それぞれ四本で一つのまとまりになっていることがわかる。
この四本の縦線は、唯と私、
それに私たちの子供、柚と愛を表しているらしく、
「四人で川の字になって寝るのは無理だから、
別の字を考えてたんだけど……でも全然うまくいかなくて……」
ということらしい。
さっきみんなで見たアニメで、
親子三人川の字になって寝るっていうシーンがあったから、
きっとその影響だろう。
それで、私が家計簿をつけている間、ずっとそのことを考えていたのだ。
ほんとにどうでもいいことには一生懸命になるんだから、と私は思った。
「もうっ、別に字になって寝る必要なんてないでしょ」
「え~、あずにゃん冷たい……」
「冷たいって……」
「あずにゃんは、私たちで一つの字にはなりたくないのね!
家族の絆はいらないっていうのね!」
「……またわけのわからない演技を……」
大げさな動きで身をくねらせる唯。
こういうところは、律先輩とふざけていた高校生の頃から
まるで変わっていなくて……。
「はぁ……わかりました。一緒に考えればいいんでしょっ」
ため息を吐きながらもそう言ってしまう私も、
結局高校生の頃から変わっていないんだろうなぁと思ってしまった。
「でも改めて考えると……」
「ね? 難しいでしょ?」
紙に無意味に線を引きながら、私はむぅとうなった。
四画の字も四本の線で作られた字もあるけれど、
四本キレイに並んでいる字というのは思いつかない。
一人だけ上になったりすれば別だけど、
それでは組体操みたいになってしまう。
寝るときの並び方ではないだろう。
「あ、そだ!」
と、なにか思いついたのか、唯がボールペンを動かした。
すぐに書き終えたその文字を見ると、それは「小」だった。
三画の字を見て首を傾げる私の耳に、唯の説明が聞こえてくる。
「私が真ん中で、柚と愛が両隣で……
あずにゃんは下の小さく跳ねてるとこ!」
「……却下。いくらなんでもこれじゃ大きさ違いすぎでしょ」
「え~、これなら、
寝てるときにあずにゃんの足こしょこしょできると思ったのに……」
「なおさら却下!」
私が怒った声を出すと、唯がまた「ぶー」と唇を突き出した。
でもそれは一瞬のことで、
「そだ!」
またなにかを思いついたのか、すぐに笑顔になってまた字を紙に書く。
覗き込むとそこには、「W」とアルファベットが書かれていた。
「……却下。それじゃ四人斜めになって寝ることになっちゃうじゃない」
「え~、これなら、みんなで足をこしょこしょ……」
「だからなおさら却下!」
「ぶー……ならこれ!」
私の文句に、すぐに次の字を書く唯。書かれた字は「州」だ。
それを見て、「二画多いよ」と言おうとした私だったけど、
「あと二人頑張れば、この字ができるよ、あずにゃん!」
言われた言葉に、一瞬考えて……その意味を悟ると当時に、
かぁと頬が熱くなってしまった。
そんな私に追い打ちをかけるように、
「ハミガキおわったよぉ……って、あれ?
あずさおかあさんのおかお、まっかだよ?」
「まっかです」
部屋に入ってきた柚と愛に、そう言われてしまう。
照れて赤くなっていることを自覚させられて、
余計言葉が出なくなってしまい、
私はぱくぱくと口を動かすことしかできなかった。
「どうしたの? どうしたの?」と
興味津々の体で駆け寄ってくる柚と愛に向かって、更に唯が、
「ね~、柚、愛、妹欲しくない?」
と言うと、
「いもうと!? ほしい!」
「ほしいです!」
間髪いれずに、柚と愛が両手をあげて言った。
「いもうとくるの? おうちにくるの?」
「くるですか?」
「くるよぉ。私と梓お母さんが頑張れば!」
「ほんと!? ゆいおかあさんがんばって!
あずさおかあさんがんばって!」
「がんばってです!」
「ほらあずにゃん、柚も愛を頑張って、だって!」
柚と愛の応援に、そんなことを言う唯。
三人の言葉に、私はもうなにも言えず、
火照った頬を抑えることしかできなかった……。
「もうっ、すぐああいうこと言うんだから……」
三人の言葉に熱くなった頬を洗面所で冷ましてから、
私は寝室に向かった。
別に唯とそういうことをするのが嫌なわけではもちろんないし、
家族が増えるのだって構わないけれど……
不意にそういうことを言われると、どうしても照れてしまうのだ。
「もうっ、ほんとに唯は……」
そうぼやきながら寝室の扉を開けると、
「かわのじならできるよ!」
そう言う柚の声に出迎えられた。
二つくっつけたベッドの上に立ち、
柚がふんすと得意気な顔をしているのが見える。
その前に座った唯は、
「おおっ、すごい自信!」
と感心したような声を出していた。
柚の隣にちょこんと座っている愛は、
ちょっとあきれたような表情を浮かべている。
「まったくもう」という声が聞こえてきそうなその表情は、
どこか見覚えのあるもので、私は小さく吹き出してしまった。
「あ、あずにゃん、おかえりー」
「おかえりー」
「おかえりです」
「はい、ただいま」
そう言って私もベッドの上に座った。
その途端、私の方に身を乗り出すようにしながら、
「ねーあずにゃん! 柚がね、四人でも川の字、できるって!」
満面の笑みを浮かべて、唯がそう言った。
心底嬉しそうに言う唯を見て、柚がピースサインを作ってみせる。
そんな柚を見てまた愛があきれ、私は小さく笑いながら柚に尋ねた。
「できるの、川の字?」
「うん! かんたん!」
そう言うが早いか、柚は隣の愛に思い切り抱きついていた。
柚に抱きしめられて、
愛がどこかで聞いたような「にゃっ」という悲鳴をあげる。
「ほらっ! こうすれば、わたしとあいでせんいっぽん!
ゆいおかあさんとあずさおかあさんとわたしたちで、かわのじできるよ!」
「……おねえちゃん、くるしいです」
満面の笑みでそう言う柚と、文句を言いながらも振り解こうとはしない愛。
外見だけでなく、ほんとに中身も私たちに似ている二人を見て……
ふと、子供が増えたら、その子たちは誰似になるのだろうかと思った。
唯に似た子になるだろうか。それとも私に似た子か。
いやひょっとしたら憂に似た子になるかもしれないし、
案外誰にも似ていない子になることだってありえるだろう。
でも確かなことは一つ……
それがどんな子だって、増えた家族と一緒に、
私たちはきっと楽しく暮らしていけるはずだ。
さっきは照れるだけだったけれど……家族を増やすこと、
ちょっと考えてみてもいいかもしれないと、私は思った。
「おぉ! 柚、頭いい!!」
「ほんとだ、川の字だね、柚」
「えへへー」
「……くるしいです」
素で感心している唯に、柚を褒める私。
笑顔一杯の柚と、言葉とは裏腹に満更そうでもない愛。
今の幸せを喜びながら、ここに増えるかもしれない家族のことを思って、
また私は笑った。家族が増えたら、
そのときはどんな字をみんなで書くんだろう、なんてことも思いながら……。
さて、余談。
柚が川の字になる方法を考えてくれたけれど、
結局その夜、私たちは川の字になって寝ることはなかった。
なぜなら、
「「ぎゅー」」
「「……くるしい」」
家族四人、ぎゅってくっついて眠ることになってしまったからだ。
その夜私たち家族が書いた文字は、やけに太った数字の「1」だった……。
END
- 最高!!! -- (名無しさん) 2011-08-11 19:33:17
- 『1』ってこんな素晴らしい字だったのか -- (名無しさん) 2012-01-24 09:06:38
- 1最高! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 18:15:14
最終更新:2011年05月30日 12:45