『ベッドでいちゃこらするゆいあず』


熱くなった身体の熱が、少しずつ冷めていく。
汗で顔に張りついた髪。
上がる息も大分落ち着いて、私はその子を見つめた。

目を瞑り、まだ息は荒く、横に結んだ髪も随分と乱れている。
上気した頬に、汗もまだ引かない。
首に付いている跡が、ちらりと目に入った。
たぶん、後で怒られるんだろう。

私は、その子のおでこに張り付いていた黒髪をゆっくりと払った。
すると、綺麗な瞳が開かれ、
唯先輩?と、その声に、またよく分からない感情が込み上げてくる。

熱くなる。
溶けてしまいそうになる。
幸せで、幸せで、何故か泣きそうになった。

愛おしいと想う気持ちは、一体どこからくるのか。

考えながらも、その答えを別段求めてはいない私は、愛しいその子に今日何度目とも知れない口付けを落とした。


「あったかいねぇ~」
潰してしまわないように気を付けながら、私はぎゅうっとあずにゃんを抱きしめる。
「・・・暑いんです。重いし」
けれど、私と布団に挟まれたあずにゃんは、そんな可愛くない事を言う。
いや、可愛いけどさ。ぶぅ。

私はふと、背に小さく回された手に気が付いた。
暑いなんて言いながら、それでもこうやって小さな愛情表現を返してくれる。
そんなあずにゃんに、私の顔がどうしようもなく緩んでしまうのは、仕方のないことだろう。
「えへへ~」
「・・・何です?」
「ん~ん!なんでもない!」
笑顔の理由を言葉にしたら、あずにゃんはきっと離してしまう。だから言わない。

「ふう・・・」
くっついた体と体が気持ちいい。
変な意味じゃなくてね。
お互いの汗で、肌と肌とがぴったりとひっついて、まるでひとつになったみたい。
ひとつになりたいとは思わないけれど。
だって私は、“あずにゃんと一緒にいたい”から。
こうやって抱き合う事が心地いいのは、触れ合えることが嬉しいからかもしれない。

「キスしてい?」
のっそりと起き上がると、私は肘を付き、あずにゃんを見下ろした。
「・・・ダメって言ってもするんでしょう?」
あずにゃんの手が、背中から肩に移る。
「どーかなぁ~?」
「・・・いい、ですよ」
手を滑らせ、今度は私の首元に触れた。
ん、今のちょっとくすぐったい。
私は、静かに唇を寄せる。
首に回された腕が、あずにゃんが私を受け入れてくれてるって事が、やっぱり嬉しい。

「ん・・・」
「んむ・・・」
キスするの、好き。
むしろ大好き。
ぷにぷにして柔らかくて、あったかくて・・・。
すごく、甘い。
初めてキスをしてからもう3年くらい経つのに、全然飽きたりしない。
唇の柔らかさが気持ち良くて、それを感じたくて、何度も押しつけては離れる。
時には唇を唇で食んで、くすぐったり、舌先を少し触れ合わせたり。
深くはしない。
だってまた、止まらなくなってしまう。
何度も何度も口付けて。
最後にちろりとあずにゃんの唇を舐めると、私は唇を離した。

「ん、髪はずそっか」
ポフンと枕に頭を預け、あずにゃんの横に収まると、向かい合ったその子の髪に私は手を掛けた。
寝る時はいつもはずしてるからね。
「あっ」
制止のようなあずにゃんの声。
「ん?なあに?・・・あっ、もっかいしたい?」
する時はいつも結んでるしね。
「違います!!」
あう、怒られた・・・。

「・・・っと、そーだった」
「?何です?」
私は手を伸ばし、ティッシュを数枚取り出す。
「んー、拭くの忘れてたね。気持ち悪いでしょ?」
そういえば後始末を忘れていた。
「じ、自分でできますよぉ!」
「いいからいいから。じっとしててね」
いつもはあずにゃんがぼんやりしているうちにささっと拭いちゃうんだけど。
ん、汗掻いたし明日洗わなきゃだけど、シーツはまだ無事だね。
「んん~。足もうちょい」
「ううっ・・・。私今ちょっとシャワー浴びてこようと思ってたし、髪もそれもしなくていいですってば」
「うーん。それでもちゃんと拭いた方がいいよぉ。」
私は、あずにゃんの左足を自分の右足の上に乗せ、手をそこに滑り込ませた。
「んあっ」
ぴくりと、あずにゃんの身体が震える。
私の手がそこを往復するたびに、あずにゃんの可愛い声が漏れた。
「あっ!・・・んう・・・あ、うう・・・」
はうっ・・・か、可愛い・・・!
「あずにゃんあずにゃん、気持ちいい?やっぱもっかいする!?」
鼻息も荒く私がそう言うと。
「っんく・・・バカ!!」

バフッ!!

「・・・・・・」
枕が飛んできた。
私ノックダウン。

その後、なんやかやで一緒にシャワーを浴びて、私がくまなくあずにゃんの体を洗ってあ
げたり、それだけでは済まなかったりで、色々大変だった。
まぁ、主にあずにゃんがだけど。
今は、2人仲良くほっこりと布団に包まっている。
「あったかいねぇ~」
「そうですねぇ」
あずにゃんは、私の頭を胸に抱いて、ゆっくりと撫でてくれる。
優しい手が、心地良い。
「・・・それにしても、さっきのあずにゃん可愛かったねぇ」
それはもちろんシャワーの時の。
「なっ!・・・ばか!」
「イヤイヤ言ってたのに、おねだりとか、もっとキスしてとか。・・・もう、あずにゃんったらぁ」
他にも、あんなことやこんなことやそんなことまで!
“唯先輩・・・私、もう・・・っ!”とか言って涙目のあずにゃん。
ああ!やばいよ!可愛過ぎるよ!
思い出しただけで鼻血出そう!
「・・・・・・それ以上言ったらビンタしますよ?」
「ちょ、調子に乗りましたすいません」
「分かればいいんです」

「・・・でさ、明日の予定はなんだっけ?」
明日はあずにゃんとデートの予定。
って、日付変わっちゃったし、もう今日かな?
「え!?ちょっ!映画見るって言ってたじゃないですか!ハリポタ!忘れたんですか!?」
「おおっ」
そうでしたそうでした。
一番最後のやつだっけ?
「あと、新しい服も欲しいねって。お互いの選び合おうって・・・。私、楽しみにしてたのに・・・」
悲しそうなあずにゃんの声。
その声に、私は慌てて顔を上げた。
「え?あずにゃん!?ああ!?ごめん!ごめんよ!?私あずにゃんとのデートが楽しみで、
 それ以外はあんまり聞いてなかっt・・・や、違くて!ただ確認しただけっていうか!ど忘れっていうか!」
そういえばそんな話したね!
あとあと、雑誌に載っていた美味しいスープ屋さんでランチしようとか、あの雑貨屋さん寄ろうとか!
「・・・ばか。もう知りません。」
あああっ!拗ねてしまわれた!!
あずにゃんは、手を解き背中を向けてしまう。
「ごめんってばぁ。あずにゃ~ん!」
「むう。知らないもん。いつも人の話聞いてないんだから。大体唯先輩は・・・」
ぶつぶつと、本格的にむくれてしまったあずにゃん。
そんなあずにゃんを、私は背中からぎゅうっと抱きしめた。
「あずにゃん」
「・・・離して下さい。もう、ばか・・・」
「うん、ごめんね。・・・私バカだけど、あずにゃんの事大好きだよ」
だから、こんな風に背中を向けられるのは悲しい。
「っ!・・・意味分かんない・・・てかズルいです。いつもいつもそうやって・・・」
あずにゃんが、抱きしめた私の腕に手を添える。
「・・・あずにゃん?」
「・・・・・・クレープ」
「んん?」
「チョコバナナクレープが食べたいです」
「えーと?」
「食べに連れて行ってくれますか?」
振り返ったあずにゃんに、その言葉の意図を察した私は、首を大きく縦に振った。
「も、もっちろん!クレープ屋さんも行こうね!先輩が奢ってあげよう!あ、私もいちご
のクレープ食べよっかな。食べさせ合いっこしようね!」
「いや、街中でそれはちょっと・・・」
「ええー・・・?」
「・・・今度は忘れないで下さいよ?」
「だ、大丈夫だよ~」
「なら、許してあげます。・・・特別ですよ?」
「うん!じゃ、ほら。仲直りのちゅー」
「え?・・・もう・・・」
あずにゃんは、私の方に向き直ると、顔を上げて唇を寄せた。
「ん・・・」
「んん・・・」
唇が触れ合い、けれどすぐに離れてしまう。
「ん、これでいいですか?」
顔を赤くしているあずにゃんが可愛くて、ちょっと名残惜しいけれど。
「うん!えへへ~」
私はそう言って、でれっでれの笑顔を返した。

「・・・ほら、もう寝ますよ?朝起きられなくなっちゃうし・・・」
おや?あずにゃんの声が眠そうだ。
「うん。お出掛け楽しみだね」
「はい、楽しみです・・・」
コシコシと目を擦る仕草がなんとも愛らしい。
「晴れるかな?」
「天気予報では、明日晴れるって言ってました」
「なら良かった」
「はい・・・」
今度は私があずにゃんを胸に抱いて、その髪をゆっくりと撫でる。
「ん・・・。おやすみなさい。唯先輩・・・」
「うん。おやすみ」
私の腕の中で丸まって、もう寝息を立てはじめたその子の額に、私は口付けを落とした。
ちょっと疲れちゃったかな。

可愛くて、可愛くて。
愛おしくて、愛おしくて、愛おしくて。

その心も、体も、すべてが。

あずにゃんを初めて見た時からあった、この気持ち。

この気持ちがどこからくるのだろうとか、そんな答えの無い問いを考える時だって、そりゃあたまーにあったりする。
けれど、私が欲しいのはそんな答えじゃなくて。

ただ、今キミと居る幸せ。

「おやすみ、あずにゃん」
良い夢がみられますようにと。
明日もキミと幸せでありますようにと。

その愛しい温もりを抱いて、私は、静かに目を閉じた。


おわり


  • 事後かわいいよもっと増えろ -- (名無しさん) 2011-09-20 01:02:18
  • これのヤッテルとこみたい -- (名無しさん) 2012-01-19 19:00:40
  • かわいい -- (名無しさん) 2012-09-16 21:30:25
  • ほのぼの -- (名無しさん) 2021-01-20 01:06:18
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最終更新:2011年08月25日 23:53