今年の8月程、1か月間がこんなに充実していた月は無かったと梓は実感している。
高校3年生になって、軽音部の部長でメンバーを引っ張り、受験勉強にも力を入れた。
そして、ほぼ毎日のように唯の暮らす寮に出入りをし、通い妻として唯のお世話をしていたからだ。
毎日のようにイチャイチャする2人に対し、寮中では様々な噂が広まっていた。
時には夜遅くに、猫が鳴くような声が聞こえてくると苦情も少々あったようだが、K(匿名)による圧力によって、梓が寮を出入りする事は認められていた。
そんな忙しくもあり、幸せだった8月も終わった。月も変わった初日、9月1日は防災の日に設定されている。
梓は、日頃から防災の意識を持つ事の大切さを教える、という口述で今日も唯に会いに来ていた。
梓「日頃から災害に備える事が大事ですよね!」
唯「そうだね~」モグモグ
梓「日本は地震の多い国だから、いつまた大きな地震が来るかもわかりませんし・・・」
唯「そうだね~」モグモグ
梓「そこで、今日は防災の日と言う事で、地震が来た時を想定して、訓練をしましょう!」
唯「
あずにゃんの作ってくれたサンドイッチ、美味しい♪」
梓「ちょっ、真面目に聞いてください!!」
唯「えへへ・・・ゴメンゴメン」
唯は、梓が愛情を込めて作ったサンドイッチをペロリと食べ、幸せそうな表情をしている。
そんな唯の笑みは梓の癒しでもある。幸せな時間をずっと共有していたい・・・その強い気持ちが、梓の心を支配しているのだ。
唯の柔らかい笑顔を見ていた梓は、今日ここに来た理由を危うく忘れかける所だったが、何とか話を続けた。
梓「訓練でもしっかり取り組まないと、いざという時に慌ててしまって、冷静な判断や対応ができなくなるものですよ?」
唯「私は大丈夫だよ、あずにゃん!」
梓「唯先輩だから心配です」
唯「
あずにゃん先輩、厳しいっす・・・」
梓「良いですか、唯先輩・・・12時ピッタリになったら、地震が来たと想定して、訓練開始ですよ?」
唯「はーい・・・その前に、アイスティーおかわり♪」
梓「はいはい」
梓は慣れた手つきでアイスティーを注いでいく。ガムシロップとミルクを少し入れ、唯の好みの味へ仕上げていくのだ。
好みの味とは言っても、細かい分量があるわけではない。唯にとっては、梓が作った物であれば何でも美味しく感じられるのだ。
二杯目のアイスティーもあっという間に飲み干し、唯と梓はお互いの顔を見ながらクスッと笑い合った。
チッ・・・チッ・・・チッ・・・
時計は間も無く、2人での訓練開始を示す12時丁度になろうとしている。
梓は、高校の時からだらしないなぁと呆れる事もあるけれど、唯の事は心の底から信頼している。勿論、唯自身も梓の事は十分すぎるほど信頼している。
高校と大学という、普段は離れた生活環境になってしまったが、どんな時でも、常にお互いの事を考え、気にかけているのだ。
少しでも時間ができれば、メールをしたり電話をしたりするのが当たり前になっている。
しかし、そんな当たり前の出来事も、地震等の災害で脆くも崩れ去ってしまう事もある。
例え大きな地震が来ても、唯には無事で居てほしい・・・そう願うからこそ、梓は日頃から防災の意識を身につけてほしいと考えているのだ。
チッ・・・チッ・・・チッ・・・『12時だよぉ♪』
壁掛け音声クロックが、唯の声で12時を知らせた・・・と同時に、梓の一言で防災訓練も始まった。
梓「唯先輩、大きな揺れです!!」
唯「大変!まずは火を消して・・・あずにゃんはすぐにテーブルの下に隠れて!!」
梓「は、はい・・・!!」
唯「火元OK!逃げ道ようにドアと窓も開けて・・・あずにゃん、私もテーブルの下に行くから、身をかがめて!!」
梓「は、はい・・・!!」
先程の、のほほんとした雰囲気とは違い、唯は真剣な表情で動き回り、そして梓に対して的確に指示を出していく。
その予想外とも思える唯の動きに呆気に取られてしまった梓は、ただ返事をする事しかできなかった。
唯「あずにゃんはテーブルの脚を抑えて!!」
梓「はい・・・って、何で私に覆い被さってくるんですか?」
唯「私があずにゃんの防災頭巾替わりになるよ!!私があずにゃんの事を守るから、ジッとしてて!!」
梓「唯先輩・・・」
唯「・・・」
梓「・・・」
唯「・・・収まった・・・かな?」
梓「そうみたい・・・ですね・・・」
時間にすれば、約1分半程度の出来事・・・しかしその短い時間以上に、有意義な時間を過ごす事ができたのではないだろうか。
真面目にやらなければいけないとは言え、訓練と考えるとどこか気が緩んでしまう事もあるかもしれないのだが、今日の唯は違った。
正直な所、梓にとってもここまでの唯の行動は、想定外だと感じていた。
それでも、唯が必死に自分の事を守ろうとしてくれている・・・その気持ちだけでも十分嬉しく思えた。
唯「怖かったでしょ、あずにゃん・・・でも、もう大丈夫だからね」
梓「はい・・・って、唯先輩・・・短時間でも迫真の演技でしたね!」
唯「いやぁ、それほどでもぉ♪」
梓「こんなに真面目な唯先輩、初めてですね!!明日は雪でも降るんじゃないですか♪」
唯「えぇ!?あずにゃん、しどい・・・」
梓「演技とは言え・・・テーブルの下で唯先輩と密着している時・・・ちょっとドキドキしちゃいました」
唯「本当に大きな地震が来た時・・・本気であずにゃんを守りたいって思ったら・・・自然とあのような形になったんだぁ」
梓「そう思って、実際に行動してくれると・・・とっても嬉しいです///」
唯「大きな地震って、何も失う事無く終わる事って無いと思うんだ。何かを守る引き換えに何かを失ってしまう・・・守るべき物は当然、自分や家族の命だと思う」
梓「命が助からないと何も始まらないですものね・・・」
唯「私はね・・・例え家を失っても・・・お金が無くなったとしても・・・あずにゃんだけは失いたくないの」
梓「唯先輩・・・」
唯「あずにゃんの事・・・世界で一番好きだから・・・」
梓「唯先輩・・・私も・・・誰よりもずっと、唯先輩の事が好きです・・・」
唯「あずにゃん・・・」
梓「唯先輩・・・」
迫真の演技だった唯の表情は、一旦普段の表情に戻ったものの、再び真剣な物になっている。
普段の柔らかい表情ではなく、いわゆる『かっこ唯』な状態なのだが、真剣な眼差しは梓の視線を捕らえたまま離さない。
一方の梓も唯の瞳に吸い込まれてしまいそうな程、うっとりと唯の事を見ている。唯に見つめられると、梓は為す術もなく落されてしまうのだ。
唯「あずにゃんの事をずっと想ってたら・・・ドキドキしすぎて・・・暑くなってきちゃった」
梓「私もです・・・もう、唯先輩のせいですよ?・・・責任、取ってくださいね・・・」
唯「勿論だよ・・・」
周りも見えなくなり、唯と梓はすっかり2人だけの世界に入っていこうとしていた。
昼間から猫の鳴き声が聞こえる・・・なんて苦情も出てくるかもしれないが、2人にとってはどうでも良かったのかもしれない。
しかし・・・2人は気付いていなかった。たまたま唯の部屋の前を通りがかった3人が、事の一部始終を見られていた事を・・・。
律「なぁ・・・あいつら部屋のドア全開で何しようとしてるんだ・・・?」
澪「さ、さすがにこれ以上は止めた方が良い・・・よな?」
紬「大丈夫・・・半径50M以内に人を近づけないように、斉藤に指示しておいたから!」
律澪「「おい」」
律「それよりも、もっと突っ込む所があるよな・・・」
澪「そ、そうだな・・・」
紬「あぁ、目の保養だわぁ♪」
律「梓・・・高校はどうした!?」
澪「今日・・・平日だよな・・・」
紬「大丈夫・・・その事なら、既にこちらで手を打ってあるわ♪」
律澪「「えっ?」」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
純「今日始業式だったのに、梓どうして休んだんだろうね・・・まさか、今日から学校だって事忘れるんじゃ!?」
憂「まさかぁ・・・そんな事は無いと思うけど、ちょっと心配だね・・・」
菫(あっ、紬お嬢様からメールだ・・・先生に連絡する事・・・?梓先輩は今日、お休み・・・?理由は・・・・・・えっ!?///)
純「スミーレ、どうしたの?」
菫「あ、梓先輩はとても大切な用事がある為にお休みしているそうです!」
純「学校よりも大切な用事って何!?」
憂「何でスミーレちゃんに連絡が行ったの!?私達、何も聞いてなかったのに・・・」
菫「そ、それは企業秘密なんです!せ、先生に連絡してきますっ!」
直「ほぅ・・・」
その後唯と梓、協力者の紬は澪と律に怒られた。
しかし、週末限定という約束で梓の通い妻は続くのだった。
END
- いいぞ!唯!さすが!ムギ先輩! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-08 01:26:55
最終更新:2011年09月16日 22:27