誕生日は冬の日

唯「あずにゃん、ちょっとこっち行ってみようよ」
梓「え?道草ですか」
唯「うん、なんかつまんないし憂も今日遅くなるみたいだから」
梓「最近暗くなるの早いんですしあまり長居はできませんよ」
唯「わかってるってー、行こ?」
地元の自分でも知らない暗い小道の入り口が、そこにあった
梓「これ、大丈夫ですか?ものすごく心配なんですけど…」
唯「大丈夫!先輩に任せなさい!」フンス
普段頼りない先輩だけど、こういうときだけ見栄っ張り
でも何故だか安心してしまうのは唯先輩のすごい所かもしれない
しかし改めて周りを見てみると女子高生2人で来る所ではない
戦前からあったような古いアパートを通り誰も住んでいない家の裏口を横目に唯先輩はどんなもんじゃい!と言わんばかりに足を進める
以前憂と行った映画よりリアルでつい唯先輩に体が寄って行ってしまう
唯「もうすぐだよあずにゃん」
暗い所からいきなり明るい所へ出てしまい反射的に目を瞑ってしまう
恐る恐る目を開けてみると暖かい光が体を包み、あまりの綺麗さに言葉を失った
少し早めのクリスマスツリーとイルミネーション、宝石店の輝き
唯「すごいでしょ」
えへへーと言わんばかりの唯先輩の笑顔
思わず「綺麗」と呟いてしまう
その綺麗という感情は町並みから来るものなのかそれとも・・・と考えていたいたとき唯先輩が再び口を開く
唯「あずにゃんや」
梓「は、はい」
唯「いつまでくっ付いているの?」
梓「え?あっ」
今まで気付かなかったけどあの暗い小道からずっとべったりだったのだ
梓「すいません」
唯「いいよいいよ暖かいし、それに」
梓「それに?」
唯「私達恋人みたいだしね」
何を言うかと思えば本当、天然である
梓「何言ってるんですか」
唯「ダメかな?」
梓「だめじゃ!、ないですけど・・・」
特に断る理由もないし今時の女子高生ならこういう風景もあるだろう!と仮定しまた唯先輩に連れられる
歩きながらもキョロキョロと辺りを見渡すのがこれまた楽しい
光を放つ宝石店、ブランド物の衣服店・・・と所せましに列を成していた
また今度来る機会があれば是非来てみたいと思った
唯「着いたよ」
立ち止まった先にあったものは周りの店とは似つかない少し古びた雑貨屋であった
ドアを開けると木のドアが音を立てる
店内は木独特の匂いで普段香水などの匂いしかしない人ごみとは打って変わって不思議と懐かしい匂いでもあった
唯「さぁこの中から先輩が何か買ってしんぜよう」
梓「どうしていきなり・・・?」
唯「え?だって今日あずにゃんの誕生日でしょ?」
梓「そうでしたっけ?」
慌ててポケットから携帯電話を取り出す
11月11日、液晶のディスプレイにはそう映し出されていた
梓「本当だ・・・」
唯「あずにゃんうっかり屋さんだね」
唯先輩だけには言われたくなかったが自分の誕生日を忘れるようじゃいい返しはできない
梓「でも本当にいいんですか?」
唯「あまり高い物は買えないけどね」
鞄からごそごそと財布を取りだし見せびらかしてくる
中には小銭がジャラジャラとたくさん入っていた
これはあまり高そうな物を選ぶと後が可哀そうなことになりかねないのでとりあえずそこにあったガラスの小物を手に取った
店内を薄く橙色に照らす電球の光にかざしてみるとこれもまた綺麗だ
しばらく店の中をグルグルと見渡して結局決めたのが先ほどのガラスの小物の近くにあったガラスの猫が付いたストラップだった
梓「じゃあこれで」
唯「ほいほい」
レジに持っていくと奥から50~60歳のいかにも老舗のおばあさんが出てくる
唯「おばあちゃん、これ一つ」
おばあさん「はい、これはー1000円かね」
唯「えっ」
意外と高かった、もしかしたら職人の手作りであったりするのだろうか
唯先輩の顔を見ると案の定、目に涙を浮かべていた
おばあさん「でもカップルは半額だよ」
唯「おばあちゃんもそう見える?」
と照れくさそうにしていたが私はそれどころではなかった
梓「な、何言ってるんですか!そういうのじゃありませんよ!」
おばあさん「そうかい?私には恋人同士に見えるよ」
とにかく恥ずかしかったのでその場を去ろうと慌てて会計を済ませた商品を掴み店を出た
梓「唯先輩のせいで誤解されちゃったじゃないですか」
唯「そうかな?」
梓「そうです」
唯「いいじゃんカップルで~」
梓「いいわけないですよ!私達女子同士ですよ?」
唯「そうだよ、それで?」
梓「それでって・・・」
唯「別に女の子同士でもいいと思うよ、好きなんだし」
梓「なっ」
ここでまた天然爆発、形勢逆転
唯「いいじゃんいいじゃん~あずにゃん好きだよぉ」
冗談だと思っていてもどうも恥ずかしい
梓「じゃあ、今日だけですからね?」
唯「ぶーぶーあずにゃんのけちー」
なんだかんだでまた寄り添って歩く
でも、やっぱりこっちの方が暖かいし楽しい
さっき歩いていた小道を戻りいつも通学している道を進む
空は暗く冬の色だった
不意に唯先輩のポケットから音楽から流れ出す
唯「あ、憂からだ・・・あずにゃんの誕生日ケーキを買ってきただって!」
梓「なんか唯先輩の方が喜んでないですかね?」
唯「早く行こ!ケーキだよケーキ!」ムフフフ
すたたたたと走っていく唯先輩を目で追い、自分もまた後ろからついていく
梓「まってくださいよ、唯先輩」
end


  • 可愛い -- (名無しさん) 2020-01-17 17:19:38
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最終更新:2011年12月03日 21:57