オリキャラ(二人の子、柚と愛)注意
柚…唯似、6歳
愛…梓似、5歳
「柚、愛、準備できた?」
「うん!」
「できたです!」
私の言葉に笑顔で頷く子供二人。
でも柚と愛が持っている荷物を見て……
私はため息を吐いて、首を左右に振っていた。
「はい、やりなおし」
「……えー」
「……だめですか?」
今度の私の言葉には、子供二人はちょっと不満そうな表情を浮かべた。
珍しいことに愛までも、少し拗ねたように唇を曲げている。
姉妹そろっての抗議。
でもここで甘やかして、二人の荷物を認めるわけにはいかなかった。
なぜなら二人とも、自分の小物等を入れたバッグはぱんぱんに膨らんでいて、
更には愛用のギターやお気に入りのぬいぐるみまで抱えているのだから。
お正月を楽しみにしていてちょっと興奮気味なのはわかるけれど、
でも三泊四日の帰省でその荷物は多すぎた。
それに、帰省ラッシュに巻き込まれてしまう年末年始の移動は、
普通の旅行よりも疲れやすいものなのだ。
その上帰りには、実家からいろいろと
「お土産」を持たされてしまう可能性だってある。
今の私たちの家から実家まで割と近いとはいっても、
荷物はできるだけ少なくしておかなければ、後で困ることになってしまう。
「もうっ、憂お姉ちゃんたちのお家に行くのに、
そんなにたくさん荷物はいらないでしょっ。
あと、楽器も置いていくことっ」
「「「え~」」」
ちょっと強めに言った私の言葉に、今度返ってきた不満の声は三つだった。
「えっ」と思って振り向くと……
「エヘヘ……」
私の後ろには、ギー太を背負った唯がいて……
私はため息を吐いて項垂れていた。
年末年始。大晦日の夜は放課後ティータイムのメンバーで過ごして、
お正月の三が日はそれぞれの予定にあわせて皆実家で過ごす。
これが、ここ数年の私たちのいつもの予定だった。
年越しの会場は唯の実家なので、
私と唯は大晦日から2日の午前中までを唯の家で過ごすことになる。
それから私の実家に行って一晩泊まり、
3日の夕方ぐらいまでに今のお家に帰ってくるというのが
例年のスケジュールだった。
大晦日の午前中。今年もいつもの予定通り、
唯の実家に向けて出発しようとしているのだけれど……
荷物選びに時間をとられて、なかなか家を出られないでいた。
困ったことに、これもまた毎年のお決まりになってしまっていた。
「うっうっ……ごめんねぇ、ギー太。今年もお留守番だってぇ……」
わざとらしい泣き声で呟きながら、唯がギー太をスタンドに立てかける。
いつも楽器を置いている部屋の隅だ。
隣には子供用ギターを置くスタンドが二つあって、
更にその隣には私のむったんがあった。
「もうっ……唯まで楽器持ってきてどうするのよっ」
「いやぁ、ギー太をお家に残していったら寂しいかなぁと思いまして……」
「まったく……旅行や帰省の度にギー太を持っていこうとするんだから……」
「でも
あずにゃんも、卒業旅行の時はむったん連れてきてたじゃん」
「む、昔のことでしょっ!」
唯に学生の頃のことを言われて、あのときのことを思い出してしまい……
私の頬はちょっと赤くなってしまった。
唯だったらきっとギー太を連れて行くだろうと思って、
私もむったんを持って行ってしまった高校の卒業旅行。
今にして思えば、ちょっと気恥ずかしい理由だ。
唯が持っていくから自分もなんて、
まるで何でもお揃いがいいと言っているみたいではないか。
「と、とにかくっ。実家への帰省なんだし、
演奏するようなことだってないんだから、楽器は置いていくことっ」
赤くなった頬を誤魔化そうとするかのように、
私はちょっと怒った口調で言った。
「は~い」と頷く唯の横では、
柚と愛が自分の子供用ギターをスタンドにたてかけていた。
「ぎーた2せー、みんなといっしょにおるすばんしててね」
「ぎーた、むったん、むったん2ごーのことおねがいするです」
スタンドに置かれた柚と愛のギター。
それはもちろん、私と唯のギターよりも小さいもので……
大人の大きなギターと子供の小さなギターが一緒に並んでいる様は、
まるで家族のようにも見えた。
その様子に、私はつい、くすりと笑ってしまっていた。
「ほらっ、ギー太2世もむったん2号も、
ギー太やむったんと一緒なら寂しくないからね」
「うんっ」
「はいですっ」
柚と愛の頭を撫でながらそう言うと、今度は二人とも笑顔で頷いてくれた。
家族のギターが揃ったので、唯もようやく落ち着いて、
「ギー太、留守中知らない人が来ても、ドア開けちゃダメだからね!」
「……なに言ってるの、もうっ……」
昔と変わらない唯の言動に、私はまたため息を吐いていた。
それから1時間。柚と愛の荷物を整理して、私たちの荷物もチェックして。
最後に家の戸締まりを確認して……ようやく出発ということになった。
「うぅ……やっぱり年末は寒いねぇ……」
玄関の鍵をかける私の後ろで、唯がそう言って身を震わせていた。
私も冷たい風に身をすくませながら、「まぁ、年末だもんね」と言う。
そんな私たちを真似るように、柚と愛も、
「さむいぃ~」
「さむいですっ」
と言って体を震わせているが……
ほんとに寒くてつらいという大人二人とは違って、
子供二人はどこか嬉しそうだった。
その場で足踏みをしているのも、寒くてというよりも、
楽しくてはしゃいでいるようにも見える。
夏の暑いときにも思ったけれど、子供はなんだかんだいっても元気だ。
「よぉし、寒いから、駅までみんなでぎゅってしていこうっ」
と、突然唯がそう言って、柚の手を握って、
更にぎゅっとくっつくように体をくっつけた。
柚もすぐに「うんっ」と頷いて、隣の愛の手を握って体をくっつける。
そして愛も、
「あずさおかあさんも、ぎゅっ、です」
そう言いながら私の手を握って、体をぴったりくっつけてきた。
家族四人でぎゅっとくっついて一塊になって……
それはちょっと歩きにくい格好だったけれど、
「フフ……そうだね。みんなでくっついてれば寒くないものね」
笑って、私もそう言っていた。冬の風は冷たいけれど、
家族の体温は寒さに負けないぐらい温かい。
「あったかあったかだねっ」
笑顔でそう言う唯の声にあわせて、柚と愛、それに私も
「あったかあったか」と返す。
そうして道を歩き出しながら、私は心の中でそっと、
今の自分たちの家に挨拶をしていた。
(今年も一年間、ありがとうっ。来年もよろしく、ねっ)
そんな私の内心の呟きに返事をするように……
玄関前の防犯用センサーライトが一度、瞬くように点滅した。
END
- ん?なんか点滅した? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 17:23:54
最終更新:2012年01月15日 23:48