上記の通り俺設定満載なので、苦手な人はご注意を。
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ここはサークル棟の一室。軽音サークルの部室。
そして今日……2月14日は、私が大学に入ってから初めてのバレンタインデイ。
鞄にチラリと視線を向ける。もちろん、チョコレート入り。
そう、今日私は唯先輩にチョコをあげるつもりなのだ。唯先輩は既にメールでここに呼び出してある。
今は唯先輩が来るのを待ってるんだけど……ああ、緊張してきた。
そりゃあ、唯先輩にバレンタインチョコをあげるのは初めてじゃないけども。
去年は私が受験で忙しかったから渡せなかったし、一昨年は唯先輩個人にではなくて先輩方にだったし。
それに……その、唯先輩の事が好きだって事に気づく前だったし。というワケなので、すこぶる緊張している。
……渡して、反応を見て、良さそうだったら……こ、ここ、告白……しちゃお……かな……?
なんて。……できたら、いいなぁ……。
「あーずにゃん」
不意に首筋に冷たい感触が走り、思わずひゃっ、と声が漏れる。
反射的に振り返ると、唯先輩がいた。私の首筋に手を当てたらしい。
そして振り返った私の頬を両手で挟み込んでくる。
「えいやっ」
「つめたっ」
「ほわ~、あったか~」
至極ご満悦な様子。
私としては唯先輩に触れられているのは悪い気はしないけど、冷たいのは勘弁してほしい。
「唯先輩……手、離してください」
「ええ~……だって、冷たいんだもん」
「ええ~、じゃないです!私だって冷たいですよ!」
「いいじゃんか~。
あずにゃんのほっぺたはあったかいね~♪うりうり~」
両手でほっぺたをこねられる。何もよくない。
「ひゃ、ひゃめれくらひゃい、ひゅいせんひゃい~……もうっ!」
唯先輩の両手を掴んで、胸の前に持って行って、握った。
「そ、その……手なら、握っててもいいですから……」
一瞬驚いたような表情を浮かべた後、ふにゃりといつもの柔らかい笑顔を向けてくれる唯先輩。
「えへへ。ありがとね、あずにゃん。あったかあったか、だよ」
「……はい、あったかあったかです」
唯先輩の手は冷たかったけど、とても暖かく感じた。
「それであずにゃん、何の用なの?」
「あ、そうでした。えと、私、唯先輩にチョ──」
と、ここで気づく。あれ?唯先輩の足元の大きな紙袋って……。
「ちょ?」
「いえ、その……唯先輩、その紙袋、何ですか?」
「ああ、これ?えへへ、これはね~」
「あっ……」
唯先輩はあっさりと私の手を離して、紙袋をまさぐり小さな箱を次々と机の上に積んでいく。
これってやっぱり……。
「チョコレートだよ!えへへ、今年もいっぱいもらっちゃった~♪」
今年"も"……。そっか……そりゃそうだよね。だって唯先輩、HTTのボーカルだもんね。
ファンだっていっぱいいるし、ライブの後はいつももみくちゃだし……そりゃ、チョコレートくらいもらうよね。
あ、あの箱すごく大きい……きっと、本命なんだろうな。
私がチョコをあげたって、唯先輩にとってはたくさんの好意の内の一つに過ぎないんだ。
そう思ったら、急に自分が情けなくなった。
「それで、あずにゃん?ちょ、って何?あ、もしかしてあずにゃんも──」
「ち、ちがいます!えと、えと……そう!唯先輩はちょっと練習した方がいいです!って言おうとしたんです!」
反射的に嘘をついてしまった。
「ええっ!あずにゃんしどい……。あずにゃんほどじゃなくても、ちょっとは上手になったかなって思ってたのに……」
本当はちょっとどころじゃない。それに、私が教えることなんか、もうない。
最近、唯先輩の上達は本当に凄まじくて、私が教えてもらう事もあるくらい。
……あれ?もしかして私って、もう唯先輩にとっていらない子?
目頭が熱くなってくる。
「それだけです!それじゃ、お疲れ様でした!」
「あ、あずにゃん!?」
言い捨てて部室を飛び出す。これ以上唯先輩の顔を見ていたら本当に涙が出ちゃいそうだったから。
唯先輩の呼び止める声を振りきって走る。
気づけば、サークル棟からはずいぶん離れた、学内にある池の前に来ていた。
池の方を向く形で設置されたベンチに腰掛け、息を整える。
……はぁ。逃げてきちゃった。チョコ……渡したかったなぁ。でも、渡せるわけないじゃない。
鞄からチョコレートの箱を取り出す。包装紙を剥がして箱を開けると、飾りっけのない無地のブロックチョコ。
それをいっぺんに口に放り込んで、もう一つのチョコレートを取り出す。こっちの包装は、かなりド派手だ。
それもそのはず。これは告白した場合渡すつもりだったチョコだ。少しだけ躊躇したけど、同じように包装紙を剥がして箱を開ける。
大きなハート型のチョコレートに白ででかでかと"I LOVE YUI"の文字。そしてピンク色でハートを縁取りしてある。
自嘲の笑みが漏れる。……深夜の妙なテンションが加わったとはいえ、これはない。
そのチョコレートの表面にぽたり、と雫が落ちる。雨かな?
……いや、違う。私の涙、か。
「っふ……うっ」
我ながら滑稽だ。別に振られたわけでもない。ただ、望みが無いという事に気がついただけ。
私が必要としてやまない人には、私は別に必要ないという事に気がついただけ。
それだけなのに、涙が止まらない。諦めが悪いよね。こんな私、ダメダメだ……。
「あずにゃーん!」
「へっ……?!」
後ろから唯先輩の声。
チョコレートを脇に置き、立ち上がって振り返ると、息を切らした唯先輩の姿があった。
追いかけてきてくれたんだ……。
「はぁ、はぁ……あずにゃん、さっきの……あっ!あ、あずにゃん泣いてるの!?」
「あ、こ、これは……にゃっ」
言い訳をする暇もなく、駆け寄ってきた唯先輩に抱き締められる。
走ってきたからか、唯先輩はいつもよりとっても暖かかった。
そのまま頭をなでられる。
「いい子、いい子……。あずにゃん、私にはなんでも言っていいんだよ?だから、一人で抱え込まないで……ね?」
あ、ダメだ……。
「ど、して……」
「ん?」
「どうして、私に優しくしてくれるんですか……?」
考えた事がそのまま口から漏れだす。
「あずにゃんのこと好きだからに決まってるよ」
ずっと聞きたかったセリフ。だけど、違う。
「……どうして、そういうこと言うんですか?」
「そういうこと、って?」
「わ、私、私……唯先輩の事、好きなんです」
「私も好きだよ」
嬉しい。けど、違うんだ。唯先輩の"好き"は、ただの後輩としての……。
「先輩はわかってないんです!私の好きと、唯先輩の好きは──」
そこまで言ったところで、言葉を遮られる。
「あずにゃん。あずにゃんの好きって何?」
「それは……その……」
「もしかして、これの事?」
これ、って?唯先輩が私から離れて、ベンチに置いてある箱を……ってああっ!
「そ、そそそそそれは……」
「これ、あずにゃんの気持ち……ってことでいいんだよね?」
唯先輩が箱からチョコを取り出す。血の気が引くのを感じる。あんな暴走チョコを見られてしまった。
気持ち悪いよね。引かれちゃうかな?そんなの嫌だ……。
「あずにゃん……これ、もらってもいいかな?」
「で、でもそれ、汚いですよ……。だって、私の涙、ついちゃいましたし……」
「はむっ」
「あっ」
食べた。
「ん、とっても甘くて、ちょっとしょっぱい。これがあずにゃんの気持ちなんだね」
真面目な表情の唯先輩。いつもはあまり見ない表情に、胸が高鳴った。
「あのね、あずにゃん。よく聞いて?」
「は、はい」
「これがあずにゃんの気持ちなんだったら……私も同じ、だよ?」
同じ?私と唯先輩の気持ちが?でも、それは……あ、いや。私の気持ちって、チョコレートに書いてある文字の事?
じゃあ、私と同じって……唯先輩も"I LOVE YUI"ってこと?じゃあ……。
「え……唯先輩、もしかしてナルシスト!?」
「ちょ、ひどっ!」
「そ、そうですよね。えと、えと、じゃあ……?」
「もうっ。……あずにゃん」
「にゃっ」
再び唯先輩に抱き締められる。暖かい。
「あの、唯先輩……?」
困惑していると、耳元で私の名前を囁かれる。
「あずにゃん」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
ああ、ヤバい。ぞくぞくするよぉ。
「私もあずにゃんのこと、愛してるんだよ?」
「っ!!」
唯先輩が私の事、
愛してるって言った?今?
じゃあ、じゃあ、私の空回りじゃなかったって事?唯先輩もちゃんと私の事好きでいてくれてるの?
嘘……どうしよう、すごくうれしい。
唯先輩が私の事、愛してるって言った?今?
じゃあ、じゃあ、私の空回りじゃなかったって事?唯先輩もちゃんと私の事好きでいてくれてるの?
嘘……どうしよう、すごくうれしい。
「ほ、ほんと……ですか?」
「うん、ほんとだよ」
その言葉になんだか胸が甘く締め付けられるみたいで、さっきとは違う涙が出てくる。
なんだかたまらなくなって、唯先輩の背中に手を回し、その胸に顔を埋める。
「わ、私、私……すごく嬉しいです……ぐす」
「ん、私も嬉しいよ……あずにゃんが私のこと好きでいてくれて」
幸せに包まれながら、ふと思う。……ドッキリとか、
罰ゲームだったり、しないよね……?
根拠の無い不安が胸に広がっていく。その不安を解消してほしくて、唯先輩に求める。
「……しょうこ……」
「ん?」
「証拠、見せてください……」
「証拠?証拠、かぁ……こっち向いてくれる?あずにゃん」
唯先輩の顔を見上げる。唯先輩はじっと私の目を見つめて。
「……あずにゃん……目、閉じて?」
言われた通り、目を閉じる。
「梓……」
「ゆい、せんぱい……」
今、梓って……。はぅ……すっごくドキドキする……。
唯先輩の吐息が聞こえるくらいに近づいてきて……そして、触れる。
初めて触れた唯先輩の唇は、とても柔らかくて、熱くて……チョコレートの味がした。
「んっ……」
ああ、夢みたい。ほんとに私、唯先輩とキスしてるんだ……。
そしてどちらからということもなく、離れる。
目を開けてみると、唯先輩の顔は赤くなっていた。きっと私の顔は、もっと赤い。
「……どう、あずにゃん?信じてくれた?」
「……はい。でも……」
「でも?」
「私……あずにゃん、って呼んでくれる方が、好きです」
「ほぇ?」
「そ、その……あずにゃんは……唯先輩だけの、呼び名だから……」
うう、恥ずかしい。照れ隠しに唯先輩の胸に頭を押し付けて、こすりつける。
唯先輩はふふ、と笑って頭を撫でてくれる。それは、ひどく心地がよかった。
「……えへへ、わかったよ、あずにゃん。あずにゃんは私だけの子猫ちゃんだもんね」
「そっ!そこまで、言ってないです……」
「あれ、違うの?」
私の頭を撫でながら、からかうように言う唯先輩。
「あ、う……違わない、ですけど」
唯先輩はズルい。私の口で認めさせるよう、誘導している気がする。
「じゃあ決定だね♪……ねぇ、あずにゃん」
「はい」
「あのね……私と付き合ってくれないかな?」
先を越されてしまった。私だって、ずっとずっと好きだったのに。
「……やっぱり、唯先輩はズルいです」
「えへ、ごめんね?それで、どうかな?」
「……断るワケ、ないじゃないですか。よろしくお願いします、唯先輩」
「うん。……ね、もっかいしよっか?」
「は、はい……」
「好きだよ、あずにゃん……」
「私も好きです、唯先輩……」
今度は私が少し背伸びして、唯先輩に口づける。2度目のキスも、やっぱりチョコレートの味がした。
END
────────ここからおまけ────────
「そうだあずにゃん!私もチョコ持ってきたんだよ!あずにゃんに!」
「えっ、ほんとですか?嬉しいです!」
「うん、ちょっと待ってね……これなんだけど……あっ」
「どうかしましたか?」
「いや……あずにゃん、ちょっと目閉じててくれないかな?」
「?わかりました……」
「……ん」ちゅ
「んん!?」
「……ぷは。どう、あずにゃん?」
「……甘いです……すごく」
「えへへ♪でしょー?」
「……もう、唯先輩ったら……えへへ」
────────ここまでおまけ────────
- 甘すぎて溶ける! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-07 15:58:58
- 甘っ!! -- (名無しさん) 2014-04-23 22:05:09
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最終更新:2012年02月19日 16:04