寒いのって嫌い。
寒いと、チクチクする。
肌が叫んでる。泣きながら、叫んでるよ。
『北風あっち行け!!』って
だから、冬は大嫌いなのです。
「『だから、夏は大嫌いなのです』って、夏のあっつい頃に言ってましたよ」
「え?そなの?やだなー、
あずにゃん。よく覚えてるね」
「覚えてるね、じゃなくて……」
休日。私こと平沢唯の部屋で、夕方。暖房も付けずに、あずにゃんと私は、一人はセーター、一人は毛布でがんばっているのです。
「というか、寒いならエアコン付けたら良いじゃないですか」
「だってー。夕方からエアコンかストーブ付けてる奴は『はいじん』だってりっちゃんが」
「……はぁ。で、廃人の意味分かってます?」
「さぁー?」
はぁ。あずにゃんが二酸化炭素を排出する。ベッドに座り、毛布にくるまっている私は、それを見てムッとする。
「……あずにゃーん。言いたいことあるなら、言ったほうがいいよ?」
「言ったら、きっと唯先輩ショック受けますよ?」
「どんとこいです!」
「ほぉ」
あ。あずにゃん今、いじわるな笑い方した。
紺色のセーターに身を包んでいる後輩は、ベッドにいる私を見上げると、すぅと息を吸い込み、言ったのです。
「いいですか、唯先輩。まず唯先輩は我慢しなさすぎです。大体最近は日の入りが遅くなったというのに、なんですか寒いって。修行足りなさすぎです」
おおう。修行って何。
「黙っててください。話はまだ終わってません。しかも、なんですか。私がセーター一枚でがんばっているというのに、唯先輩は毛布にくるまって、あたたかいベッドに座りこんで。
私なんか床ですよ。しかも床暖もなにもないただの床ですよ。わかりますか?私のほうが、唯先輩よりずっと寒いんです」
んに……。ぬ……。おお……。
「しかも昨日の部活で、なんですか。寒いから練習できないって。寒いのはみんな同じなんです。
それでもかじかむ指を自分の体温で、吐く息であたためて、少しでも今の自分より上手くなろうとムチ打ってがんばっているんです。みなさん、唯先輩みたいに根性なしじゃないんですよ?」
はご……。おぐ……。うごご……。
「それに先輩は―――」
ぷちっ。
「もーっ、あずにゃん、いじめないでよー!!」
「きゃあ!?」
耐えきれなくなった私は、ベッドから素早く降りると、あずにゃんに正面から抱きついた。
そしてそのまま、いじわるな後輩をぎゅううっと抱きしめる。
「ぎゅ~~~っ」
「ちょ、唯先輩、くるし……っ」
うるさいうるさい!いじわるな後輩には、こうだ!!
「ゆ、唯先輩が『どんとこいです!』って言ったから……!」
「そ、それでも、あんなに言うなんて予想外だよー!!」
「だって、そのほうが唯先輩のためになるかと思って……」
ぬぬぅ。
確かに、あずにゃんのさっきの言葉は、悪意からじゃなかった。聞いただけだと悪意だけど。
でもあの行の長さはないよ。
「……まぁ、ちょっと、言い過ぎたかもです」
「うん」
「でも、後輩にそこまで言われる唯先輩も唯先輩です」
「おぉう」
「さっきから変な声出し過ぎです」
ごめん。なんか癖で。
「どんな癖ですか」
……それにしても。
「あずにゃん、あったかいね~」
ぶかぶかセーターも、あずにゃんの体温が合わさると、ストーブに打ち勝ちそうな程あたたかい。
よく考えたら、最初っからあずにゃんに抱きついてたらよかったんだよね。あずにゃんあったかいし。
「なんでそうなるんですか」
「え~?だってそのほうが、あずにゃんもあったかいでしょう?」
「む……。……まぁ、ちょっとは」
「ちょっと?」
「うっ……。……と、とっても、あったかい、です……」
うんうん。素直でよろしい。
「じゃーあずにゃんも私のことぎゅ~ってして~」
「へっ!?」
「だって、あずにゃんだけあったかいなんて、そんなの不公平だよ?」
「うぐ……」
ああ、顔が赤いあずにゃん、かわいい。どこかの変態紳士みたいにぺろぺろしたい。
―――そんなことを考えてにやにやしていると、背中に小さなぬくもりが、ふたつ。
あずにゃんが、恥ずかしそうに、私の背中に手をまわしていた。
すぐ横に、あずにゃんの顔がある。頬が触れる。きっと私が顔を横に向けば、私は簡単にあずにゃんにキスできるだろう。
でも、しないよ。だってまだ夕方だもの。晩ごはん、食べてないもの。
それに、今この状態を自分からやめにしちゃうのは、なんだかすごくもったいない。
いつの間にか肩からはだけ落ちた毛布に気付き、まぁいっかと微笑んだ。
毛布より、ずっとずっとあったかいもの、見つけたから。
……不意に、ドアがコンコン、と私達を呼んだ。
そのあと、ガチャリとドアが開いて、
「お姉ちゃん、梓ちゃん、晩ごはんお鍋でい…………」
なぜか私達を見て、目を丸くする憂。
そのあと、目は戻るが、顔がどんどん赤くなっていく。
「ご、ご、ごめんなさい!!」
なんで謝るのん。
「ちょ、違、ういーーー!!!」
あ、あずにゃんが離れた。寒い。あずにゃーん。
なぜか赤面し、そのまま部屋を後に走る憂を、愛しのあずにゃんは追いかけた。
よくわからない。なにが『ごめんなさい』なのか。なんで『違』うのか。
「唯先輩は黙っててください!!」
「はぶ」
本日二回目の『黙っててください』を怒り顔のあずにゃんから頂き、私の心は一気に凍るのです。
やっぱり、冬なんか大嫌い。