その日部室にやってきた唯先輩は、消え入りそうな声で抱きついてきた。
初めて見る表情に内心動揺しながらも、私はその頭を優しく撫でてあげる。
「どうしたんですか唯先輩。珍しく元気ないですね」
「…うん」
「何か嫌なことでもあったんですか?」
「…別に」
「じゃあなんでそんな顔するんですか?嘘ついたって分かるんですよ」
「……」
唯先輩は目をキュッと瞑って私に身を寄せた。
それは例えるなら、出かける母親を必死に引き留める子供のよう。
離れたくない、離れたくない…そう訴えているような、そんな姿だった。
「唯…先輩?」
「…私って、ホントにあずにゃんと付き合っててもいいのかな」
「え…」
「あずにゃんと付き合う資格とか、あるのかな」
「なに…言ってるんですか?そんなこと…」
「…今日ね、一年生の子…あずにゃんとか憂とは別のクラスの子みたいだったけど…何人かが話してたの聞いたんだ。
…私とあずにゃん…つ、釣り…釣り合ってないって…うっ…うぇ…」
唯先輩は大粒の涙を流しながら、体を小刻みに震わせて私の制服にしがみついた。
普段は幸せな気持ちになれる先輩の髪の毛の甘い香りが、悲しく感じられた。
唯先輩の話を要約するとこうだ。
唯先輩のように天然でマイペースな人は、私のような真面目な性格とは合わない。
きっとどちらかが無理して付き合ってる…そんなことを私の同級生が話しているのを偶然聞いてしまったらしい。
「…その時思ったんだ。私って、知らない間にあずにゃんに無理させてるのかなって…」
「…ばかですね。そんな的外れなこと真に受けてどうするんですか?」
涙で濡れた唯先輩のまつ毛を指先でぬぐいながら、私は軽い調子で言った。
そう、その話は憶測で物を言っているにすぎない。だから気にする必要なんてないんだ。
なのに、唯先輩は…
「でも!」
「!?」
「…釣り合ってないっていうのは、ホントかもしれないじゃん。あずにゃんは真面目だしかわいいし、ギターも上手だけど…」
唯先輩はうつむいて、私から顔を背けた。それは何か、申し訳なさそうな様子だった。
「…私はいい加減な性格だしかわいくもないし、ギターだって上手くない。考えてみたらこんな私、あずにゃんとは全然…いたっ?」
我慢できなくなって、私は唯先輩の頭にげんこつをしていた。本気の100分の1の強さで。
「唯先輩がそんな簡単に他人の意見に流されるなんて、らしくないですね」
「…だって」
「私のことを考えたからですか?」
「うん…」
「だったらそんな心遣いは結構ですよ。私のせいで唯先輩がそんな顔するのは気分がよくありませんから」
「で、でも…」
「唯先輩、私のこと好きですか?」
「も、もちろん好きだよ。大好き」
「私も唯先輩のこと好きです。だったらこれで無条件に釣り合ってるじゃないですか」
「え…?」
「付き合うには、お互いに好きでいればいいんですよ。それ以外になんの共通点がいるっていうんですか?」
「だけど私…」
「平気ですよ。誰が何と言おうと、私は唯先輩のことが大好きですから。辛くなっても、ずっと守ってあげますからね」
そう言って、私は唯先輩の両方の瞼にキスをした。
唯先輩はくすぐったそうにして、不思議な様子で私に問いかける。
「なんでそんなところにするの…?」
「おまじないです。唯先輩がもう泣かないように。あ、嬉し泣きならいいですよ。私と結婚する時とか」
「け、結婚!?まだ早いよー!」
「そうですか?」
「うぅ…」
…唯先輩には、やっぱり涙は似合わない。だってこんなにかわいいんだもん。
真っ赤な顔の唯先輩の唇に指を這わせて、私は覗き込むようにその瞳を見つめた。
「…じゃあ唯先輩。もう一つおまじないしてあげます」
「どんなの?」
「今日みたいに、弱気なこと言わないようにするおまじないです」
「…うん。していいよ」
私は首を傾けて、唯先輩の唇にそっとキスをした。…まずい。甘すぎて止められないや…
「んむっ…ん……」
ごめんなさい唯先輩。もう少し味合わせてください。唯先輩は舌まで甘いから、なかなか自制心が抑えきれないんです。
「ん…んん…っ…ん…っ♪」
あ…唯先輩無理です。これはもう無理です。色々しないと無理です…
「ぷは…あ、あずにゃん、気持ちよすぎるよ…」
「唯先輩、もっとたくさんおまじないしましょう」
「え?例えば?」
「例えば…唯先輩が私の元気な子供を産めるように、とか!」
「そ、それってまさか…あ、あずにゃん本気!?さ、さすがに恥ずかしいよ!ちょ、だ、ダメ…わ、わかったよ、自分で脱ぐから!」
「…あとで、私の胸が大きくなるようにおまじないしてください。唯先輩のもやってあげますから」
「…私とあずにゃん、確かに釣り合ってるね…ひ…!ひゃうぅ…」
終わり
- あますぎる -- (名無しさん) 2012-10-16 20:48:06
- あずにゃんイケメンすなあ -- (名無しさん) 2016-05-21 15:54:07
最終更新:2010年02月25日 12:37