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「やっぱり、似合ってないよね……」

鏡に映った自分の姿を見て、私はそう呟いてしまった。
言葉の中身とは裏腹に、ひどく明るい口調で。
今私が着ているのは、純白のウェディングドレスだった。
アルファベットのAを思わせる、Aラインのドレス。
大きなスカートは上品なフリルで飾られ、
胸元はレースと小さなリボンで彩られている。
手には長いグローブ。
ベールはなく、代わりにサイドポニーにした髪を白い花が飾っていた。
係りの人が一生懸命整えてくれた花嫁姿……
でもまだまだ子供の私には、
この花嫁姿は似合っていないような気がしてしまう。
無理して背伸びしている、そんな印象をどうしても抱いてしまうのだ。

「係りの人は、似合ってるって言ってくれたけど……」

鏡の前でくるりと回ってみる。
鏡の中の私が同じ動作をする。
正面を向いた私の顔、子供の顔が目に映る。

「……やっぱり、なんか似合ってないよね」

そう思ってしまう。そう思ってしまうのに……
でも顔は、しっかり笑顔になってしまっていた。
口調もどこか弾んでいた。
キレイなウェディングドレスを着ることができて、
喜んでしまっている自分がいるのだ。
唯先輩に無理やり連れてこられた、
教会でのウェディングドレス試着体験のイベント。
まだ高校生の私たちは会場ではちょっと浮いていて、
恥ずかしいから早く帰りたいってずっと思っていた。
でも、唯先輩に勧められて、断らずにドレスを着てしまっているあたり……
本心では私も唯先輩と同じように、浮かれていたということなんだろう。
現代でも、ウェディングドレスはやっぱり女の子の夢の一つだ。
ドレスを着られて嬉しくないと言えば嘘になってしまう。

「でもやっぱり……私が着るにはまだ早いよね……
もうっ、唯先輩のせいで……」

ブツブツ呟き、似合ってない似合ってないって繰り返し言いながら……
体は勝手に動いて、鏡の中の私がその度に向きを変えていた。
顔はやっぱり笑顔のままで、頬はうっすらと赤く染まっている。
先輩に勧められたから仕方なく着ました、
なんて言い訳は通じそうになかった。

「そういえば……唯先輩はどんなドレスを選んだのかな……」

私がそう思ったのと同時に、

あずにゃん、着替え終わった?」

試着室の扉が開いて、唯先輩の声が聞こえてきた。
私はそちらの方に顔を向け、

「……!」

唯先輩の姿を見た瞬間、言葉を失っていた。

部屋に唯先輩が入ってくる。
でも私は何も言えず、ただ唯先輩を見つめていた。
見つめ続けることしかできなかった。

「あずにゃん? どうしたの?」

近づいてきた唯先輩に声をかけられて、ようやく声を取り戻す。
でも言えた言葉は、

「……キレイ」

ただそれだけだった。それだけしか言えなくなってしまうほど、
唯先輩はキレイだった。
唯先輩が着ているウェディングドレスは、
フレア型のスカートが特徴的なプリンセスラインのドレスだった。
スカートのフリルは私のドレスよりずっと多いのに、
決して派手ではなく、軽やかな印象すら受ける。
上半身に余計な飾りはなく、肩はほとんどむき出しになっていた。
袖のないドレスの代わりに、グローブは長く、
二の腕を控えめなレースが彩っている。
髪飾りは小さな銀のティアラ。いつもの髪留めは外されていて、
長い前髪が顔の輪郭と目尻を隠していた。
それが唯先輩をとても大人っぽく見せていて……
私の鼓動は自然と早まってしまっていた。
頬に感じる熱が、顔の赤みが増したことを教えていた。

「キ、キレイです、唯先輩……ほんとに、キレイ……」

私の言葉に、唯先輩が恥ずかしそうに頬を染めた。
その場でドレス姿を私に見せるように、唯先輩は小さく回った。
くるりと回転する動きは、
ウェディングドレスを着ているためかいつもよりも大人しいもので……
静かな振る舞いがまた唯先輩を大人に見せていた。
動きが止まり、唯先輩が正面から私を見つめる。
頬を少し染めたまま、笑顔を浮かべて、

「エヘヘ……あずにゃん、ありがとう……
あずにゃんも似合ってるよ。すごくかわいい」

そう言ってくれた。唯先輩に微笑みかけられて、そう褒められて……
私はもう顔を上げていられず、俯いてしまった。
お礼は小声でしか言えなかった。顔に上った血のせいか、
まるでのぼせてしまったように頭がポーっとしてしまう。

「あのね、係りの人がね、記念の写真撮ってくれるんだって」

そっと私に身を寄せてきた唯先輩が、その手で私の手を握った。
グローブ越しに感じる手の温かさに、また私はポーっとなってしまった。

「行こ、あずにゃん」

「……はい」

唯先輩の言葉に、私は小さく頷いた。

写真撮影の場所は教会の外だった。緑の多い庭で、
教会の建物を背景に、私と唯先輩は並んで立っていた。
本当なら、記念の写真撮影は一人ずつ順番に撮るはずなのだけれど、
唯先輩が一緒に撮って貰いたいって係りの人にお願いして……
今私たちは、こうして二人並んで立っているのだった。

「エヘヘ……なんかドキドキしてきちゃうね」

そう言って、唯先輩が笑った。
手に白バラのブーケを持ち、大人っぽい表情で笑う唯先輩は、
私と違って、本当にウェディングドレスがよく似合っていた。
横に立つのが私ではなくて男の人だったら、
本当の花嫁さんだと思われてもおかしくないほどで……
この花嫁姿が現実になるのは、きっと遠い未来のことではないのだろう。
唯先輩のあまりのキレイさに、大人っぽさに、
私はそんなことを考えてしまっていた。
そう、唯先輩もいつか、誰かと結婚してしまう。
私の知らない、誰か男の人と……

(……唯先輩)

そんなことを想像してしまったからだろうか、
私はどうしようもない寂しさに捕らわれてしまい、

「……あずにゃん?」

気がついたら、ブーケの上から唯先輩の手を握ってしまっていた。
片手に自分のブーケを持ち、あいた片手を唯先輩に伸ばして。

「あ……す、すみません……」

我に返り、慌てて手を離した。
自分のしたことが急に恥ずかしくなって、唯先輩から離れようとする。
でもそれよりも早く、

「そだね……あずにゃん、手、繋ごうね」

ブーケを片手に持ち、あいた手で唯先輩が私の手を握ってくれた。
いつもの私だったら、恥ずかしがって断っていただろう。
でも今の私は、寂しさに捕らわれてしまった私は……
いつもとは逆に、縋りつくように唯先輩の手を握り返してしまっていた。
ギュッと強く、決してその手が離れないように。
そんな私に、唯先輩は一瞬驚いたような顔をしたけれど、
すぐにいつもの笑顔を浮かべて、握る手の力を強めてくれた。
私と同じぐらい、ギュッと強く握ってくれた。

「エヘヘ……なんかこうして二人で待っていると、
まるで私たち、ほんとに結婚しちゃうみたいだね……」

「私たち……私と、唯先輩とが、ですか……?」

「うん、私とあずにゃんの二人が……だよ」

握った手を引き寄せながら、唯先輩はそんなことを言った。
引っ張られて身を寄せながら、私は唯先輩の顔を見つめた。
明るくて、ちょっとおどけたような口調での言葉。
でも、頬を染めて笑っているその表情は、
まるで恋人に笑いかけているかのような甘い表情で、
ただの冗談を言ったようにはとても思えなくて……
大人っぽい唯先輩の笑みに、私の頭はまたポーっとなってしまって……

「そうですね……それも、いいかもしれませんね……」

と、私は応えてしまっていた。
本当にこのまま唯先輩と結婚できたらいいのに……
そんなことまで考えてしまう。
ほんとに結婚できたら、唯先輩を他の誰かにとられることもないのに……
ずっと唯先輩の隣にいることができるのに……

「ほんとに……結婚できたら……」

気持ちを抑えられず、私はそう言ってしまっていた。
私の言葉に、唯先輩がまた驚いたような顔をしたけれど……
それはまた一瞬のことで、すぐに笑顔は戻ってきて……

「うん、そうだね……あずにゃんとだったら……私も、嬉しいかな……」

そう、言ってくれた。
その言葉に、私の中の寂しさが消えていき……
代わりに温かさで心が満たされていった。

(ああ……そうか……)

私、こんなにも唯先輩のことが好きだったんだ……
そのとき私は、多分初めて、自分の気持ちを自覚した。

(私、唯先輩のことが好きなんだ……)

他の誰かにとられたくないと思ってしまうほどに……
ずっと隣にいたいと思ってしまうほどに……
私の気持ちに応えてくれたことを、こんなにも嬉しく思ってしまうほどに。

(私は、唯先輩が好き……)

そのまま私たちは、二人見つめ合っていた。
唯先輩の頬は赤く染まっていて、
私の顔から熱はいつまでもひいてくれなくて……
きっと私たちは、同じことを思っているって、そう今は信じることができた。
それからどれぐらい時間が経ったのか……
係の人に声をかけられて、写真を撮る準備ができたことを教えられた。
私たちは黙って、でも手はギュッと握りあったまま、
体をカメラの方に向けた。
係りの人が合図をした。
そしてシャッターが切られる、まさにその瞬間、

「大好きだよ、あずにゃん……」

「大好きですよ、唯先輩……」

二人の呟きが耳をくすぐり……目映い輝きが、私たちを包み込んでいた。


END


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最終更新:2010年05月27日 13:29