「いい匂い…」
女の子というのは、皆が皆、
こんなにもいい香りを漂わせているものなのだろうか。
そういう私も女ですけど。
自分の匂いにはよほど強烈でもない限り
基本は鈍感だという。
それにしても、と思うのだ。
「ホントになにもつけてないんですか?」
「いい加減信じてよぉ。さすがにしつこいよ
あずにゃん」
唯先輩にしつこいと言われてガクンと落ち込む。
そういえばしつこい女って嫌われるんだっけ。
そういう女にはなりたくないと思っていたのに。
まさか一番好きな人にそれを見破られるとは。
「死にたい…」
「なんだかよからぬ雰囲気に!」
『よからぬ雰囲気』を察した唯先輩は、
いつもより優しさ3割増し程度に抱いてくれた。
それだけなのに、なんでも許してあげられる気分になってしまう。
唯先輩は何も悪くないけど。
「どう?いい匂いする?」
「はい…スンスン、とってもいいです…」
「えへへ、嬉しいなぁ」
それは女としてか、私に言われたことに対してか。
聞くにはちょっとタイミングが違う。
頭の中で考えるだけで口には出さないでおいた。
なんにせよ、唯先輩を褒めたことに変わりはないのだから。
「私の大好きな匂いです…」
「あっ、もしかしたら洗剤がいいのかも!」
唯先輩のバカ野郎…。
大好きって言うのも楽じゃないんですよ。
人のせっかくの勇気を踏みにじってくれちゃって。
でもまあ、いいですよ、いつものことですし。
「コホンッ…ちなみになにを使ってるんですか?」
「ボー○ド!」
「なんか普通…」
「じゃあ違うかも」
「普通って言われたのが気にいらないんですね」
唯先輩の相手をしていると暇をしない。
心休まることも少ないけど、
同じ場所にいるだけで安らかになれる。
その度に思う。
この人は私の安らぎなんだと。
「なんだかホカホカです」
「あずにゃんが?」
「はい…心も、身体も」
「私もだよあずにゃ…梓」
呼び方が変わったことに不思議に思う。
そんな雰囲気だろうかと。
まだ早すぎはしないかと。
「もうその呼び方ですか?随分と気が早いですね」
「ううん、なんとなくだよ。やっぱり梓っていい名前だなって思ってね」
「唯だっていい名前ですよ。私にとっての唯って感じで」
「んもぅ~うまいこと言っちゃって、ぜんっぜんキュンッとなんてキテないんだからね♪♪」
「あはは、その割には嬉しそうでなによりです」
思い返せばなんて会話、と思うものばかり。
でも気にしない。
気にしないから楽しめる。
むしろ気にならないほどに楽しい。
これもいわゆる唯マジックなんだろう。
私にも魔法が欲しい。
「唯は私といて楽しめますか?」
「変なこと聞くね」
「そうでしょうか。でも聞きたいんです」
「変だよあずにゃん。そんなこと聞くまでもないのに」
「そうなんですか?」
「だって、好きな人といて楽しくないわけないもん」
ゾワゾワゾワッ
困った。また唯先輩が好きになっていく。
もう『カムバック!』なんて叫べないほどに。
どんどんどんどん沈んでいく。
甘い泉の中へ。
「ありきたりな言葉ですけど」
「うん?」
「ずぅーっと、こうしていたいです」
私の願いを聞いてくれる唯先輩。
あなたも同じ答えを返してくれますか?
「じゃあ私もありきたりな言葉だけど」
「はい」
「ずぅーっと、一緒だよ、梓」
甘美な響きが耳をくすぐる。
だめだ、もう限界。
いつもあなたは私の一歩前を行くんです。
わかってたのに…。
いつも期待して、いい意味で裏切られて。
その度に深く溺れていく自分を知るんです。
「唯先輩…ぎゅって」
「あらら、あずにゃんになっちゃった」
私のおねだりに唯先輩が答える。
最近ではこういうケースも増えた。
「使い分けの基準あったんですか」
「甘えてきたら基本あずにゃん」
「学校では問答無用であずにゃんなのになー」
「じゃあ梓って呼ぶ?」
「それはイヤです!」
「どして?自分の名前なのに」
「唯先輩には学内ではあずにゃんって呼んでほしいです」
「私もそうだね。唯一あずにゃんって呼べるの私だけだし」
「はい、私は唯先輩の所有物なんですから」
「私もあずにゃんの所有物だからねっ」
私は唯先輩を溺愛している。
間違いない。
唯先輩はどうだろう。
でも聞けない。
聞くまでもないかもしれない。
でも聞きたい。
唯先輩はなんて答えるだろう。
「明日も屋上で一緒にお弁当の食べさせあっこしようね♪」
あ、もうどうでもいいや♪
end
- できれば匂い関係でオチがほしかったな -- (名無しさん) 2010-12-30 12:16:42
最終更新:2010年07月31日 15:08