「あずにゃぁん……」
「にゃっ! ゆ、唯先輩!?」

マラソン大会が終わって、お汁粉の容器を捨てに行った帰り……
校舎の脇で、私は唯先輩に押し倒されていた。
突然のことにパニックになり、思考が驚きに満たされてしまう。
疲れた体ではもがくことも満足にできず……
私は唯先輩の体の下で、小さく声を上げることしかできなかった。

「ゆ、唯先輩……な、なにを……!?」
あずにゃん……」

耳元で、唯先輩の掠れた声が聞こえた。
荒い吐息が頬をくすぐり、汗のにおいが鼻孔に忍び込んでくる。

(あ……)

どくんと、心臓が大きく鼓動を打った。
体の動きが止まり、心臓の拍動ばかりが早くなっていく。
いつ他の生徒や先生が通るかわからない場所で、
唯先輩に押し倒されているというのに……
その体を押し退けようという意志がなくなっていってしまった。

「あずにゃん……私……」

唯先輩の体がわずかに動いた。
体操着に肌をくすぐられる。
布越しに伝わる体温がひどく熱かった。

「ゆ、唯先輩……わ、私……」

喋ると同時に、汗のにおいのする空気を吸ってしまう。
人の汗のにおいなんて、ほんとは嫌なもののはずなのに……
なんで私の胸は、こんなに高鳴ってしまっているのだろう。
こんな場所で唯先輩に押し倒されているのに……
どうして私は、喜んでしまっているのだろう……。

(ダメ……抵抗、できない……)

思考が麻痺し、体から完全に力が抜けてしまった。
今、唯先輩になにをされても……
私はきっと、抵抗できない。
抵抗しようとすら思えないだろう。

(それでも……いいかな……)

ぼやけた思考でそう思った矢先、唯先輩が口を開いて、

「……疲れて、もう動けない……限界です……」
「…………」

情けない声で、そう言った。
いつもの唯先輩の口調に、私は一気に自分を取り戻して、

「唯先輩!!」

私の怒声が、いつもと同じようにあたりに響き渡った。


END


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最終更新:2010年07月31日 15:08