「すきあり!」
一体私の何処にどの類の隙があったのか問い詰めたい気分にも駆られたけど。
だけどそんなことに意味は無いんだろう。おそらくこの人のことだから、なんとなく気分でそういう台詞を口にしただけに過ぎないんだと思う。
とりあえず、それより今問題にすべきなのは、私が今もぐりこもうとした寝袋に唯先輩が入り込んでしまったということ。
「何やってるんですか」
本当に何やってるんですか、だ。しかも今まで芋虫状態だったはずなのに、器用に一瞬で脱皮して私の寝袋に収まってる。
ヤドカリの宿替えですか。本当に変なところですごさというか器用さを発揮するから困る。
「この寝袋はいただいた!」
「いただいてどうするつもりなんですか」
「それはね!……あれ?」
「考えてなかったんですね」
えへへと照れくさそうに頷いて見せる先輩に、私は本当にこの人らしいと苦笑してしまう。
困らせられたり呆れさせられたり、時に怒ったりもするけど、だけど結局私はこの人のことを憎めないらしい。
それどころか、その真逆の感情を抱いていたりもするらしい。
「まあ、いいですけど。じゃあ、ちょっと場所空けてください」
「え?」
そう告げて、私は私の寝袋に入り込む。少し狭くはあるけど、大人一人用の寝袋。入れないということも無い。
「な、なんで私の寝袋に入ってくるの?」
「何言ってるんですか、これは私のです」
「そ、そうだけど……」
寝袋の中私にぴたっとくっつかれて、唯先輩は恥ずかしそうに頬を染めて困ったようなはにかんだような笑みとも取れない表情を浮かべている。
この人は普段は抱きついてきたり頬擦りしてきたり過剰なスキンシップを無造作に取ってくるくせに、いざ自分がされる側になると本当に弱い。
そうしてこういうときの唯先輩は、からだの芯からじわじわっと熱くなってしまうくらいに、可愛い。
だから結局は、私はこの人にそういう想いを抱いてしまう。憎むとか、嫌うとか、そういうのの真逆の感情。
一つ一つ、そういう他の誰も知らない唯先輩の貌を見つけていくたびに、それはどんどん強くなっていく。
今となってはもう、こうして一つの寝袋の中寄り添って眠ることを心地いいと思うくらいに。
「唯先輩?」
「な、なに?」
名前を呼んで返ってくる先輩の声は震えていて、ぎゅっと最近柔らかさを増した胸に押し付けた私の耳にはBPM120くらいの鼓動が聞こえていて。
先輩が緊張してるってことが伝わってくる。窮屈な寝袋に包み込まれて、いつもよりずっと密着しあっている私のことを意識してくれているってことを教えてくれる。
「先輩は、可愛いですね」
「かわ……っ。そ、そんなことないもん」
「ありますよ。本当に可愛いです」
畳み掛けると、唯先輩は何も言えなくなって小さく唸るだけ。
「あずにゃんのほうが可愛いもん」
そしてぼそぼそとそう返してくる。きっと反撃のつもりなんだろう。普段散々言われ続けて、聞きなれている私には今更な台詞なのに。
だけどまあ、それでも嬉しいとは思うんですけどね。本当に、唯先輩は可愛い人です。
可愛くて、可愛すぎて、もっと好きになって、好きになりすぎてどうにかなってしまうくらいに。
「じゃあ、証明してあげます。唯先輩が可愛いってこと……」
そしてどうにかなってしまった私は寄り添って眠るだけじゃもう満足できなくなって、僅かなスペースの中先輩の肌を這わせるように指を動かしていく。
「え、ええ?」
私の言葉と与えられる感触に戸惑いの声を上げる唯先輩に、私は顔を上げるとそうっと口付けをしてあげた。
そういうことですよって教えるために。
「あ、あずにゃ……っ」
「嫌だったら言ってくださいね……すぐ止めますから」
顔を真っ赤にして、だけど抵抗する素振りも見せない唯先輩に私は小さく優しく笑って見せると、また少しずつ指を動かしていく。
その度に鼓膜を打つ今まで聴いたことのなかった唯先輩の声に、ああきっと朝になったらこの人のことを今よりもずっと好きになってるんだろうなと。
そんな予感を浮かべた。


  • 必死に何も聞こえない振りをする律澪と、集音マイク張りに耳を澄ますムギが浮かんだw -- (名無しさん) 2010-08-24 19:31:00
  • これは良い微エロ -- (名無しさん) 2010-08-27 11:01:05
  • これはときめく -- (名無しさん) 2010-12-19 15:20:50
名前:
感想/コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年08月12日 20:11