「唯先輩、そろそろ帰りましょう」
「ほぇ?」
 外も暗くなってきたし、そろそろ帰ろうと思って彼女に声をかけると、よっぽど集中していたのだろう、彼女はギターを弾く手を止めて、間の抜けた声を上げながら顔を私に向ける。
 その純真無垢な瞳に見つめられて、少しくすぐったくなる。
「頑張るのはいいことですけど、門限も近いですし、そろそろ帰らないと」
「んー、そうだねー」
 返ってくるのは気の無い返事だけ。
 どうしたんだろう。
「唯先輩?」
「なにー?」
「どうかしたんですか?」
「べつにー?」
「そうですか」
 どうもしてないとは思えないけど、彼女が言うのならきっとそうなのだろう。
 深く考えないで、自分の分の荷物をまとめて帰り支度を始める。
 冬は門限が早いからいやだなぁ。
「さ、帰りますよ」
「もうちょっと待ってー」
 ようやく自分の荷物をまとめ終えて、彼女に声をかけると、彼女はまだギターを抱えたままだった。
 しかし何かを練習しているわけでもなく、ぼぉっと虚空を眺めているだけ。
 これはいよいよおかしい。
「唯先輩、どうしたんですか?」
「なにもないよー」
「それなら、どうしてそんな寂しそうな顔をしてるんですか」
 そう。
 さっきから気になっていたことだけど、彼女の横顔はどこか寂しそうだったのだ。
 まるで何かと離れるのを嘆いているような、そんな感じ。
「さびしそう……?」
「はい、とっても寂しそうですよ」
 見ているこっちが悲しくなるぐらいに。
「さびしい……、そっか、私、さびしかったんだ」
「自己完結しないでください」
 勝手に納得されても私にはさっぱりだ。
 そんな視線を感じたからか、彼女は何を寂しがっていたのか説明してくれた。
「私はね、あずにゃんと離れるのがさびしかったんだ」
「私と……?」
「うん」
「そうですか」
 明日になればまた会えるでしょうとは言えなかった。
 だって、私も同じ気持ちだったから。
 だから、私は。
「それじゃ、もう少しだけ練習しましょうか」
「うんっ」

 ――結局、門限を過ぎても下校しなかったから、二人仲良く先生に叱られてしまった。



Fin


  • 仲良く叱られたなう−−−(梓) -- (あずにゃんラブ) 2013-01-25 00:22:51
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最終更新:2009年11月14日 02:49