その黒く艶のある髪を一房手に取り、さらさらと流す。
初めて見た時から好きだった。
大切で、特別だった。
けれど、当時の私はその感情が何なのかよく解らなくて。
だから、何と無く納得のいく、もっともらしい理由をつけていた。
初めてできた可愛い後輩だからと。
実は、今でもこの感情がが何なのかはよく解っていない。
ひとつだけ解っているとすれば。
ただ、好きだという事。
「一目惚れだったのかなぁ・・・?」
初めて会ってから4年。彼女は今、私の腕の中にいる。
もう少しで日付が変わるという時間。
彼女の髪を弄りながらぼんやりとそんな事を考えていると。
「何がです?」
不意に、私の首もとに顔を埋めていた彼女が、言葉とともにその顔を上げた。
ちょっとびっくり、起きてたんだね。それとも起した?
というか、独り言を聞かれてしまった。
「ごめん。起しちゃった?」
「ううん、眠いけどまだ寝てなかったから。」
そう言って彼女は軽く身を捩る。
お互い裸なのでちょっとこそばゆい。
「それより何です?一目惚れって。あっもしかしてまた何かと巡り逢っちゃったんですか?
ギター・・・はあり得ないから、服ですか?靴ですか?それとも何か雑貨とか?」
う~ん、さすがはマイハニー
あずにゃん。わかってらっしゃる。
私一目惚れで色々買っちゃうからね~。
「ぬいぐるみ?携帯ですか?なんにせよダメですよ、あんまり無駄遣いしちゃ。」
けど違うもん。今回考えてたのは物じゃなくて・・・
「ぶぅ。物じゃないもん、人だもん。」
そう、目の前にいる私の大切なひとのこと。
キラッキラの大きな瞳もプニプニのほっぺも、というかそのすべてが今日もほんとにヤバ可愛いですね。
「・・・・・・・・・は?」
んん?あれ?なんか言い方違ったかも。
あずにゃんがフリーズしている。
「・・・一目惚れ、したんですか・・・?」
数秒の沈黙後、そう言ってぬら~りと起き上ったあずにゃんの表情がなんだか怖い。
「え?いや、あの、たぶん一目惚れだったのかな?って話で・・・」
慌てて言い繕おうとする私。
鈍感と定評のある私でも、さすがにこの雰囲気がまずいのはわかるよ。うん。
焦る余り思考は上手く働いてくれないが、とにかく。あずにゃんご立腹。なわけだ。
そして、私の言葉を受けてあずにゃんは・・・
「っいだぁ!!」
私が頭を乗せていた枕を奪った。
「!っ痛!・・・って言うほど痛くもないけど。って、ちょっ!待って待って!!」
その枕で叩く叩く。
「最っ低ぇ!!それって他に好きな人ができたって事ですかっ!!?なんなんですそれっ!!
ついさっきまで人の事抱いといてよくそんなこと・・・っ!!馬鹿っ!ほんっと最低っっ!!」
ぬぉ!?他に好きな人!?初耳だっ!!・・・ってそうじゃなくて!
「ええっ!!?ちょっと待ってよあずにゃんっ!!って、わっ落ち着いて!」
「これが落ち着いていられますかーーっ!!」
叩く叩く叩く叩く。
「待ってってば!痛っ!話聞いて!!」
「やだっ!!聞かないっ!」
「お願いっあだっ!だから・・・!」
「やだっ!!」
「まtt」
「ぅく・・・やだぁっ・・・!」
あっ。あずにゃんが泣いている。
「梓っ!!」
私はやっと、枕を手中に収める事ができた。
しかし、苦労して手にしたそれを早々に手放すと、彼女の腕を引く。
「ふっ・・・うぅっ・・・」
そして、嗚咽を上げる彼女をぎゅっと抱きしめた。
考えてからものを言えといつも言われているのに。
大好きなひとを泣かせてしまった。
「ごめん、あずにゃん。」
「やだ。ごめんなんて言わないで・・・。」
「あずにゃんが好きだよ。」
「やだ。聞きたく、ない・・・。」
「お願い。ちゃんとお話聞いてよ。」
「やだもん。なんにも聞きたくないもん・・・。」
むむむ、強情な・・・。
もしかして別れ話をするとか思ってるのかな?
"ごめん。あずにゃんの事は好きだけど、実は他に・・・"とか?
んもぉ~そんな事あるわけないじゃ~ん。ほんと可愛いなぁ~。・・・って、そんな場合じゃなくて。
幾らか落ち着いてきた彼女の背を、私は優しく撫でる。
「ああもぉ~。じゃあさ、私が一目惚れしたかもしれない人が誰だか、聞いてみてよ」
「やだ。」
即答。
撃沈。
仕方がないので、私は勝手に話を進めることにした。
「んっ」
少しだけ体を離すと、彼女の鼻先にぷにっと人差し指をくっつける。
「この子」
「・・・・・・・・・は?」
あずにゃんまたまたフリーズ。
「私、たぶんあずにゃんに一目惚れだったと思うんだよね~。」
えへへ~と笑う私。
しばらくすると、彼女が俯いてぷるぷると震え出した。
「どしたの?大丈夫?あずにゃん?」
顔を覗き込むともの凄く真っ赤になっている。
うおっ耳も真っ赤っ赤だ。
状況が理解できず頭に?を浮かべていると、彼女がガシッと枕を掴むのが目の端に映った。
え?
ブオッという音がして。
あずにゃんフルスイング。
え?
「紛らわしい言い方するなぁーーーっ!!!」
そして私は、再度枕でボコられました。
- あずにゃんかわいいw -- (名無しさん) 2010-08-31 04:51:22
- あずにゃんちょっと理不尽www -- (名無しさん) 2010-08-31 15:01:18
- だがそれがいいwwww -- (名無しさん) 2010-09-01 23:42:13
- うん…イイね♪ -- (名無しさん) 2010-09-02 18:50:48
- ま、まぁ唯も悪いってことで… -- (名無しさん) 2010-09-13 02:34:41
- 真夜中の痴話喧嘩は程々に… -- (通りすがりの百合スキー) 2010-12-08 02:22:33
- この話かなり好きだ -- (名無しさん) 2011-04-18 22:48:27
- あずにゃんかわいい -- (名無しさん) 2012-01-21 22:21:22
- 理不尽なあずにゃん可愛い! -- (名無しさん) 2012-02-10 23:13:38
- 可愛いよあずにゃん!!!! -- (名無しさん) 2013-08-22 11:32:11
最終更新:2010年08月30日 19:57