ピンポーン

憂「いらっしゃい梓ちゃん、あがって?」

梓「おじゃまします…」

ある平日の夕方、私は平沢家を訪れていた。といっても、遊びに来たというわけではない。

梓「それで、先輩の具合は?」

憂「まだ辛そうなの…熱がなかなか下がらなくて」

そう、お見舞いに来たのだ。唯先輩は学園祭以来の風邪をひき、学校を休んでいた。

梓「これ、ムギ先輩から…律先輩も澪先輩も用事で来れないけど、お大事にだって」

憂「ありがとう…お姉ちゃん、早く良くなるといいけど…」

憂の表情を見て、朝から胸に抱いていた不安感が大きくなる。そんなに具合が悪いのだろうか。

梓「先輩…私…」

唯「あずにゃん…もう、部屋出た方がいいよ…風邪、移っちゃう…」

辛そうなのに、頭も持ち上げられないほどに弱っているのに、唯先輩は私の心配をしていた。
そんな先輩が、たまらなくいとおしくなる。私は気付くと、先輩の頬に触れていた。

唯「あず…にゃん?」

梓「私なら…大丈夫ですから…だから、傍にいさせてください」

唯「でも…」

梓「いさせてください」

やや強い口調で言うと、私はそのまま唯先輩の頭を撫でる。先輩は観念したかのように口を閉じた。
それから5分ほど沈黙が続いた後、唯先輩はおずおずと言った。

唯「…あずにゃん」

梓「はい?」

唯「ぎゅって…して?」

梓「ええ?」

唯「いつも私がするみたいに…ぎゅって、して」

突然の頼みに一瞬面食らうものの、私はすぐにそれを聞き入れることにした。

梓「わかりました。制服ですいませんけど…失礼します」

唯「うん」

私はベッドに潜り込むと、唯先輩を静かに抱きしめる。
熱で火照り、汗で湿った体は、少し力を込めれば簡単に壊れてしまいそうなほどに弱々しかった。

梓「苦しく…ないですか?」

唯「大…丈夫だよ…うっ…うえ…グス…」

梓「せっ先輩!?」

唯「ごめん…ごめんねあずにゃん…私、ダメな先輩で…うぇぇぇ…」

そうか、そうなんだ。泣きじゃくる先輩を抱きしめて、私は自分の本当の気持ちに気付く。
私は――私はこの人のことが、大好きなんだ。

梓「先輩…泣かないで?」

唯「グスっ…うぅ…あずにゃん…」

梓「確かに先輩はダメなところもあるけど…それでも先輩は、私の立派な先輩なんですよ」

唯「あずにゃん…」

梓「それに…私は、ダメなところもひっくるめて、唯先輩のことが大好きだから」

唯「え…」

なにかを言おうとする先輩に、私はそっと唇を重ねる。先輩の唇は、とても柔らかかった。

唯「…あず…」

梓「先輩、早く、元気になってくださいね?元気になったら、改めて私の気持ち、伝えたいから」

唯「…うん…あ、ねえあずにゃん?」

梓「はい?」

唯「ありがとう…私も、あずにゃんのこと、大好きだから」

梓「…はい♪」


名前:
感想/コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月14日 02:52