「唯ー、ちょっといいかな?」
クラスメイトの子が私を呼ぶ。
「なにー?」
とことことその子のもとへ向かう私。
「軽音部に中野さんっているでしょ?」
「…あずにゃんがどうかしたの?」
「そう!そのあずにゃん!!」
「………」
「すごくかわいいよねー、私この前のライブ見て気に入っちゃたんだよね!!」
「…そうなんだ」
「だからさー写真とか…持ってないかな?」
「…ううん、持ってないや。ごめんね。」
「そっかー…あ、じゃあ今度紹介してよね!」
「…うん、聞いてみるね」
「ありがと!ねぇーところであの子って恋人いるのかなー?」
「…わかんないや」

これが最近の日常の風景。
学際ライブから、私たちは結構校内で有名になり、声をかけられることが多くなった。
一番多いのは澪ちゃん。ファンクラブもあるんだから当然と言えば当然かな。りっちゃんは複雑そうな顔をしてたけど。
そして次に人気があるのが言わずと知れたあずにゃんなのです。
小柄でとても可愛くて、ギターもうまくて真面目で勉強もそこそこできてお料理なんかもできちゃうしぎゅってするとあったかくてね。それにね、それにね…
言い出したらキリが無いや。
そう、私とあずにゃんは恋人同士。
だからあずにゃんが人気があるのは分かる。うん、分かってるよ。
みんなも私と同じ気持ちなんだよね。
だから、写真も欲しいし、お話したいよね。恋人にだってなりたいよね。分かる分かる。
だからこの胸が痛いのは気のせいだよね。あずにゃんは愛されてるんだよ。
だから私は喜ばなきゃ。やったぁ。うふふ。
「平沢先輩、ちょっといいですか?」
む?またかぁ…早く部活に行ってあずにゃんに会いたいのに。
緑のリボン…1年生の子かな。
うーん、もう少しかかりそうだなぁ。早く会いたいよ。あずにゃん。

「こんにちはー」
「お、梓来たかー」
「梓ちゃん、うっす!」
「や、梓。」
「…唯先輩は?」
「あー、なんか後輩の子に呼び出されてたぞ。ありゃ1年生だな。」
「…そうですか」
「おやおやぁ?愛しの唯先輩が他の子と一緒でしっとかぁ?」
「そうですよ」
「…素直になったなお前…」
最近の軽音部はこんな感じ。学際ライブから頻繁に声をかけられて。
一番多いのはやっぱり澪先輩だけど(律先輩がさみしそうな顔をしていた)
その次に多いのは唯先輩だったりする。
優しくて良いにおいがして、ギターも上手いとは言えないし勉強だってできないけど、やる気を出したら誰よりもがんばって、かっこいくて、笑顔でぎゅってされるととても心地いいし、あとは、あとは…
言っちゃたらキリがないなぁ。
さすが、私の恋人の唯先輩。
でも私の好きな笑顔をいろんな人に見せてるのは、複雑な気持ちです。
唯先輩が素敵なのは知ってるけど、私は独り占めしたいんです。
今も唯先輩の笑顔が誰かに向けられているのだろうか。うん、嫉妬だ。
器小さいなぁなんて思いながら、ムギ先輩の紅茶をいただく。
うぁ、なんか味がしない。とっても美味しいはずなのに。駄目だ、集中できない。
とその時ドアが開き、唯先輩が入ってきた。
私はぱっと顔をあげ、やっと来てくれた愛しい人の顔を拝もうとした。

「やっほ、みんな」
先輩は、目を真っ赤に腫らしていた。
それは尋常じゃないくらいに。
どれほど水分が流れ出たのだろうかというほど。
いや、実際そんなに腫れてはいなかったかもしれない。
だけど私には、一つの事実が突き刺さった。



先輩泣いてた?
「唯先輩、なにかあったんですか」
「え?あずにゃんどうしたの?何もないよ?」
「下手な嘘はやめてください」
「何も無いってば」
「そんな目で、誤魔化せると思ってるんですか」
「あ…違うの、あずにゃん、ほんとになんでもないの」
「…誰ですか?誰が泣かせたんですか?」
「ほんとに…いいんだってばあずにゃん…」
「教えてください!いったいどこのどいつが唯先輩を…!!!」

「梓、やめろ」
と、律先輩の声が聞こえてはっと我に返った。
唯先輩は顔を伏せて震えていた。もしかしたら泣いているのかも。

最低だ、私。自分じゃないか、犯人。
「…梓、落ち着いて唯の話聞いてやれ。私たちは外に出とくから」
そういって御三方は部屋から出て行った。申し訳ないです…


「ごめんなさい、唯先輩、私、熱くなっちゃいました…」
「ううん…私がいけないの。今日部活休んじゃえばよかったね」
そう言って笑顔を作る唯先輩。
無理してる。はっきり分かる。
「…何があったのか、教えてくれませんか」
唯先輩はまた悲しそうな顔をして…一言
「あずにゃん」
私を呼んだ。
「……はい?」
よくわからず返事をしてみると、また唯先輩は悲しそうな顔をして俯く。
なんですか?なにがそんなにあなたを苦しめるんですか?
「じゃあ…話すけど…あずにゃん、おこっちゃ嫌だよ」
返事は、しない。自信が無いから。
そして唯先輩は話し始めた。

1年生の子に呼び出されたのは屋上。
なんで移動したのかなぁ、教室でいいのに。
到着するまで一言も話さなかった1年生の子が口を開いた。
「平沢先輩と中野先輩って付き合ってるんですか?」
…うわぁ…なんで知ってるの…
軽音部のみんなとさわちゃんと和ちゃんと憂と純ちゃんにしか言ってないと思うんだけどなぁ…オーラとか?あ、そんなんとかで分かっちゃう?えへへ、ちょっとうれしいなぁ。

「…うん、まぁ、そうかなぁ?」
とおどけた感じに言ってみると、その子はキッと私を睨み、言う。
「お願いです。中野先輩と別れてください。」


え?なにいってるの?私があずにゃんと
「そのあずにゃんっていうのも止めてください!気付いてないんですか、中野先輩が嫌がっているのを!あなたみたいに頭の悪い人が、中野先輩と付き合ってるなんてありえません!先輩は優しいから何も言わないんだろうけど、代わりに私が言います。」



「あなたは中野先輩にふさわしくありません。」

「私、周りからはそんな風に見えてたんだね」
「だから、無理しなくていいんだよ、あずにゃ…梓ちゃん」
「その子、明日告白するって言ってたよ」
「背も高くてねぇ、綺麗な顔してたんだよぉ」
「きっとあずにゃんにふさわしい子」
「だから梓ちゃんは…」

「…あだ名が一回交じりましたね」
「あ!ご、ごめんなさい」
「…わかりました、じゃあ、返事をいいますね」
「え?あずにゃん、それは私にじゃなくて…」




「あなになんか眼中にありません。
私が好きなのは優しくて良いにおいがして、ギターも上手いとは言えないし勉強だってできないけど、
やる気を出したら誰よりもがんばって、かっこいくて、笑顔でぎゅってされるととても心地よくて、
頭の悪くて、私にふさわしくなくって…
私をあずにゃんって呼んでくれる、そんな年上の唯先輩なんですから」

例え、その子が澪先輩並みの美貌を持っていようと、
律先輩並みのカッコよさを持っていても、
ムギ先輩並みの愛情も持っていたとしても。
私は唯先輩の笑顔を選ぶだろう。

「…あずにゃん…」

先輩の目が潤む。また泣かせちゃったな…
その涙を私は指ですくい、
「先輩らしくないですよ?そこは一発はたいちゃえばよかったんです」
「あずにゃんがいつものキャラじゃないよぉ…」
そう言ってほにゃっと笑顔。
あぁ、やっと見れました。あなたの笑顔。
その1年生の子は何にも分かってない。いや、わからなくていい。
この笑顔がどれだけ私にとって癒しになっているか。

「唯先輩。私の好きな人は唯先輩なんです。だから、もう泣いちゃ嫌ですよ?」
「…えへへ、あずにゃん、だーいすき…」

唯先輩の顔がまた、ふにゃりと笑みを作る。
あぁ、今だけは、独り占めさせてくださいよ。
せんぱい。


  • 中野先輩ってなんか違和感w -- (名無しさん) 2010-10-12 02:02:36
  • だよねぇー? 別れる訳ねぇもんなw -- (名無し) 2012-08-15 20:11:45
  • あっ…でもあずにゃんと唯が別れるの見てみたいなw -- (名無し) 2012-08-15 20:13:59
  • 一番下の奴!もっかい言ってみろ…許さんじゃけ!! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 10:24:15
  • つまり別れ話みたいとか言う奴ね -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 10:25:14
  • 梓かっこいい -- (名無しさん) 2013-01-23 22:54:30
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最終更新:2010年10月10日 17:35