ある日、私は風邪をひいて学校を休んだ。
高校に入ってからは体調を崩したことなんてなかったのに…少し練習頑張りすぎたかな。
昼過ぎ、おかゆを食べてぼんやりしていると、憂から電話がかかってきた。
憂『梓ちゃん?具合どう?』
梓「うん、もうだいぶよくなったから明日は学校行けそうだよ」
憂『よかったー…あ、今日純ちゃんとお見舞い行こうか?』
梓「ううん、大丈夫。また今度元気な時に遊びに来て」
憂『そう?じゃあお大事にね』
梓「うん、わざわざありがとう…じゃあね」
私は電話を切るとベッドに横になり天井を見つめた。
さっき電話したせいか、無性に寂しい気持ちになる。
…やっぱり来てもらえばよかったかな。
唯先輩は、風邪のこと知ってるのかな。心配…してくれてるのかな。
って私、なんで唯先輩のこと考えてるんだろ…
そんなことを考えているうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。
目が覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。ずいぶんと長い時間眠ってしまったようだ。
と、私はなにやら手に温もりを感じるのに気が付いた。
おそるおそる首を横に向けると―――
梓「唯…先輩…」
唯「スー…」
唯先輩が私の横で、静かに寝息を立てていた。
いつか、律先輩をお見舞いに行った時と同じように。
梓「な…な…なんで…」
唯「いやあ、あずにゃんが風邪引いたって聞いてお見舞いに来たんだけど…」
梓「い、いつ来たんですか?」
唯「うーん、2時間前くらいかなあ…安心して!憂には連絡してあるから!」
梓「そういうことじゃなくて…」
正直、嬉しかった。私が眠っている間も、唯先輩は私のそばにいて、手を握ってくれてたんだ…
唯「それであずにゃん、具合どう?もう大丈夫?」
唯先輩はそう言うと、私のおでこにおでこを重ねる。唯先輩の顔が、まさに目と鼻の先にあった。
梓「あ…あの…」
唯「あずにゃん顔赤いよ!大変、まだ寝てなきゃ!」
梓「こ、これはその…」
唯「いいから寝てなさい!」
唯先輩は無理矢理私を寝かせると、カバンから何かを取り出す。
梓「あの…それは?」
唯「ムギちゃんがあずにゃんにって、アイス持たせてくれたの!
安心して、ドライアイスの中にあるから溶けてないよ!」
唯先輩はアイスを一口分取ると、私の前に突き出した。
唯「はい、あーん♪」
梓「えっ…あの…」
唯「風邪の時は甘いものが一番なんだよ!はい、あーん」
梓「はい…パク」
唯「おいしい?」
梓「……」コクリ
この時の唯先輩は、とても優しい、そしてかわいい顔をしていた。
ダメだ。こういう顔をされると、何も言えないや…
唯「じゃあ私、そろそろ…」
梓「あ…あの!」
唯「なあにあずにゃん?」
梓「もうちょっとだけ…一緒にいてください」
唯「もう、しょうがないなぁあずにゃんは~」
唯先輩は私のベッドの横に座ると、私の頭を静かに撫でる。
その手は温かくて、柔らかくて、力強かった。
梓「…ありがとう、先輩」
唯「うん♪早く元気になってね、あずにゃん♪」
梓「…はい」
唯先輩、ありがとう。私はあなたの後輩で、本当によかったです。
以上
最終更新:2009年11月15日 00:49