「雨……か」
 窓の外でザーザーと降っている雫を眺めながら呟く。ベランダに吊るされた照る照る坊主が儚げに揺れている。
 今日は唯先輩とお出かけする予定だったんだけどな……。服も悩んで悩んで、二時間ぐらい悩んでやっと決めれたのに。
「台無しだよ……」
 天気予報だと今日は一日晴天だって言ってたのに、すっかりそのつもりで用意もしていたからその分反動が大きい。
 それに、この雨の強さだと唯先輩の家に遊びに行くこともできないから、今日は唯先輩と会えないということになる。それが一番悲しい。
 毎日会っていたからその大切さに気付かなかったけど、一日会えないだけでも随分と苦しくなってくる。しかもそれがお出かけの日だからなおさら。
「唯、先輩……」
 会いたい、会いたい、会いたい……。
 そのまましばらく、部屋の中で独り悲しんでいると、不意に携帯電話が鳴った。着信音は、唯先輩からのもの。
 慌てて、ベッドから起き上がり携帯電話を手に取る。
「もしもし」
『あ、もしも~し。あずにゃん起きてた?』
「えぇ、まぁ……」
 電話の向こう側の唯先輩は、驚くほどいつもどおりだった。その声を聞いて、私は心が軽くなるのを感じる。
 ――そうか、会えないなら電話をすればよかったんだ。
『雨降っちゃったね』
「そうですね。今日はどうするんですか?」
『う~ん、このお天気だとお出かけはできないだろうし、今日はこのままずっと電話しとこうよ』
「そうですね」
 会えないのは残念だけど、声が聞けるだけでも充分だから。
 それから、私たちは一日中電話をし続けた。比喩とかじゃなくて本当に、一日中。今日お出かけできなかった分を補うぐらいに。
 唯先輩は、普段は話さないようなこと――自分の夢とかを話してくれて、私は子供の頃のエピソードを話してあげた。
 そのエピソードに唯先輩は笑ったり褒めてくれたり、一緒に泣いてくれたり。唯先輩の夢が意外なものだったことに驚いたりした。
 今日一日で唯先輩のいろいろなことが解った気がする。普段はおちゃらけている先輩も、心の中ではちゃんといろいろと考えてるんだなぁ。
 ――たまには、会えない日があってもいいかもしれない。今日は、そんなことを考えさせてくれたいい日だった。



Fin


  • 良いね -- (名無しさん) 2014-09-30 07:38:59
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最終更新:2009年11月15日 01:01