梓「憂、来たよー」
憂「あ、梓ちゃん入ってー。はい、スリッパ」
梓「ありがとう。あれ、純は?」
憂「それが、急用で来れないんだってぇ」
梓「ええー、そうなのー?・・・しょうがないな、じゃあ憂と二人でやろっか」


私は今、憂の家に来ている。
軽音部でやる曲や詞を作ったり、その他色々とまあ打ち合わせみたいなものだ。
私達は3年だから、軽音部の方針は私達がちゃんと決めないと。


梓「あ、そこの2番目からは代理コード使った方が変化が出るんじゃない?」
憂「ここはエンディングだからサビを2回繰り返そうよ」
梓「それじゃあ、ここのコードはベースをラインクリシェで下降していって」
憂「梓ちゃんのソロパートからは転調したらカッコいいんじゃないかな?」


憂はさすがに要領を掴むのが上手く、今じゃ立派な軽音部のメンバーだ。
純もあれでベースの腕は確かだし、何だかんだですごく頼りになる。
あれから3年になった私達は憂と純が軽音部に入部してくれて、
そしてそれまでまったくだった新入部員がウソのように数人が入部してくれて、
後輩を指導したり、バンド練習したり、すごく充実している。
それにしても、何で新入部員が入ったんだろう?って今でも不思議に思う。
新歓ライブがカッコよかったからかな?なんて。


憂「梓ちゃん、これすごくいい曲じゃない?すごくカッコいいよお!」
梓「うーん、そうだね・・・うん、すごくいいんだけど、でも何かこう・・・」
憂「まだ何か気になる部分があるの?」
梓「あ、いや、そういう訳じゃないんだけど・・・・何か足りないような・・・」
憂「そうかなあ?うーん、何だろう・・・」


そう、何かが足りないんだ・・・
後輩も出来たし、部活の活動もすごく充実している。
私がはじめて軽音部に入部した時に描いていた様な理想が、今叶ってる。
でも・・・でも、何かが足りない気がする。
いや、私は私自身、何が足りないのかがわかってる。
でもそれを素直に認めたくない意地っ張りな自分がいるんだ。

梓「そう、足りないんだよ・・・」
憂「何が?」
梓「それは、きっと・・・・」

唯「お菓子が足りないんじゃない?」

梓「!?ッギャアアーーーーーァッッ!!?」
唯「やっほー」
憂「あ、お姉ちゃん~」
唯「平沢唯、ただいま久方振りに実家に帰ってまいりました!」


唐突な唯先輩の出現に心臓が止まるかと思った。
って、唯先輩の唐突さは今にはじまった事じゃないけど。


梓「な、何なんですか!急に!!」
憂「えへへ~、実は今日お姉ちゃんが久しぶりに家で泊まるんだよ~」
唯「えへへ~、そういう事~」
梓「もう、それならそうと言ってて下さい!」
唯「それじゃ、いつもの・・・」
梓「へ・・・?」
唯「あずにゃん分補給~~~!!」
梓「わあっ、ちょっと!会うなりやめて下さいよ!」
唯「なあんで?いいじゃん、そんな他人行儀な仲じゃあるまいし~」
梓「もう・・・」


すごく久しぶりのこの感触。
ずーっとこのままでいてほしいけど、また意地っ張りな私が邪魔をしてしまう。
照れを隠すように、必要以上にそっけない態度を取る。


梓「いつまで抱きついてるんですか、それに泊まるって言いましたけど荷物それだけですか?
  ギー太はどうしたんですか!前は一日でも手放すのをあんなに嫌がってたのに!
  大学でもバンドはやってるんでしょ?」
唯「あ、いや、そうなんだけど~、泊まるって言っても連休の間だけだしぃ~
  2、3日くらいならわざわざギー太連れてこなくてもいいかな~って・・・」
梓「もう、いいかげんなんだから!そんなのでよく大学生をやっていけてますね!」
唯「ふっ、照れるぜ・・・」
梓「褒めてません!」
唯「いやぁ~ん、久しぶりに会ったのにすぐ怒る~」
梓「まったく・・・しばらく会ってないから少しは変わってるのかと思ったら」

そう、先輩達が卒業して一ヶ月くらいになるだろうか。
唯先輩は大学入学と同時に一人暮らしをはじめたから、それから会ってない。
たまにメールはしてくれるけど、それだけだ。
たった一ヶ月なのに何年も会ってない気がする。
それでもこうやって会えば、前のような感覚にちゃんと戻れるのがうれしかった。
でも同時に、いざ本物の唯先輩に会うと、今離れ離れになってるのも実感して複雑でもある。


唯「それでね、律っちゃんがね~」
憂「アハハ」
梓「唯先輩はもう少し、大学生なのを自覚して下さい!」


軽音部の打ち合わせはどこへやら、お菓子を食べながら取りとめもない会話をしていると、
何だかすごく懐かしい気持ちになってくる。
そうこうしている内に、次第に日が暮れてきた。


憂「あっ、もうこんな時間、そろそろ夕飯の準備しなくちゃ。私買い物に行ってくるね」
唯「久しぶりの憂の手料理だ~」
梓「あっ、じゃあ私そろそろ・・・」
憂「もう帰っちゃうの?お姉ちゃんもいるし、夕飯くらい一緒に食べようよ」
梓「えっ、で、でも・・・」
唯「そうだよ~、一緒に食べようよ~久しぶりなんだから~」
梓「そ、それじゃあ・・・」
唯「やったー、あずにゃんと夕飯だ~」
憂「ふふ、よかったねお姉ちゃん。それじゃ梓ちゃん、お姉ちゃんと留守番よろしくね」
唯「いってらっしゃ~い」
梓「き、気をつけてね・・・」

唯先輩と二人きりだ・・・緊張してきた。
しかも、まさか今日会うなんて思ってもいなかったから、余計にドキドキする・・・
それでも、何だかそれを悟られたくなくて、平然を装った。


梓「それで、大学生活はどうですか?もう慣れましたか?」
唯「うん、最初はドキドキしたけど、もう大分慣れてきたよー。
  あずにゃんはどうなの?軽音部部長として頑張ってるんでしょ?」
梓「そうですね、何とか新入部員も入って来たし、結構上手くやってますよ」
唯「そういえば、新歓ライブってどうしたの?あの時って憂と純ちゃんで
  まだ3人しかいなかったよね?」
梓「そうなんです、何よりドラムがいないから普通のバンドとして出来ないんで、
  あえてアンプラグドでやったんですよ。アコースティックギターとかピアノで。」
唯「へえ~、かーっこいいねぇ~!大人だね~!やっぱりあずにゃんはすごいよ!」
梓「いえ、そんな事は・・・でも憂もすごく上手いんですよ。初心者と思えないくらい」
唯「えへん、まあ私の妹ですから!」
梓「いえ、だから余計に驚くんです。同じ姉妹でこうも違うのかと」
唯「も~!あずにゃんの意地悪~!」
梓「ふふっ、冗談ですよ。」

唯「でも・・・今の生活も慣れたけど、やっぱりあずにゃんがいないと寂しいや」
梓「えっ?」
唯「そりゃ大学には澪ちゃんや律ちゃんやムギちゃんがいるけど、
  あずにゃんがいないと何だか落ち着かないんだよね~」
梓「・・・」
唯「バンドで隣でギターを弾いてくれたり、楽譜の読み方を教えてくれたり、
  ほっぺについたクリームをふき取ってくれたり、
  そうやっていつも横にいてくれたあずにゃんが今はいないから、
  何か体にぽっかり穴があいたような感じがするんだよ、エヘヘ・・・」
梓「・・・」
唯「あずにゃん?」
梓「そ、それなら・・・何で・・・」
唯「え?」
梓「それなら何で卒業してから一度も会ってくれないんですか!
  あんな何回かのメールだけで済ませて!」
唯「え?え?」

私の今までの思いを知らずに、あっけらかんとそんな事を言う唯先輩を見てたら
何だかすごくイライラしてきた。
いや、それは単に私が正直な思いを打ち明けるのが怖いから
それを隠すために唯先輩に八つ当たりしてるだけなのかもしれない。
何で私はこういつもいつも意地っ張りなのか。
自分自身が嫌になるが、今までの思いが蓄積してたせいで言葉が止まらない。


梓「先輩は色々新生活で大変そうだからあえて私からの連絡は控えてたんです!
  でも、先輩はメールでは会いたいねとか何とか書いてくるけど
  結局それから何も音沙汰はないし、もうホントいいかげんすぎます!!」  
唯「いや、あの・・・その・・・」
梓「だいたい昔っから先輩はそうなんです!
  練習を中々やらないし!いつも遅刻はしてくるし!」
唯「な、何かデジャブな予感が・・・・」
梓「楽譜も全然覚えようとしないし!何かと抱きついてくるし!
  ギターソロも度々間違えるし!すぐ変なコスプレとかさせたがるし!」
唯「そ、それ私のせいですか!?」
梓「歌詞も覚えてこないし!生活全般がだらしないし!
  リズムがいつもズレるし!すぐ人に頼って泣きついてくるし!」
  お菓子ばっかり食べてご飯食べられなくなったりするし!」

唯「うわ~~~ん!久しぶりのあずにゃんも怖いよお~~~!!」

~終わり~


梓「まだ終わってません!ギターのメンテナンスは人に任せてばっかりだし!
  何か一個覚えたら前の事さっぱり忘れるし!」
唯「やっぱりまだ続くの!?」

~まだ終わってませんでした~


私はありったけの言葉を唯先輩に浴びせる。
今まで会えなかった分の不満を、私の思いを、そこに隠しながら。


唯「うう、お代官様許してくだせえ・・・今年の年貢はもうこれだけですだ・・・」
梓「・・・どんなに私が・・・唯先輩の事を・・・」
唯「へ?」
梓「わっ、私がっ・・・どんな思いで・・・先輩の事を・・・
  うっ、グスッ・・・」
唯「あずにゃん・・・?」


今まで自分の気持ちを押し殺していた分、一旦堰が切れたら自分の感情が止まらない。
それまで意地を張っていた自分がウソのように、唯先輩の前で子供のように泣いた。


梓「いっ、今まで・・・あんなに抱きついたりしてたのに・・・
  ひっく・・・きゅ、急に卒業したら・・・うっ、ぜっ、全然・・・
  会って、くれなくて・・・もっ、もう私の事なんて・・・忘れたのかと・・・」
唯「あずにゃん・・・」
梓「会いたかったのに・・・グスッ・・・ずっと、待ってたのに・・・」
唯「なーんだ、あずにゃんも私と同じ気持ちだったんだね」
梓「えっ?」


唯先輩が私を抱きしめてくれた。
けど、いつもの力任せな抱き方じゃなく、優しくそっと包み込むように。

唯「私も、当たり前のように一緒にいたあずにゃんが急にいなくなって
  あずにゃんの存在の大きさに改めて気が付いたんだよ?
  でもね、卒業してから会わなかったり、たまにしかメールしなかったのも、
  確かに私が大学に入学してすぐでバタバタしてたのもあるけど、
  あずにゃんの邪魔をしたくなかったんだよ」
梓「邪魔・・・?」
唯「だって、今あずにゃんは軽音部部長だし、後輩もいて、すごく頑張ってるでしょ?
  私達がいた頃と違って、今の軽音部はすごくちゃんとしてる。
  私はずーっとあずにゃんの足を引っ張ってばっかりだったもんね。
  あずにゃんにとって最後の高校生活だし、部活にも悔いを残して欲しくないし
  そんな中で部長として頑張ってるあずにゃんの邪魔をしたくなかったんだよ」
梓「そんな邪魔だなんて・・・・もう、先輩馬鹿みたいです。
  勝手にそんな風に一人で思い込んで。
  でも・・・でも、私も人の事言えませんね・・・
  いつも自分の気持ちを隠して、先輩に思ってもない事を言ったりしてたし」
唯「本当言うとね、今日家に帰って来たのもあずにゃんに会いたかったからなんだよ」
梓「そうなんですか・・・?」
唯「でも、下手にしばらく会わなかったから、逆に中々会おうって言い出せなくて・・・
  それで憂に今日あずにゃんに来てもらうように頼んだんだよ。 
  純ちゃんも気を利かせてくれたみたいだしね」
梓「ええ!?・・・うう、純ったら・・・」
唯「憂が言ってたよ?今の軽音部でも度々あずにゃんが私達の事を話題にするらしいけど
  大体その割合が、私5、澪ちゃんとムギちゃん3、律ちゃん1くらいなんだって!」
梓「ハハハ・・・我ながら自分の馬鹿正直さに呆れますね・・・
  っていうか、今律先輩がいなくてよかったです」
唯「結局私達二人って、お互いの気持ちに気付かないまますれ違ってたんだね・・・」
梓「先輩・・・でも、よかったです。今はこうしてお互いの気持ちがわかったから」

唯「ねえ、あずにゃん・・・ほんの少しだけ目を瞑ってくれる?」
梓「え?はい、いいですよ」


目を閉じた次の瞬間、私の唇に柔らかな感触が伝わってきた。
最初はびっくりしたが、それが唯先輩の唇だと理解すると、私はそのまま身を委ねた。
時が止まったような感覚。
時間にして10秒も経ってないはずなのに、それが永遠に感じられた。
やがて唇が離れたのでゆっくり目を開けると、そこには少し照れた唯先輩の笑顔があった。

唯「えへへ、あずにゃんのファーストキス奪っちゃった・・・」
梓「ずっ、ずるいです・・・私が目を閉じてる間にするなんて・・・
  私だって、唯先輩のファーストキス奪っちゃいます!」
唯「んむっ!?」


半ば強引に唯先輩に抱きついて今度は私からキスをした。
何だか神経がすべて唇に集中してるようだ。
頭がぼーっとするような変な感覚だけど、唯先輩と繋がっているという感覚だけは、
唇の感触と共に間違いなく実感出来る。
それまでずっと足りないと思っていたものが私の中に満たされていく。
私は今、唯先輩と繋がってるんだ・・・・


唯「はあっ、あずにゃん意外と積極的なんだね・・・」
梓「先輩だって・・・・」


そして、二人でソファに腰掛けて、窓から夕日を眺めていた。
お互いの手を繋ぎながら。


唯「相変わらずあずにゃんの手は小さくて可愛いね~」
梓「そんな事ないですよ・・・でも先輩もギタリストらしい手になってきましたね。
  今日はギー太持ってきてないけど、普段はちゃんと練習してるんですか?」
唯「えっとその・・・あのね、実は今日ギー太持って来なかったのはわざとなんだよ」
梓「わざと?」
唯「だって久しぶりにあずにゃんに会えるのに、肌身離さずギー太持ってたら
  あずにゃんがやきもち焼くんじゃないかなーって思って・・・」
梓「ええー?そんな理由で持って来なかったんですか?」
唯「ギー太は確かに大事だけど、あくまでビジネスパートナー。
  本当に一番好きなのはあずにゃんだからね!」
梓「何言ってるんですかもう・・・ふふっ、私も一番好きなのは先輩ですからね」
唯「あ~ん、あずにゃ~~ん!」
梓「わっ!もう、先輩やめてくださいよお!」
唯「あずにゃ~ん、あずにゃ~ん・・・」
梓「ハイハイ、わかりましたから・・・もうそろそろ憂も帰ってきますよ」

私と唯先輩、お互いの思いを確認出来たし、気持ちも繋がりあえた。
それはすごくうれしい。
けど、だからと言って急にそれですべてが変わるわけじゃない。
私のこの意地っ張りな性格もすぐに変えられない。
多分、しばらくは今まで通りの生活を続けていくんだろう。
でも、今までと違って私と唯先輩との気持ちは繋がっている。
どんなにお互いが離れていても、会えなくても、
その確かな繋がりが私に安心感を与えてくれる。
どんなになっても、私が唯先輩を好きな気持ちは変わらないんだから。

      • でも、出来ればいつでも会いたいしもっと近くにいたいけど。


唯「あ、そうだ、ムギちゃんに預かってたおみやげ出すの忘れてた」
梓「え、おみやげ?」
唯「うん、これみんなで食べてってさ。あずにゃんも来るから
  ムギちゃんも家においでよって誘ったんだけど、私はいいからって」
梓「へえ~、何か用事でもあったんですかね?」
唯「う~ん、わかんない。
  それより中なんだろ・・・あっ!クッキーだあ~!おいしそ~~」
梓「あっ!駄目ですよ!憂が夕飯作ってくれるんですから!
  また食べられなくなっちゃいますよ!」
唯「食べないよ~、中見るだけだよ~。わぁ、色んな種類があるね~」
梓「本当ですね。って、あれ?何か外箱の大きさの割に中が少ないですね?
  上げ底になってるのかな?」
唯「もう一段下にもクッキーが入ってんじゃない?」
梓「え?でもフタとか何もないし・・・」
唯「きっとすんごいクッキーの親分が隠れてるんだよ!無理やりあけてみようよ!」
梓「あっ、ちょっと先輩・・・」

パカッ!

唯「あらら・・・?これって、もしかして・・・??」
梓「盗聴器・・・ですか・・・?」

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紬「ちょ、ちょっとすみません!誰かティッシュを持ってきて下さい!!」
執事「どうしたんですかお嬢様って・・・うわー!すごい鼻血!!」

~今度こそ本当に終わり~


  • 俺にもティッシュを!!! -- (4ℓの噴水(赤)) 2010-11-04 22:44:09
  • 紬… -- (ダメですぅ〜) 2010-11-05 01:46:24
  • さーて輸血輸血っと、、、 -- (輸血パック) 2010-11-15 03:16:26
  • はああ、ティッシュどこ…。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 08:00:43
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最終更新:2010年11月04日 13:58