・ ・
・
・
私と仕事どっちが大事なの?
そんな陳腐なドラマのセリフが思い出される。
虫の知らせではないけど、今日は何となく朝からついていなかった。
電車を一本乗り遅れるとか、教科書を間違って持ってくるとか、唯ちゃんが梓ちゃんにいつもより6秒も長く抱きつくとか。
最後以外はさほど支障はきたさなかったけど、まさか家に帰ってきてまでこんな事になるとは思わなかった。
電車を一本乗り遅れるとか、教科書を間違って持ってくるとか、唯ちゃんが梓ちゃんにいつもより6秒も長く抱きつくとか。
最後以外はさほど支障はきたさなかったけど、まさか家に帰ってきてまでこんな事になるとは思わなかった。
紬「………はい、……いえ、そういう理由ならしかたないですよ……はい……では折り返しまたご連絡いたします、はいお疲れ様です」
携帯をきると共にため息がもれる。
私は投げるように携帯を置いて、座っていたソファーに倒れ込みクッションに顔をつけた。
本当はさっさと連絡しなければいけないんだけど、心の準備くらいさせてほしい
私は投げるように携帯を置いて、座っていたソファーに倒れ込みクッションに顔をつけた。
本当はさっさと連絡しなければいけないんだけど、心の準備くらいさせてほしい
きっと怒るだろうな……
また深いため息がでる。
私は彼女にバイトを始めたいと相談した時の事を思い出す
あれは確か土曜日の夜、彼女のベッドに寝ている時だった……
あれは確か土曜日の夜、彼女のベッドに寝ている時だった……
――――――
――
――
唯「バイト?」
紬「ええ、やってみようと思うんだけど」
時刻は深夜3時。横に寝ている裸の彼女にあらかじめ用意していた質問を思い切ってぶつけてみた。
紬「ダメかな?」
私は甘えるようにもたれかかる。
汗をかいたせいなのか、彼女の素肌が少し冷たくなっていたので温めるようとそのまま自分の肌を押し付けた。
汗をかいたせいなのか、彼女の素肌が少し冷たくなっていたので温めるようとそのまま自分の肌を押し付けた。
唯「……私が決める事じゃないでしょ」
私の体を受け止めやすいように、下になっている彼女も少し動く。
紬「そうだけど、唯ちゃんと会える時間減っちゃうから」
私が相談した意図を理解したように、眠たそうだった彼女の目に少し動揺がはしるのが見える。
彼女は私の体を押してのけ自分の体をおこし、ベッドの端にある上着を着る。
どうやら真剣に話を聞いてくれるらしい
どうやら真剣に話を聞いてくれるらしい
唯「何でバイトしたいの?」
当然の質問をぶつけられる
紬「社会勉強かな。自分の成長にも繋がるし、いろいろ学べることも多いと思うから。」
唯「……何もこの時期にしなくてもいいんじゃない?」
紬「来年は三年生になって受験もあるし、やるとしたらこの時期しかないのよ
唯「……大学からじゃダメなの?」
紬「高校生のうちに一度はやってみたいの」
彼女の質問はどれももっともだけど、やっぱり興味のあることには挑戦したかった。
そうやって部活にも入り、いい仲間と大切な人にも出会えたのだから。
そうやって部活にも入り、いい仲間と大切な人にも出会えたのだから。
彼女は考えるように目線を上に向けて押し黙ってしまう
紬「唯ちゃんは反対?」
唯「……私が反対したらやめてくれるの?」
あまり聞いてほしくない質問がとぶ
紬「分からない。ただ納得してもらえるように説得はすると思う」
唯ちゃんとはずっと一緒にいたいけど、将来の為にもバイトをしていろいろ学んぶというのは私にとっては大切な事だから、諦めるつもりはなかった。
唯「……やりなよ」
紬「えっ?」
唯「バイト、やりたいならやってもいいよ」
相変わらず上を見ながら、そこに答えがあるように彼女は言ってくれた
紬「……本当にいいの?」
唯「いいってば。やりたいんでしょ?」
紬「はい」
唯「じゃあそれでいいじゃん」
彼女は起こしていた体をまた布団の中に入れてさっき私がしたように体をあずけてくる、
まるでもうこの話はこれで終わりと私に言うように、そんな言葉のない優しさが心にしみる
まるでもうこの話はこれで終わりと私に言うように、そんな言葉のない優しさが心にしみる
紬「ありがとう、唯ちゃん」
そのまま今度は下になった私が彼女を抱き締めるよう体を動かす
唯「どこでやる予定なの?」
紬「通学路の途中にあるハンバーガーのファーストフード店、この前みたら募集してたから」
前は、ご一緒にポテトもいかがですかと言われるのが夢だったけど、今度は言う立場になってみたい
唯「そっか……働いたら行ってみていい?」
紬「うん、毎回来てもいいわよ」
唯「毎回は無理だよ……それに失敗して泣いちゃうムギちゃん見たくないし」
紬「どういう意味?」
これでも少しは上手くやれると思っているのに
唯「……頑張ってね」
小さい声でボソッと言ってくれる彼女の優しさが心を暖かくする
紬「うん、頑張る……ねえお礼していい?」
私は体を少し離し、先ほど着た彼女の上着のボタンを手をかけてる
唯「それ誰にたいしてのお礼なの?」
彼女は唇を尖らせ、少し怒った顔をしながら睨んできた
紬「もちろん……あなたにじゃない」
そのまま唇を首にもっていく
唯「んぁ……もうムギちゃんがしたいだけじゃん。眠かせてよ」
そんな反抗的な彼女が足をモジモジさせてるのに、私が気付かないわけがない
――――――――
――
――
どうやら余計なところまで思い出してしまっていた。
結局私はバイトに受かり、はれて店員として働けている。
結局私はバイトに受かり、はれて店員として働けている。
最初は唯ちゃんの予想が当たってしまい失敗ばかりで他の方には迷惑かけていたけど、
最近になってやっと研修中の札をとることができた。
最近になってやっと研修中の札をとることができた。
ただこれも最初の危惧通り、
彼女との時間はあまりとれず、ここ1ヶ月は2人っきりで会える時間は極端に減っていた。
だからそれに対して文句のひとつも言わない彼女に申し訳ないと思い、
だからこそ今週の日曜日には久しぶりの休みをとって、どこか行こうと彼女に提案してみた。
彼女との時間はあまりとれず、ここ1ヶ月は2人っきりで会える時間は極端に減っていた。
だからそれに対して文句のひとつも言わない彼女に申し訳ないと思い、
だからこそ今週の日曜日には久しぶりの休みをとって、どこか行こうと彼女に提案してみた。
だってその日はせっかくの記念日だったから。
唯ちゃんも楽しみにしていたみたいで、
和さんには唯ちゃんが嬉しそうに今度の事を相談してきたと教えてもらっていたばかりなのに……
和さんには唯ちゃんが嬉しそうに今度の事を相談してきたと教えてもらっていたばかりなのに……
そんな子に私は今から言わなければいけない
日曜日――あなたの誕生日の日、バイトに入って欲しいとお願いされたけどどうすればいいか?などと…
覚悟を決める、結局先延ばしにしていてもしょうがない。
乱暴に置いた携帯電話を持ち直し、彼女に電話をしようと震える手でボタンを押す
発信音が一度、二度となる。
私はそれを何かのカウントダウンのように感じていた
できるなら私の覚悟が揺らがないうちに早くでて欲しいのに、その後も発信音のみでなかなかつながらない。
そして今度はこのままでないでくれと願っていた。
私はそれを何かのカウントダウンのように感じていた
できるなら私の覚悟が揺らがないうちに早くでて欲しいのに、その後も発信音のみでなかなかつながらない。
そして今度はこのままでないでくれと願っていた。
いい加減一度仕切り直そうと思った瞬間、発信音がいきなり途切れる
唯「………ふぁい」
途切れた後もたっぷり間をとってから、さっきまで寝ていましたという彼女の声が聞こえてくる
紬「唯ちゃん、紬です」
唯「んぁ?」
気が抜けた返事が続き、緊張が少しとかれ自然と顔に笑みが浮んだ
紬「聞こえますか?紬です」
唯「ん…ム、ムギちゃん!?」
声と共に後ろで何かが盛大に落ちる音が聞こえてきた
唯「うわぁあ」
紬「だ、大丈夫!?」
唯「あっ……うん大丈夫。ちょっと待ってて」
カタッと音がして静かになり、また後ろの方で微かに音がカシャカシャなっている。
唯「………もう大丈夫」
紬「ごめんなさい。寝ちゃってた?」
唯「ううん、ちょっと休憩してただけ」
そのわりには声が寝起き丸出しだったけど?
といつもなら意地悪にそう言ってるのだが、やらなければいけないことを思い出して自重する。
だって横道に逸れるときっと私は言えなくなってしまうから
といつもなら意地悪にそう言ってるのだが、やらなければいけないことを思い出して自重する。
だって横道に逸れるときっと私は言えなくなってしまうから
唯「あっそういえば、日曜日どこ行きたいか決めたよ」
狙ったかのように最悪のタイミング……
もちろん彼女に悪気はない、誕生日までは後3日に迫ってきていたからこの話になるのも至極当然だった
もちろん彼女に悪気はない、誕生日までは後3日に迫ってきていたからこの話になるのも至極当然だった
唯「いろいろ考えたんだけどね……」
紬「唯ちゃんその前にちょっといい!?」
私は話を遮る。ここで話しておかないと
唯「ん?」
ひとつ呼吸をし、携帯を強く握りしめて心の中で彼女に謝る
紬「唯ちゃんの誕生日の日なんだけど……
実は……今ね、バイト先の皆さんがインフルエンザにかかってしまって、その日スタッフが足りない状態なの」
実は……今ね、バイト先の皆さんがインフルエンザにかかってしまって、その日スタッフが足りない状態なの」
話の内容から不穏な空気を察したのか唯ちゃんが息をのむのが分かった
紬「それでさっき電話があって……休み希望とってるところ申し訳ないけど、日曜日バイトでてもらえないかって言われたの」
喉の奥まで乾いてて、なかなか上手いように言葉がでない。
紬「それでね、私どうしていいか分からなくて……
今までバイト先の人に迷惑ばかりかけてきたから、こんな時くらい皆さんの役に立ちたいと思うけど……
日曜日は唯ちゃんの誕生日だし私も唯ちゃんと遊びたい。
けどそれだと多分お店まわらなくなっちゃうだろうから……だけどやっぱり唯ちゃんと……」
今までバイト先の人に迷惑ばかりかけてきたから、こんな時くらい皆さんの役に立ちたいと思うけど……
日曜日は唯ちゃんの誕生日だし私も唯ちゃんと遊びたい。
けどそれだと多分お店まわらなくなっちゃうだろうから……だけどやっぱり唯ちゃんと……」
何だか同じところをぐるぐる回ってしまっている、罪悪感の為か言葉がしどろもどろになって話が前に進まない。
唯「……もういいよ」
顔が見えないせいなのか、まるで別人に入れ替わってるかのようにさえ聞こえた暗く濁った声がする
紬「えっ……」
唯「分かったから、もういい。日曜日遊べなくなったって事でしょ?」
紬「……ち、違うのよ。どうするか相談したくて、だからまだ決定ではなくてね」
唯「じゃあいいよ、遊ばないで。」
紬「あっ………けど……」
唯「バイト行きなよ、大変なんでしょ?」
紬「そうだけど……本当にいいの?」
唯「……誕生日なんてまた来年あるんだし、いいよ別に」
投げやりな声が私に突き刺さる、
もちろんこれは私が受けなければいけない痛みなのは分かっていた。
もちろんこれは私が受けなければいけない痛みなのは分かっていた。
紬「ごめんなさい、12~20時までだからもしよかったらそれ以降に……」
唯「いいよいいよ、次の日も学校あるんし」
紬「そ、そう……」
唯「じゃあそろそろ晩御飯食べなきゃいけないからきるね、バイバイ」
紬「あっ…ごめんね、じゃあさようなら」
電話は私が別れの挨拶をしてる時にはすでにきられていた。
携帯を握る手が湿っぽくなっていて、自分でも気づかないほど強く握っていたことに気づく。
携帯を握る手が湿っぽくなっていて、自分でも気づかないほど強く握っていたことに気づく。
怒るなと言う方が無理よね…
この相談をしているだけで、彼女に対して失礼なのは分かっていた。
私はバイトと彼女を天秤にかけて、どちらが重いのか決められないとそのまま報告したのなのだから……
私はバイトと彼女を天秤にかけて、どちらが重いのか決められないとそのまま報告したのなのだから……
気持ちが重くなる
私は結局彼女になんて言ってほしかったんだろう?
携帯をどこかに投げてしまいたかった、そんな事をしても何も変わらないけど……
それでも私は彼女を怒らせ悲しませて得た日曜日が無駄にならないよう、お店に電話をかけることにした。
――――――――
――
――
いつもなら微妙な距離間を空け、唯ちゃんと一緒に歩く彼女の家までの道を、私は普段とはまったく違う心境で歩いていた。
気持ちが歩幅にもあらわれいるのか、そろそろ彼女が家をでる時間が近づくというのに、なかなかペースがあがらない
心が変わると風景もがらりと変わってしまう……
彼女と一緒なら、話のネタになりそうな民家から聞こえてくる朝の慌ただしい音や、
道端に寝ている猫も、ただただ煩わしいものでしかなかった。
道端に寝ている猫も、ただただ煩わしいものでしかなかった。
私が立ち止まらない限り確実に彼女の家は近づいていて、それはもう目の前に迫ってきていた。
昨日バイト先に電話した後、明日の朝直接彼女に謝ろうと思い立った私は、早朝から彼女の家までやってきたのだ。
「お姉ちゃん大丈夫?」
聞き覚えのある声が耳に入ってきた
唯「何が~」
憂「何か昨日から元気ないみたいだから」
唯「そんな事ないよ~もう憂は心配症だな~」
彼女達の会話に私の足は止まってしまう。
だって唯ちゃんが元気ないとしたら、それは私のせいだから……
だって唯ちゃんが元気ないとしたら、それは私のせいだから……
だけどこんなところにいてもしょうがない、私は意を決して足を前に出す
憂「そりゃ心配するよ、だってお姉ちゃ……紬さん?」
玄関で立ち話をしていた彼女達の目がこちらをむく。
髪を結っている差はあるといえ、それはまるで双子のように、そして今は同じ驚いた表情を浮かべながらこちらに視線をおくってきた。
髪を結っている差はあるといえ、それはまるで双子のように、そして今は同じ驚いた表情を浮かべながらこちらに視線をおくってきた。
紬「お、おはようございます。ちょっと唯ちゃんにお話しがあってうかがったの」
私が言葉を発しても、相変わらず彼女達は私を見ているだけだったが、意外にも先に立ち直ったのは唯ちゃんの方だった。
唯「……憂~、私ムギちゃんとお話しして行くから、先に行ってもらっていいかな?」
憂「えっ…?うん、いいけど……」
唯「えへへ、ありがとう~」
明らかに落胆と困惑の色を浮かべる憂ちゃんは、それでも素直に従ってくれた
紬「ごめんなさいね、憂ちゃん」
本当に申し訳なく思い口にだした謝罪の言葉も、嫌みに聞こえてないか心配になる。
憂ちゃんが私の横をお辞儀をして通り過ぎる瞬間、彼女の目に私を非難する色が浮かんでいた。
それは姉との朝の時間を奪った事になのか?
それとも姉の元気のなさを私と結びつけたのか?
それとも姉の元気のなさを私と結びつけたのか?
多分両方だろ。
唯「歩きながらでもいい?」
紬「えっ?」
憂ちゃんに気を取られていた私は、いつの間にか近づいていた唯ちゃんに驚く
唯「話するんでしょ?」
紬「あっ!……ええ、ありがとう」
そのまま彼女は歩き始めだが、先ほど私が来た道は通らずに角を曲がる
紬「あの…こっちじゃないの?」
唯「憂そっちの道行ってるし、人もけっこういるから」
そう言う事か……
唯「何、話したい事って」
紬「うん、昨日の事直接謝りたくて」
唯「………いいよ別に」
紬「でもせっかく楽しみにしていたのに、私のせいで遊べなくなっちゃって本当にごめんなさい」
唯「いいよ仕方ないじゃん。バイトなら」
いやに聞き分けがいいと逆に不安になってしまう、
だってこちらは罵倒されるのを覚悟して来ていたから。
だってこちらは罵倒されるのを覚悟して来ていたから。
だからこそ人通りが少ないところを選んでいるとまで思っていた
紬「きっと来週は代わりに休みをいただけると思うから、遊べると思うの」
唯「うん……」
紬「そしたら、どこか行きましょう。唯ちゃんの好きなとこどこでもいいわよ」
唯「うん……」
そういう事じゃないのは分かっていた。
こんな事をしても、唯ちゃんの誕生日に彼女よりバイトを優先したことは変わりはしない。
だけど私に言えるのはここまでで、許したと言った相手にこれ以上何度謝っても煙たいだけだと思い、
もう謝ることすらできなくなってしまった。
こんな事をしても、唯ちゃんの誕生日に彼女よりバイトを優先したことは変わりはしない。
だけど私に言えるのはここまでで、許したと言った相手にこれ以上何度謝っても煙たいだけだと思い、
もう謝ることすらできなくなってしまった。
結局その後元気のない彼女と当たり障りのない会話をしながら、私達は学校にたどり着いた。
――――――
――
――
律「いやー今日も疲れた疲れた」
澪「律、最近怠けすぎだぞ」
律「だって学祭も終わったしなー」
梓「学祭が終わったって次は新歓あるんですし、ちゃんと部活しましょうよ」
律「分かったって来週はちゃんとやるから、な?」
その日の夕方、いつも通りののんびりした部活を終え、私達は五人一緒に帰っていた。
私は伺うように目線だけで、前を歩く唯ちゃんに見る。
結局学校に行ってからも、部活中もたいして話はできていない
結局学校に行ってからも、部活中もたいして話はできていない
律「あっ!そういえば明日は1時に唯ん家でいんだっけ?」
唯「うん、いいよ~」
明日……唯ちゃんの誕生日前日に、軽音部で彼女の誕生会がおこなわれることになっていた。
前日になったのは唯ちゃんが誕生日当日は予定があるからと断っていたのだ。
前日になったのは唯ちゃんが誕生日当日は予定があるからと断っていたのだ。
みんなには、和さんのお家で誕生会をやってもらえる事になったと言っていたが、
もちろん用事と言うのは私とのもので、今となってはそれもなくなってしまったのだけど、
私達の付き合いを知らないみんなには、私との用事だという事も、もちろんそれが無くなった事も話していない。
もちろん用事と言うのは私とのもので、今となってはそれもなくなってしまったのだけど、
私達の付き合いを知らないみんなには、私との用事だという事も、もちろんそれが無くなった事も話していない。
律「じゃあ澪は12時に私の家な」
澪「なんでそうなる」
律「ええーイヤなのかよー」
澪「別にそうじゃないけど……」
唯ちゃんと共に前を歩く2人による、いつもの微笑ましく見える光景も今日は何も感じなかった
梓「どうかしましたか?」
紬「えっ?」
隣を歩いてる梓ちゃんがいきなり聞いてくる
梓「いや、なんだかボンヤリしてたみたいですから」
紬「そう?何でもないわよ」
律「はは~ん、さては唯の誕生パーティーに来れないのが寂しいんだな」
前からりっちゃんの冗談混じりの声が突き刺さる、多分唯ちゃんにも
澪「バイトあるんだっけ?」
紬「えっ!……ええ、そうなの」
日曜日は2人っきりで会うからという理由で、今日、明日はバイトを入れてしまっていた。
だから軽音部では唯一明日の誕生会に私は参加しない。
だから軽音部では唯一明日の誕生会に私は参加しない。
律「ムギーズル休みしゃえよー」
澪「こらっ律!そんな事したら他の人に迷惑かかるだろ」
律「わ、分かってるよ、冗談だって。けどムギが来れないのは残念だよなー唯も寂しいだろ?」
マフラーをしていて良かった。
口元が隠れていたおかげで少し漏れた声がみんなには届かなかったようだ。
もちろんりっちゃんに悪気はないのは分かってる。だけどこの質問は……
口元が隠れていたおかげで少し漏れた声がみんなには届かなかったようだ。
もちろんりっちゃんに悪気はないのは分かってる。だけどこの質問は……
長い間が空いた。
しかしそれは私が意識を集中させていたからそう感じただけで、実際はみんなが不自然に思うほどは空いていないみたい
しかしそれは私が意識を集中させていたからそう感じただけで、実際はみんなが不自然に思うほどは空いていないみたい
唯「しょうがないよ~バイトだもん」
昨日の夜と今日の朝、この返事は三回目。それはやはり変わらなかった……
それを悲しいと感じた私は本当に身勝手だと思う。
それを悲しいと感じた私は本当に身勝手だと思う。
そんな私を無視して会話は続く
律「だよな~よーし、じゃあ私がムギの分も騒いで、唯を楽しませてやるよ」
唯「おおー頼みました、りっちゃん隊員」
律「任されよー」
梓「律先輩はいつも二人分騒がしいですけどね……」
律「あ・ず・さ。聞こえてるぞー」
梓「ひぃぃい」
澪「やめろ」
りっちゃんの頭が叩かれる音がして、唯ちゃんの笑い声が届く
彼女の笑い声ですら懐かしく感じてしまう私に、彼女と付き合う資格があるのだろうか
彼女の笑い声ですら懐かしく感じてしまう私に、彼女と付き合う資格があるのだろうか
その後バイトに行くためにみんなと別れた時も、彼女はみんなの陰に隠れて私に顔を見せてはくれなかった。
バイト中はいつも以上の忙しさで何も考えずにすんだけど、その分家に帰ってから落ち込んでしまう。
ただやっぱり私みたいなのでも、バイトに入らなければお店が回らなかったのも事実で、次の日の土曜日も目の回るような忙しさだった。
ただやっぱり私みたいなのでも、バイトに入らなければお店が回らなかったのも事実で、次の日の土曜日も目の回るような忙しさだった。
ただふとした瞬間、今頃幸せそうな笑顔を浮かべてみんなが開いてくれた誕生会を唯ちゃんが楽しんでるのかと思うと、
胸がチクリと痛んでしまい、またそんな事を思ってしまう自分が本当に情けなかった。
胸がチクリと痛んでしまい、またそんな事を思ってしまう自分が本当に情けなかった。
集中力を欠いた時もあったけど、とりあえず無事に作業を終え、
家に着くと携帯に新着メールが一件届いていた事に気づく。
家に着くと携帯に新着メールが一件届いていた事に気づく。
ひらくとりっちゃんから写真が添付されたメールがきていた
写真は誕生会で撮ったもので、唯ちゃんとケーキを真ん中にみんなが写っている
添えられた文には
添えられた文には
ムギが来ないから唯が寂しそうだったぞ、私の時には絶対来てくれよな
と書かれていた。
本当にりっちゃんらしい優しいやり方で、来れなかった私を気遣ってくれてるのがわかり、ありがたいと思う。
私は携帯を操作してりっちゃんにお礼のメールを送り、そしてもう一通のメールも書く。
時間は0時ちょっと前。
こういう時はせめて電話の方がいいのだろうけど、
もしでてくれなかったら確実に明日の仕事に影響してしまうと思い、メールを送る。
こういう時はせめて電話の方がいいのだろうけど、
もしでてくれなかったら確実に明日の仕事に影響してしまうと思い、メールを送る。
短い文に願いを込めた。
『お誕生日おめでとう、これからも大好きです』
『お誕生日おめでとう、これからも大好きです』
返信を信じ待っていたが、そのまま寝て翌朝起きても唯ちゃんからメールはきていなかった。
―――――――
――
――
「今日はごめんね」
日曜日。夜のピーク時を終え、台風のように来ては帰って行ったお客様を笑顔で見送り、
一段落したところでひとみさんが作業をしながらそう言ってきた。
一段落したところでひとみさんが作業をしながらそう言ってきた。
普段のこの時間なら、二人は入っているレジに人数が足りないため今は私しか入っておらず、
ひとみさんはすぐ後ろでストックの確認をしながら何か紙に書き込んでいた。
ひとみさんはすぐ後ろでストックの確認をしながら何か紙に書き込んでいた。
紬「いえ、こういう事情なら仕方ないです。私も今まで皆さんに迷惑かけてばかりいましたから」
いつお客様が来るか分からない為、私は後ろを見ずに答える。
星野ひとみ
私の教育係だった人で、この店で私が一番迷惑をかけた人だと思う
初日なんてコーラを彼女にかけるという、失態までおかしてしまった。
だからなのか彼女とは一番仲が良くなり、話す機会も多い。私にとっては頼れるお姉さんのような人だった。
私の教育係だった人で、この店で私が一番迷惑をかけた人だと思う
初日なんてコーラを彼女にかけるという、失態までおかしてしまった。
だからなのか彼女とは一番仲が良くなり、話す機会も多い。私にとっては頼れるお姉さんのような人だった。
ひとみ「そう言ってもらえると嬉しいんだけど……
紬さんが休みを希望するって事はよっぽどの予定があったんでしょ?」
紬さんが休みを希望するって事はよっぽどの予定があったんでしょ?」
紬「……いいえ、ちょっとした事だったので」
嘘でもちょっとした事とは言いたくなかったが、彼女にそんな事を伝えてもどうにもならない
紬「ひとみさんも連勤ですよね?ご苦労様です」
その時、カップルがお店に入ってくる。
笑顔で注文を聞いて、ドリンクやハンバーガーを持ち帰りの袋に詰めて渡し、また笑顔でお礼を言う。
笑顔で注文を聞いて、ドリンクやハンバーガーを持ち帰りの袋に詰めて渡し、また笑顔でお礼を言う。
お喋りをした後でもこうしてすぐに対応を切り替えられるのは、自分でも手慣れてきた証拠だと思う。
私がお客様への対応をしてる間も、彼女は後ろでいろいろとやっていた。
一昨日から店長までもが倒れてしまったので、ベテランの彼女は店長の代わりに今日は雑務におわれている
一昨日から店長までもが倒れてしまったので、ベテランの彼女は店長の代わりに今日は雑務におわれている
紬「あの……」
カップルがお店を出たのを見計らい、また小声で話しかける
ひとみ「何かわからないところでもあった?」
紬「いえ、この後少しお手伝いしていってもいいですか?」
ひとみ「けど紬さん、もうそろそろあがる時間よね?」
紬「はい、けど今日は予定ないので少しくらいなら大丈夫です」
予定はなくもなかった……だけど彼女の忙しそうな様子を見て、これまで迷惑をかけてきた自分だけが帰るのは申し訳ない、
少しでも恩返しができれば嬉しかった。
少しでも恩返しができれば嬉しかった。
ひとみ「本当に大丈夫?」
紬「はい、やらせてください」
ひとみ「うーん、ならお願いしようかな。正直私だけだとかなり時間かかっちゃって……」
結局閉店時間ギリギリの22時まで彼女の仕事を手伝い、何とか作業を終えることができた。
まだ残ってる方の閉店後の作業も手伝いたかったのだけど、
高校生の私はこれ以上お仕事ができなかったので、ひとみさんと帰らせていただく事にした。
まだ残ってる方の閉店後の作業も手伝いたかったのだけど、
高校生の私はこれ以上お仕事ができなかったので、ひとみさんと帰らせていただく事にした。
外は11月の終わりということもありかなり寒くなっている、
その中を一緒にお店をでたひとみさんと駅まで歩いた。
私はまだ帰るつもりはなかったけど、どのみち目的地までは駅の前の通りをいかなければならない
その中を一緒にお店をでたひとみさんと駅まで歩いた。
私はまだ帰るつもりはなかったけど、どのみち目的地までは駅の前の通りをいかなければならない
できるだけこれからの事を考えないようにひとみさんと言葉を交わしながら歩くと、すぐに駅についてしまった。
ひとみ「今日は本当にありがとう、助かっちゃった。今度お礼させてね」
改札に入ろうとしている彼女が立ち止まり、そう言ってくれて何だか今日の頑張りが認められた気がした。
紬「そんな、たいしたことしてませんから」
ひとみ「けど休日を返上して、私の仕事まで手伝ってもらっちゃったし……」
紬「それだけ私もひとみさんに迷惑かけてきましたから」
ひとみ「そんな事ないわよ、紬さんは良くやってくれてるわ。じゃあ何か考えておくわね」
そう言うと改札の中に吸い込まれて行った
腕にしている時計を見ると22時30分をさしている。急がなくちゃいけない
腕にしている時計を見ると22時30分をさしている。急がなくちゃいけない
歩いていた進行方向に再度体を向け、駆け出そうとした瞬間、
目の前にフードをかぶった人が立っているのに気がついて、驚く。
目の前にフードをかぶった人が立っているのに気がついて、驚く。
そしてそのフードから覗いていた顔を見て、さらに心臓が止まりそうになった
紬「ゆ、唯ちゃん?」
そこには今から会いに行こうと思っていた恋人が、目の前に私を睨んで立っている。
紬「な、何でここに?」
唯「さっきの人誰?」
私の疑問にも答えもせず、彼女はその声だけで怒ってるのがわかる言葉を放つ。
とりあえず答えなければ先には進めないと思い、彼女の疑問から解決していく事にした。
とりあえず答えなければ先には進めないと思い、彼女の疑問から解決していく事にした。
紬「……星野ひとみさん。バイト先の先輩で唯ちゃんもお店に来たとき会ったことあるでしょ?」
唯「……知らない」
彼女はワザとくさく眉の間に皺を寄せる
紬「きっと私服だからイメージ違うだけよ。今バイトの帰り道で一緒にここまで来たの、本当よ」
唯「……バイトの帰り道なのは知ってる」
紬「えっ!どういう意味?」
唯「お店の前で待ってたらムギちゃんがあの人と出てくるのが見えて、後ろからつけてたし……」
彼女の視線が後ろめたさの為なのか、初めて私からはずされる。
けど今彼女は何て言った……お店の前で待っていたという事は、私を待っていてくれていたの?
けど今彼女は何て言った……お店の前で待っていたという事は、私を待っていてくれていたの?
紬「ちょっと待って……唯ちゃんいつから待ってたの?」
私は彼女に20時まで仕事があると伝えていた。じゃあもしかして……
彼女は視線を外したまま答えようとしない
彼女は視線を外したまま答えようとしない
じれったくなった私は彼女に近づきの手に触る
その手は寒空の中冷やされた私の手がビックリするほど冷たくなっていた。
その手は寒空の中冷やされた私の手がビックリするほど冷たくなっていた。
唯「ん!」
彼女は私のてを急いで振りほどこうとする
寒空の中待っていたのがバレたら、私が傷つくと思ってるのかもしれない。
寒空の中待っていたのがバレたら、私が傷つくと思ってるのかもしれない。
だから私は絶対に彼女の手を離さなかった
かなり遅い時間だった為、駅前とはいえ行き交う人はそれほど多くなかったけど、
立ち止まり女の子が女の子の手を振りほどこうとしてるのはかなり奇妙な光景だろう。
立ち止まり女の子が女の子の手を振りほどこうとしてるのはかなり奇妙な光景だろう。
彼女は私が離さないと分かると、ついに抵抗をやめてくれた
紬「何でお店の中に入ってきてくれなかったの?」
できるだけ優しく聞いてみたけど彼女からの返事がない。
とりあえず暖かいところにいかないと
紬「唯ちゃんどこか入りましょ」
唯「いい」
紬「ダメよ!ずっと待ってたんでしょ、このままじゃ風邪ひいちゃうわ」
また何も答えてくれない
こうなったら無理矢理にでもと私が考えた時、私が重ねていた手をつかみ彼女は突然歩き始めた
こうなったら無理矢理にでもと私が考えた時、私が重ねていた手をつかみ彼女は突然歩き始めた
紬「ゆ、唯ちゃん、どこに行くの?」
唯「ちょっとだけ付き合って」
手を繋いだまま道を突き進む、
駅に向かおうとする通行人に当たろうがお構いなしだった。
私の方が力が強いから抗おうと思えばできたけど、それをすることはなかった。
駅に向かおうとする通行人に当たろうがお構いなしだった。
私の方が力が強いから抗おうと思えばできたけど、それをすることはなかった。
彼女がこんな寒い中、2時間近くも待っていた理由を私も知りたかったから。
路地を抜け角を曲がり駅の近くにある公園にたどり着くと、そのまま奥にあるベンチまで引っ張られ座らされる。
吐く息が白い。こんな中にずっと待っていたなんて…
私はマフラーを外し、彼女のしていたその上から肩にかけてあげる
私はマフラーを外し、彼女のしていたその上から肩にかけてあげる
唯「ムギちゃん寒いでしょ?」
紬「大丈夫、私体温高いから」
唯「……知ってる」
それもそうか、いつも私達はお互いの体温をいたるところで感じているのだから
横にいる彼女がかけられた私のマフラーのギュッと握っていて、彼女の可愛らしさだけで私の体温は少しあがる