100 軽音部員♪ [sage] 2010/06/11(金) 23:23:20 ID:obq3ol5g0 [1/3]
憂「今日もダメかー」
久しぶりに抜けるような青空が広がった日曜日だというのに、天気予報ではお昼過ぎから崩れてくるって。居間に差し込んでくる明かりは暖かそうだけど、私はコタツにもぐって洗濯物を干している間に冷えた体を温めている。
なんだか、ペース狂っちゃうな…。
今日は寒いからなかなか起きてこないだろうなぁ。お姉ちゃんが起きてくる時間を予想する。いつもならこの時間、お姉ちゃんが朝ごはんを食べてる間に二階の掃除をするんだけど、今日は一階だけにするかな。
動いてる間に暖かくなるかと、テレビを消して立ち上がる。
さすがに二週間も干せなかったら気分が悪いから、篭城するお姉ちゃんから無理やり布団を引き剥がした十時半。まだお日様ががんばってるうちに私の布団も並べて干す。
唯「う~い~」
憂「なに?」
朝食兼お昼ご飯を食べるお姉ちゃんが、隣で今日の特売チラシを比べている私に手を伸ばしてくる。
唯「昨日澪ちゃんに手相教えてもらったんだよー」
右手を取ってじーっと見つめだした。と、思ったらぱたぱた、かばんかばんと探し出す。目当てのものが見つかったのか、ぱっとやわらかい顔になって私のそばに戻ってくる。
唯「憂の手、好き。さわるとやさしくなれるんだよ」
ハンドクリームを塗ってくれるお姉ちゃんの指先、いつの間にかとっても硬くなってた。
憂「私もね」
唯「なにゅ?」
むにゅ。お姉ちゃんの笑顔
大好き。照れ隠しに、おもちみたいなほっぺたでたこ焼きを作ってあげる。
憂「…降ってきた」
結局乾かなかった洗濯物を乾燥機に入れたところで雨の音が忍んできた。二階に耳を傾けるとしーんとしてる。きっと投げ込んだ布団の中で、かしわ餅になってるのかな。
そろそろ三時のおやつの準備をしようと居間に入ったら、お姉ちゃんが背中を丸めて何か作ってて、ちょっとびっくりしちゃった。
唯「じゃーん!」
見せてくれたのは、てるてる坊主。大きいのが二つ。手をつないだ小さいのが二つ。ささっとお父さんとお母さん、私たちの顔も書いて軒下につるしました。
唯「天気良くならないと、憂困っちゃうからね」
とくん。
ああ、だめだ。乾燥機を見に行くフリして、洗面所に隠れる。
唯「憂は将来の事とか考えてるのー?」
食器を洗い終えて、台所で母の日にお姉ちゃんとお花屋さんで選んだ黄色とピンクのカーネーションの水を替えていた時だった。
憂「どうしたの、急に?」
唯「この前みんなと話してたんだよ」
憂「そうなんだ」
唯「ずーっとみんなとお茶飲んでいたいんだけどね」
憂「うん」
唯「みんな自分のことちゃんと考えててさー、私を置いてけぼりにして先に行っちゃいそうだよ」
憂「……」
唯「さわちゃんがね、私の前には道がたくさんあるって。選ぶのは自分しかいないし引き返せないけど、どの道もきっといい道よって。……うーん」
101 軽音部員♪ [sage] 2010/06/11(金) 23:27:10 ID:obq3ol5g0 [2/3]
お姉ちゃんが寝転がっててよかった。たぶん今の私、お姉ちゃんに見せられない。色あせた花びらを摘み取る。こうするとつぼみからまた、新しい花が咲いてくるって。でも、その数も減って今では数えられるほどしかない。
ぎゅっ。
憂「えっ」
後ろからお姉ちゃんに抱きしめられた。
唯「今さみしかった?」
全身にぶわって熱が広がって、震えた濡れた手から花が落ちる。
唯「う~い~、もっと私に甘えていいんだよ~? 妹の特権! だいじょうぶ! 何があっても、時間がたっても、私は憂の側にちゃんといるよ」
静かに寝息を立てるお姉ちゃんの顔を見つめる。小さく閉じたり開いたりする唇から時折声が漏れる。小さい頃からずっと大好きな顔。笑っても、泣いても、すねてる顔も大好き。
でもね、最近お姉ちゃんの顔を見ると泣きたくなっちゃうんだよ?
自分の唇に人差し指を触れて、そのままお姉ちゃんの唇を触る。ぷっくりとしたそれから漏れる息が私の指を湿らせる。
お姉ちゃんが喜ぶ顔を見たくてうれしそうな顔が好きで、それが私の全てだった。お姉ちゃんと一緒に過ごせる時間以外は何もいらないって、本気で言い切れる。
そのお姉ちゃんと二人っきりで過ごせる時間がもうあまり残されていないという現実。この前入学したと思った高校生活はもうじき終わりを迎え、こうして二人でいられる時間はこれからどんどん減っちゃうんだよね。
でも、これでよかったんだよ。出来た妹で終われることができるんだから。
見つめていた視界がにじんで、つーって、もうひとつ、ふたつ…。嗚咽が漏れないうちに涙を拭って眠ろうと思った瞬間だった。
突然お姉ちゃんの手が伸びて私の顔を引き寄せ、キスされた。驚いて見開く私の瞳に残っていた涙がぱっと飛び散ってお姉ちゃんの顔を濡らす。それまで考えていた事が一瞬で吹っ飛んで真っ白になる。
唯「どうしても決められないんだったら、一番大切にしているものを真ん中にして考えてみたらって」
家全体を響かすような雨の音に混ざって、大好きな声が反響する。
唯「私は憂の側にいたいって思ったの」
もう一度、キス。いいの、お姉ちゃん? 私、重いよ? そんな言い訳を吐くよりもなによりも姉の体を求めてしまった私は、自分で思っている以上に変態なのかもしれない。
最終更新:2010年06月13日 16:47