渚の夢幻城(4F)
一行は4Fへと足を進めた。視界には扉が二つと通路が一つ、そして何かが飛び回っている音が聞こえてくる。
羽音の様だが、生物にしては何かがおかしい。羽音に混じって金属の擦れる様な音がするのだ。
「……?なんだか妙な音が……」
「この音……なんでしょうか」
「気にしないでさっさと進もうよ!」
何者かの羽音に気付いた御鈴と鼎だったが、
カルノはそれを無視して右手の扉を開けようとした・・・が、開かない。どうやら内側から鍵が掛かっているようだ
「開かないなー・・・こっち開けよ」
(あちゃー…ま、供物には丁度いいよね♪)
「ちょ、ちょっとカルノさ、っ……!」
警戒心の欠片もないカルノを制止しようとした御鈴だったが、絶えず全身を襲う痛みに声が詰まる。
そんな御鈴に気付きもしないカルノが逆側のドアを開けると、そこにはいくつかの横道に分かれた通路が広がっており、目の前には、ボールのような奇怪な物体が浮かんでいた。
「なんかいるよ?先手必勝?」
「ちょっと話かけてきてみてよ?」
球体はまだ此方には気づいていないようだ・・・髪結がカルノを嗾けようとしたその時、ボールの前に1匹のネズミが現れる。
「ねずみだ」
「チューチュー・・・」
「ガガッ・・・!」
奇怪な球体は、ネズミを補足すると怪光線を発射した!
「チュッ・・・!?」
怪光線を浴びたネズミは瞬時に肉が、そして骨が溶け、やがて蒸発し跡形もなく消滅した。どうやらこの球体に気付かれたが最後、このネズミと同じ運命を辿ってしまうようだ。
「……… …カルノ君ちょっと話かけてきてよ?」
「いやだよ・・・」
「あれは……自動迎撃系のトラップみたいですね……」
「自動迎撃型のトラップか……とりあえず様子をみてみましょうか」
明後日の方角を見ながら尚もカルノを球体に向かわせようとする髪結と拒否するカルノを他所に、一行は球体の様子を探ることにした。・・・一方その頃。
「よし、あきらめて5階に・・・」
今まで散々罠を踏んで漸く恐怖心が芽生えたのか、カルノはこの階を無視して階段を登ろうとした・・・しかし、上り階段に張られていたバリアに弾き飛ばされた。
「!?」
・・・・・どうやらこの階を踏破しない限り、上へは進めない様だ。弾き飛ばされたカルノはそのまま元の位置に戻され、渋々一行と共に球体を観察している。
「あっちいったね」
「……… …カルノ君、後ろから壊して来てよ」
「僕はこのバリアを現切りで壊すから忙しい!」
「ここは式を使って……っぅ!」
「先輩!?」
相変わらずの両者を見兼ねた御鈴が、式鬼で上手く切り抜けようと召喚を試みる。
・・・しかし、現実は非情だった。雪宗や麗華が危惧した通り、地下の戦闘の際・・・FASの反動により御鈴の体内の魔晶石、及びそれによって運用されていた魔術回路は深刻なダメージを追っていた。
今の御鈴の身体では、式鬼を召喚しようとすれば更なる激痛により意識が乱れて失敗し、もし痛みに耐えて強引に召喚術を行使すれば――
――最悪の場合、それは御鈴自身の死を意味することになるのだ。
(式鬼が出せない……大口叩いておいて、これじゃまるで役立たずか……いざとなったら無理矢理にでも……!)
「(・・・式鬼を召喚しようとして先輩は反動を受けた……? だとしたら先輩は…)…先輩、無茶……しないでくださいよ?」
「うん、大丈夫……一先ず先に進もう、慎重にね」
「はい、わかりました・・・とりあえず、行きましょうか。慎重に」
暫く球体を観察していた一行は、
―1つ。配置されている球体は、通常時は一定のルート上を同じ移動ルーチンで徘徊し、異物を発見すると怪光線を放って排除すること。
―2つ。その移動速度は一定であり、タイミングを計る事自体は容易であること。
―3つ。球体は縦方向に関しては異常なまでの視認距離を持つが、逆に横方向は滅法狭く、どうやらこのフロアに敷かれている大タイル1枚分程度しか認識できない事。
という事実を発見した。そこで一行は鼎を先頭に、息を合わせて死角を移動することでこの階を踏破することに決めたのだった。
この時ばかりは流石のカルノも一同の決定に素直に従ったようだ・・・こうして、奇怪な球体と一行の文字通り命懸けの"隠れんぼ"が始まったのである。
ビホルダー通路
「ビホルダー、か……」
息を殺して通路の影から様子を伺う。後もう少し、羽根付きの球体―中世ファンタジーに登場する魔物に準えて、ビホルダーと呼ぶことにした―が、前方に動いた所が好機だ。
「気付かれない……ように……よし、今っ」
「ガガ・・・!」
気付かれるギリギリのタイミングで背後を通りぬけた一行。・・・奥の通路では、落ちていたゴミが怪光線を受けて蒸発していた。
「とりあえず通り抜けましょうか……他の個体はいるのかな……」
何とか最初に発見した一体をやり過ごした一行。左右に分かれた通路を確認すると、そこには・・・。
「!? もう一体いる、みたいだね」
「いや、反対側にももう1体居るみたい……」
「ほんとだ……あと左の方に扉が見えますね……とりあえず、様子を見ましょうか」
再び物陰から、2体のビホルダーの様子を伺う鼎。地味な作戦ではあったが、確実に前進している。何より、無理に突破しようとすれば此方の身が危ないということは、その場の全員が承知していた。
観察中に協議した結果、まずは左手に見える扉を目指すこととなった。
「大丈夫、よね・・・いってみましょうか」
慎重にビホルダーの様子を探りながら、扉に向かって進んでいく一行。
このフロアの角に当たると思われる突き当りの通路、目指す扉が目前に迫ったその時・・・焦りが生じたのか、落ちていた小石に鼎の足が当たり、ビホルダーの方へ蹴り飛ばしてしまう。
「ガガガ・・・ッ!!」
「くっ、見つかった!?」
「げ」
間一髪、咄嗟の判断で3Fで失敬した壺をビホルダーに投げつけ、相手の視界が塞がった一瞬の間にドアへと駆け込む――慌ててドアを閉めると同時に、外からはあの怪光線の音が聞こえてきた・。
小さな書斎
・・・机にライトと本棚があるだけの簡素な部屋だ。1Fにあったものと比べて規模は小さいが、ここも書斎だろうか?
「なんの部屋だろ……?」
鼎がテーブルの上に目をやると、羊皮紙に書かれた2つのレポートが見つかった。色褪せた表紙には、それぞれ"百年転生実行の手順"、"実行に当たっての課題点"・・・と書かれている。
「これって……」
「百年転生……?」
まず鼎が手に取ったのは"百年転生実行の手順"。多少なりとも魔術の心得のある御鈴も横からレポートを覗き込んだ。・・・レポートには、次のように走り書きがされていた。
~百年転生実行の手順~
1.良質な魔力の集積地(東洋で言う龍脈・地脈?)を探す。
2.可能な限り転生に必要な状況(分岐点)を再現する。※
3.必要な魔力を蓄える。
4.分岐点より西暦で100年後、蓄えた魔力を使用して儀式を遂行する。
※集積地が良質であっても、記録から鑑みるに通常の方法では困難を極めると予想。
吸血種の魔術を参考に?
この手段を取ると仮定した場合、露見のリスクと変換対象の確保に対策が必要。別途資料に纏めることとする。
「プシュー」
只でさえ漢字の読めないカルノは、頭から煙を吹いていた。
「ん……なるほどね(分かってないけど・・・)・・・もう一つも読んでみましょうか」
「魔力の集積地……吸血種……露見のリスクに変換対象……まさか……と、とりあえず次のレポートを!」
魔術に対してはさほど造詣の深くない鼎にも、書かれている内容がどういうことなのか分からなかったのだが・・・御鈴には何かピンとくるものがあったようだ。二人はもう一枚のレポートを読み始めた。
~実行に当たっての課題点~
1:集積地の確保・・・日本、S市内に適切な地点を確認。確保に成功。
2:再現性の問題・・・幻想生成、及び岩盤の性質変化により、記録以上の再現性の確保が可能と予測。性質変化に必要な岩盤は当該地点に岩山が存在することを確認済み。
3:魔力の蓄え・・・最も困難。貯蔵自体は入手した魔導具、自動操機の炉心・・・及び、吸血種から入手したサンプルによる生命変換により可能なレベルに達するが、その場合、事前に露見する恐れ有。要対策。
"手順4"については問題なし。
「S市ってここだよね?」
「生命、変換……」
「……つまり、そういう……」
「やっぱり、この場所に魔力を集めて何かしようとしてるっていうのは間違い無いみたいですね……その為に迷い込んだ人達を……」
「御鈴のお姉ちゃん地下で何みたの?」
「このレポートに記載されている自動操機、らしきものと交戦したんです……一応破壊はしたので、炉心も残ってはいない筈ですけれど……」
「引き出しの中にも何か……これは懐中時計……かな」
「懐中時計……何か仕掛けがあったりは?」
「ん、調べてみます」
鼎が引き出しの中から見つけた懐中時計を調べてみると、オルゴール時計になっていたようだが・・・音が鳴る以外には特に何も起こらなかった。
「オルゴール入りの時計なんて珍しいね」
「今までのパターンを考えると、このオルゴールも何かを作動させる鍵になってるって可能性もありますけど……」
「ん……かもしれませんね」
「他には何も無い……のかな」
鼎が引き続き辺りを調べたが、この3つ以外には特にめぼしい物は見当たらなかった。
「んー、なにか他には……何もない、みたいですね」
「となると、後は反対側か……」
「ビホルダーに注意しないと、ですね」
一通り探索を終えると、一行は付近のビホルダーの羽音が遠ざかるのを待って外へ戻った。残るは左側通路の奥のみだ。
ビホルダー通路
最奥の通路を順調に進んできた一行だったが、十字路で2体のビホルダーに行く手を阻まれてしまう。このままでは、待てど暮らせど先へ進めないのだ。
「っく、ビホルダーが邪魔で通れない……どうしよう……」
行き詰った陰で相談を続けていると、御鈴が先日、結城邸で忍者三人組に貰った小道具(ガジェット)の事を思い出した。
「この位置だと通過する前に見つかるだろうし……あ、そういえばオオイズミさん達に敵を惹きつける道具を貰ったような……」
「ホントですか? それなら、ビホルダーを引き付けている間に……」
「となると、あのビホルダーを通過するなら……」
御鈴はバッグから敵を惹き付けてくれるという"ヒゲの笑い袋"を取り出すと、大きさと重さを確かめながら投擲位置を計算する。
「曲がり角から右の方にこの笑い袋を投げつければ、跳ね返ってこの壁の反対側に落ちてくれる……かな?」
「流石先輩っ、ではそれで行きましょうか」
投擲は技量に優れる鼎が担当する事となった。・・・そして、鼎は笑い袋を確りと掴むとウィンドミル投法で壁目掛けて投げつける!
「これでっ、どうだ!」
狙い通り、笑い袋は壁で一度大きくバウンドし、そしてビホルダーの横を掠めるともう二度三度バウンドして停止する。
一瞬後に、騒がしい笑い声に釣られてビホルダーがそちらへ向かったのを確認すると、一行はそのまま十字路を突破し、突き当りで発見した扉へ滑り込んだ。
セキュリティルーム
部屋に入るとセキュリティと書かれた端末があり、端末には鍵穴が一つ見受けられた。
「セキュリティ……ビホルダーの操作盤、かな」
「ここも鍵穴……まだ使ってない鍵は?」
「鍵……後使ってないのはこの鍵だよね……」
鼎が3Fの地下昇降機のあった小部屋で見つけた鍵を使うと、何かをはめ込む穴が現れた。
「これは……なにかはめ込めそうだけど、なにもない、よね」
「まだ何か見落としが……?中段の西側かな……」
「ん……?」
鼎が穴をもう一度確認する。―穴は円形。現在の持ち物で円形且つこの大きさのものは、さて、何かあった気がするが・・・。
「もしかして……これ?」
鼎が先程手に入れた懐中時計を穴に合わせてみると、時計は綺麗に穴に収まった。・・・それと同時に、操作パネルのランプが灯る。
「やっぱりっ、これで止まるかな……」
パネルを操作してみると、外で鳴り続いていたビホルダーの羽音が止んだ。懐中時計は取り外しても問題は無さそうだ。
「ん……止まったみたい。これで自由に動けるかな」
「音が……止んだ。これで自由に調べれそうですね。とりあえずこれは持っておこうかな」
懐中時計を外して再び荷物に加えると、端末横の扉から外に出る。
ビホルダー通路
扉から外に出てみると、どうやら出てきた扉が最初に閉まっていた扉だったようだ。
「ここに繋がる……となると、一通り調べ終わった?階段の結界も解除されてるといいけど……」
「ここから出られるみたいですね……。では、ちょっと階段の方まで戻ってみますか」
階段へ戻ると、ビホルダー達が停止すると共に階段に張られていたバリアも解除されていたようだ。
「ん、解除されてる。それじゃあ、行きましょうか」
「いこー!」
最終更新:2013年05月10日 13:15