序章
今、幻想卿にて注目を集めている「
ゆっくり加工所」。野生のゆっくりのみならず、繁殖まで手がけ、人間、妖怪等を問わず好ま
れる甘味を身近なものにした革命的な施設だ。
しかし、ある日そんなゆっくり加工所にて事件が起こる。
一人の新人作業員の管理ミスによって、ゆっくりをギュウギュウに詰め込んだ檻が開いてしまったのだ。
「ゆっくりーっ!!!」
今まで窮屈な檻の中に入れられていたゆっくり達は、歓喜の声をあげながら我先にと檻の外へ、そして、その部屋からいっせいに駆
け出す。通常、非常事の為に野生ゆっくり禁固室にて作業をする際は万が一のゆっくり脱出防止のため、禁固室そのものにも鍵をかけ
る決まりなっているのだが、その新人は鍵をかけるどころか、ドアを半開きのまま作業をしていたようだ。(その新人は何でも上司が
脱税で捕まって職を失った元死神だとか---。いや、今はそんなことはどうでもいい)
加工所には緊急のブザーが鳴り響き、警備員や他の作業員がいっせいにゆっくりの回収に向かう。
とは言っても、ゆっくりの脱出はよくある話、ゆっくり達の体では、ドアノブすら満足に回せないのだから、どんどん捕らえられてし
まう。
「やめて!おじさん!ゆっくりしたいよ!」
「おそとにでたいよ!ゆっくりさせてね!!!」
「ゆっくりさせてよー!!!」
ほとんどのゆっくりが捕らえられていく、しかしそんな中、命からがら別室へと逃げ込んだゆっくり達がいた…。
第一章
作業員、警備員の目をくぐり抜け、ゆっくり加工所の機械室と呼ばれる広い部屋に逃げ込んだのは、この四匹のゆっくりだ。
まずは、ゆっくりれいむ…ゆっくりまりさと並んで、最も数の多いゆっくりだ。かわいらしいのだが、どこか憎たらしい笑顔がポイ
ントだ。
そして、頭に黒い帽子をかぶったゆっくりは、ゆっくりまりさだ。ゆっくりれいむと同じく、主に万人受けする餡子の原材料とな
っている。
ゆっくりちぇん、「わかるよーわかるよー」が口癖の比較的すばしっこいゆっくりだ。
4匹目のゆっくりみょんは、顔立ちはゆっくりれいむによく似ているが、白い髪に飾り付きの黒いカチューシャがトレードマークで、
「ちーんぽっ!」などと、独特な鳴き声をあげる。
この4匹は、檻の中で何度も励ましあった仲で、硬い信頼で結ばれていた。
「みんなでおそとにでて、みんなでゆっくりしようね!!!」
4匹のゆっくりの、自由を手にするための冒険が今、幕を開けた。
機械室は、電球だけの薄暗い空間のうえ、蒸気のせいもあり視界が不鮮明となっているうえ、そこらじゅうに在る機器のせいで酷く
入り組んでいて非常に進みづらい。
そんな中、少しづつだが奥に進んでいく四匹のゆっくり達。ふと、ゆっくりちぇんが上を見上げると。
「ひかりだよ!わかるよ!でぐちがわかるよ!」
天井に近い壁の部分に、機械室の中に太陽の光を差しこませている穴がある。
「ほんとうだ!あそこまでいけばゆっくりできるよ!」
それは、まさにゆっくりたちにとっての希望の光だった。
その穴は、優に20mはあるだろう高さに位置していたが、幸い、作業員用の階段、足場、または、機械、そしてあたりに張り巡ら
されたパイプの上を進んでいくことで、ゆっくり達は何とかあの光へたどり着くことができるであろうことを、認識した。
「いこう!」
「はやくみんなでゆっくりしようね!!!」
あの楽しかった森や草原へ帰ることができる…。ゆっくり達は希望に胸を膨らませ、階段を登っていく。4匹のゆっくり達はぴょん、
ぴょんと足場から足場へと軽快に進んでいく。外に出ることができるという期待感が、ゆっくり達の歩みを後押ししてくれているのだ
ろう。
しかし、ゆっくり達はある足場で、立ち止まることになる。
「ゆっくりとべるかな?」
その足場は、次の足場であるパイプまでの距離が若干長く、ゆっくり達のジャンプ力では届くかどうかが微妙なところであった。
「ゆっくりとぶよ!!!」
声をあげたのは、ゆっくりちぇんだ。この4匹の中では一番ジャンプ力のあるゆっくりだ。
「ゆっくりがんばってね!!!」
「わかるよーとべるよー」
自信満々のゆっくりちぇん。
また、他の三匹がこんな切羽詰った状況で、しかもほんの30分前までは檻の中で絶望に打ちひしがれていたにもかかわらず、「ゆ
っくり、ゆっくり」等と言ってられるのは、ゆっくり達の低い知能ゆえの性質だろうか。しかし、そんなゆっくり達の明るいムードは、
これから起きる光景を目のあたりにして砕けることになる。
ぴょん!と跳ぶゆっくりちぇん。その跳躍は、パイプへと着地するには十分だ。
見事、ぷにんと着地するゆっくりちぇん。
しかし、
「ゆううううううううううーーーーーーーーーっ!!!?」
着地した瞬間に悲鳴をあげる、ゆっくりちぇん。
「ゆっくり!?」
何がなんだか理解できない、ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさ、ゆっくりみょん。
今までゆっくり達が足場にしていたパイプは、排水を送る為のパイプで、足場として何の不自由のないものだった。しかし、ゆっくり加工
所に通っているパイプはそれだけではない、そう、ゆっくりちぇんが着地したそのパイプは、工場内の機械から発する高熱を逃すための、
パイプだったのだ。そのため、パイプは常時超高温となっており、大抵の大人の人間ならば、見ただけでもそのパイプが危険なものだとわかるだろ
う。
「ゆぐぐぐぐぐぐggggggーーーーーーーーっ!!!」
超高熱によって苦しみもがくゆっくりちぇん。もし、周りで見ている人間がいるなら、はやく別の足場に飛び移ればいいじゃないか、と思うかもし
れない。だが、既に着地の瞬間の重みで、ゆっくりちぇんの体は、キンキンのパイプに焼きついてしまっていたのだ。
「はやくもどってね!!!はやくもどってね!!!」
尋常ではないゆっくりちぇんの叫び声に、3匹のゆっくりは声を張り上げる。
「わからないよ!!!わからないよおおおおお!!!」
絶望の雄叫び、何故自分がこんな目に遭うのか、ゆっくりちぇんは理解できない。
体の底を固定され、もがき苦しむだけのゆっくりちぇん。
後ろで見ている3匹のゆっくりからは、ゆっくりちぇんの凄まじい形相は見えてはいない。それが逆にゆっくり達に恐怖を与えている。
そして次の瞬間、何と、ゆっくりちぇんの体がブクブクと膨らんでいく。
「ゆヴヴヴヴヴヴうううううぶぶぶブブブブブブウbーーーーーーーーっ!!!!」
パイプの高熱によって、ゆっくりちぇんの体内のゆるい餡子が沸騰したのだ。ただ膨らむだけではない、体がボコボコと醜く膨張していく。
「ゆっくりしてね!!!ゆっくりしてね!!!」
目の前の光景が理解できず、混乱し、目に涙を浮かべながら叫ぶ3匹のゆっくり。
そして---。
バアアアアアアンッ!!!
爆発するゆっくりちぇんの体。
飛び散る餡子、皮………。
「ぢぇぇぇーーーーーーーーん゛!!!」
飛散した餡子がゆっくり達に襲い掛かる…が、幸い距離が離れていたため、わずかな火傷ですんだ。
悲しみを受けるゆっくり達。
「もっといっしょにゆっくりしたかったよ!!!」
友達を失った……。それだけではない、残されたゆっくり達はまた、戻って別のルートを行かなくてはならないのだ。
最終更新:2008年09月14日 18:39