「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
「ゆ、あっちにおいしそうなたべものがあるよ!」
「たべようたべよう! まりさたちがみつけたんだからまりさたちのものだよ!」
「ちちちーーーーーんぽぉ!」
「わかるよ、みんなでたらふくたべるよー!」
ある暑い日の事。
4匹のゆっくり達が、近くに畑を見つけた。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるその口元にはよだれが流れ、浅ましい表情を隠そうともしない。
彼らは、ゆっくり本人だけでしか理解出来ないだろう好き勝手な事を言い合い、人間が丹精込めて作った農作物を食い荒らそうとしていた。
害獣ゆっくりによる、いつも通りの光景。
このままだと、作物は全滅してしまうだろう。
だが、今回は少し様子が違っていた。
「ゆ!?」
「ゆゆゆっ!!?」
「ぢんぼ?」
「わがる!?」
いつも通りに畑に入り込み、勝手に作物を食い荒らそうとしていたゆっくり達。
だが、近くに置いてある、煙を出す小さな箱のそばを通り抜けようとした途端、白目を剥いて動きが止まる。
数分後。
「「「ゆっくりできないよぉぉぉぉ!!!」」」
プルプルと震えていたゆっくり達が、突然泣き叫びながら走り去っていった。
食欲旺盛なゆっくり達が、せっかくの『おいしいもの』を放置してまで逃げる光景は、極めて珍しいものだ。
では、ゆっくり達は、何故逃げ出したのか?
『ゆとり線香』
――人里の某新聞、某季某月某日より抜粋
最近、ゆっくり駆除業者の手により『ゆとり線香』なるものが発明された。
名前の通りにゆっくりを撃退するための線香で、その煙は人間には無害であるがゆっくりにとっては恐ろしいほどの威力を誇る。
内容物については企業秘密との事だが、害獣が安全に退治出来るとなれば、極めて価値のあるものとして、今後、使用する農家は増えていくだろう。
また、無味無臭、無駄にゆっくりを殺害する事もなく、ただ追い払う事が出来るという点において、ゆっくり愛好家を含めた人里の住民から高い評価を得る事となった。
『ゆとり線香』は、ゆっくり退治の主役に躍り出たのである。
安全でクリーンなゆっくり退治の定番として、今後の『ゆとり線香』の発展を大いに期待したい。
「ゆ……ゆ……ゆ……」
「ゆぅ……ゆゆゆ……ゆ……」
「ぢんぼ……ぢ、ぢんぼぉ……」
「わからない……わからないよ……」
先ほど逃げ出したゆっくり達は、近くにあった洞窟でようやくゆっくり出来ていた。
全速力で走り続けたため、息も絶え絶え、汗がだらだらと流れ出てきている。
彼らは、あの後いくつかの『おいしいもの』があるゆっくりポイントを見て回ったが、まったくゆっくりする事もできず『いやなもの』から逃げ続けていた。
「どうしてゆっくりできないの……」
「あんな『いやなもの』ばっかりじゃ、どこでもゆっくりできないよ……」
「ちっちんぽ! さがすさがす! もっと『おいしいもの』さがす!」
「わからないよ、どこに『いやなもの』があるかわからないよー!」
洞窟の中にあったエサを食べて落ち着いた後、相談するゆっくり達。
どうやら、他のゆっくりの巣らしい。
この有り様を戻ってきたゆっくり達に見られたらケンカになる事は確実だが、そんな事はゆっくりの頭では想像できない様だ。
元々いたゆっくりの宝物と思われる物を噛み千切ったり引き裂いたりと、好き勝手に遊びながら、ロクに話しが進まない相談を続けていた。
「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていっぺぇっ!?」」」
相談していたゆっくり達の後ろから、突然声が聞こえてきた。
彼らは相談を中断し、本能に従って挨拶を返す……と同時に、網が被せられた。
「おじさんたちだれ? これじゃゆっくりできないよ!」
「さっさとはなしてね!」
「ちっちちーんぽ!」
「わからない、わからないよー!」
網の中で暴れながら、口々に文句を言うゆっくり達。
だが、当たり前の様にゆっくりの言う事など男達は聞き入れない。
「4匹か……もうちょっと欲しい所だな」
「先輩、近くに5匹見つけましたー」
「よし、9匹いれば良いだろ。じゃあ帰るぞー」
網に入れられたゆっくり家族は「おうちにかえしてー!」「ゆっくりさせてー!」などと暴れているが、そんな事では網は破れない。
男達は、ゆっくり達の非難の声を完全に無視し、談笑しながらのんびりと歩いていった。
「ほれ、ついたぞー」
「ここならゆっくりして良いぞー」
「「「ゆぎゅっっっ!?」」」
とある工場の中に入った男達は、網を乱暴に投げ置いた。
柔らかいものが潰れるべちょっという音と同時にゆっくり達が悲鳴をあげたが、全員無事らしい。
すぐに立ち直ったゆっくり達は口々に文句を言い始め、一緒に連れて来られていたゆっくり一家は膨らんで怒りをあらわにした。
「おじさん! ゆっくりここからだしてよ!」
「ゆっくりできないひとはここからだしてからどっかいってね!」
「ちちちんぽー!」
「わからないよ! だしてよ!」
「「「ゆゆゆっ!」」」
「元気良いなーこいつら」
「これだけ元気なら、前のより少しはもつかもしれないな」
ゆっくりの怒りなど気にも留めず、何か話し合う男達。
その時、別の部屋から男がゆっくり一匹には少々大きい程度の箱を持ってきた。
「まぁ、落ち着いてこれでも見てみろや」
「ゆ? なにそれ、おいしいもの?」
「おいしいものはもらうけど、おじさんたちはゆっくりどっかいってね!」
「ちっちちんぽー!」
「わかるよ、わかるよー」
楽しそうに箱を眺めるゆっくり達。
だが、その箱の中身……『いやなもの』が判別できる様になった途端、ゆっくりとは思えない速さで飛び退り、悲鳴をあげた。
「「「やべでー!!! ぞれどっがやっでー!!!」」」
「だずげでー! まりざだげでもだずげでよぉぉぉ!!!」
「れいむも! れいむもにがじでー!!! ゆっぐりざぜであげるがら、おねがいぃぃぃ!!!」
「ぢぢぢぢんぼ! ぢんぼぉぉぉぉ!!!」
「わがらだい、わがらだいぃぃぃぃ!!!」
網の中で助けを求めつつも、僅かでも『いやなもの』から離れようとするゆっくり達。
盾にでもするつもりなのか、可能な限り縮んで他のゆっくりの後ろに隠れようとしている。
「まぁ、そう怯えるなよ……」
「ゆっ!? たすけてくれるの!? おにいさんありがとー! ゆっくりしていってね!!!」
「れいむだげずるい!!! まりざも、まりざもだずげで!!!」
「ぢぢぢんぼ! みょみょみょみょん!!!」
「わがらだい! れいむだげだずがるなんでわがらだいぃぃぃ!」
恐慌状態に陥っている網から、ちょうど前にいたゆっくりれいむを取り出す男。
れいむは助けられると思って無邪気に喜んでいるが、無論、男達にそんなつもりはなかった。
「ゆ♪ゆ♪おにいさんたち、ゆっくり……」
「ほれ」
「じで!?……ゆ、ゆ、ゆ……ゆぎゃあぁぁあ”あ”ぁぁぁあ”あ”ぁおげろろろろろ」
網から出されたと同時に男達に媚を売っていたゆっくりれいむだったが、箱に入れられた途端、凄まじい悲鳴をあげてアンコを吐き出し始めた。
他のゆっくり達は、自分じゃなくて良かったと安心しつつも、仲間の断末魔に怯えて何も言えずにガタガタと震えていた。
「ゆ……ゆ、ゆ……ゆぐ……」
「ゆ~♪ゆ、ゆゆ~♪」
ゆっくりれいむが箱に入れられてから10分ほど経った。
恐怖の10分を過ごしたゆっくり達の中には、恐怖のあまりおかしくなってしまったゆっくりや、体中のアンコを吐き出しきってしまったゆっくりなどもいて、数匹が減っていた。
アンコはおかしくなったゆっくりが食べてしまったが、もはやそれをとがめる気力はどのゆっくりにも残されていなかった。
当事者とも言うべきれいむは、体内のアンコを吐き出しきったのだろう。見る影もなく縮んでいた。
体中の不純物を吐き出しきっただろうれいむは、とても美味そうに見える。
だが、美味しく食べる事が目的ではない男達はため息をついた。
「まだ生きてるのか……結構もつな」
「線香は燃え尽きたみたいですね、これはダメみたいです」
「そうだな……じゃあ、今度はゆっくりれいむので試してみるか」
一人の男が、ゆっくりれいむを箱に押し潰す。
ぐちゃっと音がして、ゆっくりれいむはその生涯を終えた。
ゆっくり達は、仲間が目の前で殺されたというのに無反応である。先ほどまでの恐怖で、すでに精神がマヒしてしまった様だ。
うつろな目で、男達を眺めやっている。
そんなゆっくり達を尻目に、男達は箱に飛び散ったアンコをスプーンの様なものでかき集めていく。
大体集め終わったと思うと、今度は皮も潰し、細い、棒の様な形へとぐにぐにとアンコを固めていった。
その様子を見ていた3匹のゆっくり達の目から、涙が流れ出した。
先ほどまで共に行動していたれいむの末路に、体が勝手に反応しているのだろう。無言で、ただはらはらと涙を流し続けている。
大体固め終わったら、渦巻き型に形を整えていき、アンコまみれのリボンを端に置く。
これで準備は完了。
男達は、うつろな表情を浮かべているゆっくり達を、品定めする様な目で見つめた。
――次はお前だ。
それぞれがそう言われた様な気がして、どうにか抵抗をしようとした3匹になったゆっくり達だったが、もう体に力が入らない。
「よし、じゃあ今度はゆっくりちぇんで試してみるか」
「…………」
「動かないな、こいつ……大丈夫なのか?」
「大丈夫っすよ、コレの威力は凄いですからね……火付けましたー」
「わがががががが!!! あ”がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全くの無抵抗のまま引きずり上げられたちぇん。
箱に入れても全くの無反応で虚空を眺めていたが、リボンに火をつけた途端、ゆっくりれいむの様に絶叫とアンコを箱の中に撒き散らし始めた。
「……うふふふふふふふふふふふ」
「……みょみょみょみょみょみょん」
「あれ、なんかこいつら笑い出しましたぞ」
「別に良いんじゃないっすか? 線香の効果に変わりはないワケですし……」
「そうだな」
――もういい、もうゆっくりしたい。
4匹だったゆっくり達は、同時に意識を手放した。
『ゆとり線香』が、ゆっくりの死がいと飾りで作られている事を知っているのは、実際に加工に携わっている者と、ゆっくりだけである。
口の滑る人がいない限り、今後もずっと、その秘密は守られるだろう。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
何となく、収拾が付かなくなると飾りに頼る傾向が出てきた気がします……精進せねば。
by319
PS.拙作『頭と普通の魔法使い』ですが『普通の饅頭と普通の魔法使い』が正式なタイトルです。
お暇な方、よろしければ直していただけませんか?
最終更新:2008年09月14日 10:09