ゆっくり加工場は今や莫大な利益を上げている。
もちろん、餡子等の生産数が多いのもその理由だが、もう一つ理由があった。
紅魔館の庭に住み着いている二匹のゆっくり。
ゆっくりフランとゆっくりれみりゃだ。
時々、ゆっくりフランにいじめられる事はあっても、紅魔館の人達(特にお嬢様と可愛いものが好きなメイド長のYさん)に溺愛されていた二人は、他のゆっくり達には想像も出来ないような生活を送っていた。
似ている人物が吸血鬼なため夜に活動することが多かったが、それでも一日三食、ゆっくりをエサとして出してくれた。
そして、何時もデザートを与えられた。
天蓋つきの豪華なベッドも与えられた。
いまや、紅魔館の主と同じ位の扱いを受けていた。
それはもう籠入り娘と同じくらいに。
それでも、籠入り娘言うものは親に反発するものだ。
新月の夜、主がパワーアップするこの夜は、咲夜はゆっくりの所へはこれない。
その事を知っている二人は、新月の日にちょっとだけ冒険をしてみることにした。
起きた時に、今夜のデザートはババロアだと聞かされていたが、今はババロアよりも外に出てみたかった
門番に気付かれないように、屋敷を抜け出した二人は久々の自由な時間に浮かれて思っていたよりも遠くまで来てしまった。
うっそうと茂る森、それを縫う様に飛んでいく。
適当な所に着地し、辺りを走り回る。
「ゆっくり食べてね」
「「いただきまーす」」
沢山の木の根が連なって出来た大きな空洞、その中に沢山のゆっくり霊夢がすんでいた。
大きさがまちまちなところを見るとおそらく家族なのだろう。
「「う~♪」」
同時に二人にとっては食事の時間になった。
「ゆ?」
「がぁ~お~。たーべちゃ~うぞ~!」
「ゆっくりしね!!」
突然現れた来訪者に唖然とするゆっくり達。
唯一、母親だけはコレの危険性を知っていたらしく、追い返そうとタックルを食らわせた。
「ううっ!!」
れみりゃを押倒し羽を食いちぎる母親。
「うーーー!!!」
同時に絶叫をあげるれみりゃ。
「ゆ!?」
そして、同時に母親に食いつくゆっくりフラン。
「ゆっくりしね!!!」
「ゆ゛ーー!!!」
一対二では勝負にならなかった。
いや、先にフランをどうにかしていれば勝機はあったのかも知れない。
すでに、意識が朦朧としてきたゆっくりにとってはどうでもいい事だったであったが。
餡を吸い出されガリガリになったそれを今度はパクパクと食べ始めた。
「ゆ゛ー!!」
「お゛があ゛ざーん゛」
「ゆ゛っぐり゛た゛べな゛い゛でー」
半ば狂乱状態になったゆっくり達、しかし誰も騒いでいるばかりで逃げることはしなかった。
否、そこまで頭が回っていないのだろう。
やがて羽が再生されたれみりゃが、フランの晩餐に合流する。
子供らしく、限度を知らずにどんどんと食べていく。
すべてのゆっくりが食べられるのにそんなに時間はかからなかった。
残ったのは、大小様々な人数分のリボンだけだった。
「う~♪ んまんま」
「う~♪ ゆっくりしね」
何時もの、生きているのか死んでいるのか分からないゆっくりと違って、泣き叫ぶゆっくりを食べたのは、久しぶりだった。
まだ、夜は長い、久々に出ることが出来たのだ。やりたいことは山ほどあった。
「おいおい、皆食べちまったらしいぞ」
「なんてこったい、ここは特に数が多いから楽しみにしていたのにな」
「でも、その代わりに同じくらい値打ちがあるもんがいるじゃないか」
入り口からの声、振り向くと数人の人間が空洞を覗き込んでいた。
「うっう~」
「う~」
踊りながら喜ぶ二人。基本的に紅魔館の人間しか知らない二人は、すべての人間が自分たちに良くしてくれると思ってるようだ。
「君達、ここのゆっくりは美味しかったかな?」
「う~。おいち~」
「う~。うごいた~」
「動く? 何時も食べているゆっくりはあんまり動かないの?」
「「う~♪」」
首を縦に振る二人。
「こりゃ、余程の箱入りだな。でも簡単に捕まえられようだ」
「まだ、ゆっくり達を食べたいかい?」
これも同じように首を振る。
「じゃあ食べさせてあげよう。おいで」
また、大量のゆっくりを食べられるなんて、抜け出してきてよかった。
男たちに抱っこしてもらいながら、その場所へ向かう間二人は冒険の成功を称えあった。
「着いたよ。ここがそうだ」
大きな建物、外見だけは紅魔館よりも遥かに大きかった。
通された部屋には檻に入っている十数匹のゆっくり霊夢と魔理沙がいた。
「おじさん。おなかすいたよ。ごはんちょうだい」
一匹のゆっくり魔理沙が男の姿を認め、話しかける。
「ああ。ちょっと待ってな」
鍵を開けて二人の男に合図する。
抱きかかえていたフランとれみりゃを勢い良く檻の中に投げる。
「う~! た~べちゃうぞ~」
「ゆっくりしね!!!」
投げられた事に多少不満はあったが、目の前の大量のゆっくりが食事なんだろうを思い、決まり文句をあげて立ち上がった。
「ゆっくりたべられるね」
「いただきまーす」
二人めがけて群がってくるゆっくり達、あっという間に二匹を押倒す。
その動けなくなった二人に、かぶりつくゆっくり達。
まさに、集団でスズメバチを倒すニホンミツバチの様だ。
「うー!!」
「うめぇ。めっちゃうめぇ!」
頬、手、太もも、様々なところが食いちぎられていく二人。
その様子を見ている職員には、肉まんとあんまん特有の食欲をそそる匂いが届いていた。
「おっと、沢山たべるのはいいけど、ちゃんと残しておいてね」
「わかっているよ。これでまいにちゆっくりたべれるね」
「おいしーね」
今になって、ようやく二人は、屋敷の中でデザートを食べていたほうが良かったと後悔した。
ようやく食事が終わったらしい、ゆっくり達は一箇所に集まっておしゃべりをしている。
一方の二人は、既に体を再生していた。
「うー。がえるー」
「ざぐやー。ざくやー。もうがえるー」
泣きながら、懇願する二人。
先ほどの光景が強烈なトラウマになったようで、もうゆっくり達を食べようとはしなかった。
頼みの綱も咲夜も今は主の世話で精一杯だろう。
ましてや、既に探す手段も無いのが現状だが。
程なくして檻から出される二人。
顔には安堵の色が伺える。
しかし、連れてこられたのは、またも無機質は檻の前だった。
しかも、中では数匹のゆっくりアリスが、ゆっくり霊夢と魔理沙を襲おうとしている直前だった。
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ」
絶叫が幾重にも木霊する、そのあまりの光景にガタガタと震えるしかない二人。
すべて終わり、アリスが檻から出されて暫くすると、伸びた蔓から数匹のゆっくりの赤ちゃんが生まれてきた。
その数は三十匹はいるだろうか。
「ゆっくりしていってね!!!」
大合唱の後、男から簡単な言葉の説明を受けたゆっくり達。
「それで、ここは数が減ってきたゆっくり達の数を増やしている施設なんだ。君達はここでゆっくりしているといいよ」
「うん!ゆっくりするよ」
刷り込みのように、男の言うことを直ぐに信じるゆっくり達。
「じゃ、お腹も空いているだろう。ご飯をあげようね」
先ほどと同じく、檻の中に放り投げられる二人。
「う~!」
「う~!」
二匹そろって檻の前で泣き叫ぶ。
生まれてきたばかりのゆっくりならば、コレくらいの数でもどうという事はないのだが、知能の低いゆっくりは既に、攻撃するという選択肢は出現していないようだ。
「おじさーん。これがごはん」
「これもひとじゃないの」
「いやいや、これはゆっくりの仲間なんだよ。いくら食べても少し残しておけば直ぐ再生するんだ。だから、全部食べないで少し残しておいてね」
「わかった!!」
「「う゛ーーー!!!」」
二人の悲鳴は、初めての食事に興奮するゆっくり達の声にかき消されてしまった。
ゆっくり加工場、設立当初は、毎日大量に繁殖されるゆっくりのえさ代が馬鹿にならなかったが、再生能力の高い希少種のれみりゃを発見したことによって、利益がうなぎ登りに上がった。
一方紅魔館。
館内で声を張り上げるメイド長がいた。
「ゆっくりれみりゃー、ゆっくりフランー。そろそろおやすみの時間よー。……変ねぇ、いつもなら直ぐに出てくるんだけど」
その手には、未だ食べられていないババロアの皿が乗っていた。
最終更新:2008年09月14日 10:40