この頃、人間の里で住居や畑が荒らされたり、食糧が奪われたりという被害が相次いでいるらしい。
犯人はやはりと言うべきか、あの憎き
ゆっくり饅頭達であるそうだ。
「ゆっくりしていってね!!」
もはや耳にタコが出来るほど聞き慣れたこの台詞を撒き散らしながら、
我が物顔で幻想郷を闊歩(正確に言えば闊跳だろうか)するゆっくり饅頭達。
繁殖力が強いのか、急激に数が増えた彼らは、私の住む魔法の森でもよく見る事が出来る。
そして何を隠そうこの私も、ゆっくり饅頭の襲撃を受けたのだ。
あれは、一週間程前の事だったろうか――……。
■ ■ ■
「おねーさんだれ!? ここはれいむのおうちだよ!! ひとのおうちにだまってはいらないでね!!!」
その理解不能な言葉を聞いたのは、私が買い物から帰ってきた時だった。
留守にしていた間に、どこからか侵入してきたのだろう。
ふてぶてしい下膨れの顔を恥ずかしげもなく紅潮させたゆっくり霊夢が、
キッチンに置いておいたとっておきのクッキーを貪り食いながら、家主たる私に向かいそう言い放ちやがったのだ。
「でていってね! れいむのおうちからでていってね!!」
唖然として何も言えないのを良いことに、声を張り上げ畳み掛けてくるゆっくり霊夢。
立ち尽くす私の向こうずねの辺りに顔を押し付け、「ゆうっ、ゆうっ、ゆうっ、」と追い出そうとした。
饅頭頭が圧されてなんとも不細工な表情に変形していたのが印象に残っている。
一所懸命に踏ん張るゆっくり霊夢を見ていたら、
ハッと気がついて追い出されるべきは私で無い事を言わなくてはならないと思った。
「あのね、ここは私の家なのよ。分かる?」
「ちがうよ!! ここはれいむがみつけたの!!!」
「いやね、だから――」
「うそつき!! おねーさんはどろぼうさんだね!!!」
「えぇ!? 何でよ、もう……」
「だってれいむがここにきたときだれもいなかったよ!!」
「それは――」
「うそつき!! うそつき!!! どろぼうさんはゆっくりでていってね!!!」
「ぐっ……」
なるべく優しい口調で、それも語りかけるように。
しかし何を言っても無駄、無駄、無駄だった。
所詮、餡子脳の持ち主には、何を言っても聞かないのだという事を悟る。
これ以上舐められるのも屈辱であるし、こうなったら体で分からせるしかない。
そう判断した私は、実力行使に出る事にした。
足元に転がるゆっくり霊夢をひょいと摘まんで、
「ゆ、ゆゆっ!!」
私の顔の高さまで持ち上げる。
「あなたが私の話を聞かないのが悪いのよ……」
「なに!? はなしてよ、なにするの!!?」
左手の上に載ったゆっくり霊夢は、突然の事に驚き動き回っている。
ゆっくり霊夢の接地面がもぞもぞと気持ち悪い。
「おろしてね! ゆっくりおろしてね!!」
ぽいんぽいんと落ち着きがなかったが、ややあって私の目を見ながら何度も何度も下ろせと言ってきた。
構わずに、向かって右の頬を軽くつまむ。
「ゆぁ!?」
弾力性に富み、やわらかでもちもちとした感触。まるで乳房を握っているような錯覚に陥る。
この行動でゆっくり霊夢は、完全に私を敵と認識したようだった。
「ゆっふひはなひへ!! はなさなひほこふよ!! (ゆっくりはなして!! はなさないとおこるよ!!)」
顔をますます赤くして、ぷんぷんと今にも湯気が出てきそうな状態だ。
目を鋭く細め、私に対して敵意を丸出しにするゆっくり霊夢は尚も声を大に訴えてくる。
「あら……残念ながら、その要求はのめないわ――」
しかし、私は取り合うつもりなど毛頭ない。
だってまだ、
「ゆ、ゆぅ゛!?」
ゆっくり霊夢をちぎってないんだもの――。
私はそのまま右手に力を入れて、思いっきり逆方向に引っ張った。
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛があゃあっぁや゛あ゛ゃあ!!!」
突然の衝撃に耐えられなかったゆっくりの頬。
皮も餡子もごそっと一塊、丁度私の手の大きさ程度もぎ取れた。
「れいむのお゛ぉ゛! れいむのがらだがぁあ゛ぁ゛あ゛ぁああっ!!」
泣き叫び、私の左手の中ででのたうち回るゆっくり霊夢。
壮絶な痛みと、体の一部分を失った悲しみでいっぱいいっぱいなのだろう。
「ほら、ほらこれを見なさい! 出ていかないともっとひどいことするわよ!」
手に握り締めた、先程までゆっくり霊夢を構成していたモノを見せつける。
「ひどい゛ぃぃ!! ひどいよぉお゛お゛ぇえ゛ろろぉぉぉ!!!」
鼻水に涙、それに人間で言う所の胃液とおぼしき粘性のある液体を口から吐き出し、
恐怖でぐじゅぐじゅになったゆっくり霊夢。
「分かった!? ここは私の家なの!! お前は私の留守中に紛れ込んだだけなのよ!!!」
「どおじでぇえ゛ぇぇっ!? れいむのおうぢなのに゛い゛ぃぃぃ!!」
こいつ、まだ言うか。
体の一部を失っているにも関わらず……それなのに厚顔無恥は改めようとしない――。
滝のように涙を流し、自分は丸っきりの被害者でいわれのない暴力を受けている。
そう言いたげな顔だった。
もう、我慢できない。
「ああっ、黙れ! ここは私の家だ!! 泥棒はお前なんだよこのクソまんじゅうっ!!!」
更にゆっくり霊夢をひっ掴み、
「ゆる、ゆゆゆゆるじでぇ!! いだいのはもうゆうぎゃあぁあ゛あ゛゛あ゛ああがあ゛ゃやあぎゃあ!!!」
今度は、顔を半分引きちぎった。
断面からはたっぷり詰まった餡子が丸見えになってしまっている。
しかし、ゆっくり霊夢は真っ二つになりながらも、
「いぢゃいいぢゃいよお゛お゛ぉ!! れいむ゛はんぶん゛になっちゃっだぁああ゛あ゛あ゛!!」
ある意味元気一杯に吼えている。
「なんだお前!! 体半分なくなっても生きてられるの!!? 気持ちわるいわねぇっ!!!」
「れいむじぬっ、れいむじぬぅぅぅっ!!! お゛ねーざんのばがぁゃやゃあ!!!」
死ぬ気配の一片も見せやしないで、何が「じぬぅぅぅ」だ。
ゆっくり饅頭は中の餡子が空っぽになってなければ、部位欠損ぐらいどうってことないそうじゃないか。
「嘘つけ!! それなら何で今しゃべってるのよ!!!」
「いだいぃ゛ぃ! こっ、ごろざれるぅ!!
れいむはぁ、このあく゛まにぃ゛ぃ!!! あぐまとはゆっぐりでぎないよぉおお!!」
そう……。
中身の餡子が空っぽになってなければ、だ。
「うるさいっ!! 良いわっ、だったら殺してやるわっよ!!! 悪魔になってやるわよっ!!!」
ゆっくり霊夢は、少しだけ生意気過ぎたのだ。
ゆっくり霊夢は、少しだけ私を怒らせ過ぎたのだ。
「ゆっ、ゆぐうぅ!!」
叫び声をあげるゆっくりの断面に、目にも止まらぬ速さで右手を突っ込んで、
「ほらっ、こうやってお前の中から餡子を掘り出してやるっ!!!」
「やぁっやめでぇぇ!! うびゃあ゛ぅゃあ゛がゃぐゅりゅう゛あ゛ああ゛!!」
一掻き、
二掻き、
三掻き、
四掻き、
「あはっ、あはははははははは!!! ほら、ほらほらほらほらほらほらほらほらほらああぁっ!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!! だめぇ゛れいむしんじゃううぅ゛ぅ!!!゛」
「良いのよ良いのよ! 死んで良いのよお前なんかぁ!!」
――ぼとっ、ぼとぼとぼとっ。
「れいむ゛のながみぃ、れいむ゛の……」
「何よ、もう死ぬの!? あっけないわねぇ、このバカまんじゅうっ!!!」
「ゆっ……ゆぐっ……」
――ぽと、ぽとぼとっ……ぽたっ……。
「あははっ、もう皮だけじゃない!! ねぇ、死ぬの? 皮だけになって死ぬの!?」
「……ゅ……………」
――ぽ……た…………。
「何痙攣してんのよ!? 早く死になさいよ!!」
「……………っ………」
――………………。
■ ■ ■
あの後すぐ、ゆっくり霊夢は動かなくなった。
いや、もはやゆっくり霊夢とは言えない、ただの皮袋に成り果てていたが。
そして、あいつはとうとう、私の家は自分のものだという主張を変えることはなかった。
ゆっくり霊夢は最後まで、私の家を自分のゆっくりプレイスだと信じていた。
何という低能な生命体――。
思い出すと、今でも虫唾が走る。
全く、根っからの害獣である。
明日、件の事を受けて、ゆっくり駆除作戦が里で展開されるらしい。
それに私も微力ながら協力する事に決めた。
まずは里の周りを徹底的に潰し、その後徐々にサーチする範囲を広げていく。
人形達もフル活用して、どんどんゆっくり饅頭達を追い詰めていこう。
巣に逃げ込んだら……火計も有効かもしれない。
目標はもちろん、ゆっくり饅頭の全滅である。
幼いゆっくりだろうが関係ない。
あいつらの顔を見ないで済むように出来るのなら、私は何だってするだろう――。
※実際はゆっくり饅頭たちが大好きです。
最終更新:2008年09月14日 10:53