阿求×ゆっくり系6 少女

バチン!

何が起こったか分からず私は一瞬、呆然とする。
目の前にいる母の青ざめた顔、ブルブルと小刻みに震える肩を見てようやく自分が叩かれた事を理解する。
「何をしているの・・・・」
母の震えつつも今まで無かった程、怒気を孕んだ声に身がすくみ思わず手に持っていたモノを落としてしまう。

べちょ、と耳障りな粘性の音と共に「ぶびゅ!」とこれまた耳障りな声を聞き、母はすさまじい視線をそれに向ける。
ぶくぶくと汚らしい泡を口角に浮かべるそれから、黒ずんだ粘液がじわじわと床に広がる様に生理的な嫌悪感を感じるが
同時に目が離せなくなる。見たこともない様な恐ろしく歪んだ母の形相を見るのが怖いと言うのもある。

「ごめんなさい・・・」

何故、自分が叩かれたのかよく理解出来ないが未だ直視出来ない母の形相に自分が何かこれほどまでに母を怒らせる事を
してしまった事を後悔する。

「どうして・・・どうしてそんな物を持っているの・・・」
「たぁ君と遊んでる時に見つけたの。食べると美味しいよって」
「食べる?食べるですって?」

食べる、と聞いた瞬間、母のわずかに残っていた冷静さを失わせてしまった。声の調子がヒステリックになっていく。

「あなたは私の許しもなしにこんな汚らわしいモノを食べる娘なのね!これだからあんな汚ない餓鬼共がいる所に通わせるのは
嫌だったのよ!ああ!!本当に嫌だっ!嫌だっ!いやだっ!」

母のあまりの剣幕に思わず涙がぽろぽろ零れる。今までもちょっとした我侭を言って母を怒らせた事は何度もある。
だが、ここまで我を忘れてそれこそ伝説の鬼みたいに怒る母を少女は見た事がなかった。

「ごめんなざい!ごめんなざい!許してください!お母様!」
「ああ!ああ!本当にみっともない!誇り高い我が家の娘が見ぐるしいったらないわ!ええ!ええ!食べたいのなら存分にお食べなさい!
 あなたの様な娘はこの汚らしい饅頭でも食べていればいいのよ!」

床に落ちたそれを鷲掴みにするやいなや、母は私の口にそれを叩きつけた。

「ゆぐううううううううううう!!!!」

自分の口から出たおぞましい声に一瞬気が遠くなる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ごべぇんなざいぃぃぃ!!!!!!」

突然、口の中におぞましいモノを入れられた事と一気に広がる不愉快な甘さに思わず母の手を振り払ってしまう。
ずちょり・・・・と全身に鳥肌が立ちそうになる程嫌な感触がすると同時にまだ小さな口に入りきらなかったそれの体がぶちぶちと引きちぎれ
汚らしい粘液を母の美しい振袖に撒き散らす。
かつて母が「ご先祖様が残して下さったのよ」と優しい笑顔でお話してくれた事を思い出す。「大きくなったら着れるわよ。だから早く大きくおなりなさい」
そう言って優しく頭をなでてくれた。あれはいつだったかしら・・・と現実逃避しかけるが、その振袖を汚してしまった事に思い至り口の中の不快な感触も
一瞬忘れてしまう。ぶたれる!と思い身を竦めるが予想に反し何の衝撃もない。その事が逆に何か想像もつかない事をしてしまったと気付かせる。

恐る恐る母を見上げる。母は振袖の事など見ていなかった。ただ、普段から白く贔屓目を除いても美しい顔をより白くし、両手で自分の口元を押さえながら
ただ、私の顔を見ていた。何かよほどの事が自分の顔に起きている事を母の様子から察し、母の目線を追う。何か不愉快な感触が口元にある事に同時に気付く。
震える指先で口元を拭いそれを確認する。

半分溶けかかった蝶がビクビクと震えていた。




少女萌




ゆっくりと言われる不可思議な生命体が出現したのはいつだったろう?
ここはいかなる不思議なモノでも流れ着く場所。誰も気が付かない間に例えば奥深い山々に、清涼な河川に何時の間にか人とも妖ともしれぬものが住み着く事は
確かにある。しかしこの不気味な球形は本当に誰にも気付かれず、ある日突然我が物顔で奥深い山々に、清涼な河川に、静謐な神社に、魔女の森に、忘れられた竹林に
あらゆる場所にいた。人間も妖怪も誰一人としてその異変に気付かず、日々の生活に追われる間にそれがいる事を当然と思っている事に今では誰も疑問を感じて
いないかの様だ。

古臭く、どこか懐かしい臭いに包まれ少女は目を覚ました。ぼんやりと辺り一面に置かれた箱を見回し、つい先ほどまで顔の下に敷いてあった巻物に気付く。
まだ幼い少女には大半の文字が難しく、何が書いてあるかほとんど理解出来ず眺めている間に眠ってしまったのだろう。うっかりして眠っている間によだれを垂らして
しまったらしく少し文字が滲んでいる。慌てて袖でゴシゴシと擦るが時すでに遅し。すでに大半は乾いてしまったらしく文字は滲んだままである。

すでに夕暮れにさしかかっているらしく、昼に使用人が運んでくれた昼食を食べてから何も食べていないため少しお腹が空いている。不自然な体勢で眠ってしまったため
ぴりぴりと痺れる足を庇いながら何とか立ち上がり部屋の入り口へと向かう。



昨日、半狂乱になり口の中の物を胃の中身毎ぶち撒ける娘を見た母は、いささかの冷静さを取り戻し娘を外へ連れ出し体の弱い娘が窒息しない様に手ずから胃の中の物
全てを吐き出させると、そのまま娘を医者の元に連れて行った。すでに夜も更けており勤務時間外にもかかわらずなじみの医者は快く娘を診てくれた。事情を聞いた医者は
笑いながら子供は何でも口にいれるし、心配のしすぎだよ。と吐瀉物まみれの娘の顔を拭ってくれた。年老いた医者はまだ年若い母に心配なのは分かるが、それくらいで
怒りなさんな。美人が台無しだと冗談を飛ばし、子供の頃からあんたは変わらず線が細いと苦笑した。もうっ、と顔を赤らめる母のまだ少し青い顔を見て娘はもう怒って
いない事に安心し、そこでようやく汚れた自分の着物に気付き急に恥ずかしくなった。

帰り道はすでに真っ暗で心配した医者が使いの者を屋敷にやろうか?と何度も母に尋ねたが大した距離でもないしと娘の手を引き夜の道へと踏み出した。
ちらちらと母を盗み見る娘に苦笑しつつ、ただ一言「二度とあんな事はするんじゃありません。明日は一日ご先祖様のお部屋で反省なさい」と優しく言った。
いつもの優しい母の様子に「ごめんなさい」と返し自分のした事を思い出し娘は少し泣いた。



子供の力では重い重い蔵の扉を開ける事は大変な苦労だった。閂を下ろされていないだけマシね・・・と幼さに似合わぬ事を考えながらようやく中程まで開いた鉄制の
扉を眺め少女は一息いれる。半日ぶりに見たお空の気が遠くなる程の赤さに未だなかった程の開放感を感じる。歴代の蔵書を厳重に保管するため蔵には当然窓などついて
おらず埃とカビの臭いに悩まされたため尚更だろう。

母屋にいるだろう母の事を確認したいが見つかりでもして勝手に出た事がばれて、また明日もお仕置きなどされてはたまらないな、とキョロキョロ辺りを見回す。
せめてもの罪滅ぼしに今日は一日、ゆっくりの事を調べていたが何分どの蔵書も難しい漢字が多すぎてどれがゆっくりの事を書いてあるのかすら分からない有様だった。
と、言ってもほとんどの時間を寝て過ごしていた訳だが、その辺の事は忘れる事にする。とにかく二日もこんなところにはいられない。速やかに厨房に向かい
使用人から何か食べる物を貰いついでに少し催してきたので厠にも行こうと、少女は見つからぬ様、身をかがめて裏から母屋へと向かう。

先祖伝来の蔵である。鉄の扉は開けば当然ギギギギと響き、万が一にも盗人などに入られぬ様に母屋からは丸見えである。少女の浅はかなたくらみなどは扉を開いている
間に母屋にいる使用人達の大半に知れ渡っていた。少女にとって幸いだったのは来客があり母が客間にいたため蔵の様子に気付かなかった事につきる。
用を足し、すっきりとした少女はここ最近急激に増えているらしいゆっくりによる被害を警戒し庭の柿の木の周りに柵を作っている下男に食べ物を持ってきてと
ねだる。少女に気付かぬ振りをしていた下男は身をかがめた少女に思わず吹き出し快諾した。笑われた事に不機嫌になる少女の愛らしさに下男は益々笑みを深めて
「見つからぬ内に蔵にお戻りなさい。すぐに蔵までお持ちします」と厨房に急いだ。

ぷんぷんとふくれっ面を浮かべ、それでも身をかがめたまま蔵へと急ぐ少女。母に見つからぬ事を良い事に堂々と屋敷の縁側を通り蔵へと直行だ。先ほど通った
反対側は柿を筆頭に梅、桜と見事な庭園に面しており毛虫が多いためである。こっそりこっそりと移動していた少女にふいに聞き覚えのある声が聞こえる。

「ですが、友人と遊ぶ事も大事な教育なのです」
「・・・・・・」
「ええ、重々承知しております。お母上の心配も最もな事です」
「・・・・・・」

どうやら母が誰かと話しているようだ。聞き覚えのある落ち着いた声に誰だろう?と聞き耳を立てるがあまり近づいては母に見つかってしまう。ん・・!と
首を傾け何とか聞き取ろうとしてみるが襖に遮られた客間からは憤った感じの母の声が聞こえており、昨日の恐怖を思い出してしまう。

「とにかく!あんな汚らしいモノを平気で食べる子と家の子を一緒にする訳にはいきません!」

一際大きな母の声にビクッと体が震え、声を上げそうになり慌てて口を塞ぎ足早に蔵へと逃げ出した。

(どうしよう!どうしよう!このままじゃ家から出して貰えない!)

ただでさえ体の弱い少女を心配し、野山を駆け回る事にすら心配する母親だ。顔中泥だらけにして帰った時など、少女の顔を見た瞬間に医者の元へ走った程である。
じわりじわりと込み上げる涙を堪え、鼻を啜りながらなんとか震える体で蔵にたどり着く。開け放していた扉の向こうに下男が届けてくれた膳が置かれているのが
見える。よろよろと扉を閉める少女。



「「ゆっくりしていってね!!」」



ズズズズ・・・扉が閉まった。







数時間後、思わず長引いた来客との問答を終え疲れを覚えた母親がそろそろ蔵から出してやろうと娘の様子を見に行った。

大人の力でも重たい扉を開いた母親の鼻腔に、甘い香りが広がる。瞬間、昨日の不愉快な出来事が脳裏に浮かぶ母親。

瞬時に開く扉。その向こうに





そそっかしい庭師が忘れていった、柵を地面に打ち付けるための玄翁を握り締め、満面の笑顔で母を迎える娘の姿があった。

















人生で初のSSを書いた結果がこれだよ!!
虐待分は非常に薄いですが、AQNの笑顔が見たかった。今は反省してる。


AQNファンクラブ「玄☆翁」会員No126





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最終更新:2008年09月14日 11:35
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