※他の作者様のSSに登場する設定をかなり借用しております。
俺のを勝手に使うんじゃねーボケ!って方がいたらすいません、消します
家畜饅頭ゆプー(前)
ある村で、人と
ゆっくりの戦争があった。
突如ドスまりさ率いる1000匹にも上るゆっくりの群れが、人間との対等、
いやそれ以上の関係を求めて、人間の里に独立戦争を仕掛けてきたのだった。
何故ドスがそのような無謀な戦いに至ったのか。
それは(自らの監督不行届きにより)ゆっくり達が数を増やしすぎ、近隣の山の食料を食い尽くした為、
人間の食料を相当量分けてもらわねば群れが立ち行かない所まで来ていたからだ。
戦いは熾烈を極め、人間側の死者も一人や二人では済まなかった。
だがそれでも、力の差は歴然。いかにドスまりさを擁するとて大多数が非力なゆっくり達では、
道具と知略を用いる人間との全面戦争に勝利することは、到底不可能であった。
開戦からひと月を待たずに勝敗は決した。
ドスまりさは動きを封じられ、群れのゆっくり達は全て潰されるか捕獲された。
この戦犯に戦勝者達が下したお沙汰は、以下のようなものであった。
「ゆっくりには、生物として認められるところが一切無い。
ゆっくりはひとえに饅頭であり、あらゆる生物の持つ自由と権利を認められない。
饅頭は人間を楽しませる為に作られるものであり、生来的に人間に尽くす義務を持つ」
淡々と言い渡された判決を、ゆっくり達は放心して聞いていた。
人々は心底からゆっくりを憎み、蔑んでいた。
饅頭ごときに家族を殺され、対等以上の関係を脅迫された屈辱はいかほどのものだったか。
ゆっくりは今や完全に征服され、「ゆっくりしたい」と思う自由すら残されてはいなかった。
この村人達が、妖怪や猛獣と戦い土地を得てきた侵略者の系譜を持っていたことも、ゆっくり達には災いした。
ゆっくりの地位が村の人間によって決定されてから、既に数年が経過していた。
「ゆっ!なんだかしらないところにきちゃったよ!!」
ゆっくりれいむである。
お散歩中にちょうちょを追いかけて遊んでいる内、すっかり自分のテリトリーから逸脱してしまった。
少しゆっくり遊びすぎたのだろうか。山一つ越えて来てしまったようで、自分でも驚きだ。
「ゆ~、いまからかえるとまっくらになっちゃうよ!くらいのはこわいよ!!」
既に日は沈みかけ、辺りは夕闇に染まり始めている。
れいむは考えた末、今夜はこの近くで眠ることにした。
幸いこの辺りにはゆっくりが好んで食べる野草が沢山生えている。
それは野草を食べるゆっくり自体が存在しないからだが、れいむには知る由も無い。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!あとはゆっくりできるおうちがほしいよ!ゆっくりさがすよ!」
野原で寝ている時に雨にでも降られたら一大事。捕食種や山の動物も心配だ。
れいむの眼前には、人里の風景が広がっていた。
山の中で平和に暮らしていたれいむは、人間を恐ろしいものだとは思っていない。
何処かの家に泊めてもらうか、最悪でも軒先を貸してもらおう。
かわいいれいむのお願いなら、人間は聞いてくれるはず。
そんな甘い見積もりで、れいむは村へとぴょんぴょん入っていった。
村の中央からは見張り用の高台がそびえている。その上には更に巨大な影が伸びていた。
「ゆっ!?あれはどす!?」
それはれいむの群れを守るリーダー、ドスまりさの姿に酷似していた。
こんなところまでドスが来ていたのかと驚くれいむ。しかしその姿はピクリとも動かない。
「ゆ・・・?あれはおにんぎょうだね!!」
れいむはそれが作り物のドスであると看破した。考えてみればドスがあんな所でじっとしているわけがない。
それでもれいむは、大好きなドスに見守られているようで安心出来た。
もしかしたら、人間さんがあの人形でゆっくりを歓迎しているのかな。きっとこの村はゆっくり出来る。そう思った。
れいむが草を食べながら辺りを散策していると、一際大きな屋敷に辿り着いた。
こんな大きなお家なら、きっと思う存分ゆっくり出来るに違いない。
期待を胸に、家の入口を探して周辺をウロウロするれいむ。
「あんれぇ、こげなとこにゆっくりがおるべ」
「ゆっ?ゆっくりしていってね!!」
建物の陰からのっそりと村人らしき若い男が現れる。
家の持ち主かと思い、れいむは早速本能に従って媚を売る。
「おじさんはゆっくりできるひと?れいむといっしょにゆっくりしようね!
ゆっくりおじさんのおうちにいれてね!!ごはんもちょうだいね!!」
「施設から逃げ出しただか? さっさと連れ戻さないとおらが叱られるべ」
れいむの言葉を聞いているのかいないのか、男はれいむをひょいと胸に抱え上げる。
お願いを聞き入れられたと思ったれいむは上目遣いに「ゆっくりつれていってね!」と嬉しそうだが、
男はそれを気に留める様子も無く、目を合わせようともしない。
男は裏口の扉をがらりと開き、大きな建物の中に入っていった。
「ゆゆっ!ここはおおきくてゆっくりしたおうちだね!」
「そりゃそうだ。ここはゆっくりの為のお屋敷だべ」
「すごい!!れいむのためにおうちをよういしてくれてありがとう!ここはれいむのおうちにするよ!
ゆっ!?あれはなに?」
れいむと男がいたのは、簡素な生活スペースの儲けられた部屋だった。
水道が通っており、机の上には急須と茶筒が出ている。先ほど男が一服した名残だ。
そしてれいむの目に留まったのは、部屋の隅に備え付けてある食器棚。
棚の引き戸には、ゆっくりの顔が突き出していた。
「ああ、それはお前のお仲間だべよ」
「ゆっ?ゆっくりしていってね!!」
「ユックリシテイッテネ!ユックリシテイッテネ!」
「ゆゆ!へんなおこえ!」
れいむに挨拶され、棚についた顔は嬉しそうに硬質な声を発する。
久々にゆっくりに話しかけられたのがよほど嬉しかったのか、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「ユックリシテイッテネ!ユックリシテイッテネ!」
「おら、うっせぇぞ! 家具が喋ったらおかしいがや!」
「ユ゛ッ」
男が棚にローキックをかますと、棚はうっすら涙を浮かべつつもシンと静かになった。
この棚ゆっくり。各方面の技術を生かして村が独自開発した、ゆっくり木材によって作られた家具である。
ゆっくり木材とはゆっくりの本来持つ植物的特性に着目し、品種改良によってその部分を強化したものである。
木となったゆっくりは、更に特殊な加工により強度を増し、従来のあらゆる木材よりも優れた性質を持つ。
地面に突き立てるだけで勝手に根を伸ばし、それが建物の基礎の役割を果たすため、建材として特に好まれていた。
最も特筆すべき長所は、ゆっくりならではの高い自己再生能力。
基本的には飲まず食わずでも維持出来るが、傷ついた際には食べ物を与えることで新陳代謝を起こし、
独りでに破損部分を修繕するのだ。まさに生きた素材。材木自ら管理を行うというのは画期的なことだった。
このような例がある。ある夜、村のある一家が自宅で寝ていると、主人の火の不始末により家事になってしまった。
この民家こそがゆっくり木材で作られた、最新式のゆっくり建築だったのだ。
木材ゆっくりは生きているので、火が燃え移ると大きな悲鳴を発する。天然の火災報知機だ。
このおかげで目覚めた一家はいち早く避難を済ませ、一人の怪我人も出すことなく火事を乗り切ることが出来た。
無事消火は済んだものの、家は半焼。通常ならば、ここで家の燃え残りを取り壊し、
新たな家を建てなければならない。しかしゆっくり木材の場合は心配ご無用。
よほど手酷く燃え尽きない限り、ゆっくり木材は苦しみながらも死ぬことはない。
一家は燃え残った木材に、バケツでオレンジジュースをぶちまけていく。
するとどうだろうか。オレンジジュースを吸ったゆっくり木材は再び再生し、新品のような美しい骨組みを取り戻した。
屋根を葺き直すなどの修繕は必要になるが、家は充分また住むことの出来る姿に戻ることが出来た。
これも便利なゆっくり木材のおかげなのだ。一家は家に感謝し、火に充分気をつけて暮らすようになった。
また、子供の身長の伸びを記録する時など、どちらかといえば柱などに傷をつけたい場面もある。
そんな時は、特殊なヤニを塗った刃物で傷をつけよう。傷口が固着され、治ることが出来なくなる。
その傷により、柱ゆっくりは消えない痛みを与えられることになるが、家族の生活に参加することは家具にとっての喜び。
思い出作りに一役買った柱ゆっくりは、その痛みを最高の栄誉と思い、立派に耐え抜くことだろう。
れいむはびっくりしていた。自分達ゆっくりというのはみな丸っこいものだとばかり思っていたが、
こんな木のような、角張ったゆっくりが存在したなんて。
このような発見が出来ただけでも、人間の里に出てきた価値はあったとれいむは思った。
「ゆゆ~!にんげんさんのおうちはおもしろいよ!!」
「何を言っとんだべ・・・はて、こいつはどこの部署だったかな? 片っ端から入れていくべ」
男はこの施設の監督責任者。労働に対しては忠実だが、あまり頭の回る方ではない。
施設に収められたゆっくりが逃げ出す事など普通は起こり得ないが、男は深く考えなかった。
そもそもここでの仕事は割かし単純で、それほど頭を使うことは無い。男にとっては良い仕事場と言えた。
施設、施設というが一体何の施設なのか? その答えは、れいむを抱えた男が扉を開けた先に待っていた。
「ゆゆっ!?なんなのこれぇぇぇ!?」
れいむが見たのは、左右の壁にいくつも仕切られた檻の中にいる、大量のゆっくり達。
家族ぐるみで閉じ込められている者もいる。哀れに思ったれいむは、男に懇願した。
「ひどいことしないであげてね!!みんなゆっくりできないよ!!ゆっくりだしてあげてね!!」
「ん~? 何言ってんだお前? みんなすごいゆっくりしてるべ?」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
「ゆ・・・?」
改めて周りを見渡すれいむ。檻の中にいるゆっくり達の表情は安寧そのものだ。
こんな狭い所に閉じ込められていて、ゆっくり出来るのだろうか?
「みんなゆっくりしてるの!?」
「「「「ゆっくりしてるよ!!」」」」
「ほれ見ろ、人聞き悪いこと言っちゃいけねぇぞ」
「ゆゆ・・・ごめんねおじさん!!」
「さ、お前もここさ入れ。もう逃げたりしたらダメだべよ」
男は鉄格子についた小さな扉を開いてれいむを中に放り込むと、先ほどの部屋へ戻っていく。
入ってみるとなかなか広く、れいむが住んでいた山の洞穴よりも広そうだ。床も意外と清潔だった。
ここなられみりゃや怖い動物もやって来ないし、雨に濡れる心配も無い。
中にいるゆっくり達の肌つやを見ると、ごはんもちゃんと食べているようだ。
安全な環境に安定した食料。更によく見れば、檻の中には何だか解らないが色々なものがあり、楽しく遊べそうだ。
原っぱで遊べないのは不満だが、確かにゆっくり出来るのかも知れない。
特に安全を必要とする赤ちゃんゆっくり達も多く見受けられた。
ここはドスまりさが作る「たくじしょ」のような場所なのかも知れない、とれいむは思った。
「みんな!れいむだよ!ゆっくりしていってね!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
檻の中のゆっくり達は優しい気性で、余所者のれいむをすぐに仲間として迎えてくれた。
友好の証に、ゆっくり達に手当たり次第頬をすりすりと擦り付けあうれいむ。
「ゆっ!れいむ、あそびたいけどこれからおべんきょうのじかんだよ!」
「ゆ?おべんきょうってなに?」
「むきゅ~!みんなあつまってね!」
檻の奥にある小さな扉から、少し大きめのぱちゅりーが出てくる。
号令がかかると、みんな行儀よくぱちゅりーの前に整列する。新入りのれいむも慌ててそれに従う。
壁に取り付けられたゆっくり用の黒板の前に立ち、講義を始めるぱちゅりー。
「むきゅ!きょうはろーるきゃべつよ!ゆっくりおぼえてね!!」
するとぱちゅりーの助手らしきちぇんが、キャベツを半玉持って来た。
美味しそうな野菜に思わず涎を垂らすれいむ。これからみんなであれを食べるのかな。
しかしぱちゅりーは黒板にゆっくり用チョーク(長い柄が付いてる)で何やら絵を描いたり、
ちぇんはキャベツに包まって遊んだりしている。他のゆっくり達はふむふむと頷きながらそれらを見ている。
ぱちゅりーが何か喋っていたが、れいむの頭には入って来ない。
いつお野菜を食べるのか、そればかり考えて涎を垂らしていると、ぱちゅりーはキャベツと共に奥に引っ込んでいった。
「ゆゆっ!?なんでえぇぇ!?おやさいたべたいいいいい!!」
「ゆ?れいむおなかすいてるの?」
「おなかすいてちゃだめだよー!ゆっくりできないよー!」
地団太を踏むれいむを気遣う周りのゆっくり達。
みんなれいむと違って、キャベツへの未練は無いらしい。
「ごはんはこっちからでてくるわ!いっしょにいきましょうね!」
「ゆっ!ごはんたべたいよ!ゆっくりちょうだいね!」
ありすに連れられて檻の壁際を進んでいくと、そこにはでこぼこのついたタイルがいくつも設置されていた。
タイルはゆっくり一匹が乗れる程度の面積で、何匹かのゆっくりがそれぞれタイルに乗っている。
すると目の前の壁についたチューブから、ムリムリと練り餌のようなものが出て来る。
それが充分溜まると、ゆっくりはタイルから飛び降りる。すると練り餌が出て来るのも止まった。
練り餌はとても美味しいらしく、むーしゃむーしゃしたゆっくり達は「しあわせー!」と涙を浮かべている。
柔らかい練り餌は赤ちゃんにも食べられるので、自分の赤ちゃんに与えている親ゆっくりも見受けられた。
「あのでこぼこにのるとごはんがでてくるよ!ゆっくりたべていってね!」
「ゆっ!ありがとう!ゆっくりごはんをだすよ!!」
空いたタイルの上にぴょこんと飛び乗るれいむ。
その時、れいむの全身に電流のような痛みが走った。
「ゆ゛ぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ!!!」
平和に暮らしてきたれいむが、これまで味わったことのない激痛。坂道で転んで体の一部が破けた時もこれほど痛くは無かった。
反射的にタイルから飛び降りてしまうれいむ。蓋を開きかけていた壁のチューブはすぐに閉じてしまった。
「なんなのおぉぉぉぉぉぉぉ!!ぜんぜんゆっぐりでぎないいぃぃぃぃぃ!!」
「ゆ?それにのらないとごはんたべられないよ?」
「い゛やああああああぁぁぁぁぁ!!ありずのごはんちょうだいよおぉぉぉぉぉぉ!!」
「そんなのだめだよ!!じぶんのごはんはじぶんでとるのがあたりまえでしょ!!」
面倒見の良いありすにもぷんぷんと怒られてしまうれいむ。
よく見てみると、他のタイルに乗っているゆっくり達も目を剥き歯を食いしばり、凄く辛そうな顔をしている。
何でこんなことしなきゃいけないの? さっきのおじさんが黙ってごはんを出せば良いだけなのに……
丁度れいむがそんなことを思っていた時、おじさんが鉄格子の向こうに現れた。
「おーい、お客さんだべ」
「「「「ゆゆゆっ!?」」」」
「うーん、ど・れ・が・い・い・か・な・っと……おし、そこの赤んぼ達から四つ、ゴマで頼むべ」
「ゆゆっ!?」
「まりさたちのあかちゃん!?」
おじさんが指を差すと、檻の中が色めきたった。
指名されたゆっくりの両親が、至福の笑顔で涙を流している。ゆっくり特有の感激の表情だ。
れいむはそれを見て、きっとこの二匹はすごく楽しいゆっくりプレイスに連れて行って貰えるのだと想像した。
親ゆっくり達の表情は、親友のまりさがとっても美味しい桃を食べた時のそれよりも遥かに嬉しそうだ。
ゆっくりをこれほど喜ばせるものとは一体何なんだろうか。れいむも思わずにこにこと見守ってしまう。
「れいむたちのあかちゃんがえらんでもらえるなんてかんどうだよ!!」
「ゆっくりあかちゃんをうんでよかったよ!!いきててよかったよ!!」
「「「「おじちゃん、ありがちょう!!」」」」
「うん、待たすといけねぇから早くしてくれや」
「「ゆっくりりかいしたよ!!」」
興奮冷めやらぬといった様子で、両親はてきぱきと作業を開始した。
れいむには何をしているのか解らなかったが、自分の知らない道具を沢山弄り回しているらしい。
にんげんの所に住んでるゆっくりはみんな道具を使えるのかな? ワクワクしながらそれを見つめる。
赤ちゃん達は、楽しそうに水遊びをしている。
「ゆっくちできるおみじゅしゃんだよ!ゆっくちあしょぼうね♪」
「おみじゅしゃんだよ!ばしゃばしゃ~!」
「ゆゆっ、ちめたーい♪やめちぇねー!」
「どっちがにゃがくもぐれりゅかきょうしょうしようね!!」
「よーい、ゆん!ぶくぶくぶく・・・」
ほほえましいその姿を見て、元々だらしないれいむの顔が更にだらしなく緩む。
かわいい赤ちゃんを見るといつもゆっくり出来る。自分も群れに帰ったら、仲良しのまりさと赤ちゃんを作ろう。
水遊びをする赤ちゃんに理想の家族像を重ね、未来のゆっくりたいむを想像して楽しんだ。
やがて親れいむに呼ばれると、赤ゆっくり達は行儀良く水から上がっていく。体が少しふやけているのが可笑しい。
次に赤ゆっくり達は、胡麻のたっぷり入った皿の中に入る。
「ゆっくちころころすりゅよ!」
「こりょこりょ~!ゆっゆっ♪たのちいね♪」
「れいみゅのおかおごましゃんでいっぱいだよ!」
「おもちりょ~い♪」
胡麻の上をころころと転げまわって遊ぶ赤ゆっくり。
ふやけてモチモチ度を増した赤ちゃん達の体表は、びっしりと胡麻で埋め尽くされた。
一通り胡麻をまぶし終えると、小さな階段を昇って先ほど親ゆっくり達が弄っていた機械の上に上がる。
それはガスコンロ。ゆっくり用油さしによって油の張られたフライパンが火にかけられている。
フライパンの上の飛び込み台のようなものに乗り、列を作っていく赤ちゃん達。
そのすぐ足下では、熱せられた油がぱちぱち跳ねている。
「ゆっくち・・・」
「このにゃかにはいりゅんだよね!」
「ゆっくちはいりょうね♪」
「ゆゆ~、でもにゃんだかこわいよ!」
「まりしゃもっとおかーしゃんとゆっきゅりしちゃいよ!」
「「ゆゆ!?どぼじでぞんなごどいうのおぉぉぉおおおぉぉぉ!!」
ここまでは予定通りに進んでこれたのに、何で土壇場でわがままを言うのか?
親達は赤ちゃんへの失望に涙目になる。それを見て、列の後ろにいた赤ちゃん達が慌て始めた。
このままだと大好きなお母さん達に嫌われてしまう。
「ゆゆっ!おかーしゃんたちをにゃかせちゃだめだよ!」
「ゆっくちはいってね!」
「ゆゆっ!やめちぇえええええぇぇぇ!!」
後ろの二匹が前の二匹をぐいぐいを押し始める。尻込みしていた前の二匹は必死で抵抗を始めるが、
先頭にいた赤まりさが身体を滑らせてフライパンの中に落ちてしまう。
ジュワッという音を立て、まりさは熱い油で揚がり始める。
「ゆ゛びいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!あぢゅいあぢゅいあぢゅいいいぃぃぃぃ!!」
「ゆゆっ、まりしゃ!」
「しょーれっ!」
もう一匹飛び込むのを躊躇っていた赤れいむも、赤まりさの恐ろしい悲鳴にびっくりした隙を突かれて落とされる。
赤れいむが簡単に落ちてしまったので、勢い余って後ろの二匹もフライパンの中に落下した。
「ゆ゛ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!ゆっぐぢ、ゆっぐぢでぎにゃいよおぉぉぉぉぉ!!」
「じんじゃう!!じんじゃうよおおぉぉぉぉぉ!!」
「おがーじゃんだじゅげでえぇぇぇえぇぇぇぇ!!」
赤ゆっくり達はジュウジュウと揚がりながら断末魔の悲鳴を上げる。
そんな風景を見つめる親達の笑顔は、母性に満ち溢れたとても優しいものだ。
れいむはその顔を見たことがある。自分がお母さんの蔓に生っていた時、自分を見つめていたお母さん達の顔だった。
「あかちゃんたち!すぐにしんじゃだめだよ!!」
「ゆっくりくるしんでしんでね!ゆっくりだよ!!」
「「「どぼじでぞんなごどいうにょおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」」」
助けを求めた母親達から浴びせられる恐ろしい言葉。
いつも自分達をゆっくりさせてくれた優しい笑顔はすぐ目の前にあるのに、恐ろしく遠く感じる。
「れいみゅはかわいいあがぢゃんじゃながっだの!?にゃんでぞんなごどいうにょお゛ぉぉぉぉ!!」
「ゆっ!ゆっくりくるしんだほうがあんこがおいしくなるからだよ!」
「あかちゃんたちはでこぼこゆかもふめないから、ここでたっぷりくるしんでね!!」
「ぞんにゃあああぁぁぁぁぁぁ!!おがーじゃんだぢびどいよぉぉぉぉぉぉ!!」
苦しむ我が子の前で幸せそうに笑う両親。
れいむには理解出来なかった。なにこれ?どうしたの?わるいゆめなの?
自然に体が飛び出し、コンロの上の親ゆっくり達の元へと駆け出す。
漂ってくる赤ちゃんたちの良い匂いに、自然と唾液が溢れてきてしまうのがどうしようもなく悲しい。
「ぢょっどおおおぉぉぉぉぉ!!なんであがぢゃんだちをだずげであげないのおおおぉぉぉ!!」
「ゆっ?どうしたのれいむ?」
「どうしたのじゃないでじょおおおぉぉぉ!!あがぢゃんだぢいたがってるよ!!
なんでおがあざんなのにだずげようどじないの!!」
「ゆ?れいむがなにいってるかわからないよ!!」
「おりょうりのじゃまするなんてとってもしつれいだよ!ゆっくりできないね!ぷんぷん!!」
「なんでかわいいあがぢゃんおりょうりしぢゃうのおぉぉぉぉぉぉ!!?」
救いを訴える叫びも空しく、怒った親まりさにコンロから突き落とされてしまうれいむ。
気付くと、檻にいた他のゆっくり達もれいむを訝しげな顔でじろじろ見ていた。
「ゆっ?な、なに?なんでみんなみてるの?あかちゃんかわいそうだよ?」
「れいむどうしちゃったの?」
「なんでおりょうりじゃまするの?ばかなの?しぬの?」
「おかーしゃん、あのれいむおねえちゃんどうしちゃったにょ?」
「ゆっ、みちゃだめだよ!あのこはゆっくりできないれいむだよ!」
「おお、こわいこわい」
「このげすれいむ!いきなりぎゃーぎゃーわめかないでね!びっくりするよ!」
みんな口々にれいむを罵る。どうして?れいむあたりまえのこといってるだけだよ?あかちゃんかわいいよね?
と、ここでネタばらし。実はここ、食用ゆっくりの育成場だったのだ。
ゆっくりの使い道と聞いてすぐに思い浮かぶ食用は、村人がゆっくりの群れを支配した当初から研究が進められ、
幻想郷中のゆっくり料理のレシピを集めて開かれたゆっくり料亭は、村の観光名所の一つとなっている。
この施設にいるゆっくり達には、「自分達は饅頭で、美味しく食べてもらうのが最上の幸せだ」と教育してある。
最初のうちこそ拷問や催眠術などを用いて思い込ませたが、世代を経て餡子が親から子へと受け継がれるうち、
ここ数代のゆっくりは生まれつき自らの役割を理解するようになっていた。
ゆっくりの餌となる練り餌は、大量発生した食用キノコと野菜クズなどをすり潰したもので、安価に調達出来る。
ゆっくり達は自らのツボを突き痛覚を刺激する凸凹床に乗り、日々自らを苦痛に追いやってその味を高めている。
自分達が食べられるためにいると解ってはいても、やはり痛みや苦しみは拭い去れるものではない。
だがそれは人間の味わう『労働の喜び』のように、肉体的には辛くとも、おいしく食べられることを思えば充分報われるものだった。
もっとも、赤ちゃん達は体の弱さから凸凹床に乗るとショックで死んでしまったり、
幼さ故の自制の無さから料理になることを躊躇ってしまうので、そこは親ゆっくりの適切なサポートが大事となる。
更に年々高まる需要から、最近ではゆっくり達に調理器具の使い方を覚えさせ始めた。
ゆっくりが『動く食材』であることを生かし、ゆっくり自身に自らを料理させようという意欲的な試みである。
(無論、高級料亭ではそのようなことはせず、熟練の職人が腕によりをかけて包丁を振るうが)
教育係には知能の高いぱちゅりーを据え、調理器具の使い方や料理のレシピをゆっくり達に教えている。
人間の道具を使えて、更にそれを教育として体系付けられるゆっくりなど、幻想郷中探してもそうそういるものではない。
その点に関してここのゆっくり達は、自分達はエリートだという誇りを持っていた。
だから、自分達の常識に反する新入りのれいむが理解出来ない。
かわいいあかちゃんだから、美味しくなってほしいと思うのは親として当然じゃないか。
料理をしているところに踏み込んで邪魔をするのは、ゆっくりにとって最大の侮辱だ。信じられない。
そういえば凸凹床に乗るのも嫌がっていた。美味しくなりたくないのだろうか? 何のために生きているのか?
「みんななにいっでるの!!だってあがちゃんは・・・」
「おじさん!このれいむぜんぜんゆっくりできないよ!!」
「こんないなかものがいたんじゃありすたちゆっくりおいしくなれないわ!!」
「さっさとつまみだしてね!!」
「あんれぇ、ここのゆっくりじゃ無がっただか。すまねぇすまねぇ」
ぷくーと頬を膨らますゆっくり達に押されて、檻の外の男のところへ追いやられるれいむ。
ありすの言うとおり、自分はいなかものなのだろうか。自分は住んでいた山と入っている群れ以外の事は知らない。
外のゆっくり達は、みんなこんな風に過ごしているのだろうか。そうだとしても、簡単に受け入れることは出来なかった。
かわいそうな赤ちゃんを目にし、みんなから否定された悲しみでえぐえぐと泣くれいむ。
男はそんなれいむを再びひょいと抱え上げると、施設を後にした。
勿論、赤ちゃん胡麻団子が盛り付けられた皿も忘れずに回収していく。見本品として直売もしているのだ。
近年では他所の里からの需要も高い。やがて貿易の目玉となるであろう食用ゆっくりの育成場は、近々大幅拡大の予定だ。
最終更新:2008年10月05日 17:44