前髪
プスリンチョ☆
「いづっ!? ・・・・・つぅー、髪伸びたなぁ。」
洗面所で右目を押さえる男、その瞳には鍵爪のようにカールした前髪が直撃していた。
朝っぱらからの熱烈なキスに、文字通り眠気も吹っ飛び一気に目が覚める。
「毛先を向けるとはけしからん毛根め・・・俺はそんな風に育てた覚えはないぞ? お父さん悲しい!!」
よよよとしょうもない小芝居を交えつつ、髪の毛をクリクリしながら男は考える。
(そういや動物って自分の毛が目に入ったりせんのだろうか? いや、でもあいつら短毛が多いしなぁ・・・。
ん?
ゆっくりって人間ぽい顔してるよな? あいつらならもしや・・・・・。)
思い立ったが吉日。男は度胸、何でも試してみるもんさ。
そんなわけでゆっくり弄りに弱い彼は、森の近くまでホイホイとやってきてしまったのだ。
「シャランラ シャランラ ヘイへヘーヘヘイ、シャランアッー!!・・・ウホッ!!いいゆっくり・・・」
「ゆ!! ゆっくりしていってね!!」
彼女、ちょっと頭のワルっぽいゆっくりでありすと名乗った。人間をおそれる事無く無警戒に返事を返してくる。
「ありすの髪の毛ってサラサラしていて綺麗だね。よければ少し触ってもいいかい?」
「んもう!! おにいさんったらきれいなありすにめろめろね!! しょうがないからさわってもいいわよ?」
「へいへい、あざーっす。そんじゃま失礼・・・」
「ゆふぅん・・・・・」
何やら目を閉じクネクネとうねる饅頭、どうやら必殺の悩殺ポーズらしいが果てしなくウザイ。
別の意味で悩殺されそうになるのをグッと押さえて、前髪を梳きながらさりげなく長さを測る。
- うーん、前髪もサイドも毛先が目には届かない。どうやら無駄足っだようだ。
「ゆぅぅん・・・ゆ!? き、きもちよくなんてないんだからね!?
・・・・・で、でもね!! どうしてもっていうなら、もうちょっとだけ・・・さわってもいいわよ?」
「・・・・・あー、どうも。」
手を離そうとするとそれを必死になってありすが遮る。
妙なツンデレっぷりまで出していらっしゃるが、生憎と男は人面饅頭と乳繰り合うような崇高な趣味は持ち合わせていない。
面倒になったので追い払おうかとした瞬間、男の頭上で電灯着火。
「ねぇありす、よければ可愛い君にリボンをつけて上げたいんだけどいいかな?」
「!!・・・も、もぅ!! しょうがないわね!! と、とくべつにつけさせてあげなくもないわ!!」
「ありがとう、それじゃもう一度目を閉じてね。」
言われて瞳を閉じるありす、その顔は真っ赤に染まり恋する乙女そのものだ。
男はそんなありすの前髪を中央に纏め、ポケットの底に溜まっていた糸くずをよって作った紐で束ねていく。
そうして丹念に結び固めたところでありすに声をかけてやる。
「出来たよ、目をあけてごらん?」
「うふふふ・・・ふ!? あ、あまりとかいてきじゃないわね・・・。」
ありすの顔からは期待の色が瞬時に引っ込み、変わりに両目を中央に寄せながら苦い顔をしている。
「そうかい?結構似合ってるとおもうんだけど・・・な!」
そう言って糸くずを指で弾く。プランプランと振り子のように前髪が揺れ、ありすの視線も釣られて泳ぐ。
「ゆ!ゆゆ!!ゆううぅぅ!!? ちっともゆっくりできないいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
「えぇー? ゆっくりしろよぉ、だらしねぇなぁ・・・。本当に似合ってるぞ?」
「にあってなんかないぃぃ!! おにいさんはやくごれどっでええぇぇぇ!!!」
ヒステリックに訴えるありすに更なる追撃が打ち込まれる。
「クズ饅頭に糸クズ、最高の組み合わせと思うんだけどなぁ・・・。」
「!!! そ、そんな・・・ありすのことくずだなんて・・・うそでしょ・・・?」
「いや、ゆっくりなんざ総じてクズだろ。いや、正確にはゴミクズか?」
「!!!?? ひ、ひどい!!おとめごころをもてあそんだのね!!?」
「弄ぶも何も・・・。そんな風に僕を見ないで頂けませんか? 虫唾が走りますんで。本当に気持ち悪いですね。」
「!!!!!!」
「大体あなた、少し優しくされたら惚れるんですか? スイーツ(笑)ですか? 冗談は顔だけにしてくださいよ。」
「ゆ、ゆ、ゆわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
止め処なく放たれる男の口舌に耐えられず、ありすは泣きながら森の奥へと消えていってしまった。
「しっかし、饅頭にモテてもなぁ・・・。こちとら人間のねーちゃんにモテたいっちゅーに。
いや、妖怪の娘もいいなぁ・・・取り合えず人の形したものにモテたいっての。」
残された男は一人愚痴る、その背中はとても淋しげである。
こうして男の一日は若干湿っぽく始まったのだった。
終わり
「ゆううぅ・・・ぐすん。」
ありすは自室で一人泣き続けていた。
(あんなに愛し合ったのに・・・種族の違いから別れなければならないなんて、あぁ!!何て可哀想で美しい私!!)
もっともその涙は悲しみからでなく、単に自分に酔っていただけなのだが。
この短時間でここまで都合よく記憶を改竄するとは、まこと恐るべきスイーツ(笑)脳である。
そしてたっぷり1時間後
「ふぅ・・・。ないたらすっきりしちゃった☆ それじゃけいきづけに とかいはなすいーつでも たべにいこうかしら♪」
いい加減ヒロインごっこも飽きたのか、ようやく顔をあげるありす。
そしてその視界にすかさず入り込む前髪。
「・・・とかいはじゃないわね、はやくとりましょ!!」
そう言うとゆーんゆーんと舌を伸ばし始める、だが届かない。
ならばどうだとズリズリと地面や壁に擦り付けてやる、でも解けない。
そしてとうの糸クズは、まるで意思を持ち挑発するかのごとくプーラプーラと左右に踊る。
「ゆ・・・ゆ・・・ゆっがあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
遂にはありすもブチギレて、手当たり次第に部屋中に体当たりをしていく。
10分もする頃には目は血走り髪はボサボサ、頬も泥だらけで声もひしゃ枯れ、まるで山姥のような風体と成り果てていた。
「ぞ、ぞうだ・・・まりざだぢにだのもう・・・」
疲れ果てイササカ冷静になった脳みそが、ようやくまともな回答を導き出した。
そこでありすは群れのゆっくりの元へと向かう。
「ゆっぐりじでいっでね!!」
「ゆ!ゆっくりし・・・ないでねえええぇぇぇぇ!!!」
「まりざ!!まっでぢょうだいいぃぃぃ!!」
「ひぎいぃぃぃ!!? こっちこないでね!? こっちこないでねえええぇぇぇぇぇ・・・!!!」
「れいぶ!!」
「いやあぁぁぁぁぁ!!! こわい!! おもにかおがこわいいいぃぃぃぃ・・・!!!」
「ぢぇん!!」
「わがらにゃいぃぃ!! わがらにゃいよおおおおぉぉぉぉぉぉ・・・!!!」
ありすの見た目に恐れおののき逃げ惑うゆっくり達、そして取り残されたありすをあざ笑うかのごとく再度ゆれる前髪。
プラーンプラーン、プラリンチョ☆
「あっっっがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・!!!!!」
後にこの日は、森に鬼神が降臨した日と末代までゆっくり達に語り継がれることとなる・・・。
今度こそ終わり
作者・ムクドリ( ゚д゚ )の人
最終更新:2008年10月07日 18:50