「おーい、
ゆっくりー、門番ー」
チルノは両手一杯に野菜を抱えて飛んだ来た
着地したのは紅魔館の門の前だった
「チルノちゃん、そろそろ私の名前覚えてね」
「えー、あんたの名前覚えにくいのよ。えーっと、ほんめいり・・・ああ、中国」
「違います」
まぁ、いいじゃん。とチルノは笑うと、美鈴の足元でゆっくりしているゆっくりパチュリーに野菜をあげる
「キュウリですか?」
「うん、交換してきた」
「ほら、ゆっちゅ。飯だぞー」
チルノがキュウリを小さく折って、ゆっくりパチュリーの側に置く
『気が利くのね。ゆっくりしていっていいわよ』
「うん」
元気よくキュウリを食べるゆっくりパチュリーをチルノはニコニコしながら見ている
瀕死のゆっくりパチュリーをチルノが拾ってきてから三ヶ月
今は美鈴が自室で寝泊りさせている
元気になってすぐの頃は、チルノの寝床で寝かせていたのだが
日が落ちた状態でチルノの側にいる事はゆっくりパチュリーにとって凍死寸前までいくほど危ない事らしい
「まだ食べる?」
『気が利くのね。ゆっくりもってきてね』
「だよねー」
そう言うと、またキュウリを小さく折って、ゆっくりパチュリーに与えた
チルノが持ってきたキュウリは三本、二本を食べた時点でゆっくりパチュリーは"もういらないわ"と言った
「えー、せっかく持ってきたのに」
『それならあなたが食べていってね』
「ゆっちゅはあたいがあんまり野菜好きじゃないの知っててそんな事言う」
『そうね。できるならあなたにはもっと栄養分のある野菜をゆっくり食べて欲しいわね』
「チルノちゃんはいっつもガツガツ食べるから消化に良くないですよね」
中国が続ける
「ぷーだ。それよりゆっちゅ、遊ぼうよ。他の妖精とかくれんぼするんだ」
かくれんぼぐらいならゆっくりパチュリーの体力でもできる
事実、ゆっちゅとチルノは他の妖精たちとよくかくれんぼをしていた
いつも、ゆっちゅは最後まで見つからない
みんなが降参した後、ひょっこり誰も思いつかないような場所から出てくる
だから、ゆっちゅを見つけようと他の妖精もやる気になっているのだ
『ごめんね。今日はゆっくり本を読みたいのよ』
「えー、前も本だったじゃん」
「まぁまぁ、チルノちゃん、ゆっちゅは本が好きだから」
チルノは不満だった。最近、ゆっちゅと遊ぶ事が少なくなったからだ
他の妖精たちも残念がっている。でも、ゆっちゅは本を読む事を優先した
「じゃあ・・・今度ね」
チルノが不満そうに湖の向こうに飛んでいった
美鈴はすぐにゆっちゅに毛布を巻く
『めいりん、冷えるわ。ゆっくり中に入れてちょうだい』
「もう、チルノちゃんに会うのは」
『嫌よ。チルノが来たら絶対に教えなさい』
ゆっくりパチュリーの寿命は長くない
それも一度は瀕死の重傷まで負った身だ。表面上の傷が癒えても
ぐっと短くなってしまった寿命は延ばしようが無い
紅魔館で優良な環境で過ごしていても、ゆっちゅには限界が来ているのだ
前はチルノに触れる事だってできた。今は近くにいるだけで凍えそうなほどだ
『ねぇ、めいりん。ゆっくりできるのは後どれぐらいかしら』
「あなたが望むだけですよ」
『そう・・・チルノをよろしくね』
そう言ってゆっちゅは美鈴のベッドで眠りについた
「えぇ?あのゆっくりパチュリーの延命治療?」
その日、永遠亭を訪れたのは珍しくも紅魔館の門番だった
前回訪れたのは、ゆっちゅの治療の時で八意永琳もその事を覚えている
「もともと弱ってたのよ。これ以上生きさせるなんて」
「蓬莱の薬でも何でもあるでしょ」
「あのね。美鈴、よく聞きなさい」
結局、処方されたのはただの栄養剤と30分の説教だった
「おーい、門番」
迷い竹林を抜けた辺りで美鈴はチルノに会う
「こんにちは」
とっさに薬を隠す
「ん、あ、薬だな。門番どっか痛いの?」
「い、いえ、どこも悪くないですよ」
「じゃあ、おトイレ行きたくなる薬だな。あたい知ってるよ。レティが飲んでる」
「え?えぇ・・・まぁ」
二人はとぼとぼと歩いてかえる
「チルノちゃんは大事な人が死んじゃったら悲しい?」
「え、うん。でも、よく分からない」
「分からないって?」
「妖精は死なないし、魔法使いも妖怪も」
「そ、そう言われれば、私たちが死を意識する機会ってそうないわね」
美鈴は紅魔館にいる唯一の人間のことを思う
あの人が亡くなったら、お嬢様も妹様も私もみんなも悲しいなんてものじゃないのだろう
チルノとゆっちゅの事を思うと涙が出てくる
「ど、どうしたの門番?目に何か入ったの?」
「え?え?あ、ほら夕日が眩しかったんですよ」
「ほんとだー、ゆっちゅみたいにまん丸だね」
『おかえりなさい。ゆっくりしていってね』
「ただいまです。これ、永遠亭で貰ってきました」
『お薬?蓬莱の薬かしら?』
「え、それは・・・その・・・」
『お饅頭に蓬莱の薬が利くわけ無いじゃない。ゆっくり理解してね』
「ゆっちゅは死ぬのが怖くないですか?」
『変な質問するのね。すっごく怖いわ。
できるなら蓬莱の薬でもグリモワールでも使って少しでも長くゆっくり死を忘れていたい』
「なんで、平気でいられるんですか」
『チルノをよろしくね』
それ以来、美鈴がゆっちゅに対してチルノと会うのを止める事は無かった
ある朝、ゆっちゅがいつもの目覚めなかった
しばらくして美鈴の泣き声が紅魔館中に響いて妖精メイドたちは何事かと集まっていた
「ほら、あなた達は仕事に戻りなさい」
それをメイド長である十六夜咲夜が散らせる
咲夜の手にはチルノの手が握られていた
「いってあげなさい。あと、美鈴に外へ出るよう伝えて」
肩を押されチルノは美鈴の部屋に入る
「あのね。ゆっちゅ、えーっと、まず久しぶりにあんたに触れれたね」
その言葉を背中で聞いて美鈴が部屋を出る
「野菜、少し食べられるようになったよ。ゆっくり増やしていくね。ゆっくり・・・」
外では美鈴が咲夜のエプロンをハンカチ代わりに泣きついている
「そ、それから!!かくれんぼ、あんたに教えてもらったコツを使ったらあたい見つかるの三番目だったよ」
「門番は?」
「ちょっと今は出れないって」
「泣き虫だからなぁ」
いつも、みんながかくれんぼをやる場所のすぐそば
ゆっちゅが見つけたゆっちゅにしか隠れられない木の根でできた穴
そこにゆっちゅは埋葬された
「これからはすぐに見つかるね。この木がゆっちゅなんだから」
チルノはニッコリ笑った
ゆっくりパチュリーが死んでチルノが笑うお話~おわり~
出展作品一覧
fuku0689 ゆっくりしよう
fuku0508 妖精と遊ぼう
fuku0482 汚い奴
fuku0481 燃やせ燃やせ
妖精中心に書きたいなぁ
最終更新:2008年09月14日 05:07