ゆっくりは饅頭の妖怪みたいな奴だと俺は思う。
動物と違って本当に体の作りは饅頭としか言えないのに、動いて人間と喋るからだ。
そんな近年現れた動く饅頭、ゆっくりはペットとして飼われるようになった。
よくもまぁ得たいの知れんものを飼う気になるとは思ったが、どんどん飼う人間は増えているようだ。
何故そんな事を言うのか、今目の前で飼われているゆっくりとその飼い主の人間が目の前に居るからさ。
「やめるんだぜ!! ゆっくりやめるんだぜ!!」
「野良の癖にゴールドバッチのれいむに命令するの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「れいむ、こいつは野良で馬鹿なゆっくりだかられいむがゴールドバッチって事が分からないんだよ」
「そうなの? 本当に野良のゆっくりは馬鹿ばかりなんだね!!」
「あぁ、だから僕らはこうやって野良のゆっくりを駆除しているんだよ」
「まりさは何もしてないんだぜ!! 痛いことはやめるんだぜ!!」
「うるさいまりさだね!! 少しは黙っててね!!」
「こら、れいむ。噛んじゃ駄目だろ? れいむの口が汚くなるじゃないか」
「ゆゅっ、お兄さんごめんなさい!!」
「謝らなくてもいいさ。さ、じっくりゆっくり駆除しようか」
「ゆっくりわかったよ!! まりさはゆっくり死んでね!!」
目の前の光景を、俺はベンチに座って紙パックの珈琲牛乳をストローで啜りながら眺めていた。
楽しそうに笑うれいむとその飼い主。そして、飼い主に踏まれ飼いれいむに体当たりをされているまりさ。
あのまりさは野良のゆっくりだ。そして、野良のゆっくりがこんな目に遭うのは別に珍しい訳ではない。
「はなしてじでくだざい!! まりざはなんにもじでないんでず!! おねがいじまずうぅぅぅ!!」
「お兄さん、野良の癖にお願いとか言ってきたよ?」
「聞く必要があると思うかい? こいつは今僕らの遊び道具なんだから、れいむは楽しめばいいんだよ」
「だね!! まりさはそのまま泣いててね!!」
ゆっくりはその独特な外見である一部の人間から絶対的な人気を得た為に、飼われるゆっくりが増え結果今のバッジシステムが誕生した。
ゴールド、シルバー、ブロンズの3つに分かれているバッチは、その種類によってゆっくりがいかに優秀か表したものだ。
最高峰のゴールドを付けたゆっくり、あのれいむはゆっくりの中でも特別に選ばれた存在とも言えるだろう。
ま、選ばれたって言ってもそれはつまりどれだけ飼い易いかって事なんだが。
「ゆぅ…… ゆぅ……」
「泣かないとか馬鹿なの? もっとれいむたちを楽しませてね!!」
「れいむが頑張りすぎたからだよ。ちょっと待ってな、そこの自販機でオレンジジュース買ってくるから」
「お兄さんありがとう!! れいむ、次はもっと頑張ってお兄さんを楽しませてあげるからね!!」
「あぁ、期待してるからな」
そして、飼われているゆっくりとは別に野良のゆっくりもある一部の人間からある人気を得た。
それが今目の前で起きている虐待だ。
ゆっくりは喋れる事で、人間と同じように苦痛を訴え、助けを請い、無様に死んでいく。
その姿を見て目の前にいるような人間は楽しいらしい。
「今度はじっくり苦しめてあげるからね!! まりさはれいむに感謝してね!!」
「いやだあああああああああああああああああ!!!! はなじでええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「れいむ、こいつはしっかり押さえてるから頑張れよ」
「任せてね!!」
また、飼われているゆっくりは野良のゆっくりを同種・仲間とは認めなくなった。
野良のゆっくりであれば、仲間を痛めつけろと言われた所で断られる。仲間意識という奴だ。
だが、飼いゆっくりは野良のゆっくりに対してそんな意識は働かない。自分達にはバッジがあるのに、野良にはバッチが無い。だから仲間じゃない。
そういう風に飼いゆっくりは認識するらしい。
「あれ? お兄さん、まりさ動かないよ?」
「う~ん…… きっとれいむが強くなったから、れいむの体当たりに耐えられなかったんだな」
「そっかぁ……」
「仕方ない、今日は帰ろうか」
「うん、ゆっくり家に帰るよ」
そう言ってれいむの飼い主は足で踏んづけていたまりさを踏み潰すと、れいむと一緒に公園から出て行った。
人間や飼いゆっくりが野良のゆっくりを虐めて殺すようになってからは、こんなのは日常的な光景なのだ。
俺はベンチから立ち上がり、持っていた珈琲牛乳の紙パックをクズ籠にいれてまりさの残骸に近づく。
踏み潰された饅頭がそこにはあった。
「で、今日はやけにあっさり死んだフリするんだな」
俺は潰れている饅頭に声を掛ける。
傍から見てれば危ない人間にしか思えないだろうが、幸い人は俺以外居ない。
そして、潰れた饅頭からはにゅっと二本の腕が生え始めた。
「相変わらず腕からなんだな、気持ち悪いぞ」
「アイデンティティーって奴なんだぜ」
潰れている饅頭こと、ゆっくりまりさは答える。
「饅頭がアイデンティティーねぇ、よく言うぜ」
「脆弱な存在ってだけで弄って殺す野蛮な人間さんには言われたくないんだぜ」
まぁ、兄さんは違うけどなと言いながら潰れたまりさの体は徐々に元の形になっていく。
やがて潰される前の元通りの姿のまりさがそこにはいた。違う点は二本の腕が生えているだけだ。
「完全復活なんだぜ」
「よくやるわなぁ、毎日毎日」
こいつらは毎日このように殺されて、誰もいなくなってからひっそり復活してるらしい。
元々饅頭が動いてる不思議でいい加減な生物なのだ。不死身と知った時も、へぇ… くらいにしか思えなかった。
「じゃあな、兄さん。アディオスだぜ」
「ああ、またな」
そういってまりさは跳ねて行く。行く先は知らない。
野良のゆっくりは不思議な生き物だ。
普段は人間のイメージを演じ、人間を安心させ、誰もいなくなった後に本来の姿に戻る。
馬鹿で、単純で、すぐに仲間割れを起こし、人間から物を奪い、怖いもの知らずで、脆弱で、簡単に倒せる饅頭。
そんな人間のイメージ通り動いて、殺される。
それでも人間を恨まず、殺されてまで人間をゆっくりさせようとするのは何故なのか……
本当にゆっくりは不思議な生き物だ。
もしかしたら貴方の虐待して殺したゆっくりも、貴方が居なくなった後にこっそり復活しているかもしれない。
作者当てシリーズ
最終更新:2008年12月07日 14:36