「こんにちは!! ゆっくりしていってね!!!」
「……か☆ん☆ぺ☆き」
==========
「れーむ♪ れーむ♪ ゆっくり〜〜していってね!!」
「まりさも、ゆっくりしようね!!」
ここは森の中。
沢山のゆっくりが住んでいるが、ある一匹のれいむとまりさが二匹並んでゆっくりとしていた。
「まりさ♪ れいむといっしょにゆっくりすごぞうね♪」
「ゆ……? ……そうだね!! れーむとならゆっくりできるね!!」
一人身のまりさと違って、このれいむは家族達を家で暮らしていた。
それでも、このれいむはもう大人といえる大きさにまで育ってきている。
そろそろ、巣離れしても良い時期であった。
「やったね!! それじゃあ、れいむはもうかえるね!! はやくかえって、おかーさんにこのことをはなしてくるね!!」
「ゆっくりりかいしたよ♪ またあしたね!!」
「ゆ!! まりさもおーちにかえるよ!!! ゆゆ〜〜ん♪」
「こんにちは!! ゆっくりしていってね!!」
元気よく帰ってゆくれいむを見送り、さて自分も帰ろうと思っていた矢先、唐突に声をかけられたまりさ。
「ゆっくりしていってね!!」
反射的に返事をしたまりさは、ゆっくりとその声の主を目に収めた。
「ゆ? ありす?」
それは、このあたりでは余り見かけないゆっくりありすであった。
しかも、どことなく上品さが漂っている。
「そうよ。こんにちは。……もうこんばんはかしら? はじめまして」
「ゆゆ!! もうおひさまがないてるから、こんばんわでもいいね!!」
どこか押され気味だったまりさだが、なんとか言葉を搾り出し、会話を続けてゆく。
「ありすはここにすんでるの?」
「いいえ。さいきんここにひっこしてきたの」
「ゆっくりりかいしたよ!! まりさはずっとここにすんでるよ!!」
「そうだったの。なら、ここのことを、いろいろとおしえてもらえないかしら?」
「お〜け〜だよ♪ まりさにまかせてね!!」
既に日は落ちそうに成っていたが、それでもまりさは、近場を案内して色々な事をアリスに教えていった。
「ここは、のいちごさんがとれるゆっくりすぽっとだよ!!」
「きょうはここまでにしようね!! もうおそいから、れみりゃにおそわれるとたいへんだよ!!」
「そうね。ありがとうまりさ。おれいに、ありすのおうちにおよばれしないかしら?」
「ゆ? ありすのおうち?」
キョトンとしている魔理沙を尻目に、ありすがご馳走するからと付け加えると、まりさは二つ返事で了承した。
「きょうのたべものをとってきてないから、ありすのおうちにおよばれするよ!!」
「うれしい。ゆっくりついてきてね!!」
越して来たばかりの土地をすいすい進むありすの後ろを、まりさはホクホクの笑顔で付いていった。
「ここがありすのおうちよ!! ゆっくりしていってね!!」
案内されたありすのお家は、まりさが考えているよりもずっと大きかった。
「ゆゆ!! すっごいひろいおうちだね!! ありすはとってもゆっくりしてるんだね!!」
確かに、他のゆっくりの家よりも大きいが、今まで他のゆっくりの家に行ったことがなかったまりさには、
考えられないような大きさの家を持つゆっくりの様に感じられ、同時にありすに尊敬の念を覚えずにはいられなかった。
「そんなことはないわ、このくらいのおおきさのいえをもつゆっくりは、けっこういるわよ!!」
そんな興奮気味のまりさとは対照的に、ありすはあっさりと受け流し、奥の食糧庫に向かい食事の準備を始めた。
「ゆゆゆゆ!! ありすはごはんをつくれるの?!!」
「きちんとほぞんしているだけよ。そんなにむずかしいことじゃないわ」
ありすの行動に、次から次に驚く魔理沙。
食事が始まる前に、まさに一生分の驚きを体験したのではないかというほどであった。
「それじゃ。ゆっくりとゆうごはんをたべましょう」
「ゆっくりいただきます!!」
床に敷かれた大きな葉っぱに、果物や草の茎などが乗せられ、二匹の胃袋を満たしてゆく。
「うっめ!! これめっちゃうっめ!!」
食べているのは普段食べているモノと一緒だが、一人で食べるよりはふたりで食べた方がおいしい。
がつがつと食べてゆくまりさを見つめながら、ありすはそんな事を考えていた。
その頃、れいむのお家でも、夕食が始まっていた。
「ゆ〜〜しゃ♪ ゆ〜〜しゃ♪」
「ゆゆゆ♪ ほっぺについてるよ♪」
「ゆきゅ♪ おかーしゃんありがちょ〜♪」
大家族といっても過言ではないゆっくりれいむ一家。
姉妹の年齢も様々だが、年長者が年少者の面倒をしっかり見る事によって、母親の負担は少なかった。
「ゆゆ!! おかーさん!! れいむ、まりさとゆらいだるをすることにきめたよ!!」
「ほんとうなの!! ゆっくりよかったね!!」
「うん!! いっしょにすごうそうねっていったら、いいよっていってくれたの!!」
「ゆっはぁっ♪ それはよかったね!! おかあさんもゆっくりおうえんするよ!!」
「おねえちゃん!! いにゃくなっちゃうにょ?」
「れーみゅいやじゃーー!!」
「ごめんね!! でも、ときどきはまりさといっしょにかえってくるからね!!」
「ゆぎゅ」? ほんとう?」
「ほんとうだよ!! そのときは、めんこいあかちゃんをつれてくるから、しっかりおうたしいてあげてね!!」
この夜、一家の団欒は遅くまで続いた。
翌日。
ぐっすりと寝たまりさは、ガさゴソと言う音で目を覚ました。
「ゆゆ? あさからゆっくりしてないんんだよ?」
ぼーっとした頭で周りを見回し、写りこむ景色を見て、昨日ありすの家へ呼ばれたことを思い出したようだ。
「ゆ? おはようまりさ!! きょうもゆっくりしましょうね!!」
と同時に、アリスの声が聞こえてきた。
「ゆぐ? アリス!! ゆっくりおはようね!!」
漸く頭が覚醒したまりさは、何時もの調子でありすに声をかける。
「ゆっくりしようね!! さぁ、ちょうしょくのよういができたわ!! ゆっくりたべましょう!!」
そこには、ありすが準備した朝食が並べられていた。
見れば、昨日散らかった部屋の中も綺麗に片付いている。
おそらくは、アリスが早く起きて掃除したのだろう。
「ゆゆ!! ありがとうね!! ゆっくりたべるよ!!」
自分とは正反対のありす。
それがとても嬉しい事であったまりさが、ありすに心を奪われるのに、さして時間はかからなかった。
「ゆっゆ〜〜♪ おか〜さん!! ゆっくりこっちだよ!!」
翌日。
れいむはひと目みたいと言う家族達を引き連れて、まりさの家の近くまでやってきた。
何時もの散歩の延長。
違う事と言えば、ずっと話しっぱなしということくらいだろう。
「まりさは、わいるどだから、よくおそとでねてるんだよ!!」
れいむが得意げに話すと、家族からもすごいすごいと声が上がる。
基本的にのんびりなゆっくりまりさ。
行動的な話を聞くと、本能的に好意を持つのかもしれない。
「ここをずぅっといくと、まりさのすんでいるばしょだよ!! それじゃあ、れいむはさきにいって、まりさにつたえるね!!」
家族にそれだけ告げると、れいむは一目散に奥へと駆け出して行った。
初めて、まりさを家族に紹介できるという喜びに充ち溢れたその顔は、見ているこちらまで幸せにするような笑顔であった。
「ゆゆ?」
しかし、その顔もすぐに引込んでしまう。
どういうわけか、いつもはすぐに見つける事が出来るまりさが一向に見つからないのだ。
出会って最初の頃には、こういうことも何回かあったが、ここしばらくはなかった。
そんなこともあり、れいむは少し不思議に思ったが、まだ寝ているのかもしれないと思いなおし辺りを探してみる事に決めた
「ゆゆ〜〜〜ん♪ まりさ〜〜♪ ゆっくりおはようだよ〜〜〜!!」
しかし、返事は返ってこない。
「ゆゆゆ!! おねぼうさんなまりさはゆっくりできないよ〜〜♪」
草むら、木の中、……。
まりさが居そうな所を隅々まで探したが、一向に見つかることはなく、次第にれいむの口調も余裕のないものへと変わってゆく。
「まりさ!! かくれんぼはおにをきめてからだよ!! ゆっくりでてきてね!!」
「ゆっきゅりいちばんだよ!!」
「ゆ〜〜♪ はや〜〜い♪」
とうとう、家族がやってくるまでにまりさを見つける事が出来なかった。
そして、そのまま母親の元へと駆け寄っていく。
「ゆゆ!! まりさがどこにもいないの!! ゆっくりでてきてくれないの!!」
その言葉に、血相を変えたのは、経験豊富なお母さんれいむであった。
「ゆ!! それはたいへんだよ!! もしかしたら、れみりゃにたべられたり、けがをしていたいいたいしてるのかもしれないよ!!」
自身の経験から、起こりうる中で確率が高そうなものを思案してゆく。
その内容は、このれいむを震え上がらせるには十分すぎるものであった。
「たいへんだよ!! ゆっくりしてないではやくさがさないと!!」
それから、一家を総動員したまりさの捜索が始まった。
「まりちゃおね〜〜ちゃ〜〜ん!!」
「ゆっきゅりでてきちぇね〜〜〜♪」
「いっちょにおしょ」ぼ〜〜ね〜〜♪」
いまいち緊張感のない妹達とは対照的なのは、母親と婚約者であるれいむの二匹であった。
「まりさ!! までぃさ!! はやくでてきてね!!」
「ゆゆ!! おけがさんしてるなら、おかあさんが、な〜めな〜めしてあげるよ!!」
しかし数を増やして探してみても、まりさが見つかることはなかった。
「ゆぐぅ……。もっとまりさとゆっくりしたかったよ!!!」
最悪の結果を想像し、ボロボロと涙を流すれいむ。
「ゆゆ? れいむ? どうしたの?」
「まりさ? まりさなの?」
「そうだよ!! ゆっくりしていってね!!!」
唐突に現れたまりさを見て、れいむはさらに大粒の涙を流しながら駆け寄って行った。
「までぃさぁーー!!!」
そうして、いざ頬をすり合わせようとした時に、傍らにもう一匹のゆっくりが居る事に気がついた。
「ゆ? ゆゆゆ?」
「こんにちは。まりさのおともだちね、ゆっくりしていってね!!!」
それは、昨日からまりさと一緒にいたゆっくりありすであった。
しかし、そのことはれいむが知る由もあるはずがなく、寧ろなぜここに居るのかという表情でまりさを見つめていた。
「ゆ? ありすはどこからきたの? きょうは、まりさにだいじなようがあるから、いっしょにゆっくりはできないよ!!」
「ゆゆ? れいむ。ありすはずっとまりさといっしょにいたんだよ!!」
れいむの言葉の間違いを訂正するように、まりさは懇切丁寧に説明しだす。
「ゆ? ゆゆゆ?」
一方のれいむは、まりさの言っていることが理解できずに、口をぽかんと開けてただ耳に入れるだけである。
「ありすは、きちんとおうちをせいりして、まいあさきちんとごはんをよういしてくれるんだよ!! とってもゆっくりできるんだよ!!」
「ゆ〜♪ すごいね〜〜♪ ゆっくりしっかりしてるんだねぇ〜♪」
それはお母さんゆっくりの言葉である。
そして、それにつられて賛同する子ゆっくりの言葉である。
「ゆふふ。これくらいふつうよ」
「れいむ!! まりさは、ありすとゆっくりうえでんぐすることにきめたよ!!!」
「ゆ? どういうこt……」
れいむは、その言葉を最後まで言うことはできなかった。
言い終える前に、まりさがありすのほほにキスをしたからだ。
「ゆへへ。まりさのふぁーすとちゅっちゅだよ」
「もう。まりさったら、こんなところではずかしいわ。……それに、ありすもはじめてだったのに……」
「ゆゆ。ありす……」
「まりさ……」
「ゆっくりしてないでね!!」
目の前で起こっている状況に我慢が出来なくなったれいむは、猛禽類のように一気に二匹との間を詰めると、強引に二人の間に割って入った。
「ゆっくりまりさになれなれしいよ!! ゆっくりはなれてね!!!」
その表情は、激しい憎悪が宿っていたが、まりさからはその顔を覗く事ができない事が幸いした。
「ゆゆゆ? どうしたのれいむ? ざんねんだけど、これからおひっこししないといけないから、れいむとはあそんでいられないよ!!!」
そんなことを言われても、れいむは到底納得できなかった。
ほかならぬ、まりさがありすと暮らすという事が納得できなかったからだ。
はたまた、れいむの処理能力が追いつかなかっただけなのかもしれないが。
「ちがうよ!! まりさはれいむのだんなさんになるんだよ!! うわきなんてしたらだめだよ!!」
「ゆゆ?!! なにいってるのれいむ? まりさはそんなやくそくしてないよ!!」
「うそいわないでね!! このあいだ、いっしょにくらそうねっていったでしょ!!」
「ゆゆ? あれは、いっしょにいるってきかれたから、れいむといっしょにいるとたのしいからいいよってこたえたんだよ!!」
「ゆぐーー!!!!」
どうやら、まりさは勘違いをしていたようだった。
それは、れいむがキチンと伝えなかった事もあるが、そんなことを気にする事はれいむには出来ない。
「うそいわないでね!!! そのありすがむりしていいとこみせたから、いっしょになりたいだけでしょ!!」
そういうや否や、れいむはのほほんとしていたありす攻撃をしていた。
「ゆゆゆ!! いたいわ!! やめてね!!」
それは単なる体当たりであったが、ゆっくりにとっては重要な攻撃手段である。
同時に、本気で攻撃しているという事でもある。
「ゆ!! れいむやめてね!!」
「ゆげぇ!!」
今まで攻勢だったれいむが、突然吹き飛ばされた。
原因はまりさが割って入った為。
元々身体能力が上である魔理沙の一撃は、れいむを吹き飛ばすには十分な威力であった。
同時に、れいむの心もダメージを受ける。
ほかならぬ、大好きな魔理沙からの攻撃。
「ゆ……ゆゆ。まりさ。どうして……」
それは、れいむを負う全とさせるには十分であった。
「だって……!!」
まりさは、ゆっくりと、しかし厳しい口調でれいむに答える。
「まりさのおくさんをいじめるゆっくりは、れいむだってゆるさないよ!!!」
「!!! ……」
「ど、……」
「どうしてそんなごというのぉーーーーー!!!??」
それだけを口に出し、れいむは一目散に自分の家へと帰っていった。
「ゆゆ〜〜? まっちぇ〜〜おね〜ちゃ〜〜ん!!」
「はやいよーー!!」
「つかまえられないよ〜〜!!」
状況を良く飲み込めない子ゆっくりも後に続く。
「ゆゆ……。まりさはやっぱりひどいゆっくりなんだね!!」
ぷんぷんと言い残して、母ゆっくりもその場を後にした。
「ありす? 大丈夫だった?」
「ゆゆ……。ありすはだいじょうぶ!! ありがとう。まりさ」
二匹は、簡単にまりさの巣を掃除して、その夜はまりさの家で眠りについた。
翌日。
「ゆっくりおきてね!! ゆっくりおきてね!!!」
多数のそんな声で目が覚めた二匹は、朝の挨拶も忘れ、急いで外へ飛び出した。
「ぷんぷん!! やっとでてきたね!!」
「ゆっくりしすぎだよ!! もっとはやくでてきてね!!」
そこにいたのは、数十匹のゆっくり達だった。
それら全員でまりさの家を取り囲むように陣取り、中央には昨日のれいむ一家の姿もあった。
「ゆゆ!!? れいむ、いったいどうしたの?」
「ゆゆ〜? さいじごとかしら?」
まったく意味の分からないに二匹は、困った顔で周りの様子を伺うが、それでも何をやっているのかわからなかった。
しかし、自分達に向けられる視線が厳しいものだという事は何となくっ理解する事が出来た。
「れいむ、みんなもおかおがこわいよ。もっとゆっくりしようよ!!」
「うるさいよ!! こいどろぼうするまりさがわるいんだよ!!!」
ゆっくりとは思えない程怒りを露にするれいむ。
それに同調するように、周りのゆっくり達も罵声を浴びせてくる。
「ゆっくりできないこだね!!」
「そうだよ!! さいていのゆっくりだよ!!」
それだけ言われても、寝起きのまりさたちは未だ状況を飲み込めていない。
その態度が、一層れいむの怒りのヴォルテージをあげてゆく。
「まだうぞつぐんだね!! ぞのありずにだまされてるんだよ!!」
れいむの声に合わせて、全ての視線がありすに向けられる。
一匹を除いて、全て敵意をむき出しにした鋭い視線だ。
「むきゅ!! そうよ!! あのこがわるいわ!!」
「わかるよー!! わかるよーー!!」
「まりさだったら、ぜったいあんなしりがるのゆっくりなんてえらばないんだぜ!!」
「ゆぐぐ!! ありすのことわるくいわないでね!! ぷんぷん!!」
そう言って、威嚇してみるものの、視界いっぱいに映る相手に、自然と口調は棒読みになってしまう。
それでも、ありすを守ろうとピッタリと寄り添うまりさ。
「ゆぐぐぐ!! どうじでぞんなごどするのぉーー!!!」
またしてもれいむの逆鱗に触れてしまった。
「もういいよ!! ありすはゆっくりできないから、みんなでやっつけるよ!!」
声を上げたのは、母れいむだった。
何時までも、子が辛くしているのを見たくはない。
その気持ちがほかのゆっくりにも伝わったのか、どのゆっくりも表情は真剣で、じりっじりっとまりさ達との間合いを詰めてゆく。
「おねーちゃんをなかせるりゃ!!!」
「ゆっきゅりやっつけるよ!!」
果てには子供達からまでも罵声が浴びせられたが、そこまでいっても、やはりまりさは分からなかった。
ただ、どうしてこんなことになってしまったのかと言う気持ちだけが延々と頭をめぐっている。
これから、ありすと幸せに暮らしていくつもりだったのに。
「わるいゆっくりはゆっくりしね!!」
「!!!」
いつの間にか、れいむ達はすぐ先までやってきていた。
もう逃げ出す隙間さえない程に完全に囲まれた二匹。
「ゆゆう……。まぁりさぁ!!」
「だいじょうぶ!! まりさが、ゆっくりまもるよ!!」
おびえるありすの目を見ながら、まりさはそれだけ呟くのが精一杯だった。
「さるしばいはやめでっていっでるでじょーー!!!! ゆっくりしねぇーーー!!!!」
飛び掛ってくるれいむの姿を認めた後、目元に涙を浮かべながら、まりさは気を失った。
==========
「ゆべ!!?」
れいむは、まりさにたどり着く事が出来なかった。
勢いよく飛んだにもかかわらず、着地したのはまりさの1mほど手前
後ちょっとでまりさにたどり着く、あの変なありすをやっつけられると思っていたれいむであったが、斜め方向へ進んだ事態に、キョトンとした表情を見せる。
「……!! いいいいいいだい!! いだい!!」
次にれいむを襲ったのは痛み。
それも、普段生活する時には感じたことがなかった程の痛みが、れいむが襲った。
れいむが目線を変えると、丁度自分の底の部分辺りがランスのようなもので突き破られていた。
「どっ!! どうなでっるのぉーー? さっさどぬいでぇーー!!!」
「れ!! れいむ!! だいじょいぶ? いだいいだいでじょ!!」
「ゆわーー!! おねーーじゃーーん!!」
れいむの家族が駆け寄ってゆくが、その中に原因が分かっているものはいなかった。
怪我が心配だったからだろう。
その所為で、一家は他のゆっくりよりも多少遅く原因を知ってしまう事になる。
「……。まったくやっぱりゆっくりって馬鹿ね。一匹じゃ何にも出来ないのかしら?」
その声で、漸く一家は原因を確認する事が出来た。
答えは人間。
しかも、やっかいな人型だったがゆっくり達には知る由もないことであった。
「ゆぐ!! おねーーざん!! れいむのかわいいこどもがいたいいたいになったの!! ゆっくりちりょうじで!!」
「知ってるわ。その汚い饅頭を攻撃したのは私だもの」
何をいまさら。
あまりにも飄々と答えたことで、一家は理解するのにかなりの時間がかかってしまった。
「ど、どうじでごんなごどするのぉーー!! さっさどあやまっでなおじであげでーー!!」
「おねーーちゃんをなおちちぇーー!!」
「いちゃがっ、てるよーー!!!」
それでも、ゆっくりゆえの知能の低さか、治療して貰おうと頼む様子は変わらない。
「本当に馬鹿なのね。何で直さなくっちゃいけないのよ。どうせこれから全員纏めてあの世まで送ってやるのに。ああ、饅頭にはあの世なんてないんだったかしら?」
間髪おかず、一体の人形が懸命に励ます赤ちゃんゆっくりの体を、ナイフで切り裂いた。
「ゆきゅ……? ゆぎぇ!!!」
断末魔をあげ、息を引き取り、それが合図であるかのように攻撃を始めたほかの人形達。
「やめでね!!! いだがっでるよ!!」
母れいむが必死になって払いのけようとするが、機敏な動きの人形達はヒョイヒョイかわしかすりもしない。
モノの数十秒で子供達は全て切り裂かれ、母れいむも髪飾りはバラバラにされ、餡子をいたるところから垂れ流す物体へと変わってしまった。
その実力の差を目にし、漸く他のゆっくり達も危機を感じたようで、くるっと振り返り、一目散に森の中へ逃げ込もうとする。
「ゆげぇ!!」
「わからないよーー!!」
しかし、既に自分達が人形に取り囲まれている事に気付き、一転して前を向き直り、たちまち混乱に陥ってしまった。
「むぎゅ!! ぱじゅりーーをふまな……いじぇ!!」
「ぼ、ぼうじ!! までぃざのぼうじがないんだぜ!!」
勝手に自滅していくゆっくり達。
あの恐怖の人形達は、散発的に上手く抜け出したゆっくりや、混乱の中へ弾幕を張る程度だ。
喧騒が鳴り止むと、そこには餡子特有の甘い匂いが満ち溢れていた。
「すっごい匂いね。れみりゃやふらんが来る前に焼き払わないと」
人形を操り、餡子を集め、魔法を使って一気に焼き尽くす。
彼女は、この森に住む魔法使いだった、が作業を終えて未だ息のある一匹のゆっくりの元へ振り向く。
「一応聞いてみるけど。どうしてこうなったか分かる」
必死に体を横に揺らすそれは、あのれいむであった。
受けた傷は動く事を不可能にしたが、致命傷にはならなかった。
魔法使いに一番近い位置から、家族や友達、仲間が無残に殺されていく所をまじまじと見せ付けられていた。
「やっぱりね。良い? あなたは、あのゆっくりの結婚相手を取ろうとしたの」
そう言って指を刺すのは、未だ恐怖で震えているゆっくりありすである。
「まぁ、あんたみたいな不細工な饅頭が、キチンと躾を受けた饅頭に嫉妬するのも分かるけど、
まぁ私に比べたら五十歩百歩なんだけど、それでも、やっぱり応援してあげたいじゃない?
だから、必死にしつけて、まりさが惚れるようにしてあげたの。私も今すぐにでも魔理沙のお嫁さんになってあげたいんだけど、
あれよ、英雄色を好むだったかしら? 私は結婚後の浮気も寛大だけど、あの娘は根が真面目だから、
他の女とは結婚前に遊んでるみたいで、もちろん、私は気にしないわ。寧ろ、後はずっと一緒に居られる事がすばらしいわ。
こんなにも魔理沙は私の事を思っていてくれたのね。ああ嬉しい。さすが魔理沙。かわいいかわいい魔理沙……」
魔法使いの独白は止まらない。
その間も、れいむは一生懸命この事態を考えていた。
そして、これはまりさからありすを引き離そうとした自分に責任があるということは結論付ける事が出来た。
一昨日、皆で自分の門出を祝ってくれた家族も。
魔理沙ほど親密ではなかったにせよ、小さいときから遊んでいた友人達も。
ごきんじょさん、のゆっくり達も。
このお姉さんが言ったとおり、全部自分のために死んでいったんだ。
後悔とも、悲しみとも取れる表情で、大粒の涙を流し続けるれいむ。
しかし、口から出たのは違う言葉だった。
「…………わかったよおねえさん」
その声に、魔法使いの口が止まる。
「でも!! まりさはれいむのおむこさんだよ!! かってにとっちゃだめだ、よ?」
次に動いたのは足。
その脚で、ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけてれいむを潰していった。
「なにってるの。芬蘭が四六時中魔理沙に張り付いてたのよ。あんたはそんなこと言ってはいなかった。
良い? 言ってなかったのよ。あんたもあいつみたいにしれっとそんな事言うのね」
事切れたれいむを何度も踏みつけ、靴がグチャグチャになったにもかかわらず、魔法使いは言葉が続く限りその行為を辞めようとはしなかった。
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「ありす。大丈夫だったかしら?」
「ゆぐぐ!! おねーーさんこわかったよ!!」
「そうね。外の世界はこういう悪いゆっくりがいるのよ。ずっと家の中にいたから忘れちゃったかしら」
「ゆ〜〜……。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいわ。それよりも、まりさが起きたら、あれは夢だったって伝える事。守れる?」
「もちろんまもれるわ!!」
「いい子ね。これは今日の夕食よ。コンクフードっていう栄養たっぷりの食べ物だから、まりさと一緒に食べなさい」
「うん!! ありがとう!! マー……」
===================
「ゆぎゃーー!!! ……ゆ?」
まりさが起きたとき、既に日は傾きかけていた。
「ゆゆ? ゆゆゆ?」
先ほどまでの光景からは想像も出来ないくらい静まり返り、しかもありすの家の中に居るという事に頭をかしげるまりさ。
「ゆ♪ まりさおきたの♪」
「ゆ? ありす? ……さっきれいむたちが……」
「れいむ? まりさはひっこしてきてから、ずっとねむってたのよ。きっと、つかれてたのね」
「ゆ。……そうだったの? ごめんね。まりさは、おねぼうしちゃったね!!!」
考えても分からないので、まりさはありすの言う事が真実だと思い、ありすの用意してくれたご飯を食べる事にした。
「ゆゆ!! これめっちゃうまい!! こんなにおいしいの、ありすがとってくれたの?」
「ちがうの。しんせつなにんげんさんからもらったの、とってもしんせつなひとだから、こんどまりさにもしょうかいするわ」
しっかりと偽装された入り口からは、中睦まじい新婚夫婦の声が聞こえてくる。
その団欒は、何時までも続く事だろう。
寿命を持った操り人形の糸が切れるまで。
最終更新:2011年07月27日 23:25