#現代設定・ぬるめ・制裁的・子ありす優遇
ゆっくりとオートバイ 2
ゆっくりがらみのごたごたでツーリングの出発が遅れてしまった男だったが、心配したほど渋滞には巻き込まれずに、割とすんなり市街地を抜けることができた。
途中で休憩に立ち寄った道の駅に焼き芋が売っていたので、おやつにでも食べようと二本ほど購入する。
道の駅を出てさらに進み、幹線道路から外れて山の裾野に広がる原生林の中を通る道路へと入っていく。
左右に立ち並ぶ木々の間を走り抜けると、道の両脇に広がる牧草地が姿を現した。
牧草地には刈り取った干草をロールにしたものが所々に置いてある。
景色を見ながらのんびりとバイクを走らせていると、突然道路の左側から何か丸い物体が転がり出てきた。
「うぉっ!!」
男はあわててブレーキを掛けたが、停止が間に合わずに前輪がその物体を踏み潰してしまう。
続く後輪が潰れた物体の上でスリップし、車体が大きく揺れた。
バランスを崩して転倒しそうになる車体を何とか立て直し、男は十メートルほど進んだところでバイクを停止させた。
「うわ、やっちまったか……」
バイクを路肩に寄せるとスタンドを立てて、男はバイクから降りた。
エンジンを切ってからヘルメットと手袋を脱いでハンドルに引っ掛ける。
バイクの下を覗き込むと、後輪のタイヤとホイールにクリーム上のものが飛び散っていた。
とりあえず、何を轢いたのか確認するために道路を戻ると、路面に潰れたゆっくりがへばりついてた。
二百キロを越えるバイクに轢かれたために、丸かったであろう体は無残にひしゃげしまっていた。
口と目が有った場所からは大量のカスタードが溢れ出している。
目玉は二つとも眼窩に無く、一個は溢れ出たカスタードの中に転がっているが、もう一個はどこかに飛んでいってしまったのか、見つけることができなかった。
周りの路面を探してみると、道路の反対側にゆっくりの目玉らしきものが転がっていた。
体にかかった圧力により饅頭肌が所々裂け、黄色いカスタードが溢れ出ている。
金色の髪の毛の間には、タイヤに踏まれて粉々に砕けた赤い髪飾りを見ることができた。
「――ゆっくりありすか」
ゆっくりを轢いた場合は、邪魔にならないように路肩に始末するのがバイク乗りのマナーである。
四輪が地面に接地している自動車と違い、二輪で不安定なバイクにとって路面に放置されたゆっくりは、スリップによる転倒の原因となり非常に危険だからだ。
「れいむかまりさあたりなら楽だったんだけどなぁ……」
轢いてしまったゆっくりがれいむ種かまりさ種ならば、中身は餡子なので撤去もそれほど難しくは無いのだが、ありす種やぱちぇりー種などは中身がクリームなので非常に面倒だった。
ありすだった残骸を見下ろしながら、男はどうやって片付けようかと考えた。
素手では触りたくないので、とりあえず携帯シャベルで片付けることにした。
男がシャベルを取りにバイクへ戻ろうとしたとき、
「ゆぅうう!! おにいさんひどいんだぜ!!」
と、牧草地と道路を隔てる柵の下の茂みから、バスケットボール程の大きさのゆっくりまりさが飛び出してきた。
「おにいさんがまりさのはにーをころしたんだぜ!! まりさはみていたんだぜ!!」
そう言って、まりさは男の目の前で跳ねた。
「あー、このアリスはお前のはにーだったのか?」
と男がありすだった物をを指差してまりさに訊くと、「ゆふん、そうなんだぜ!!」となぜか勝ち誇るようにまりさは反り返った。
「そりゃわるかったな。だけど飛び出してきたアリスが悪いんだぞ」
これが人間相手だったら男にも前方不注意の過失があるのだが、道路交通法はゆっくりの為にあるわけでは無い。
「ゆっ!? でもおにいさんがころしたんだぜ!!」
ぷくーっとまりさが頬を膨らました。
「おにいさんがありすをころしたから、まりさひとりじゃあかちゃんたちのごはんがあつめられないんだぜ!!」
赤ちゃんという単語に反応して、男はまりさに訊いてみた。
「おうちに子供がいるのか?」
「そうなんだぜ、このままじゃふゆのごはんがたりないんだぜ!!」
「ふぅん、それでお前は如何してもらいたいわけだ?」
「ゆっ! おにいさんはまりさにごはんをよこすんだぜ!!」
何当然のことを聞いてるの? と、まりさが再び反り返る。
「ああ、そうくるわけね」
どうやら、ありすが死んでしまって赤ちゃんたちのご飯が十分に集められないので、ご飯をよこせと男に要求しているらしい。
しかし、男は今のやりとりに違和感を感じていた。
ゲスなゆっくりは平気でパートナーを裏切るらしいが、普通のゆっくりは恋人やつがいに対する愛情をそれなりに持つものらしい。
突然目の前でパートナーが死んでしまったら、まずありすの死体にすがって泣き叫んだりするのが普通の反応ではないだろうか? と男は思った。
それなのに、このゆっくりまりさはありすの死を悲しみもせずに、男にご飯を要求してきた。
どうしようかと考えていると、まりさの後ろの茂みからソフトボールぐらいの子ありすが這い出してきた。
「ゆうぅ・・・・・・おにいさん、そのまりさはうそをついているわ」
その子ありすは、所々傷ついて大分弱っているみたいだった。
いったいどういうことなのかとありすに話を訊こうとしたとき、それを遮ってまりさが子ありすを跳ね飛ばした。
まりさの体当たりに、体の小さい子ありすは悲鳴をあげて茂みの中に弾き飛ばされてしまった。
「ゆっ!! くずありすはきにしないでいいんだぜ!! おにいさんははやくごはんをよこすんだぜ!!」
子ありすを弾き飛ばしたまりさがご飯を要求してくる。
「まぁ待て、あのありすの話もきいてみようじゃないか」
「ゆゆっ!! あのありすはかんけいないんだぜ!! はやくごんをよこすんだぜ!!」
跳ねているまりさを無視して、男は子アリスが飛ばされた茂みへと歩いていった。
柵を越えた茂みの向こう側は綺麗に牧草が刈り込まれていた。
そこに、先ほど弾き飛ばされた子ありすが横たわっている。
「ゆげぇ、ゆぅ……ゆぅ……」
まりさの体当たりかなりのダメージだったらしく、少しカスタードを吐いてしまい、か細い声をあげている。
「――ん? なんだこりゃ、ありすの死体か?」
その子ありすの周りには、子ありすより一回りほど小さい幼ありすの死体が三匹転がっていた。
男は子ありすをそっと持ちあげて訊いてみた。
「このありすたちはどうしたんだ?」
「ゆ……ありすのいもうとたちよ……ごめんね、よわいおねぇちゃんでごめんね……」
呻く様に言って子ありすは泣き出してしまった。
男は子ありすを治療してやろうと思い、子ありすを手のひらに乗せてバイクを停めているところへと戻った。
男が子ありすをバイクのシートの上にそっと乗せてやると、
「そいつをどうするんだぜ?」
と後に着いてきたまりさが訊いてきた。
「とりあえず怪我を治してやって、こいつの話をきいてみないとな」
男が答えると、まりさは目に見えて狼狽しはじめた。
「それに、おまえにも聞きたいことがあるから待ってろ」
「ゆゆっ、まりさはあかちゃんがしんぱいだからおうちにかえるぜ!!」
まりさはじりじりと柵のほうへ向かって後ずさり始めたが、男はそのまりさの帽子を素早く奪い取った。
「ゆゆっ!! まりさのおぼうしをかえすんだぜ!! ――ゆべっ!!」
帽子を奪われたまりさが取り返そうと男に飛びかかるが、男はそれを軽くかわして地面に落ちたまりさを上から踏みつけた。
「静かに待っていないと帽子を破り捨てるぞ!!」
「ゆぐっ、やめるんだぜ!! ぼうしがやぶれたらゆっぐりできないんだぜ!!」
「それなら静かにしてるんだな」
と言って男はまりさの帽子をバイクのバックミラーに引っ掛けた。
シートの上の子ありすの状態を観察すると、カスタードを吐いたために大分弱っているみたいだが、幸いなことに中身が漏れるような傷は無いようだった。
ゆっくり治療の万能薬といえばオレンジジュースなのだが、あいにく男の手元には無かった。
何か変わりにならないかと考えると、昼に飲もうと買っておいた紙パックの野菜ジュースがあることを思い出した。
車体の後部に取り付けたトップケースを開けて野菜ジュースを取り出す。
成分表示を見ると果汁成分にりんごとみかんが含まれていた。
オレンジジュースの代わりに成るかもしれないと思い、パックの端を切り取って子ありすの口へと流し込んでやった。
「ごーく……ごーく……しぁわせぇ…・・・」
ゆっくりと子ありすの口に流し込んでやると、紙パックが空になるころにはだいぶ元気を取り戻していた。
「ゆぅ……おにいさんありがとう……」
これならば野菜ジュースが体になじめば問題なく元気になるだろう。
ふと、まりさに目を向けると帽子の下でぴょんぴょんと跳ねていた。
帽子に夢中でありすに野菜ジュースを飲ませたことには気がついていないらしい。
「ゆゆっ、まりさのおぼうしはやくおちてくるんだぜ!!」
跳ねるが帽子には届かない。
「ゆーーっ!! どぼじでおぼうしにとどかないのぉお!!」
バックミラーの高さは地面から一メートル以上はある。
どう考えてもゆっくりまりさの跳躍力で届く高さではなかった。
「ゆぎぃい!! ゆっくりおちろぉおおお!!」
子ありすが回復するまでの暇つぶしにと、まりさの無駄な足掻きを眺めていたが、バイクに体当たりを始めたので静かにさせることにした。
ゆっくりの体当たりで二百キロを越えるバイクが倒れることは無いだろうが、ウインカーやフェンダーに当たると壊れるかもしれないからである。
「おい、静かにしてろといったはずだよな!!」
帽子に夢中で男に気が付かないまりさの頭を掴んで持ち上げる。
「ゆゆっ、ゆっくりはなすんだぜ!! おぼうしをかえすんだぜ!!」
「静かにできないまりさは、帽子はいらないんだな」
「ゆっ!? なにいってるの? おぼうしはだいじなんだぜ!! ばかなの?」
「そうか、それならば静かにしてるんだなっ!!」
男はまりさを逆さにすると、あんよとよばれる底面に思いっきり平手を打ち込んだ。
「あっがっが!! あがっがががが!!」
弾けるような大きな音を立てて平手が決まると、まりさは白目をむいて痙攣しだした。
ゆっくりは強い衝撃を受けると、痛みから精神を守るために防衛本能が働くのかしばらく意識が飛ぶのである。
また、あんよに平手のような面の打撃を与えると、しびれて動けなくなるらしい。
「暫く転がってろ」
男は驚愕した表情のまま目を剥いて硬直したまりさを足元に転がすと、シートの上の子ありすに視線を向けた。
「ゆっ、ゆっくりげんきになったわ!! べ、べつにかんしゃなんかしてないんだからね!!」
子ありすはすっかり回復したらしく、元気に礼を言ってきた。
感謝して無いと言っているが、これはありすの習性で感謝しているの意味である。
男は子ありすに何があったのか訊いてみることにした。
「さて、いったいなにがあったんだ? あのありすたちの死体はなんなんだ?」
「ゆぅぅ……、あのありすはありすのいもうとたちよ……」
シートの上の子ありすは涙ぐみながら話し始めた。
「ありすは、ままといもうとたちとみんなでかりにでかけたの。あそこでみんなでゆっくりやすんでいたら、あのまりさがいきなりいもうとたちを……ゆぅぇえええん!!」
無残な姿の妹たちを思い出したのか、子ありすは泣き出してしまった。
「ありすはまりさにくささんのなかにとばされて、いたくてうごけなかったわ……」
しばらくして泣き止んだ子ありすは、ゆっくりと話し始めた。
「いもうとたちをころしたまりさはつぎにままをゆっくりできなくして、どうろにはじきとばしたのよ……」
「そうか、大変だったな……」
男は子ありすの話を聞いて、まりさに感じた違和感に納得がいった。
まりさは轢かれたありすに愛情など持っていなかったのである。
まりさの行動と子ありすの話を聞く限り、やけに手馴れている感じがするので初犯ではないのかもしれない。
もしかしたら、最初に本当に事故があったのかもしれないが、食べ物がもらえたことに味を占めて次からは無関係なゆっくりを殺害して食べ物を得ていたのだろう。
おそらくこの想定は間違いないだろうが、まりさ自身の自供も得ておこうと男は考えた。
「よし、お兄さんはまりさに話を聞いてくるから、もう少しそこでまってろよ」
「ゆゆっ、ありすはうそをついてないわ!! とかいははうそをつかないのよ!!」
ありすのことを信じてくれないの? とありすは頬を膨らませる。
「ありすのことは信じてるけど、一応確認してみるだけだから。都会派なら容疑者にも尋問がひつようなことがわかるよな?」
「ゆ? そ、そうね、ようぎしゃのまりさをしっかりとりしらべてね!!」
男はあんよが痛いと呻いているまりさの頭を掴むと、ミラーにかけた帽子を取ってさきほどの茂みの向こう側へと歩いていった。
そして、ありすの妹たちの死体の脇にまりさを放り投げた。
「ゆべっ!! なにをするんだぜ!!」
喚くまりさに帽子を被せてやると、男は腰を落としてまりさに話しかけた。
「ゆゆ〜ん!! まりさのおぼうしだぜ!!」
「おいまりさ!!」
「ゆっ!! なんなんだぜ!? じじいはさっさとしぬんだぜ!!」
「さっきのありすは嘘を吐いているみたいだからな、まりさに話を訊かせてもらうぞ!」
「ゆゆっ!? そうだぜ、くずのありすはうそつきなんだぜ!!」
男がありすを嘘吐きと呼んだことで、まりさは嘘がばれていないと思い込んでありすを罵倒しだした。
「それにしても、このありすたちはいったいどうしたんだ? これだけのゆっくりを倒せるのはさぞかし立派なゆっくりだろうな」
男は周りに転がる子ありすの死体のことをまりさに訊いた。
「ゆっへっへ! こいつらはくずのありすだったからまりさがゆっくりさせてやったんだぜ!!」
「そうか、まりさがゆっくりさせてやったのか、まりさはすごいゆっくりしたゆっくりだな!!」
男がおだてると、まりさはそれほどでもないんだぜと、にやにやしながら反り返った。
「それで、あの轢かれたありすはどうしたんだ?」
「ゆふん、あのありすはきっとれいぱーなんだぜ! れいぱーありすはしんでまりささまのやくにたててやるんだぜ!!」
あのありすを自分のはにーだと言った事を、まりさは忘れてしまったらしい。
男が少しおだてただけで、まりさはあっさりと事故を偽装しようとしたことを自白してしまった。
「そうか、それならまりさにはご褒美をあげないとなぁ」
「ゆゆっ!! まりさにあまあまをよこすんだぜ!!」
「そうだな、どれぐらいあげればいいのかなぁ……前のときは何をもらったんだ?」
男の問いかけは明らかに誘導尋問を狙っているのだが、まりさの餡子脳は気付くことができない。
「ゆふぅ、このまえはおねーさんがびすけっとをいっぱいくれたんだぜ!!」
そのときのビスケットを思い出したのか、まりさは涎を垂らしそうなしまりの無い顔で言った。
「それで、そのときもありすだったのか? それともれいむか?」
「ゆっへっへ、このまえはのろまのぱちゅりーをつきとばしてやったんだぜ!!」
そして、男の誘導に過去のゆっくり殺しまで自白してしまった。
「――なるほど。つまりおまえは罪の無いゆっくりを殺して、それを利用して人から御飯を騙し取っているんだな」
「ゆゆっ? どういうことだぜ?」
「なにいってるんだ、お前が自分で言ったんじゃないか。轢かれたありすと、ここにいる子ありすを殺したって――」
「ゆっ、それはちがうんだぜ――」
「それも初めてじゃない、前にもぱちゅりーを殺して同じことをしているんだろ?」
先ほどまでと違った冷たい男の声を聞いて、まりさは自分が何を話してしまったかやっと気がついた。
まりさは落ち着き無くきょろきょろとあたりを見回しながら、なんとか言い訳をしようと考えている。
「ゆっくり殺しのまりさには御仕置きしないとなぁ!!!!」
突然の男の怒声に我慢できなくなったのか、まりさは咄嗟に跳ねて逃げ出してしまった。
だが、運動能力が高いと言われているまりさ種でも所詮はゆっくりである。
五メートルも跳ねないうちに、追いつかれて簡単に捕まってしまった。
「ゆがぁあ!! はなすんだぜ!! まりさはなにもしてないんだぜ!!」
「何もしていないも無いだろ、あれだけ自慢げに話しておいて――っと!!」
男はまりさを逆さにすると、再びあんよに思いっきり平手を打ち込んだ。
「あっがっが!! あがっがががが!!」
先ほどと同じく、まりさは白目を剥いて痙攣しだした。
「さて、どうすりゃいいんだこいつ? とりあえずありすの意見でも聞いてみるか」
男はまりさを掴んでぶら下げると、子ありすの待つバイクへと戻っていった。
陽射しの当るシートの上が心地よかったのか、子ありすはゆるんだ顔をしてゆっくりしていた。
「ありす、もどったぞ」
「ゆ〜ゆ〜、ゆゆっ!! おにいさんどうだったの?」
「こいつがお前の家族を殺したことを自白したよ。あと、前にも他のゆっくりを殺していたみたいだな」
白目を剥いたまりさを掲げて男が告げると、子ありすはまりさを刺すような目で睨み付けた。
「ゆぅううう!! そのまりさはゆっくりごろしだったのね!!」
「それでお前に聞きたいことがあるんだが、ゆっくりを殺したゆっくりってのはどうするんだ?」
男が訊くと、子ありすは何かを思い出すように目を瞑って首をかしげた。
「――ゆっ!! ゆっくりできないゆっくりごろしのゆっくりは、ゆっくりいばらのけいだってままがいっていたわ!!」
「ゆっくりいばら?」
「ゆっくりできないとげとげのついたくささんとか、いたいいたいとがったいしさんのうえにのせるらしいけど……」
「なるほど、あんよを傷つけて動けなくするんだな。それじゃあこいつもそうするか」
「ゆっ!! ゆっくりごろしのまりさをこらしめてね!!」
男は再びまりさの帽子を取ってミラーにかけると、まりさを足元に放り投げた。
潰れたような声を上げるまりさを無視して、バイクのトップケースを空ける。
子ありすが不思議そうに見ている前で携帯用のガスバーナーととガス缶を取り出すと、平べったいガス缶の上にバーナーを取り付けて地面に置いた。
「ゆぅ? おにいさんそれはなにかしら?」
「んー、これはガスバーナーって言うんだ。こうやると火がつくわけだな」
男がバーナーのつまみを回してライターの火を近づけると、バーナーに青い火がともる。
「ゆゆっ!! とってもきれいでとかいてきね!! でも、ひさんはあつくてゆっくりできないわよ?」
野生のゆっくりが火を見ることは殆んど無いが、この牧場の近くに住んでるゆっくりは牧草地で飼料に適さない雑草などを焼いているところを時々見たことがあった。
火は離れたところにいれば暖かくてゆっくりできるが、あまり近づくと肌がからからになってゆっくりできなくなってしまう。
また、枯れ草の山にもぐりこんで眠っていたゆっくりが、そのまま焼き殺されてしまうこともあった。
そして、火の近くには人間がいることが多いため、この付近のゆっくりたちは火を見ても近づかないようにしていた。
「ゆっくり出来なくなるのはまりさだからいいだろ。――っと」
火力を調節して中火にすると、男は白目を剥いてるまりさの頭を掴んでバーナーの上にかざした。
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……」
まりさのあんよを炙ると、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
「ゆ゛っ――ゆ゛ぎぃいいいいい!! あぢゅぃいいいいいいい!!」
気が付いたまりさが絶叫を上げた。
ぐにくにと男の手の下でうごめくが、頭を捕まれ吊り下げられているのであんよを焼く火からは逃れることができない。
「ゆぁあああああ!! どぼじでばりざのあんよがあぢゅいのぉおおお!! じじいばばりざをはなずんだぜえええええ!!」
男につかまれていることに気が付いて威嚇してくるが、男は構わず満遍なく火が当るようにまりさをバーナーの上で動かしてやる。
まりさの体からは汗なのか、とろりとした液体が染み出してきていた。
下までたれた液体が火に炙られて、じゅうじゅうと音を立て甘い匂いをさせている。
男は手が滑らないように、しっかりと指に髪の毛を絡めてまりさを掴みなおした。
「あぢゅ、あぢゅ、あぢゅぃいいいいい!! ゆ゛ぅうううううう!! おでがいじまずぅううううう、ばりざをだずげてくだざぁいいいい!!」
さらに炙り続けると、まりさは男に助けを求めて懇願し始めた。
子ありすに目を向けると、親の敵とはいえ同属が焼かれる様は見たくないのか、背を向けてしまっている。
「そろそろいいかな?」
まりさを火から離して裏返して見ると、あんよの部分が狐色のカリカリに焼きあがっていた。
男が表面を指で弾いてやると、軽い音がして表面がぽろぽろと剥がれ落ちてくる。
これだけ焼き上げれば自然治癒は不可能なので、もうう二度と跳ねることも這うこともできないだろう。
男はまりさを柵の手前に置くと、ミラーにかけていた帽子を取って被せてやった。
まりさはすぐさま逃げ出そうと身をよじったが、しっかり焼き上げられたまりさのあんよはピクリとも動いてくれなかった。
焦ったようなまりさの顔が、自分が動けなくなったことを悟って絶望の表情に変わる。
「ゆ゛がぁああああ!! ばでぃざのぎれいなあんよ゛がぁああああ!! じじいはぢねぇえええええ!!」
まりさは泣き叫びながら男に跳びかかろうとするが、あんよが動かないためにその場で罵声を上げることしかできなかった。
男がバーナーの火を消して子ありすのところに戻ると、子ありすは目を瞑って口の端からよだれをたらしていた。
辺りにまりさを炙った甘ったるい匂いが漂っているため、お腹が空いてしまったのだろう。
「ありす、おわったぞ!!」
「ゆっ! こっ、これは――べっ、べつにおなかなんかすいていないわ!!」
みっともない姿を見られて恥ずかしいのか、子ありすは頬を赤らめながら取り繕っている。
後でシートは拭かないと駄目だと男は思った。
男は子ありすを持ち上げると、まりさの前に降ろしてやった。
子ありすの目の前には、泣き叫んで、涙と体液にまみれた酷い顔になっているまりさがいる。
「ゆゆっ!! ぶさいくなかおのまりさね!!」
「ゆがぁあああ!! ばりざはぶさいくじゃなぃいいい!!」
「おにいさん、このまりさはもううごけないの?」
子ありすが男を見上げて訊いた。
「しっかり底を焼いたから、たぶん二度と動けないんじゃないかな」
「ゆっ! ゆっくりごろしのまりさは、ゆっくりしんでね!!」
子ありすは動けないまりさに向かって体当たりを始めた。
まりさは動けないので一方的に攻撃を受けているが、成体サイズのまりさに対して子ありすの体当たりではあまりダメージを与えられないようだ。
しかし、それも何度も繰り返されれば話は別である。
「ゆ゛っ! やべるんだぜ!! クズのありすがなまいきなんだぜ!!」
「ゆゆぅうう!! ゆっくりしね!! ままのかたき!! ゆっくりしね!!」
「ゆ゛ぅうう!! じじいはみていないでばりざをだずげるんだぜぇえええ!! ゆぶっ!!」
「これはいもうとたちのぶんよ!! ゆっくりしね!!」
「ゆべぇ!! ゆ゛ぐぐぅうう!! あどでおぼえでるんだぜけえええ!!」
十数回ほどまりさに体当たりすると、子ありすはまりさから離れてへたり込んだ。
先ほどまりさに殺されかけて治療したばかりなのに、激しく動いてかなり疲れているのではないだろうか。
「ゆぅ、ゆぅ……これぐらいにしておいてあげるわっ!! あとはゆっくりくちはてていってね!!」
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……くずありすはころじでやるぅうううう……」
一方的に子ありすの体当たりを受けていたまりさは、餡子を吐き出してはいないが苦しそうにしている。
男は先ほど子ありすがよだれを垂らしていたのを思い出して、バイクのトップケースの中からおやつに買っておいた焼き芋を一本取り出した。
病み上がりであれだけ激しく動けば、お腹も減っているだろう。
「ほら、ありす。お腹が減っただろ」
そう言って、男は焼き芋を半分に割ってありすの前へと差し出してやった。
「ゆゆっ? とってもとかいはなにおいがするわ!!」
目の前の焼き芋の匂いをかいだありすは、男を見上げ食べてもいいのかと訊いてきた。
普通のゆっくりならばこの時点で直ぐに喰いついているだろうが、このありすはしっかりと男に許可を求めてきた。
きっと、親ありすの躾けが良かったのだろう。
「ああ、それはありすにあげるから食べていいぞ」
「ゆっ!! おにいさんがそういうなら、たべてあげてもいいんだからねっ!!」
ありす種特有のツンデレぶりを発揮しながら、ありすは焼き芋を食べ始めた。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ〜♪」
「ゆ゛ゆっ!! それはばりざのごはんなんだぜ!! よこすんだぜ!!」
ありすが焼き芋を美味しそうに食べてるのを見て、まりさが騒ぎ出した。
「なにいってるの? これはありすがおにいさんにもらったのよ!! ばかなの? しぬの?」
「ゆ゛ぅううっ!! くずのありずがなまいぎなんだぜぇええええ!!」
「くずまりさはそこでみていてね!! むーしゃ、むーしゃ、あまあま〜♪」
「ゆがぁああああ!! こっぢによごぜぇえええええ!!」
ありすはまりさを挑発するかのように見せ付けながら焼き芋を食べている。
食べ方はありす種らしく綺麗な食べ方で、一口ずつ丁寧に口に運び食い散らかすようなことはしていない。
「ゆ〜ん!! ゆっくりおいしかったわ♪」
その後、男はまりさに殺された親ありすと幼ありすの遺体を、牧草地の端に埋めて弔ってやることにした。
途中で、何かトラブルがあったのかと心配したツーリングライダーに声を掛けられたので、ゆっくりを轢いてしまったことを説明する。
ツーリング中にゆっくりを轢くことは良くあることなので、お互い気をつけるように声をかけあうとそのまま走り去っていった。
親ありすと幼ありすの遺体を埋めて、その上に適当な石を置いて簡単な墓標にしてやる。
その前で、ありすはしばらく涙を流していたが、振り向くと巣に帰ると男に告げた。
男は子ありすに、焼き芋の残り半分を持たせてやった。
「ゆっ! それじゃおにいさん、ゆっくりしていってね!!」
「ありすもがんばれよ!!」
男は焼き芋を咥えて森の方へと跳ねていく子ありすを見送ると、ツーリングを続けるためにバイクへと戻った。
おまけーね
「あー、とりあえずカスタード拭いておくかな……」
バイクに戻った男は、ブレーキクリーナーとウエス代わりのキッチンペーパーを取り出すと、タイヤとホイールに付着したカスタードクリームを拭き取り始めた。
一通り綺麗に拭き取れたので、汚れた手もウエットティッシュで綺麗にする。
とりあえずゴミは袋に詰めてコンビニで捨てようと思っていると、まりさの声が聞こえて来た。
「ゆがぁああああ!! じじぃいいいい!! ばりざをだずげろぉおおお!!」
その場から動けずにじたばたと身をよじりながらまりさが吼えている。
その大きな口を見て、男はあることを思いついた。
「よう、まりさはお腹がすいて無いか?」
「ゆがっ!! まりささまはおなかがへっているんだぜ!! あまあまをよこすんだぜ!!」
「それじゃ、これをやるよ!!」
男はまりさの口に汚れたキッチンペーパーやウエットティッシュを詰め込んだ。
「ゆぐっ!! へんなあじがずるうううう!! ゆっぐじでぎないぃいいい!!」
カスタードとブレーキパッドのカスや排ガス汚れなどがしみこんだ紙なので美味しいはずが無い。
男は吐き出そうとするまりさを上から押さえつけると、まりさの顔に二、三回張り手を打ち込んだ。
「ゆがっ! むぎゅっ!! ごっくん!!」
どうやら無事に飲み込んだらしい。
「よし、それじゃ達者で暮らせよ」
そう言うと、男はえづいているまりさに背を向けてバイクへと戻った。
エンジンを掛けてヘルメットを被りあご紐を止める。
グローブを着けてバイクにまたがると、スタンドを上げて後方確認をしてアクセルを捻った。
バイクが走り去った後には、路上のカスタードの染みと、道端のゆっくりまりさが残された。
いいわけーね
気が付いたら子ありすを優遇しすぎてた。
gdgd感が否めない。
さらに後半失速した。
「ゆっくりいばらのけい」お借りしました。
餡子蛇足
「ゆっ、ゆっ、ゆっくりただいま!!」
親切なお兄さんに美味しいお芋をもらった子ありすは、家族で住んでいたお家へと帰って来た。
「ゆぅ……」
ありすたちのお家は、もともと何か小動物の巣だった場所を見つけて、親ありすが都会的にリフォームしたものだ。
親ありすより一回り大きい入り口から、一メートル程のトンネルを抜けると大きな部屋へと出る。
部屋の真ん中には、みんなで獲った虫さんや花さんを並べて食べた平べったい石のテーブルが置いてある。
部屋の奥には、夜寝るときにみんなで運んで床に敷いた枯れ草のベットがまとめてあった。
妹たちが宝物にしていた綺麗な石やちょうちょさんの羽などが出かけたときのまま部屋の隅に転がっていた。
母親や妹たちと一緒にいたときは少し狭く感じられたお家だが、いまは子ありす一人でとても広く感じられた。
子ありすは、もう二度とおうちで家族と一緒にすごすことが無いと思い出して涙を流した。
「ゆっ、これだけあれば冬もだいじょうぶね……」
お家の奥にある食料庫にお芋を運んだありすは、そこに蓄えられたご飯を見て呟いた。
親ありすは比較的賢いゆっくりだったので、早い時期から冬篭りの食料を備蓄し始めていた。
親ありすに子ありす、三人の幼ありすの家族5人で越冬するにはまだまだ足りないが、子ありす一人になってしまった今では十分な量だった。
ふと、ゆっくりの気配を感じで子ありすが部屋に戻ると、そこには見知らぬまりさがいた。
「ゆっへっへ、なかなかゆっくりしたところなんだぜ!!」
「ゆっ、まりさはだれ?」
突然の訪問者に子ありすが困惑していると、まりさの影かられいむが出てきた。
「ゆゆっ、へんなのがいるよ! まりさはゆっくりおそうじしてね!!」
「わかってるんだぜ! れいむはやすんでいるんだぜ!」
勝手に人のお家に入り、失礼なことを言い出した二人のゆっくりの言葉を聞いて、子ありすは理解した。
このゆっくりたちは、ありすと家族たちのお家を奪い取ろうとしているのだと。
厭らしい笑みを浮かべる二人を睨みつけて子ありすは言った。
「ゆっ!! ゆっくりしないででていってね!! ここはありすのおうちよ!!」
おしまい
最終更新:2008年12月28日 17:24