ゆっくりClose Air Supportしてね!
※※※前フリ長くて申し訳ない※※※
「きょうもゆっくりしようね!」「ここはさいこうのゆっくりポイントだね!」
ゆっくりがゆっくりできるかどうか以外にはさほど関心を持たないのはよく知られている。
ここにいるゆっくりの大群もまったくその通りで、食料がたくさん存在し天敵がいないこの地に満足し、ゆっくりしていた。
この群れはもともと数は多くなく、5匹ほどのゆっくりのグループが数を増やして形成したという経緯がある。
3ヶ月前、この地にやってきた5匹は昨日まで住んでいた森とは様子が違う木々に初めは戸惑っていたものの、
ゆっくりするのに十分以上の条件が整っていることが分かるとここを安住の地とし爆発的に数を増やした。
ゆっくり達は、時々仲間が消えるものの(川に落ちたんだろうと考えた)天敵のいないこの地におおむね満足し、最高のゆっくりポイントとした。
これからこの地はゆっくりの楽園となるだろう、そうゆっくり達は各々考えていたのだが…
よく晴れた朝、ゆっくりれいむはここに住むようになってから妙にふやけるようになった皮を揺らしつつ、
朝食を求めて背の低い木を掻き分けていた。
「ゆっくりーとまっててねー♪」
やっと見つけた朝食候補に喜びをあげるれいむは舌をゆっくりと伸ばして捕食を試みる。
故郷の森では見たことが無い蝶だったが空腹の前にはそんなことはどうでも良かった。
と、そのとき。爆発音が響き木々を揺らす。
「ゆっ゛!?」
反射的に音源へと警戒態勢を取った。(といっても体を向けるだけだが)
近くで物体が動いたことに気が付いた蝶は当然逃げてしまう。
「ゆぅぅぅぅ…」
今日初めての食事は昼食になりそうだという事に残念がるれいむ。
気を取り直して音源のほうを見ると「鳥」が緑の中へと吸い込まれていくところだった。
ゆっくりれみりゃやゆっくりフラン、つまり自分達に危害を加える飛行物体には注意を払うゆっくりだが、
そうでない飛行物体、すなわち鳥や蝙蝠に普通は関心を持たない。
だが、れいむは自分の食事が台無しにされた事に腹を立てており、その抗議をしてあわよくば食料を手に入れるため、「鳥」が落ちたほうへと向かっていった。
さきほどの爆発音で同じ方向を見ていたゆっくりたちが、れいむの行動を不思議がって後を付いてくるのに気が付かずに。
幸か不幸か目的地は川のこちら側だった。(向こう側なら早々に諦めていつもの生活に戻れただろう。)
「鳥」が落ちたと思われる場所に到着したことでれいむ達の生活は永遠に変わってしまった。
生まれつきの警戒心があるれいむは、いきなり目的地(ちょうど木の密度が薄くなって広場のようだった)に出て行くことはせず、茂みを通してその場所を観察した。
そこにいたのはニンゲンだった。
見たことも無い妙な服を着ていたが体つきや顔からして間違いなくニンゲンだった。
「ゆっ、ゆっくりしていってね!」
れいむは故郷で何度か人間に殺されそうな目に合わされていたが、生物としての自己防衛反応のためかその事をすっかり忘れており、
食事の落とし前をどうしてくれようという気持ちで茂みから飛び出していった。
その割には第一声がまったくその気持ちを感じさせない物だったが。
だが、そのニンゲンは全く無反応だった。
れいむの自己に都合の良い記憶によればこのセリフを聞いたニンゲン何らかの反応を示すはずだが、
目の前の疲れきった顔の男は二つの目でれいむを注視するだけだった。
「ゆっくりしていってね!!」
今度はゆっくりの模範ともいえる声と顔で挨拶をするれいむ。
だが、男はやはり無反応だった。
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
三回目の挨拶は偶然にも合唱となった。
れいむを追いかけてきたゆっくりたちがこの段階で追いつき、いっせいに挨拶をしたのだった。
「いっしょにゆっくりしようね!」「このひとはいっしょにゆっくりできる?」
「あさごはんたべようね!」「ゆっくりしたいよ!」「にんげんだ!にんげんだ!」
「いいからかえってゆっくりしようね!」「ここでゆっくりしたいよ!」
れいむと他のゆっくり達が一斉に会話を始めて広場は騒然とする。
男は相変わらずれいむを見ていた。
ウィルソン・フォード中尉は混乱していた。
ちょっとしたミスから十字軍の名が付いた愛機を落とされ、かろうじて脱出してここに降り立ったがパラシュートが木に絡まって動けず何とか切り離す、
そこまでは自分が知っている知識の範疇の出来事だった。
──だが、こんなに妙な丸っこい生命体が生息しているなんて聞いてないぞ!
最初の丸いのが茂みから飛び出してきたとき敵かと思い拳銃を構えたが、少なくとも敵ではないと分かり今は下ろしていた。
あまりの驚きからその場所で固まった彼は、後からどんどん増える丸い物体のお仲間に圧倒されて動くに動けないでいた。
こんな生き物が生息する地域に入ったらどんな目に遭うか分かったものではなかった。
幸いにもここは友軍基地に近く、救援はすぐに来ると思われたので何とかなるだろうという目論見もあった。
そこまで考えたところで丸い連中がいよいよ騒がしくなってきた。
「YUKKURISITENE!!」「YUKKURISITEITTENE!!」
やはり意味は分からない。響きから日本語かと思ったが(日本に駐留した事がある友人のおかげだ)彼には日本語に関する語学能力は無かった。
あまりに騒がしいとそれで敵がやって来るのは明白なので、彼は丸い連中を黙らせようと試みた。
「君達、少し静かにしてくれるかな?」
「YU?」「WAKARANAII WAKARANAIYOO!」「YUKKURISHABETTENE!!」「TIIIINPO!」
当然だが通じなかった。
こんな妙な物体と会話を試みた自分の頭が心配になってきた彼は、ここにいるとそろそろ本格的に危険だと考え、友軍基地の方角を確かめて歩き始めた。
「STOP! PLEASE!STOP! DANGER!」
「ゆっくりあるいてね!」「いっしょにゆっくりしようよ!!」
なるべく単語を減らして意思の疎通をこころみる男の努力も空しく、
意味が理解できない言語を投げかけられたゆっくりたちはますます彼に興味を持って後をつけるようになった。
彼は追跡者を振り切ろうと足を速めるが、障害物が多いため思うように進めない。
男とゆっくりの珍道中はしばらく続いた。
いい加減ウンザリしてきた中尉は怒鳴りつけて追い払おうと丸い連中のほうを振り返った。
何か相手をしてくれるのかと期待に満ちた目を向けてくる連中の向こうで何かが動いた。
ついに恐れていたほうの追跡者が来たのだ。
「クソッ!!」
もはや形振りかまっていられない為、直ちに全速力で逃走に移る。
それを丸い連中も何匹か脱落させつつ全力で声を上げつつ追いかけ始め、恐ろしいほうの追跡者がそれを追いかけるという形になった。
「YU!!…」「YUGUEEE!」
脱落したヤツが踏まれて断末魔を上げているのが聞こえたが、それにかまわず彼は走り続けた。
「おい!こっちだ!速く来い!」
「いいぞ、もう少しだ!頑張れ!」
目の前に現れた友軍の救出部隊が射撃しつつ声を張り上げる。もう少しだ。
そして、ついに友軍の後ろへと飛び込む。
「良く頑張った!フォード中尉! 悪いがもう少し待ってくれ!連中を片付け…なにっ!?」
労いの言葉を掛けてきた隊長と思しき人物が、こちらに全速力で向かってくる丸い連中と追跡者を見て途中で発音をやめる。
途中で丸い連中を踏んで混乱し、さらには銃撃を受けたためかかなり距離が離れていた。
背の低い丸い連中には弾が当たらず、弾幕の下でまごまごしているのが見えた。
突然の出来事で混乱しているのだろう。
こっちに来いと声を上げてみたが、意思の疎通はやはり不可能でやっぱりまごまごしていた。
『こちらスワローテイル。派手にパーティ中らしいからウェイターを連れてきたぞ。』
通信機から声が漏れていた。航空支援で追跡者を吹き飛ばすのだろう。
『お客の位置を知らせてくれ、でないと注文を取りにいけん。』
「俺達より北の連中だ!いま発炎筒を投げる!」
前線航空統制官の要請に隊長が答える。
直ちに指示が出され、赤い煙を上げる棒状の物体が追跡者のほうへと投げられた。
危険を感じ取った追跡者が撃たれながらも無理に接近しようとするが、丸い連中が邪魔で思うように進めなかった。
「赤い煙の辺りだ!派手にブチかませ!」
『了解した。 …確認した、今ウェイターを送る。コールサインはヴァイパーだ。』
『こちらヴァイパーリード。お客は確認した、今から料理を送るぜ!』
統制官の返答の後、パイロットが今度は答えた。
音が辺りに響き始め、あっというまに木々を揺らさんばかりの轟音となる。
ターボ・ジェットの音が耳を破壊するかどうかというほど大きくなったとき、上空を影が通過した。
ニンゲンは恐ろしい。れいむはそう思い始めていた。
あの妙なニンゲンに付いていったら仲間が次々と踏まれ、初めは100を越えようかという勢いだったゆっくりは50以下にまで減っていた。
「わ゛た゛し゛のあか゛ち゛ゃんか゛あ゛ああ!!」「おちついてゆっくりしてね!!」
「まりさ゛あ゛ああな゛んて゛え゛えええぇぇ」「そんなと゛こ゛ろて゛ゆっくりし゛ないて゛ええぇぇ!」
地球と同化した仲間や家族のほうを見たゆっくりが泣き叫んでいる。
今のところニンゲン同士で争っているみたいだから安全だけど、いつ矛先がこちらに向くか分からない。
そこまで考えたれいむは逃げ出すタイミングを伺っていた。
冷静に考えればゆっくりの身体なら這いずって逃げれば弾など頭の上を通過していくだけなのに、
小豆ペーストの脳ではそこまで思い至らないのは流石ゆっくりといったところだろうか。
そうこうしているうちに轟音が聞こえてきた。あの「鳥」がいると聞こえる音だが、いつもとは大きさが段違いだ。
何だろう?そう思ったれいむが音のほうを見ると、空中に丸い物体が浮かんでいるのが見えた。
その物体が何か考える間も無く、れいむの一生は幕を閉じた。
群れから脱落しつつ幸運にも踏まれること無くいたゆっくりまりさは恐ろしい物を見てしまった。
絶え絶えの息を整えつつ、先行した仲間達のほうを見るとちょうど轟音が聞こえてきた。
続いて何かが風を切るような高い音。
れいむと同じように疑問に思ったまりさは音のほうを観察する。
その瞬間、れいむ達と追跡者のニンゲンのあたりで爆発が起きた。
ニンゲンだったものやゆっくりだったものが高く放り上げられ、こちらにもそれが飛んできた。
あまりの事態に口をあんぐりと開けていたまりさだったが、その口にチビれいむが飛び込んできた。
あわてて吐き出すまりさ。チビれいむだけでも助かって良かったと思い始め、仰向けに寝転がる彼女をゆすりだす。
「ゆ゛っ!ゆ゛っ!おき゛て゛よ!いっし゛ょにゆっく゛りし゛ようよ!」
いくらゆすっても起きないのでより強くゆするまりさ。
その拍子にチビれいむがごろんと転がる。
「ゆ゛っ!ゆ゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!!な゛んて゛え゛え゛え゛ええ!!!」
チビれいむの後頭部は存在しなかった。代わりに残り少ない餡子が露出しており、顔の裏側が一部露出していた。
そういえば魔理沙の額にくっ付いている物体、これはこの子の一部じゃないのか。
「ゆふ゛ェッ゛!オ゛ェッ゛! ケ゛ヒ゛ュう゛!」
あまりにショッキングな事態にまりさは餡子を吐き始めた。
良く知られているように、餡子を吐き始めたゆっくりはまず助からないといわれる。
自制心が少ない生物の為、とちゅうで体調を持ち直して吐くのをやめる前に体内の餡子を出し切って絶命してしまうゆっくりが非常に多いためだ。
このゆっくりまりさも死へのマラソンをひた走り始めた。
だが、恐ろしい光景はこれで終わりではなかった。
爆弾の破片が体中に刺さって絶命寸前、仲良くぐったりと寝転ぶゆっくりとニンゲンの上からさらに何か落ちてきたのだ。
今度の物体は空中で何か液体を撒き散らしながら落下、液体はただちに発火してかろうじて生き残った生物を焼き始めた。
「やめ゛へ゛フ゛ッ!! にけ゛ヘ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!」
こんな状態だというのに仲間達を気遣うまりさ。
真にたたえられるべき仲間意識だったがそれは全くの無駄に終わった。
まりさの悲鳴といってよい警告に気づいた何匹かのゆっくりが地面を転がって消火しようとしたが、ナパームの特性上それは無意味な行為だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
火達磨になったゆっくりたちが断末魔を上げながらもてる力を持って走り回る。
体中のナパーム燃料を撒き散らしながらのため、周り中の木という木に火が燃え移り、典型的な地獄を現出させていった。
ゆっくりは一匹、また一匹と力尽きていき残ったのは炎を上げる黒い炭素の塊だけだった。
「エヘ゛ッ゛!エヘ゛ッ゛!エ゛ヘ゛ッ゛」
火が静まる頃にはまりさもとうとう吐ける物を吐きつくして妙な空気音を上げる塊と化していた。
最後に「ゆっく゛り゛…」と呟いてまりさは動かなくなった。
「いい腕してるな、流石だ。全部きれいに吹き飛んだぞ!」
『ありがとう、悪い気はしないぜ!それじゃこっちはカンバンなんで帰るな!ヴァイパーリード、オーバー。』
『こちらスワローテイル。迎えが来るまでは上をカバーしておこう。いつでもモニターしてるから、何かあったら呼んでくれ。』
ターボ・ジェットの音が遠ざかっていき、後に残ったのは微かに聞こえるプロペラの回転音となった。
このようにしてれいむについて行ったゆっくりが悉く帰らなかった為、楽園のゆっくりは激減してしまった。
だが、残されたゆっくり達は連中のことをすぐに忘れ、減った分を穴埋めするかのように繁殖に勤しんだ。
食料は十分で天敵に怯える事が無く、仲間がたくさんいる生活をゆっくりたちは楽しんだ。
ここは楽園などではない事を知らずに…
フォード中尉は無事に原隊復帰できたが、ジャングルで出くわした日本語のような言語を操る謎の生命体の事を話しても誰も真に受けなかった。
そのうち彼自身もその事を忘れ、ヴェトナムで任務に精励し続けた。
ある日、彼は妙な命令を受けて飛んだ。
「ジャングルのこれこれこういう地点を空軍と共同して爆撃せよ」という命令だったが、
その地点にはヴェトコンなど明らかにおらず、戦略的価値も無かった。
強いていえば野生のバナナなど「食料」が多いぐらいだが軍事的な意味は到底あるとは思えなかった。
彼は任務に忠実な軍人であるので命令に従って愛機を駆った。
やがて迫り来る爆撃目標地点で彼が見たものは…
──────────────────────────────────────────────────
B-52で爆撃するつもりがF-105で航空支援してた\(^o^)/
おまけに虐待でも制裁でもなくてごめんなさい。
by sdkfz251
最終更新:2008年09月14日 05:26