お風呂。
それは私にとって最高の甘露の一つである。
週一回開店時間に銭湯に行き一番風呂に入るのが私のライフワークなのだ。
番台にお金を払いちゃっちゃと脱衣所にいく。
案の定誰かがいた形跡はない。
相変わらず人気の無い銭湯だ、よく営業できるものである。
さて今日も至福の一番風呂を浴びよう。
「ゆっくりしていってね!」
「「「「「「ゆっきゅりしちぇっちぇにぇ!!」」」」」」
…先客がいたらしい。
どこから入ってきたのか
ゆっくりの家族が元気よく挨拶をしていた。
親はまりさ種だが子はまりさ種とありす種が混ざっている。
子供だけつれて片親は巣にいるって事も無いだろうし今流行のシングルマザーって奴だろうか。
「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ!でもとくべつにおにいさんもゆっくりしていいよ!まりさたちだけじゃひろすぎるからとくべつにいれてあげるんだよ!かんしゃしてね!」
ビキリ。
私の中の怒りゲージが一つ上昇したが我慢我慢。
さてどうするか、番台に報告するべきか。
しかしこの格好のままじゃあなあ…。
そんなことを考えていると子ありすの一匹が私に話しかけてきた。
「おにいしゃんはゆっきゅりできりゅひと?」
「あー、まあな。」
内心の怒りを抑えつつ適当に受け答えする。
しかし子ゆっくりって結構かわいいな。
大人になってあんなにかわいげの無い事にならなければ飼いたいかもしれない。
しかしまだ舌ったらずなあたりまだ相当小さいのだろうに、巣の外に出てもいいのだろうか。
まあ暴れたり襲い掛かってきたりする様子はないし帰りまでは放っておこう、見てると結構面白そうだし。
何かを壊し始めたらその時言いに行けばいい。
別に私に責任があるわけじゃない、店主の監督不行き届きなんだから。
てなわけでゆっくりのどうでもいい滞在許可も出ていたし私は無視して体を洗い始める。
「ゆ!かべしゃんとっちぇもしゅべしゅべだよ!しゅーりしゅーり!」
「ほんちょだにぇ!とっちぇもゆっきゅりできりゅよ!」
子ゆっくり達は壁のタイルにお熱なご様子。
私はそれを眺めつつボディソープを泡立てる。
そうしていると子ありすの一匹、さっき私に話しかけてきた奴がこっちに近寄ってきた。
「ゆ?おにいしゃん、そのあわあわにゃあに?とっちぇもときゃいはね!」
「…。」
無視して私は体を洗い始める。
先ずは足から洗い始め次に背中を、と思ったとき足にやわらかい感触を感じる。
「ゆ~、おにいしゃんのおあししゃんしゅべしゅべ~。あわあわさんもとっちぇもゆっきゅりしちぇるよ~。」
子ありすは私の足に頬ずりしていた。
くすぐったいなあまったく。
そう感じながらも踏みつけたりしないように気をつけながら自分の体を洗っていく。
「ぱしゃぱしゃ~♪」
「あっちゃかいおみじゅしゃんとっちぇもゆっきゅりしちぇるよ~♪」
向こうでは桶に入ったお湯に子ゆっくり達が浸かっていた。
どうやって入れたのかと思っていると親ゆっくりが器用に水栓を回してお湯を出していた。
たまたまお湯の温度もちょうど良かったようだ。
そんな光景を眺めつつ私が全身を洗い終えお湯で流そうとした時事件は起きた。
「ゆびいいいいいいいい!!!!いじゃあああいいいいいいいい!!!!ありしゅのおめめがああああああ!!!!!!」
足元の赤ありすが大声で泣き始めた。
どうやら泡が目に入ったらしい。
お湯で流してやろうと手を伸ばすと親まりさがこっちに跳ねてきた。
「ゆ!おちびちゃんにさわらないでね!やっぱりゆっくりできないおにいさんだったんだね!」
そういいながら暴れまわる子ありすと私の間に割り込む。
子ゆっくりならともかくこいつに言われるとむかつくなあ…。
「おちびちゃんしっかりしてね!ほらぺーろぺー…にがいいいいいいい!!!!」
泡のついた子ゆっくりの体を舐めた親ゆっくりが絶叫を上げる。
そりゃボディソープは苦かろう。
親ゆっくりがぺっぺと泡を吐き出しているうちに桶のお湯で子ありすを洗ってやる。
そしてタオルで水分をふき取ると子ありすは泣きやんだ。
「ゆ?いちゃくにゃくにゃってきちゃわ!」
そうしてまだ口からつばを吐き出し続ける親まりさのところに返してやった。
「ぺっぺ!ゆ!?おちびちゃん!おめめはだいじょうぶ!?」
「だいじょうぶよ!おにいしゃんにたしゅけちぇもらっちゃわ!」
そんな微笑ましい光景を無視してシャワーで自分の体の泡を落としつつ髪を濡らしていく。
次はシャンプーだ、今度は子ありすにつかないように注意しなければ。
私がシャンプーで頭を洗い始めると子ゆっくり達が遊んでいた方向からシャワーの音が聞こえ始めた
「ゆびょええええええええええ!!!!!!」
「おみじゅしゃん、ゆっくちちないでとまっちぇえええええ!!!!!」
見れば二匹の子ゆっくり達にシャワーの水が直撃していた。
親の真似をして操作したのだが蛇口ではなくシャワーの方を回してしまったらしい。
「まりさのおちびじゃんがああああああああああ!!!!!!」
「おねえじゃああああああああああん!!!!」
私の足元で乳繰り合っていた親子が向こうへ跳ねていく。
親まりさが自らの危険も省みずに降りしきるシャワーの雨の中から子ゆっくりたちを救い出した。
「おちびちゃん!しっかりしてね!」
「もっちょ…ゆっきゅり…しちゃ…。」
「ゆ…。」
しかし時すでに遅く、二匹の餡子はドロドロになり絶命した。
「おちびじゃああああああああん!!!!!」
「おねえじゃああああああああん!!!!」
あーあと思いつつシャンプーを流し、リンスをつけさらに流す。
私が髪を洗い終えてもまだ親まりさと子ありすは泣いていた。
他の子ゆっくり達も泣いているのだろう声が聞こえている。
近くを通る私にも親まりさと子ありすは気づいていない。
ありゃ?他の子ゆっくり達は?
そう思っていると桶から声が聞こえる。
「ゆびょああああああああ!まりちゃのかりゃだがとけるううううう!!!!」
「ありしゅのあんこしゃん!ゆっきゅりしにゃいでとまっちぇええええええええ!!!!」
「おきゃああしゃああああああああああああん!!!!どぼじでたしゅけてきゅれにゃいのおおおおおおおお!!!!」
どうやら桶に入りっぱなしだったらしくお湯の中で騒いでいる。
出しっぱなしのシャワーと親まりさ達の声のせいで聞こえなかったが先ほどから叫び声を上げていたようだ。
すでに三匹の子ゆっくり達は全身の皮に穴が開き至る所から餡子が融け出していた。
私はあわててシャワーを止め子ゆっくり達を摘み出した。
体をタオルで拭いてやろうとして思いとどまる。
すでに致命傷だ、タオルが汚れるだけなので無駄なことは止めておく。
「ゆぐっゆっぐ…、ゆ?…おぢびじゃあああああああああん!!!!!」
「ゆべええええええええ!!!!ありずのいもうちょぎゃあああああああああ!!!!!」
泣いていた親まりさと子ありすもようやく気がついたらしく私が引き上げた子ゆっくり達に跳ね寄る。
「しっかりじでええええええええ!!!!!」
「…っ…。」
「も…ゆ…。」
「ぐび…。」
しかしすぐに断末魔すらろくに上げず三匹も絶命した。
「ゆぎゃあああああああああああ!!!!!」
「ゆああああああああ!!!!」
親まりさと子ありすは再び絶叫した。
そうしてしばらく泣いている二匹を眺めていると唐突に親まりさがこちらを向いた。
「おにいざんがだずげながっだがらだああああああああああ!!!!ゆっぐりでぎないおにいざんはじねええええええ!!!!」
「はあ!?」
突然親まりさは私を罵ってきた。
さらに続けて死ねだの何だの暴言を繰り返す。
僅かにあった同情の気持ちも一瞬で消し飛んだ。
まりさは自分の子供の大半を失った直後で八つ当たりの一つもしたい気分なのだろう。
しかしそれを汲み取ってやれるほど今の私の機嫌は良くなかったしこのまりさに良い印象も持っていなかった。
私の楽しいバスタイムが邪魔されてイライラしていたところにこれだ。
いい加減私の短い堪忍袋は限界だった。
先に言っておくが私は多少悪口を言われたくらいでゆっくりごときにイラついたりはしない。
しかし今の私は相当不機嫌だった。
なぜなら、
「私は、」
こいつらが私の言われたくない事を連呼していたからだ。
「おねえさんだああああああああああ!!!」
「ゆびぼっ!!!!!?」
そう言ってまりさを蹴り飛ばす。
私は男に間違われるのが大嫌いなのだ。
「確かにわたしゃ胸はないし運動系の部活に入っているから結構肩幅あるし髪も切ってるよ!兄貴の服着てたら逆ナンにあったりもしたよ!だけどな!裸の時くらいちゃんと女って認識しろよてめえらよ!おい!聞いてんのかこら!」
「ゆ…ゆべ…。」
少し罵倒して蹴られて苦しがってる親まりさを見たら気持ちも落ち着いた。
もう何もしてこないだろうし放っておこう。
そう思いゆっくりに背を向けて湯船に歩いていく。
すると足元に衝撃が走る。
「ゆっぐりじねえええええええええ!!!!」
「うおわ!?」
足に親まりさが体当たりを仕掛けてきたのだ。
濡れた床のせいで踏みとどまることが出来ずたまらずぶっ倒れる。
「ゆぎがばぁ!!!!!!」
尻で何か柔らかい物を踏み潰した感触。
そのせいでうまく受身を取れず背中を打った。
「いってえ!何しやが…あ?」
振り向くとそこには飛び散る餡子、そして甘い香り。
そして私の尻の下でつぶれた親まりさだったもの。
親まりさはシャワーに突撃した際多くの水をかぶり皮が柔らかくなっていた。
その上で私の全体重が乗ったヒッププレスを受けたため見事に潰れてしまった。
「あ…えっと…。」
「ゆびああああああ!!!!!おきゃあああああしゃあああああああああんん!!!!」
浴場には子ありすの悲鳴だけが轟いていた。
結局私は体についた餡子を落とした後番台を呼んだ。
責任の追及はしないが清掃もあるため今日は帰ってくれとのことだ。
結局一番風呂には入りそこなった、まあ最初に番台を呼ばなかった私の自業自得だが。
私は邪魔だから好きに処分してくれと渡された子ありすを持って家へ帰った。
この子ありすをどうするか考えていた時仕事の関係で別居している兄貴がペットであるぱちゅりーの遊び相手が欲しいと言っていたのを思い出した。
事の経緯を説明すると渋い顔をしていたが実物を見て考え直したらしい。
この子ありす、ショックのせいか記憶を失っていたのだ。
ゆっくりは都合の悪い記憶を失う事が多いのだがこの子ありすは特にそれが顕著だった。
結局子ありすは兄貴にもらわれていくことになった。
後日また新しいゆっくりを買ったらしい兄貴にありすはどうしているのか尋ねてみた。
「蛙の子は蛙。」
なんのこっちゃ。
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たぃちょさんからのお題で「お風呂」から書かせていただきました。
何か間違った気がしないでもない。
by デストラクション小杉
最終更新:2009年01月30日 09:59