※厨なオリキャラ注意
※もはや
ゆっくりじゃネエヨ的なゆっくり注意
※ドス注意どころの騒ぎではない
※舞台が現代なのに蓮子・メリー以外の原作キャラ注意
※れいぱー注意
※何かもうやりたい放題注意
「しゃちょ~・・・なんで、私が貴女と一緒に山登りをせにゃならんのですか?」
「ん~、そうねぇ・・・そこに山があるからかしら?」
「意味が分からん!」
私はゆっくりカンパニーの系列店『ゆっくりショップ』でアルバイトをしている程度の普通の女子大生だ。
現在、何故かゆっくりカンパニーの(見た目は)若き(年齢不詳の)女社長と一緒に山を征服中。
一体何故、と訊かれても社長が何も語らない以上、私にも分からない。そもそも、社長と私には殆ど接点がない。
服装こそいかにもこれから登山!と言った感じのものになっているが、寝ている間に社長に着せられたものだったりする。
ついでに言うと、寝ている間の連れてこられたので、ここが何県にある何という山なのかも全く分からなかった。
それ故に釈然としない気持ちを彼女から渡された登山用のリュックと一緒に抱えながら、えっちらおっちら歩を進めていた。
「ふふ・・・素直で宜しい」
文句を言いながらもついてくる私を見て、社長は微笑む。
当の彼女の服装は八卦の描かれたどこかチャイナテイスト・・・のような気のする紫色のドレスで、とても登山向きではなかった。
なのだが・・・社長は年齢(不詳だけど)を感じさせない軽やかな足取りで、うふうふ笑いながら事も無げに先へ先へと進んでいる。
そんな彼女のウェーブのかかった艶っぽい金髪の揺れる背中を見つめながら、私は完璧超人っているものなんだなぁととしみじみ思った。
美人で、若くしてひとやま当て、あの体力で、きっと頭も良いのだろう。もっとも、真性の変人ぶりが全てを台無しにしているが。
「さあ、目的地まであと1200mよ、もちろん高さで。三次元を感じましょ」
「『しょ』じゃない。寝起き早々それは拷問・・・そもそも、ここ何処?」
「ひ・み・つ♪」
社長の口から飛び出したかなりあんまりな数字にため息を吐きつつ突っ込みを入れるが、当然全く相手にしてもらえない。
目元に胡散臭い笑顔を浮かべ、いつの間にやら取り出した扇子で口元を隠した、全く思考の読めない表情で私の様子を伺っている。
ここは何処なのか、何故登山をさせられているのか・・・などなど、私の問いはことごとくはぐらかされていた。
この質問をすること自体、もう何度目になるかも分からないような有様で、既に諦めてはいるけれど。
まともに回答を得られた質問と言えば「うちのゆっくりどもは?」というものくらいだが、今の私の置かれている立場を把握する上では何の意味もない。
「はぁ、酒でも飲みながらゆっくりするつもりだったのに・・・」
「肉体労働の後の一杯は最高よ?」
「理由の分からない強制労働でなければ、ね・・・はぁ」
暖簾に腕押し、柳に風、ぬかに釘・・・こういう諺は枚挙に暇がない理由が何となく理解できた。
きっと、昔の人もこういう偉い人の酔狂に振り回され、会話のドッヂボールに惨敗し、頭を抱えまくったんだろうな・・・。
相手がゆっくりというわけでもないのに会話が成立しないというのはなかなか煩わしく、私は心の中で毒づいた。
このゆっくり人間がッ!・・・と。いや、ゆっくり人間にどうこう言うつもりはないが。
「と、まあ、出発と終着の境界を飛び越えて、目的地に到着」
「何が飛び越えて、だか・・・あ゛ー疲れた~・・・」
4時間後。私と社長は苦労の甲斐あって無事目的の場所とやらに到着した・・・らしい。
何故「らしい」と付くのか?答えはいたって簡単で、ここが山頂ではなく、そこを目的として登山する理由が見出せないから。
山頂はまだ大分先で、右を見ても左を見ても木々が鬱蒼と生い茂るばかり。どう見ても道に迷ったとしか思えない。
道中を省略されてしまったので分からないかもしれないが、何度か質問はした。そして案の定、はぐらかされた。
「ふむ・・・なるほど・・・あらあら・・・」
で、今に至っては一人で辺りを見渡しながら、うんうんと頷きつつ、何か訳の分からないことを呟いている。
万が一にも実は「ふむ・・・なるほど、道に迷ったのね?あらあら、大変」なんて言っていたら、たとえ社長でも張り倒してやる。
そんな事を決心しながら、限界に近い足をゆっくりさせてやる為に近くにいたゆっくりに腰かけ、悠長な様子の彼女を睨め付けていた。
「ゆぐっ・・・」
ようやく一息つけたということもあって思わずため息が漏れる。さっきから漏れっぱなしのような気もするがこの際、気にしない。
「ゆっくりぃー・・・」
散々山道を歩き続けた私の足はもはや抱腹絶倒の大爆笑で、喉は乾季の砂漠の如くカラカラだった。
「ゆっくりしてよー!」
それに、無理矢理連れてこられたものだから朝ごはんも食べておらず、その事を思い出した途端にお腹の虫が鳴きだした。
「ゆっくりできないよぉー・・・」
腹の虫がまるで我が家で飼っているゆっくりどものようにゆーゆーと喚いてうるさいったらありゃしない。
「・・・・・・んあ?」
「ゆえーん!ゆっくりできないよおおおおおお!?」
「あら?」
私のお尻の下で泣いているのは一匹のゆっくりれいむ・・・・・・どうやら私は本当に疲れていたようだ。
そこにゆっくりがいると理解した上でゆっくりに腰掛けたのに、ゆっくりがいることを完全に失念していた。
かなり大きな個体で体高は70cmくらいはあるが、中身が餡子のクセに異様に軽いゆっくりの場合、体重は20kgあるかどうか。
なおかつ彼女達は非力だ。その上に2倍以上の体重があるであろう私が乗るとなると相当な苦しみを伴う。
「ゆえーん!ゆえーん!いだいよおおおおおお!?」
「・・・はぁ、参ったなぁ」
「あらあら、大変」
いや、大変というよりも面倒臭いんだよ・・・そう突っ込んでやろうと社長のほうを振り向くが、彼女は私に背中を向けて、あらぬ方向を見ていた。
そして、その視線の先には・・・何故か、社長を下膨れ饅頭風に、つまりゆっくり風にデフォルメした巨大ゆっくりがいた。
あれは確か『ゆっくりゆかり』、またの名を『ゆっかりん』と呼ばれるゆっくりだ。それにしても本当に馬鹿でかい。
念のために言っておくけど、1mやそこらの大きさじゃない。目測だが、5mを優に超える規格外の巨体である。
『ゆっかりんたちのゆっくりしたおうちからゆっくりいね!』
力強い怒声と共に社長をデフォルメしたような風貌の饅頭巨体が社長本人めがけて思いっきり突進してきた。
いくらゆっくりと言えどこのサイズになれば重さも相当なもの、1tを超える可能性だって否定できない。
流石にこれは不味いんじゃなかろうか?しかし、私が助けに入ってどうにかなるような状況でもないし、第一間に合わない。
しかし、多分原因が私にある以上、放っておくわけにも行かず、やれやれとまたため息をつきながら立ち上がったとき、社長は左手の掌を突き出して私を制止した。
そして右手の扇子を閉じると、巨大ゆっかりんに向かって掲げ・・・巨体の持つすべてのエネルギーを容易く受け止めてしまった。
厳密に言えば、扇子の先から発せられているくるくると回る不思議な光の壁によって膨大なエネルギーが無力化された。
『ゆっ・・・ゆゆっ!?』
「んなっ・・・?!」
「・・・貴女は囮。本命はあっちの子ね」
その美貌に相応しい、思わず聞き惚れてしまいそうな妖艶な声で囁く彼女の左手にはいつの間にかクナイが握られている。
そして私の、いや正確には私の後ろにいる何かを一瞥すると巨大ゆっかりんを制したその姿勢のまま、腕力だけでクナイを投擲した。
本来は工具だったと言われているそれが時速100km近い信じがたい速度で私の横をすり抜けて行く。
ありえない速さではないが、壁を這うゴキブリを赤ゆっくりで潰せる程度には野球やソフトボールの経験のある私の目にはそれはありえないものだった。
常識的に考えて、腕力任せの下手くそな投擲で、あんな速度を出せるはずがない。
『ゆぎゃ!?』
クナイが通り過ぎた直後、背後から短い、しかしはっきりと聞き取れる大きな悲鳴が聞こえた。
とっさに振り返った私の視線の先にいたものはもう一匹の巨大ゆっくり。こちらはまりさ種で、恐らくドスまりさと呼ばれるゆっくりだろう。
見るのは初めてだが、有名な巨大種だから、間違いない。最強のゆっくりと名高いそれが、たった一本のクナイで無力化されている。
舌を突き出して、ごろんごろんとのたうち回っては周囲の木々をなぎ倒し、自分の皮を傷つけていた。
『ゆゆっ!どうしたのまりさ!?』
『ゆぎぃぃぃいい!したがっ!したがああああ!?』
「ドスパークのエネルギーを充填しきる前に暴発させてもらっただけよ、死にはしないわ」
飄々と、今の社長にはそんな言葉が良く似合う。2匹の巨大ゆっくりを前にして、彼女の余裕に満ちた心も、衣服も全くと言っていいほど乱れていない。
ドスまりさは口内の火傷のせいで戦闘を続行できるような状態ではないし、巨大ゆっかりんも既に戦意を喪失していた。
全く状況を飲み込むことが出来ないが、一つだけ確かなことは私は今まで人外の何かから給料を貰っていたということだろう。
さて、どうしたものか・・・と頭をかいていると、今度は木々の陰から無数の通常サイズのゆっくりが躍り出てきて、社長めがけて石をぶつけ始めた。
「「「ゆっくりーー!!」」」
「どすをいじめないでね!」
「「ゆっくりできないよ!」」
「「「「「ゆっくりできないおねーさんはゆっくりどこかにいってね!」」」」」
小さな体をめいっぱい使って、あらん限りの力を振り絞って、口にくわえた石を投げつける通常サイズのゆっくり達。
相手は巨大種が2匹同時に挑んでも敵わない、まさに次元の違う強大な存在、ソレと対峙することが怖くないはずがない。
しかし、ゆっくり達は社長に睨まれ、怯みながらも逃げ出さずに果敢に投石を繰り返す。
もっとも、腰が引けているせいで殆ど届きさえしないし、届いたところであっさりと叩き落されているのだが。
「へぇ・・・こっちでよくもまぁ、これだけのゆっくりを集められたものね」
飛んでくる石の中から、当たるであろう石を瞬時に、かつ正確に見極めて、空いている左手でそれらを叩き落とす社長。
彼女の目は一見微笑んでいるように見えるが、「痛くも痒くもないけど向かってくるのなら仕方ない」という消極的な殺意が宿っている。
その殺意の外にいる私でも背筋が凍りついて、蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れない。おお、怖い怖い。
『ゆゆっ!み、みんな止めるのよ!お姉さん、この子たちはゆっかりんを守ろうとしているだけよ!』
「言われなくても分かるわ、それくらい」
『だから見逃してあげてね!ゆっくり出来ないのはゆっかりんだけでいいのよ!』
「あら、何かしようってつもりはなかったのに、貴女から進んで研究対象になってくれるなんて、嬉しいわ」
「「「「「「ゆっかりんをゆっくりさせないおねーさんをゆっくりやっつけるよ!」」」」」」
最後の社長の言葉を聞いたゆっくり達は、投石による攻撃を諦めて体当たりを仕掛けようと接近する。
どう考えても投石のほうが効果的な気もするが、これだけの数がいるのなら案外押しつぶすことも出来るかもしれない。
もっとも、相手が巨大種の突進を容易く受け止めるような化け物でなければの話だが。
「・・・ゆっくりにしては勇敢ね」
リーダー思いのゆっくりを見つめる今の彼女からはいつの間にか殺気が消え、どこか慈悲深い笑みをたたえている。
先ほどの殺意など微塵も感じさせない、太母という言葉が似つかわしい、そんな柔和な表情。
貴女達の勇気に免じて・・・社長はそう呟きながら、ゆるやかな、そしてしなやかな動作で左手を右から左へ振った。
「「「「「「ゆゆゆっ!?」」」」」」
すると、一瞬にしてその場にいた全てのゆっくり達が足元に出現した不気味な穴へと吸い込まれていった。
突然の巨大饅獣VS超人の対決からおよそ3時間後。
現在、私と社長は巨大種2匹を含むゆっくり達から手厚い歓迎を受けていた。
『おねーさんもおねーさんも、ゆっかりんのおうちでゆっくりしていってね!』
『ゆっくりしていってね!』
「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」
「「はいはい、ゆっくりゆっくり」」
私たちの周りをにこにこ笑顔を浮かべながら跳ね回り、喧しく騒ぐゆっくりども。
先ほど、スキマ(と言うらしい)に落とされたゆっくり達は全員傷一つない状態で、ゆっかりんの傍に落とされたので一匹たりとも欠けていない。
ソレによって、察しの良いゆっかりんが私たちに害意がないことに気付き、お詫びの意味も兼ねて歓迎したいと言い出し、あれよこれよという間に今に至る。
「ところで社長・・・」
「何かしら?」
「結局、何で私が同行させられたんで?」
「それはね・・・貴女がゆっくり人間だって聞いたからよ。私だけじゃリーダーがみょん種だったら会話が成立しないもの」
いや、私は生物学的見地から至極平凡な人間である事が証明されているんだが。鏡見ても普通に人間にしか見えないし・・・と言ってたところで話を聞きそうにないか。
やれやれ、と心の中で呟きながら、目の前にうず高く詰まれた宴会用の食料の山に目をやる。
雑草や虫など人間があまり食べないものがメインだが、中には私でも食べられそうな果実やキノコなんかも積まれていた。
それらを川で洗い、時には近くにあった木の枝を洗ってから、ソレに突き刺して、社長の熾した火で炙って食べる。
「むしゃむしゃ・・・んまい♪」
「そうねぇ、たまにはこういうのも悪くないわねぇ」
「これでお酒があったら言うことないんだけど・・・」
「・・・飲む?」
なんだかよく分からないがとりあえず食べられるキノコを咥えたまま、中空にスキマを作り出した社長は、そこから大きな瓢箪を取り出した。
スキマの中から「こらー!私の瓢箪返せー!」という声が聞こえたような気がしたが、スキマが閉じられ、確認する術がないので気にしないでおこう。
そして、いつの間にやら用意していた2人分のコップにお酒を注ぎ、そのうちの一つを私に手渡した。
「ありがたくいただきます、社長!」
「ふふ、現金ね」
コップを受け取り、乾杯を済ませた私たちは最初の一杯目を一気に飲み干す。
それからは、各々勝手に瓢箪のお酒を注いでゆく。私も社長もかなりのハイペースなのに瓢箪のお酒は一向になくなる様子を見せない。
どうなっているんだろうと思ったものの、昼間に彼女が人ならざるものであることを散々見せ付けられていることもあってか、追求する気にはならなかった。
美味しいお酒が沢山飲めるのならそれでいいじゃないか。
『ねえ、お姉さん達!』
「ふぅ・・・なにかしら?」
これで7杯目になるお酒を飲み干した社長は、ドスまりさの呼びかけに応じて彼女の方を向いた。
一方、私は「達!」と言われた所で巻き添えを食っただけの身の上なので、全てを社長に任せて、適当に群れのゆっくりと戯れる。
先ほど下敷きにしてしまったれいむが、お酒に興味を示していたので少しだけ飲ませてやると、不味いと叫びながら泣き出してしまった。
社長はそんな私を横目で一瞥して「早くあやしなさい」と無言の圧力をかけて来る。
『お姉さん達はここに何しに来たの?』
「私たちはここのゆっくりの調査に来たのよ」
『ゆっかりんたちの調査?』
「ええ、最近この山でおかしな事が起きていると聞いたものだから」
私に抱え上げられてあっという間に機嫌を直し、「おそらをとんでるみた~い」と大喜びするれいむの目を見ながら、2匹と1人の話を聞いていた私はようやく合点が行った。
確か、ゆっくりカンパニーの環境方針には野生のゆっくりや野良ゆっくりによる生活環境や自然環境への影響の調査や予防が含まれている。
今までの調査でこの山にゆっくりが生息していることを把握していた彼女は、この山の異変がゆっくりによるものではないかと調査に乗り出したんだろう。
・・・理由が分かったといっても、何の意味もなく巻き込まれたことはやっぱり腹が立つが。
『おかしな事ってどんな事?』
「一晩で木々が30本ほどなぎ倒されていたり、大木に絞め殺しイチジクにでもやられたみたいな跡があったり・・・」
『ゆゆっ!まりさ達そんな事しないよ!』
社長の言葉に反応して、自分たちの無実を訴えるゆっかりんとドスまりさ。
もっとも、社長も彼女達がそんなことをするとは思っていないようで、分かってるわとだけ言って頷く。
私もその意見に全面的に同意で、とてもじゃないかこいつらが無差別破壊をやらかすとは思えない。不可抗力で・・・という可能性はあるが。
そもそも、そんな目立つ行動を取ってしまってはドスまりさ達の存在が公のものになってしまうのではないだろうか?
そして、そんなデカブツを素直に放置してくれるほど世間様は甘くないだろう。
「そう・・・仕方ないわね、続きは明日にして、今日はここで寝ましょう」
『お姉さん達はゆっくり出来るからまりさ達と一緒にゆっくり寝てもいいよ!』
ちょっと待って欲しい、平凡な人間である私はあんな巨大饅頭に寝返りを打たれたら死ぬ。
しかし、既に寝る気満々の社長にそんな私の命に関わる重要なツッコミ入れる隙は一瞬たりとも存在しなかった。
ゆっくり風に言うならば、ごわぐでぜんぜんゆっぐりでぎないよおお!と言ったところだろうか。
いつ寝返りを打つか分からない巨大種2匹に戦々恐々で、全く眠りにつくことのできなかった私は、集落から200mほど離れた小川で夜風に当たっていた。
適当な岩に腰掛け、夜空に瞬く無数の星を眺めながら、川のせせらぎと風に揺れる木々のざわめきに耳を傾ける。
「・・・・・・・・・静かだなぁ」
自宅にいる時はこの時間ならまだれいむ辺りを抱きかかえたまま、テレビを見ながらすいかの角の酒を飲んでいる頃だろうか。
何にせよ、パジャマに着替えたは良いがまだまだ宵の口といった程度で、バカ騒ぎの真っ最中だろう。
あいつら、今頃どうしてるかな?・・・案外平然としてたら癪だな。
社長が面倒は部下に見せていると言っていたけど、迷惑をかけていないだろうか?
などなど、気がつけば鬱陶しい金食い虫の居候のことを考えている自分に気付き、思わず苦笑が漏れる。
『ゆゆっ!どうしたの、お姉さん?』
とまあ、一人最近のラノベにありがちな語り部も兼ねる無気力系主人公の成長フラグみたいなことを考えていると、巨大ゆっかりんが小川にやって来た。
ぽよんぽよんと体高だけでも私の3倍を超えようかという巨体を揺らしながら私の隣に跳ねてくる。
うっかり踏まれたりぶつかられたりすると即命に関わるのかと思うと少々笑えないが、流石にそんな失敗はしないだろう。
予想通り、私の傍まで来たところで跳ねるのを止め、底部を細かく動かして私の隣に腰を下ろすゆっかりん。
立っているのか座っているのかの区別のつかない連中ではあるが、多分座っているつもりなのだろう。
「んあ・・・ゆっくりしてただけだよ」
『ゆゆっ!じゃあ、ゆっかりんも一緒にゆっくりするわ!』
ちょっと予想外の展開。ゆっかりんは力を抜いてゆっくりとした表情を浮かべ、ゆっくりした雰囲気を放ち始めた。
まさにこれこそゆっくりといった感じだ。ゆっくりのゆっくりたるゆえんをゆっくりとゆっくりしてゆっくり体現している。
でかくてもやっぱりゆっくりはゆっくりなんだな、と妙に感心してしまった。
『お姉さん』
「んあ?」
『お姉さんはとってもゆっくり出来る人だわ!だから・・・す~りす~りしてもいいかしら?』
「止めて、プレッシャーだけで死ねる」
『ゆぅぅぅ・・・・・・』
涙目になるな鬱陶しい、とは巨大饅獣相手には流石に怖くて言えなかった。
何を饅頭ごときにと思うかもしれないが、そういうことは袈裟懸け(ヒグマ)の2倍に達する巨体を目の当たりにしてから言って欲しい。
でかいというのはとにかく理不尽かつでたらめなものなのである。おお、饅頭怖い饅頭怖い。
『そうだわ!だったらお姉さんがゆっかりんにすりすりしてね!』
「・・・何その斬新な発想?」
『ゆっかりん暖かいわよ?ゆっかりんの綺麗な髪に包まってもいいのよ!』
なまじ(何故か)社長をデフォルメしたようなデザインも手伝ってか、なんか殴りたくなってくる。
・・・のだが、物凄く期待に満ちた眼差しでこっちを見ていることに気付いてしまい、なんだか断れなくなってしまった。
チクショウ、こいつ綺麗な目ぇしてやがるじゃないか・・・。
「・・・わかったよ、すりすりすりゃいいんだな?」
『ゆっかりすりすりしてね!』
「はいはい・・・」
しぶしぶゆっかりんの髪を引っ掴んで包まり、ゆっかりんの頬にぴたっとへばりつき、頬擦りをする。
ゆっくりゆかり特有の(と思われる)物凄い弾力と、意外にも綺麗で張りがあって艶やかな頬は想像を絶する触り心地の良さだった。
それに・・・ゆっかりんの頬、暖かいナリ。悔しい、悔しいが認める。こいつ気持ち良い。
すりすり・・・すりすり・・・
ぷにぷに・・・ぷにぷに・・・
『ゆゆ~ん、やっぱりお姉さんはゆっくりしてるわ!ゆっかりんのお母さんみたい!』
「いろんな意味でお前みたいな子どもはいらない」
『でもね・・・ゆっかりんのお母さん、ずっと昔に死んじゃったんだよ・・・凄く強くて大きなドスまりさだったけど・・・』
「・・・・・・」
ああ、もうチクショウ、潤んだ目でこっちを見るな。分かったから、気が済むまですりすりしてやるから!
観念した私はがしっとゆっかりんの頬を掴んで頬擦りをしてやると、ゆっかりんはだらしない笑みを浮かべて一層ゆっくりし始める。
すりすり・・・すりすり・・・
ぷにぷに・・・ぷにぷに・・・
昔、友人に性格と口は悪いけど面倒見が良いからなんて理由で部活の副部長に推薦されたのを思い出した。
彼女達がそんな具合に仲良くゆっくりしていた頃、山では異変が起きていた。
「ゆぐっ!?やべでね!でいぶのおぢびぢゃんゆっぐぢさせであげでね!?」
「「「「おきゃあああぢゃああああああん!!」」」」
群れには属さないゆっくり一家の巣のすぐ外で、惨劇が繰り広げられていた。
そのゆっくりれいむのつがいはゆっくりまりさで、彼女達の間には7匹の子どもがいた。
4匹がゆっくりれいむで、3匹がゆっくりまりさ。皆とってもゆっくりした可愛い子ども達だった。
しかし、いまやつがいのまりさも3匹の子まりさも黒ずんで朽ち果てていた。
彼女達の亡骸の頭には無数の蔦が生えている。が、あまりに量が多く、実を結ぶことはない。
『んっほっほ・・・おちびちゃんたち!ありすのとかいはなあいをそそいであげるわ!』
「やめぢぇえええええええええええええ!?」
「うにぇうにぇしゃんきょあいいいいいいい?!」
「おきゃああああああしゃあああん!」
彼女達に絡みついて身動きを封じるのは太くて長い触手。そして、それらの持ち主はゆっくりありすの変異種だった。
しかも、馬鹿でかい。体高は2mを上回り、触手も太い部分は成人男性の腕くらいの太さでなおかつ4mほどの長さ。
そんなものが10本ほど、巨大なゆっくりありすに備わっていた。
大方、性欲によって定向進化でもしたのだろうが、これはもはやゆっくりではないと言わざるを得ない。
「やべでね!でいぶのおぢびぢゃんにひどいごどぢないでね!?」
『ひどいことなんてしてないわ!とかいはなあいをあげているのよ!』
「ゆびぇ!・・・ぢゅ、ぢゅっぎぢー・・・・・・」
本来ならばすっきりの恐ろしさなど子ゆっくりには漠然としか分からない。
しかし、まりさ達が犯し殺されるのを目の当たりにしている子ゆっくり達はそれがゆっくり出来ないことであると理解している。
だからこそ、必死になって巨大ありすの触手から抜け出そうと抵抗するが、あまりにも力が違い過ぎる。
何度目になるかも分からないすっきりさせられて黒ずんだ子れいむが投げ捨てられ、さっきまで彼女の上を這いずっていた7本の触手が別の子れいむへと大挙する。
『ゆふふふふふふっ・・・つぎはあなたをとかいはにこーでねーとしてあげるわ!』
「やめちぇええええええええええええ!」
『そんなこといって・・・れいむちゃんってばツンデレさんね!』
そして再び繰り広げられる凄惨な陵辱。
子れいむはあまりにも大きすぎる触手を口内に乱暴にねじ込まれ、今にも窒息しそう。
しかし、実は呼吸をしなくても生きてい行けるともっぱらの噂の彼女達は窒息によって楽になることはありえない。
口内を乱暴にかき回され、思わず餡子を吐き出しそうになるが、汚らわしい触手がそれを許さず、吐き気がずっと留まっている。
「うびぃ・・・うっ・・・」
『さあ、たのしくすっきりするのよ!』
そればかりか、子ゆっくり1匹相手には過剰とも思えるような数の触手が子れいむの頬をさすり、全身に振動を与えてゆく。
うねうねと蠢く触手に弄ばれる子れいむはやがてありすと同時に最初のすっきりを迎え、幼くしてば~じんを失った。
その後も終わることなく嬲られ続け、ものの数分で百回近くすっきりさせられ、アレコレ注がれた子れいむは蔦を生やしたまま黒ずみ、朽ち果てた。
「やべでね!でいぶのおぢびぢゃんごれいじょういぢめないでね!」
『ゆふふ・・・じぶんからすすんでまっさーじだなんてとかいてきなれいむね!』
「おきゃあしゃん・・・がんばっちぇね!」
「おきゃーしゃんがおみゃえをやちゅけてくれりゅよ!」
もはや母にすがるしかない子れいむ2匹は、現実から目を背けて必死に母を応援する。が、当然全く歯が立たない。
れいむが何度体当たりしてもありすは揺るぎもせずに次の子ゆっくりを犯しに取り掛かっている。
が、しかし、犯すばかりの単調作業に飽きたのか、何の前触れもなく、子ゆっくりを握りつぶしてしまった。
「おぢぶぢゃあああああああああああああん!?」
『ゆふふふふ・・・これであなたのいなかもののおちびちゃんはあとひとりよ!』
「ゆぐっ・・・ぐすっ・・・お、おかーしゃぁん・・・」
「おでがいぢまずうう゛う゛ううう゛!なんでぼぢまずがらぼうでいぶのあがぢゃんにひどいごどぢないでええええええ!?」
最後の1匹になってしまった我が子を前に、必死になって許しを請う母れいむ。
それを見た触手ありすは、しばし何かを考え・・・
『だったらあなたがありすをすっきりさせてね!』
そんなことを口にしながら、母れいむの口内に触手を1本ねじ込む。
妙に臭い触手を咥え、必死に舐めるれいむ。しかし、触手ありすはそれを冷めた目で見つめていた。
なんだ、期待はずれか。
心の中でそう毒づいて、最後の一匹を握りつぶした。
「ゆぐっ!で、でいぶのおぢび、ぢゃん・・・」
『かわいそうね!あなたのてくがいなかものだからしんじゃったわ!』
「ゆっ・・・ご、ごべんね・・・だづげで、あげ・・・ゆっぐ・・・」
物言わぬ饅頭と化した最後の子れいむを前に泣きじゃくる母れいむ。
その悲劇と絶望を田舎モノの三文芝居とせせら笑い、触手ありすは母れいむを叩き潰した。
『あれだけやっておいて最後はアレですか。おお、怖い怖い』
直後、またしてもゆっくりならざるゆっくりが何処からともなく姿を現した。
トナカイのような大きな角に、獅子を髣髴とさせる逞しい肉体、大蛇を髣髴とさせる大蛇に巨大な漆黒の翼、そして紛れもなくゆっくりの下膨れ顔。
目の前に広がる惨状にも眉一つ動かさず、きめぇ丸譲りのニヒルな笑みの張り付いた顔をブンブンとシェイクしている。
『あら、きめら丸じゃない!どうしたのかしら?すっきりしたいの?』
『どうしたのかしら、じゃないでしょう。貴女のお遊びにこれ以上付き合っている暇はありませんよ?』
『ゆゆっ!ゆっくりおもいだしたわ!とかいはなどすとすっきりしにいくのよね!』
『口を開けばすっきりですか。おお、卑猥卑猥・・・などとやっている場合ではありませんね。ティガを待たせていますから急ぎましょう』
2匹は住人のいなくなった巣を後にし、もう1匹の仲間ティガれみりゃと合流し、巨大ゆっかりん達のゆっくり集落へと向かっていった。
『ゆゆっ!何か来るわ!』
『どうも、清く正しくきめら丸です』
『お姉さんはまりさとあのお姉さんを呼んで来てね!』
「・・・んあ?」
突如姿を現したきめら丸と名乗るゆっくりを前に臨戦態勢に入るゆっかりん。
1匹だけこの場に放っておくのも心配ではあったが、目の前にいるきめら丸も人間をはるかに凌ぐ巨饅獣。
地面から頭までの高さだけでも2m近く、体長に至ってはゆっかりんを上回るほど。
こんな奴相手に私が出来ることなんて、饅頭相手にこういうのも癪ではあるが、やはり何一つないだろう。
「・・・わかった」
私は言われるがままにきびすを返し、ゆっくりの集落へと急ぐ。
後ろから、とてもゆっくり同士の喧嘩で出すような音ではない轟音が響いてくるが、振り返ってもしかない。
私はただひたすらゆっくりの集落を目指して疾走した。
異常事態にもつれる足を奮い立たせて何とか集落に到着した。が・・・・・・
『んほっ!いっぱいいるわ!』
「「「「ごわいよおおおおおお!」」」」
「「「ごっぢごないでね!ぷくううううう!」」」
集落も何処かのおとぎ話から飛び出してきたような化け物に襲撃されていた。
1匹はレイパーありすの変異種だろうか、気色の悪い、おそらくぺにぺにが進化したであろう触手を巣の中へと伸ばしてゆく。
しかも、とにかく馬鹿でかい。他の巨大種よりははるかに小柄だが、それでも2mを超え、触手を含めると5mを軽く超えるだろう。
「やめちぇええええええ!?」
「やめてあげてね!いたがってるよ!」
『とかいはのあ~いをあげましょ~♪』
「わがらないよー!?」
「ちーんっぽ!?」
歌いながら10本の触手を自在に操ってれいむを、まりさを、ありすを、ぱちゅりーを、ちぇんを、みょんを片っ端から絡めとってゆく。
そして、口の中に触手をねじ込み、抜き差しを繰り返しながら快感を貪っている。
助けてやれるものなら助けてやりたい所だが、私が跳び出していってどうにかなるような相手とは思えない。
いかにもなレイパー面をしたそいつに見つからないように急いで木々の間を駆け抜け、ドスまりさの巣に急ぐ。
が、しかし・・・・・・
『ぎゃお~!たべちゃうぞ~!』
「「でびりゃだああああああああ!」」
『みんな!まりさのうしろにかくれてね!』
ドスの巣の前にもこれまたおかしなゆっくりの姿があった。
一見するとただのれみりゃ変異種のれみりゃザウルスに過ぎないのだが、こいつもやっぱり馬鹿でかい。
ペタン、と座り込んでいるにもかかわらずドスまりさの帽子と同じ高さに顔がある。
立ち上がったらきっと8m以上になるだろう。
「・・・もうやだ、訳がわかんない」
何か頭の悪い夢でも見ているような気分になってきた私は頭を抱えながらドスの後ろに回り込み、彼女の巣の中へ入る。
もちろん、目的は社長。昼間にゆっかりんとドスまりさを容易く一蹴した彼女ならこの事態を確実に打開してくれるだろう。
しかし、私のそんな期待はいとも容易く打ち砕かれることになった。
「・・・こんな状況で平然と寝てるよ」
「zzz・・・zzz・・・」
この社長、何をやっても一向に起きる気配を見せない。
揺すっても、くすぐっても、叩いても・・・は後が怖いので出来なかったが、うんともすんとも言わない。
いくらなんでも寝すぎだろ。そう思いつつ万が一の奇跡にかけてキスもしたがやっぱり無駄だった。
サヨナラ、私のファーストキス・・・いや、いくらなんでもテンパり過ぎだ。
『うるさいんだどぉ~!』
「ゆぎゅ!」「れいぶのおぢびぢゃあああああああん!?」
「もっぢょ・・・ゆっくりいたかった、よ・・・」
『どすぱあああああああああああく!!』
『うぎゃあああああ!いだいんだどぉ~!』
外ではドスまりさとでかいれみりゃザウルスがゆっくりらしからぬ轟音をとどろかせながら大暴れしている。
その轟音が巣の中にまで侵入し、反響して耳を劈く大爆音になる、が・・・やっぱり社長は目を覚まさない。
王子様でも探してこなきゃならんのじゃなかろうか、真剣にそう思い始めたとき・・・
「おね゛ーざぁん!どずが、ゆっぐぢぢないでにげでねっでい゛っでたよ!」
「・・・ん、ああ」
そう泣き叫びながら私たちの元にやってきたのは昼間私の尻に敷かれたれいむ。
と言われても、このゆっくりを差し置いてこの騒乱の中で惰眠を貪っている馬鹿社長をどうしたものか・・・。
何となく踏み潰されても大丈夫そうな気がしなくもないが、ゆっかりんの攻撃を妙な術を使って受け止めていた以上、多少の怪我はするかもしれない。
それに、あの気色悪いありすにまあなんだ、性的なニュアンスを伴うアレをナニされたりしたら流石に可哀相だ。
などと考えてしまうと放っておく訳にも行かないのだが・・・
「らん~・・・ごふぁん、まだぁ~・・・・・・?」
その寝言を聞いた瞬間、れいむを抱きかかえ、巣の出入り口に向かって全力で駆け出した。
もう知らん。寝ている間にeraい目にあっても私にゃ関係ない!
一瞬でもあんな変人の心配をしたことを少し後悔しながら、巣から飛び出して森の中へと突っ込んでいった。
『うっう~、もうあきらめるんだど~♪』
『ゆぐぅ・・・ま、まだだよ!まだ、まりさは戦えるよ!』
私はれいむの目と口を塞いだまま、木々の陰に隠れて彼女達の様子を伺う。
巣の入り口付近では2匹の戦闘に巻き込まれた大量のゆっくりが餡子を撒き散らして平らになっていた。
僅かに息があるものも、呻き声を上げるのが精一杯で、どう見てももう助かりそうなものは皆無。
唯一その場でまともに動けるドスまりさも傷だらけでところどころ餡子が露出している。
「う~・・・めんどくさいやつなんだど~!」
『ゆっ!どうしてまりさをやっつけないの?強くてエレガントなれみりゃなら簡単でしょ?』
「そんなのきまってるんだど~!いきてつれてこいっていわれてるからだどぉ~!」
『ゆぅ・・・誰かがまりさを狙っているんだね?』
ただの無駄話・・・というわけでもないようだ。
よく見てみればドスまりさは自分の足元に微弱なゆっくりオーラを展開して体力の回復を図っている。
どうやら、れみりゃの単純な頭を利用して褒めることでおだてつつ、話に乗せているらしい。
しかし、対するれみりゃは四肢一本の欠損すら見られず、多少の擦り傷や火傷以外の外傷が全くなかった。
多少傷が癒えたくらいでどうにかなる相手でないことは、目に見えていた。
『そう・・・まりさがいたせいでこんな風になったんだね・・・』
そう呟き、俯くドスまりさ。
それは違う。その誰かは・・・恐らく人間だ。まりさが居たせいじゃない、これはただの人間のエゴだ。
出来ることなら駆け寄ってそう言ってやりたい。が、飛び出していってもどうにもなるまい。
れいむを抱きかかえたまま、ドスまりさに背を向けて山林の中を駆けていった。
『ゆふんっ!まだいっぴきのこってたのね!』
「うげ、見つかった・・・」
「ゆえええええええん!こわいよおおおおお!?」
私だって怖いっつーの!ついでにレイプ中のこいつらの顔は生理的に受け付けないよ!
しかし、怯えるれいむの前でそれを口にするわけにもいかず、決死の逃走を繰り広げる私達の前に立ちはだかる触手ありすを睨む。
見ているだけで不愉快な化け物とは言え所詮は饅頭だ。斧の一つでもあれば何とか対抗できるかも知れないが・・・
「・・・うへぇ」
彼我の戦力差は圧倒的。そう判断した私は恐らくゆっくり達が舗装した道から、巨体には不利な木々の密集地へと駆け出す。
うねうねと蠢きながら襲い来る触手を必死にかわし、木々を避けながら触手ありすを誘導する。
幸い巨大化していてもゆっくり特有の鈍足は健在、私が全力で走ればある程度距離を稼げる程度の移動速度でしかない。
もっとも、結構な大型のれいむを担いで全力疾走できる距離など知れており、結局追いつかれる羽目になるのだが。
「よしっ!」
『れいむううううううう!ありすがとかいはのあいをあげるわああああああ!!』
とはいえ、そんなことはいくら私でも最初から想定している。
何とか狭い道を選んで木々をバリケード代わりにしながら触手ありすとの距離を保ち、逃げ続ける。
何処へ向かっているかを考える余裕なんてなかったし、そもそも自分が今何処にいるのかも分からない。
ただ、あんなのに捕まりたくない、それにれいむを放っておくわけにもいかない。
その一心だけで木々の隙間を駆け抜けた。
「おねえええざぁん!」
「あーっ、もうっ!五月蝿い!?」
抱きかかえられているれいむは大粒の涙をぼろぼろ零しながらも私の衣服に必死に噛み付いている。
多分人間でいうところのしがみ付くに相当する行動なんだろうが、動きにくくなるので正直鬱陶しい。
それにいい加減腕が疲れてきた。しかし、触手ありすの不快な咆哮がまだ聞こえてくる以上、ここで休むわけにもいかない。
『まぢなざああああい!れいむううううううううう!』
「ごわいよおおおおおおおおお!?」
怖っ!本当に何処の神話の世界から飛び出してきたんだか、あのミュータントは・・・。
とはいえ、上手く通行を阻むことが出来たのか、その声は徐々に小さくなっている。
このままなら何とか逃げ切れるはず。
そう思って安堵した瞬間・・・
『ゆ゛っ・・・お、おね゛ーさ、ん?!』
『おや、ご自分から戻ってくるとは・・・おお、愚か愚か』
一体、どうすればこんなデカブツを見落とすのかと思うような巨体が2つ。
不運にも瀕死のゆっかりんと、きめら丸に鉢合わせてしまったらしい。
ぼろぼろの体で懸命に這いずってきめら丸と私たちの間に立ちふさがるゆっかりん。
『だべよ・・・おねぁざんはゆっがりんが守る、よ・・・』
彼女がきめら丸に蹂躙される光景を目にした瞬間、頭の中が真っ白になる。
更に絶望的なことに、薄れゆく意識の中で撒いたはずの触手ありすを視界の隅に捉えてしまった。
最終更新:2009年02月14日 03:37