「はいーよくできまちたー(パチパチパチパチ)よく出来たれいむちゃんにはふたつ、ごほーびあげまちゅよぉ~ッ!」
れいむが子供を食い殺す様を見れて、男は上機嫌だった。
れいむの方は男の言葉は聞こえているが、最後の一かじりをしてからピクリとも動かない。
「ひとつわ~まりさちゃんのことなんだけど~」
愛しい者の名を聞かされて我に返るれいむ。
涙は枯れ、狂気の宿るぎらついた目で男の事を見つめる。
その目を見て目を細めた男は二の句を告げる。
「…君とは一生すっきりさせません!」
ニカッと笑う男。
希望を打ち砕かれたれいむの瞳は、一時置いてから再び涙にぬれて波打ちはじめる。
れいむはわが子を殺していたときに、わずかではあるが打算が働いていた。
『子供はまりさとの間でも作れる』
そんな儚い願いも男は許さなかった。
「きみの旦那さんはあの汚物ありす唯一つ!不慮の事故で早世した夫に対して操を守るって、なかなか殊勝な心がけとは思いませんか?」
「いやだぁ!れいむはまりさのあかちゃんがほしい!まりさとけっこんするのぉ!」
そんな事実を受け入れる事はできない。
張り裂けんばかりの声で、まりさとの子を望んでいるという思いを男にぶつける。
「だめだよ~まりさは赤ちゃんを作る事ができないんだからっ」
その言葉にはいままでカヤの外に置かれているまりさも反応せざるを得ない。
「ま、まりさはあかちゃんつくれるよ!うそいわないでね!」
「あ゛?あ゛がぢゃんをづぐれないって!?どゆごと?」
男はニヤニヤ笑いをしながられいむ達に対して半身になって、人差し指を立てて「チッチッチ」と口を鳴らしながら手を左右に振る。
「それはですね、今からまりさのぺにぺに&まむまむを、二度と使えないようにするからなのです」
一瞬凍りついた空気が二匹の
ゆっくりに漂う。
「やめてよね!まりさとこどもをつくれなくなっちゃうよ!」
「やべてください!それだけはいやなの!」
涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにし、震えながら泣き叫んでいる。
「どぼちて!?どぼちでそんなごとじゅるの!?」
子供は作らされてもその次があるが、子供を作れないようにされてはやり直しが利かない。
まりさは必死になって去勢の中止を懇願する。
涙でぐちゃぐちゃになったまりさを冷ややかな目で見てた男は眉を顰め、口をすぼめてから口を開く。
「なんつーかさ、最近つまんねえからさ。お前のリアクション薄くって。
昨日もそうだったよな?俺がどんだけれいむの物真似練習したと思ってるのよ。
アレで覚めたわ、普通の虐待じゃイけないって。
今日もレイプの順番待ちしているってのに、眉一つ動かさないってどういうことなの?ビビるわぁ!
そこで去勢したらら良いリアクションもらえるかな?と思ってさ。理解できた?」
確かに最近諦めの境地に達しつつあったまりさの反応は静かなものになっていた。
一緒の部屋で虐待するのも、まりさの冷えた心を熱くさせようとしたのだろうが、上手く行ったとは思っていないようだ。
「つまらない…つまらない、って…」
まりさの口から叫びは消え、呆然とした表情で涙を流していた。
「やべちぇね!れいむばあかちゃんがほちいの!」
「まりさが居なくっても子供は作れるから心配するなよれいむちゃん…なぜなら~」
そういって一匹だけ生き残った赤ありすをれいむの前にちらつかつつ宣言する。
「このぷちまふぃんちゃんを、淫乱ファッキンガバガバビッチのれいむたん専用暴走弾丸レイプマシーンにしちゃうからですの!」
口元だけでなく、目も、眉も、鼻も、極限まで歪められた笑みを作り出していた。
「ゆあ…あ…がぁ…」
れいむはあまりの衝撃に言葉も出なくなっている。
「淫乱とレイパーのゲスサラブレッド!そういうのもあるのか」
男はニタニタ笑いながら赤ありすを箱にしまう。
箱の中で震える赤ありすに微笑むと、その小箱を近くのテーブルにおいてからまりさに向き直る。
「さ、まりさちゃんは去勢しちゃおうっか♪」
「いやだよ!いたいのいやだよ!くるしいのもいやだよ!」
どこか達観したかのような表情を見せる事もあったまりさだったが、
想定外の虐待を目の前にして、何処かに消えていった恐怖が再びまりさの心に飛び込んできたのだろう。
始めてここで虐待されたときのような、身も心も弱い一匹のゆっくりになっていた。
虐待部屋にある道具箱から取り出したるは半田ごて。
プラグをコンセントに差し込むと、まだ温まっていない先端をまりさの眼球に押し当てる。
「ゆぴゃあ!」
「まだまだこれからが本番なのに、そんなんじゃレイプされたれいむの苦しみなんて、これっぽちも理解できないぞ☆」
熱くは無くても眼球に異物を押し当てられてはたまったものではない。
しかし男は『まだまだこんなものじゃない』と言っている。
まりさは涙を流し、不安に打ち震えている。
冷たい小手先をまりさの体に這わしていく。
今はまだ異物が体を這う感触に不快感があるだけである。
そのうち徐々に熱を出していく半田ごて。
ゆっくり出来そうに無いものからゆっくり出来ないものへとまりさの認識が変わっていく。
「やべてください、やべてくだひゃい…」
温かいから熱いの中間ぐらいの温度、大体40度ぐらいだろうか。
半田ごてとしてはまだ仕事の出来る温度ではないが、苦痛を与えるにはもうすぐ威力を発揮する頃だ。
「あああ…あっついよう…あっつい゛いいいいぃぃ!」
ついにまりさの口から懇願以外の言葉が出てきた。
苦痛に悶える悲痛な叫びである。
「あーちーちーあーちー、もえているだろうかー」
半田ごてを押し当ててから、ずっと沈黙してきた男がここで口を開く。
まりさの絶叫を聞いて、やっと乗ってきたという事なのだろう、下手な歌を口ずさんでいる。
「ぎゃああああああ!いだい!いだい!ゆっぐぢ!ざぜぇ!ゆっぐ!」
苦悶に悶え、体をよじって逃れようとしても男の左手はそれを許さない。
十分熱された半田ごてをまりさの体に這わせていくと、茶色いラインが体に刻まれていく。
「一生童貞宣言…淫乱まむまむお断り…れいむいずすーぱーびっち…放置プレイ実施中に付き声掛等禁止…」
まりさの肌に文字を刻み込んでいく。
刻みながらその文字を口にする事で、まりさにもれいむにも刻んだ言葉の意味を分からせている。
まりさの肌は、『絹のような肌』なんて口が裂けてもいえない程にがさついた肌だったが、男の刻んだ文字が惨たらしく汚していた。
「らくがきしゅーりょー」
まりさの体から半田ごてが離される。
絶え間ない苦痛から解き放されたことで、まりさは僅かに安堵の色をみせる。
それは目の前の男にも見て取れた様で、少しにやっとした表情をしてからまりさに大事な事を告げる。
「さてと、本番行きますか」
そう、まだ去勢は済んでいないのだ。
二匹のゆっくりは再び蒼白になる。
「どゆこど?いままでなにじでたの?」
苦痛を耐えるキャパシティ限界まで来ていたまりさの質問は、鬼気迫るものだった。
まりさのテンションと対極にあるかのような醒めた表情の男。
「ん、こいつが温まるまでの暇つぶしだよ?」
ここまでの虐待をほんの戯れだとほざく。
「もうまりざをゆっぐりさせないのはやべで!」
傍観者に回ったれいむはもう十分キズ付いたから許して貰いたいと言いたいのだろうが、
その問いに対した男は、口元が目じりまで裂けそうなほど引き吊り上げる。
「去勢がまだ済んでいないんよ」
男は半田ごての先を水の入ったコップに入れ、水が蒸発する音を聞かせる。
じゅっという音を立てた小手先は、水の中へまりさの皮膚だった焦げを落とす。
まりさの肌を這った時よりも強い音のする半田ごてを見て、戦慄するまりさ。
「安心して」
すがる者の居ないまりさは、その言葉にこくこくとお願いするように頷くが、
「今まで君が受けたいじめとは、比べ物にならないぐらい痛いから」
続く言葉はそれを裏切るかのような残酷一色の冷たい言葉。
怒りと悲しみが混ざったかのようなまりさの表情。
眉間に皺を寄せ、目じりは下がり、双眸は僅かに潤んで歯を食いしばった口は限界まで横方向に引きつっている。
「ホイキタその表情!いただきマンモス!」
男の笑いは口端と目じりがくっつくぐらい引き攣ったものになった。
口裂け男は焦らす事無く半田ごてをまりさの腹部にもぐりこませた。
「ゆゃっぴゃあああぁあぁぁあ!!!」
先ほどまでの奇相はどこへやら、去勢開始と同時に涙とよだれを撒き散らしながらわめきだしていた。
半田ごてが捻じ込まれれば、その深さに応じた音量の悲鳴を上げる。
「ゆやぁ、…やああ!…ゆぎゃあああああああああ!!!」
「はどーけん、しょーりゅーけん、はおーしょーこーけん、コナミコマンド!ばくれつきゅうきょくけん!!」
まりさの体に突き立てた半田ごてを、ゲームのスティックに見立ててぐりぐりと動かしていく。
「ごめんねー、もう去勢は済んでいるんだけどもさ、なんか盛り上がっちゃったから暫く付き合ってね!」
友達からゲームを借りる感覚でまりさの体をもてあそぶ。
「ゆぁべ、ゆぁべ!いば!やああぁ!」
まりさには男のおもちゃ宣言はすでに聞こえていなかったらしい。
苦痛にもだえるまりさに代わり、れいむが男にお願いしていたが、興奮状態の男は聞く耳を持っていなかった。
「あっべべ…べ…ゆぐ…ぎ…あびゃぁ…」
人間の性器に相当する体内の餡子を炭化するまで焼き尽くされて、まりさは声を発する事もままならなくなった。
反応の無くなったゆっくりほど、つまらぬ物はこの世には無い。
動かなくなったまりさを見つめる男の目はそう言っているように見えた。
男は暫く半眼でおもちゃを見つめる。
全く動かなくなったまりさと男を交互に見るれいむ。
異様な空気がそこに流れる
その静寂を静かに打ち破る声が、男のへの字に曲がった口からゆっくりと吐き出された。
「どかーん。ゲームオーバー」
さめた顔で半田ごてを抜いた。
去勢をされたまりさは白目を剥き、だらしなく開かれた口から舌がだらりとたれている。
男は半田ごてを置き、残り僅かとなったジュースのパックを手にすると、中身の全てをまりさの口に注ぐ。
口内に溜まったジュースはみるみる水位を下げ、まりさの目には生気がよみがえる。
「ごめんなさい…ごべんなざい…」
息を吹き返すなり、まりさの目からは涙が溢れかえった。
まりさの謝罪はれいむに向けられたものだろうか、それとも男に向けられたものなのだろうか。
れいむは大きく開かれた口から嗚咽を漏らすのみで、まりさに対して何も言えなかった。
今日の虐待は全て終了した。
今まででもっとも凄惨な虐待の一日であった。
大きい箱に二匹一緒に入れられて、男の腕に抱えられている。
一緒に入れられるようになったのは、去勢が済んで余計なすっきりーをする心配がなくなったからだろう。
なにより外見を酷く汚されたまりさを見せ付ける目的もある。
外はすっかり暗くなっていて、三畳間に続く廊下は月明りのみが照らしている。
部屋に至るまでのほんの僅かな道のりは、まりさにはとても長く感じられた。
短い時間ではあったが、餡子脳は必死になって答えを探し出していた。
どうしたらゆっくり出来るかと。
いつもと変わらぬいつもの場所に、いつもの様に置かれる二匹のゆっくり。
違っているのは、二度と治る事のない傷を付けられた心と体。
「じゃあね、あんころちゃん。赤ゆっくりが腐れレイパーになるのを楽しみに待っててね☆」
男の態度もいつもと変わらぬ軽い調子だ。
「…やめてよう…あかちゃんはわるくないよう…」
弱弱しいれいむの言葉は人間の耳には入らなかったようで、そのまま去っていってしまった。
深く傷ついた二匹は一言も交わすことなく眠りに付いた。
互いにかける言葉が見つからないし、答える事も出来はしないから。
それから三日間。
まりさとれいむは虐待部屋に連行されることは無かった。
だからといって世話を放棄されたわけでなく、定期的に食料を持って男は部屋にやってきて、箱の掃除をする以外、特に何もせずに無言で去っていった。
今までの男は異常なテンションで、虐待を心から楽しんでいるのを言葉と態度で示してきた。
しかし今は淡々と作業をこなす、ゆっくりに関心の無いような姿しか見られない。
男の暴力が介在しない環境でも、ゆっくり出来てはいなかった。
虐待の記憶は互いの餡子にしっかりと刻まれており、眠るたびに悪夢にうなされ、傷つけられた互いの体を見ては虐待の記憶を想起させていたからだ。
すーりすーりもぺーろぺーろも、まりさの傷のことを考えると、お互いに気を使ってしまって出来なかった。
「おひさしぶ~りぃ~ねぇ~、いじめをするなんて~」
戸を開けるなり歌いだした男の姿を見て、二匹のゆっくりは箱の中で身を寄せ合って震えだす。
あの虐待を心から楽しむ、悪魔の歌が再び耳に入ることになったからだ。
箱ごと抱えられ、虐待部屋へと続く廊下での会話。
「あの赤ありす、どうなっているとおもう?」
「わからないよ…」
「楽しみは最後まで取っておきますってか?」
「たのしくないよ…」
「まりさ、れいむとすっきりーしてみたか?」
「…ゆぐぐぐぐ…」
「ぺにぺに無くなるとそんな気も起こらねえの?れいむはどうよ?このらくがきんちょとすっきりーしたいと思う?」
れいむは答えなかった。
何を言ってもまりさを傷つけることになると思ったからだ。
三日ぶりの虐待部屋。
まりさとれいむの希望を奪ってきた部屋。
三日前も同じくそこにあったテーブルの上に箱が置かれる。
男はどかっと椅子に腰を落とし、ふっと溜息をついてから語りだした。
「今日はとっても残念なお知らせが出来たんで、お前らに知らせなくちゃいけませぬ」
れいむとまりさは何も言わない。男の方に体を向けて、冷めた目線は男に焦点を合わせていない。
もう何をされても、何がおきても不思議ではないという気持ちが、このゆっくり達に冷めた眼をさせているのだろう。
男はゆっくりの反応がなくても気にせず続ける。
「この部屋で日常的に行われてきたお前さん達への虐待ですが、残念ながら今日で終わりです」
本来なら喜んでもいいことなのだが、この男の言うことだ。
絶望の淵に立たされたゆっくりには、悲劇的な結末しか想像できない。
「おまえらがさ、なかなか元気を取り戻してくれないから待っていられなくてさ、替わりのゆっくりを調達してきちゃったのよ」
おもむろに立ち上がり、部屋の奥へ行くと、一つの大きな透明な箱を抱えて戻ってきた。
中には二匹のゆっくりが仲睦まじそうに寄り添っている。
やって来た二匹のゆっくりは、れいむとまりさを見ると挨拶をしてきた。
「「ゆっくりしていってね!」」
「「…ゆっくり、していってね」」
新しいゆっくりは見るからに肌つやも良く、その表情も明朗そのもの。
邪気の無い澄んだ表情であった。
野に生きるゆっくりでは、とてもじゃないがこのような表情は出来ない、人間の手で大事にされてきたゆっくりなのだろう。
「ゆ?げんきがないね?」
「それによくみるとひどいきずだね、おにいさんなおしてあげてよ!」
言動からも性格の良さがはっきりと分かる。
悪意を知らない純真無垢な、真にゆっくりとしたゆっくりがそこに居た。
「二人はゆっくり思いの良いゆっくりだね~」
男は新しいゆっくりに向けて笑顔を作る。
その笑顔はれいむとまりさが何度と無く見てきた、虐待の最中に見せる歓喜を表す笑顔だった。
れいむとまりさは最初、この幸せ満面のゆっくりをみて羨ましいと感じていた。
箱の中で臆面も無く体を摺り合わせるその姿は二匹が追い求めていたものだったから。
しかし男の笑顔を見て、この二人がたどる運命を考えると哀れみの気持ちしか出てこなくなる。
「早速あの子達に治療をしてあげるから、君たちはあっちでゆっくりしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
男に箱ごと抱えられるときに別れの挨拶をした新人ゆっくり。
まりさとれいむはこれが最後のゆっくりしていってね!になると思ったからか、
渾身の力をこめた「「ゆっぐりしていってね!」」を返した。
あまりにも力強いゆっくりしていってね!は、新人ゆっくりには先ほどの気遣いをしてくれた感謝の言葉として受け取れたのだろう。
ゆっくりとした笑顔を見せて、部屋の奥へと連れられていった。
新人ゆっくりを別室に置いて来ると、改めて椅子に腰を落としてから喋りだす。
「ま、分かっているとは思うけど、お前らにしてやる治療なんかは無い
なんて言ったらいいのかな…勝手に永遠にゆっくりしてね!」
自殺しろ。
簡単に言えばそういうことだ。
「…どういうこど?」
男の言葉の意味はうっすらと理解出来ているようだが、受け入れられない内容なのでついつい質問をする。
「俺は、この場で一緒にゆっくり出来るチャンスをくれてやる、と言っているんだ」
「それはゆっくりとはいわないよ!えいえんにゆっくりするのは、ゆっくりできないことだよ!」
死んだ目をしていたれいむだが、まだ死の恐怖は拭い去れてない。
死への恐れが強いのは、残された子供がいるからだろう。
「永遠にゆっくりすることの何が悪い?今まで何匹のゆっくりがそうなったと思う?
いままでじゃない、今もだ、今もどこかでゆっくりが永遠にゆっくりしている。」
男は今まで見せた事の無い表情をする。
真っ直ぐとれいむの事を見据え、低く落ち着いた声で諭すように語る。
「これからもそうだ、毎日のようにどこかでゆっくりはゆっくりと出会い、番となり、いずれはすっきりーをする。
すっきりーしたゆっくりは、子を産み、育て、年を重ね、最後には永遠にゆっくりする。
そのゆっくりの子供達も、大きくなればすっきりーをして、永遠にゆっくりする、この繰り返しだ」
虐待に心血を注いでいた男とは思えないような豹変振りに、れいむとまりさは戸惑いながら、その言葉に耳を傾けている
「そんな充実したゆっくりにも一つどうにもならないことがある。最後の時まで、最愛のゆっくりと一緒に過ごす事だ」
「病気、老衰、事故、…俺みたいな奴に捕まる。最後の時を共に出来ないことなどいくらでもある」
「ま、今まで俺を楽しませてくれた礼みたいなもんだ。死ぬ時ぐらいはお前らの自由にしてやるよ」
死ねというのを礼とするのはどうかしている発言だが、この男は本気だ。
「…だしてよ!れいむたちは、いらないんでしょ?だったらここからだして!おうちにかえしてよ!」
虐待に飽きたのなら、礼をしてくれるのなら、自由になりたいとれいむは言うが。
「…俺にも知られたくない事ぐらいあるんでな。お前らが外でいろいろ喋られると困るからな。生きて出すことは絶対に出来ない」
情けはかけるが損を被る真似はしない、ということらしい。
れいむ達が生きて此処から出るのは叶わないのだ。
「おにいさんのことははなさないよ!やくそくするよ!」
男は冷ややかな目を投げかける。
「…俺がお前らに信用されていない事ぐらい分かる。裏を返せば俺もお前らを信用出来ない」
信頼関係はお互いが対等な立場、条件で成立する。
暴力的な支配者を奴隷が信用できないように、支配者は卑屈な奴隷など信用しない。
「とりあえずこいつを返すぜ、人間の道具より使いやすいだろ?」
男がまりさに一本の棒を投げてよこす。
まりさ種が生まれた時から常時携帯する何の変哲もないただの棒。
まりさは無言でそれを咥えると、見上げるように男をにらみつける。
「…最後の最後に意趣返しか?止めとけよ、失敗したときはお前の寿命が来るときまで、ゆっくりさせなくするだけだぞ?」
まりさが余計な気を起こさないようにと思ってか、そそくさと隣部屋の戸の前に行く。
「外が真っ暗になって、もう一度明るくなったら時間切れだ」
そう言って、新人のゆっくりがいる部屋に入っていった。
まりさとれいむはお互いに目をあわせる。
まりさの目は、覚悟の決まっている澄んだ目をしていたが、れいむの方は悲しみに潤んでいる目。
れいむ以外のすべてを失ったまりさと、望めば新たに子を宿すことの出来るれいむとでは、気持ちの有様に差が出るのもしょうがない。
「まりさ、いっしょにおそとにでようよ!いましかないよ!」
語気は強めているが、出来る限りの小声で話すれいむ。
生きる希望をまだ絶やしていないれいむは、リスクを背負ってでも自由になろうというのだ。
「…」
一方のまりさは黙っている。
もうすでに自らの意志で死を選ぶことを決めてはいたが、それも最後までれいむと一緒という条件付でのこと。
肝心のれいむの意志が、生きる望みを賭けると言っているので、無理強いして死を選ばせることは出来ない。
最後の最後までゆっくりしてこその自決なのだから。
まりさは、れいむの願いに協力することにした。
殺風景な虐待部屋には入り口が二つある。
片方は男が新人ゆっくりを連れ込み、入っていったところ。
もう片方がまりさとれいむが箱に入ったまま通った所。
二匹は引き戸に体を押し付け、横にスライドさせる。
潤いの無い肌なので、上手く摩擦が働かずに体だけ滑ってしまう。
「あきらめちゃだめだよ!ゆっくりするんだよ!」
ゆっくりが通り抜けるにはわずかな隙間でも十分だ。
それほど時間もかからず抜け道を作ることが出来た。
「ゆっくりしないでにげるよ!」
男の家はこの部屋だけではない。
外へ出るには幾つかの関門が待ち構えているはずだし、何より男に捕らわれてから家の外に出たことが無い二匹は、何処が正解か分からない。
ひとまず通れる所は全て行くことにする。
その中で正解に近いヒントがあればそれに従おうというのだ。
人間の民家も作り次第ではゆっくりにしてみれば迷宮のようなもの。
そのうえいつ男に見つかるか分からない、鬼ごっこも併せた状態だ。
今居る所は、隠れようにも隠れる場所の少ない所だと判断した二匹は、安全よりも探索の速度を優先した。
「ゆ?こっちはまっくらだよ…」
「ここはあけるのにじかんがかかりそうだから、あとまわしだよ!」
「ゆゆっ!おいしそうなにおいがするよ!」
「ゆうう…これは、おはなやムシのにおいじゃないよ。こっちはちがうね!」
焦りのせいか、時間が無限とも一瞬とも感じられる。
「ゆゆ…くささんのにおいがしたよ!こっちだよ!」
匂いを嗅ぎつけたれいむが駆けて行った先、そこは家の玄関だった。
「ほんとうだ…なつかしいにおいだね…」
まりさもここまで来ると、はっきりと自然の匂いがしていることに気付く。
引き戸の玄関は、人の拳ほどの隙間が開いていた。
そこから外の風が吹き込んでいたのだろう。
「もうすぐおそとだよ!あといっぽだからゆっくりしないでね!」
先ほどと同じように、体を押し付けて引き戸をスライドさせる。
ガラガラと大きな音が立ったことに、二匹は肝を冷やしたが、すでに引き返せないことは心得ているので、意を決して引き続ける。
風が運ぶ土の匂い、芽吹いた若木の発する新緑の匂い、咲き誇る花々の蜜の匂い。
風に吹かれた草が擦れ合うざわめきの音、鳥達のさえずり。
照りつける太陽が肌を焦がす。
二度と感じることの出来ないと思われた、ゆっくり出来る世界がそこにあった。
思い思いに野山をかけてきた、ゆっくりとしていたあの頃の記憶を取り戻してゆく。
れいむは泣いている。
再びゆっくり出来ることへの悦びが涙を迸らせていた。
まりさは感謝している。
久々に心の底から喜ぶれいむの顔を見て、自身もゆっくり出来る気持ちを取り戻せたことに。
「ゆ!ゆっくりしているばあいじゃないよ!」
れいむは突如強く頭を振る。
ここはまだ男の家の目の前なのだと思い出す。
目の前の草むらに飛び込んで、花や虫を思う存分味わいたいという欲求を振り切った。
「ゆっくりしないでにげるよ!」
目の前の一本道のはるか先には深緑の生い茂る森があった。
もともと住んでいた森である保証は無いが、少なくともここよりはましだ。
狭い箱の中へ閉じ込められ続けたせいですっかり鈍った体だが、
二匹のゆっくりは、ゆっくりを取り戻すべく、体が千切れそうになるほど早く飛び跳ねている。
ゆっくりしないで跳ね飛んで行く二匹のゆっくり。
暫くすると森の手前にある民家が目に付いた。
「おっきなおうちがあるね!あそこでひとやすみしようよ!」
振り返ると男の家は遥か彼方。
ここまで逃げれば見つかる心配は無いと思ったのだろう。
「そうだね、少しかくれることができそうなら、そうしてもいいかもね」
まりさも休憩を取ることに賛同する。
やっと本当のゆっくりが手に入ると思ったれいむは、こんなことを口走った。
「ゆゆ~ん!おにいさんがうっかりものでたすかったよ!ゆっくりしてないからうっかりしちゃったんだね!」
うっかりもの
れいむのその一言に、まりさははっとして辺りを見渡す。
「あははははは!あはははは!」
まりさは突然笑い出した。
自分の中の感情を、怒り、悲しみ、喜び、哀れみ、全てを捨て去るかのような、機械的な笑い。
「ゆっふふふふゆっくり!!ゆっくりだよ!ゆっくりできるよ!」
まりさにつられて笑い出すれいむ。
ゆっくりを取り戻す事への喜びの笑いだと思ったのだろう。
自身が浮かれている事もあって、その異常な笑いに気が付かない。
大きなお家の前に着く頃には、まりさの笑いは収まっていた。
「ゆ~ん…ゆっくりしていってね!!」
扉の前でれいむは挨拶をする。
『むきゅ!にんげんのいえにいきなりはいるのはゆっくりしていないわよ!』
森にいた頃ぱちゅりーから、耳が痛くなるほど聞かされた言葉だ。
ゆっくり出来ない時こそ、ゆっくりとした態度で臨む。
家の戸があけられると、そこから出てきた人間が声をかけてきた。
「へい!らっしゃい!今日はなんにしやす?」
威勢良く声を出すその人間。
「鞭打ちですかい?それとも針刺しかい?なんでも揃ってるよ!」
れいむとまりさが良く知っている人間。
地獄へ誘った張本人がそこにいた。
「あははははは…」
まりさの乾いた笑い。
「…どぼちて…どぼちてぇ…」
れいむの沈痛な呟き。
まりさは途中で気が付いてしまった。
今行く道は、自然に出来たものではない、人間の手による舗装がなされていることに。
左右の草むらも、道に沿うように整然と生えていること。
そしてゆっくりが潜る事も、飛び越える事も出来ない高さの有刺鉄線が張ってあることに。
全て人間の手によって踊らされている事に気が付いてしまった。
一瞬でもゆっくり出来る希望を取り戻したことが馬鹿らしくなった。
それがあの乾いた、機械的な笑いを生んだのだ。
「まりさの方はとっくに分かってたんだな。全く、お前も馬鹿だよな。こいつの甘言に乗っちまってよ」
「いやだああああああ!」
れいむは叫ぶなり、有刺鉄線へと向かって飛び込んでいった。
「もうやだ!れいむはかえるんだ!ほんとうのおうちへかえる!」
無理やりねじ込ませれば隙間を抜けることも出来るかもしれなかったが、鉄線は容赦なくれいむの体を切り刻む。
虐待さながらの苦痛だったが、せっかく手に入れられると思ったゆっくりを、ここで諦めきれるわけが無い。
「までぃさ!までぃさもはやぐ!ゆっくりできなくなっちゃうよ!」
絡みつく鋼線の中を必死で身を捩って抜け出そうとしながら、まりさにも逃げ出すようにと呼びかけるれいむ。
本人の必死さとは裏腹に、まりさはぴくりともせずに哀れみの視線を投げかけ、男は笑いを耐えかねて噴出していた。
「さっすが淫乱れいむたん!生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていても、お尻を振ってインポ相手にアッピ~ルですかぁ!?」
男は逃げ出そうとするれいむを止めようとはしなかった。
れいむは気付いていないのだろう。
ゆっくりでは通り抜けることもままならない有刺鉄線のバリケードは、人間の足では一跳びで超えられることに。
れいむの滑稽な姿は十分に堪能した。まりさはもう使えない。
そう思った男はれいむだけに警告を投げかける。
「…お前が逃げたら、赤ありすにまりさをレイプさせるからな」
まりさという単語だけは耳に入るのか、よじった体をぴたりと止める。
「まりさは去勢済みだからな~いくらすっきりされても死ねないぞ~…」
いやらしくにやつくと、ケタケタと笑う。
れいむが鉄線に挟まれながら後ろを振り返ると、棒立ちになるまりさが目に入った。
その目はれいむに告げていた。
(もうあきらめよう)
まりさの思いがれいむにも伝染し、鉄線からずるりと戻ってきた。
冷えた眼差しと潤んだ瞳。
二匹のゆっくりは無言で見つめ合っていた。
「最後まで俺の期待に答えた礼だ、一つだけ本当の約束をしてやる。
…お前の赤ありすは殺さない。
レイパーになるかどうかはあいつ次第だが。苛めもしなければ殺しもしない」
男の恩情を示す言葉にも、れいむは無反応だった。
諦めたれいむは赤アリスのことなどもう執着していない。
「信用たる証拠になるかどうかは分からないが…俺はお前達に嘘を言った事は一度も無いはずだ」
男の約束が守られようが、どうでもいいことだった。
れいむとまりさは再び透明な箱に戻り、一本の棒を挟んで対峙していた。
「ごめんね、れいむ」
「ごべんねぇ…まぢさ…」
互いに謝罪の言葉を述べるが、その気持ちの出所が違うのか、声のトーンはひどく違っていた。
まりさは男のアドバイスを心の中で繰り返す。
そのアドバイスとは、出来るだけ苦しまずに永遠にゆっくりする方法。
互いの体の真ん中に棒を突き立て、安定したところで密着するように距離を縮める。
密着状態になると互いの中枢餡に棒が突き刺さる。
そのままだと激痛が延々と続くことになるので、躊躇せずに互いの体が逆を向くようにひねる。
これで中枢餡は破壊される。
「いままでありがとう…」
「えいえんにゆっぐりじても、いっじょにゆっくりじようね!」
まりさは口にくわえた棒をれいむの体に軽く突き刺す。
「ゆぎゅううう!」
素早く棒を口から話すと、狙いを定めて自分の体にも刺していく。
れいむは動けないので、まりさが棒を押し込んで行く。
二匹の体がぴったりと合わさると、互いの餡子に一段と強い激痛が走った。
「やっだあああああああああ!あ・あ・あ・あ!」
苦痛で口をあけ泣き喚くれいむに、まりさは唇を重ねる。
「さいしょで…さいご…の…ちゅっちゅだよね…」
この言葉でれいむは僅かに落ち着きを取り戻す。
無言でお互いに額をあわせ、一呼吸を置くと。
「いっせーの…
「「っせ!」」
二匹は勢い良く体をねじった。
小さかった傷口がばくりと大きく開き、バランスを保てなくなった体は箱の中で崩れていった。
互いの体から零れ落ちた餡子が重なり、二匹は一つに繋がった。
「ゆ…しにがみさん…?」
命の灯火が最後の輝きを失う直前、まりさの目に、ぼやけた黒い影が映りこむ。
その影からは所々真白き物が覗いている。
白きものに支えられるように伸びた棒の先には銀色の刃が重く輝いている。
それは話に聞いた死神そのものだった。
死神の話は昔ぱちゅりーがしてくれた。
ゆっくりが、永遠にゆっくりするときに迎えに来る恐ろしいものだと。
怖がらせるために聞かせた話だったのだろうけど、今はこの苦しみから解き放ってくれる救世主にも思える。
「おねがいします…まりさを…まりさとれいむをつれていってください…」
幻覚が揺らぎ、それがうなずいた様に、まりさの目には映った。
「これで…ゆっくり…できる…ね、れいむ…」
まりさは最後の言葉をれいむに言ったが、すでにれいむの命は消えつつあったために、うわ言を呟くだけになっていた。
「みえない…なにもみえないよ…こわいよ…こわいよ…」
まりさも先ほどの言葉を最後に全ての知覚を失い、餡子脳の活動はほぼ停止していた。
今際の際のれいむのうわ言が耳に入らなかったのは、幸運だったのだろうか。
こうして二匹の哀れなゆっくりは、物言わぬ饅頭に成り果てた。
永遠にゆっくりしたれいむとまりさの魂は、生まれ育った森に寄ることが出来たかどうかは分からない。
たとえ森に行けたとしても、この魂のあるべき場所はそこではない。
遅かれ早かれ三途の川にて渡し守の手引きを受けるだろう。
ゆっくりしていってね!
「「ゆっくりしていってね!」」
今日の朝ご飯は特別製だよ!ゆっくりあじわってね!
「「ゆゆ~ん!ありがとう…ゆわあああああ!?なにこれええええ!!??」」
なにって…朝ご飯だよ?
「「わらえないじょうだんだよ!」」
食えよ
「「やめて!そんなことしたら、そのこたちもゆっくりうかばれないよ!」」
ご飯の量を増やしたいの?
「「ゆ?なにいって…ゆべぇ!!??ゆぎゃ!…えれえれえれ…」」
お残しは許しまへんで~
「「ゆ゛う゛う~…むーしゃ、おえっ!むー…おべぇ!?ゆ゛う゛ぅ!ゆっくりできないよう…」」
きもっ!共食いきもっ!餡子脳がスポンジになっちゃうよ!?新製品の開発にはまだ早いよ?
「「お゛にいざんのせいでしょお!?こんなのたべたくないんだよ!」」
昨日あんなに心配してあげたゆっくりを『こんなの』って酷くない?
「「ゆ!?ゆ…?このおぼうしとおリボンは…ゆわああああああああっ!?エレッ!エレレレレ!」」
お気に召しましたか?
これからもフルコースを堪能してもらいますので、ゆっくりしていってね!
オワリ
あとがき
れいむばっかり狙い撃ちにしてしまった。
ゆっくりが自殺をしたくなるほどの虐待を考えていたらこの有様です。
ついでにアッパー系の鬼井山をやってみた。
とおもったらこりゃただのキ○じゃ。
最終更新:2009年04月25日 01:35