れいむの親子と一匹のふらんがいた。
「うーうー!」
「おきゃーしゃんたしゅけちぇーー!」
「おぢびぢゃぁぁぁん!!ごべんでぇぇぇぇぇ!!」
ゆっくりふらんに食べられ親れいむに助けを求める子れいむと、それを泣きながら見守る親れいむ。
「あまくておいちいのー!ふらんはまんぞくなのー!」
ふらんは新鮮な子ゆっくりをゆっくりと味わう。
「もっど……ゆっぎゅり……ぢだがっだ……」
すべて平らげると、ふらんは親れいむにニコニコと笑顔を向ける。
「ごちそうさまなのー!またねー!」
そして、どこへともなく飛び去っていった。
「う゛う゛……ふりゃんゆっくりじでいっでね……」
後に残ったものは、地面に残るわずかな染みだけ。
「ゆう゛う゛う゛……ごべんね、おぢびぢゃんごべんねぇぇぇぇ……」
食べられた子れいむは、れいむとまりさの間に生まれた末っ子。
すーりすーりしてあげるととっても喜んでくれたし、お歌を歌ってあげたら目を輝かせて続きをせがんだ。
けれど、その子はもういない。
子れいむは、一家の安全をその身で贖ったのだから。
「おぢびぢゃん……おぢびぢゃん……えらがっだよぉぉ……」
親れいむは、ふらんが食べ残した子れいむの髪飾りをいとおしげに舌で撫でると、力なく跳ねながらその場を後にした。
ふらんとれいむの一家の間には、約束があった。
おちびちゃんが十匹生まれるごとにその中の一匹をふらんにあげることで残りの家族の命を助けてもらい、
さらにふらんはれみりゃやその他の外的からも一家を守る義務を持つというものだ。
この地域のふらんと被捕食種の間では、いつしかこのような約束が浸透するようになっていた。
ふらんは安定した食事のために、被捕食種は一家の維持のためにと双方にメリットがある。
子を失う悲しみも、多産のゆっくりにとっては日常茶飯事でしかない。わが身と家族の安全のために子を差し出すことは
被捕食種のゆっくりにとっても必要悪として是認されていた。
* * * *
「うっうーうあうあ☆」
「れみ☆りゃ☆うー!」
れみりゃの親子連れが、草を掻き分けて進んでいく。
目指すは、親れみりゃが昨日見つけた蟻塚だ。
ゆっくりほどではないが、充分なごちそうといえるだけの蟻を蓄えているであろう、大きな蟻塚を目指してれみりゃ達は進む。
「とってもおいちいぷちぷちだっどぉ~」
「まんまぁ~はやくたべたいどぉ~!」
「うっうーうあうあ☆」
「れみ☆りゃ☆うー!」
意気揚々と歩いていく二匹の前途に急に影が差して、親子は目を眇めた。
「あう?」
振り向いて見上げると、そこには二匹のふらんが居る。
「まんまぁ~あれたべたい~」
びくっと体を震わせるれみりゃ。
「だめなの~あれはあまあまのゆっくりじゃないからたべちゃだめなの~」
「う~わかったぁ~」
ふらんの親子はれみりゃの上を飛んでいった。
「うー……うー……ぐやじいどぉ~!!」
「まんまぁ~?まんまぁ~?」
ふらんと被捕食種との間で約束が結ばれてから、れみりゃ達は不遇の毎日を過ごしていた。
いつもゆっくりを食べている印象のあるれみりゃだが、小さな空間におうちを作ってそこに住むゆっくりを見つけ、
捕食するのは容易ではない。れみりゃの才覚で探し出す場合より”運よく見つける”ことのほうがずっと多いほどだ。
そんな幸運の賜物、せっかくのごちそうであるゆっくりを食べようとしても、どこからともなくふらんが現れては
「うー!あまあまはふらんのなのー!」とれみりゃをしばき倒してゆっくりを助ける。
そんな日々が続いていた。
ふらんと被捕食種が妥協点を見つけ、平和を手にした一方で、れみりゃはつまはじかれ――
ふらんとれみりゃの間のパワーバランスは完全に崩壊していた。
理由はないが、ふらんに対して年長意識を持っていたれみりゃ。
かたや、れみりゃを”部分的に共通し、しかし身体能力など多くの点で完全に格下の同族”としてみていたふらん。
今までは、ふらんがその勝れた身体能力でれみりゃを蹂躙することは”きまぐれの楽しみ”としてしかありえなかったのだが、
条約以後の環境では、”ゆっくりへの手出し”をトリガーとし反射的に暴力をふるわれるようになった。
かつては微妙に逸れていた二種族の利害が一致してしまったがための不幸といえた。
「えぐっ、えぐっ」
「まんまぁ~?ないちゃやだどぉ~?」
「ざぐや~ざぐや~」
「まんまぁがないてるとれみぃもかなしくなってくるどぉ~」
子れみりゃに励まされて、親れみりゃは立ち直った。
「うう~、ごめんだどぉ。まんまぁがしっかりしなきゃだめなんだどぉ」
「ぷちぷちたべにいくどぉ!」
「うー!」
蟻塚の位置に到着すると、そこには先客がいた。
「うー!とぉー!くりゃえー!」
「うー!さすがふらんのおちびちゃんなのー!とってもげんきなのー!」
先ほどのふらん親子だ。
蟻塚を手で殴ったり足蹴にしたりして遊ぶ子ふらんと、それを見守る親ふらん。
すでに蟻塚は粉々に崩れ、ただの土山と化している。
足元には、おぜうさまのらんちだったはずの蟻がばらばらに逃げ惑っていた。
――あまあまたべたいのに、ふらんがたべさせてくれないんだどぉ~~!
――ぷちぷちたべたいのに、なんでだめにしちゃうんだどぉ~!?
――ぜんぶ、ぜんぶ、ふらんがわるいんだどぉーーー!!
親れみりゃは怒りに我を忘れた。
「ううーー!もうゆるさないどぉー!!」
子ふらんへと向かってぼてぼてと走り寄ると、その頭をぽかりと叩く。
「う?」
「れみりゃのぷちぷちをだめにしたふらんはわるいこだどーー!!おしおきだどー!!うー!」
「うー!ふらんのおちびちゃんー!」
親ふらんの目がぎらりと光った。
* * * *
「う”う”~」
「まんまぁ~!まんまぁ~!」
親ふらんは、わが子への攻撃を百倍返しにれみりゃへ返した。
「どうじでだどぉ……わるいのはふらんだど……」
「うー!いのちだけはたすけてあげるのー!こんどふらんのおちびちゃんにてをだしたらそのときはし☆け☆い☆なのー」
「うーうー!まんまぁはつよいのー!」
そしてふらん親子は別の遊び場を目指して飛び立ち、あとには引き裂かれた親れみりゃと無傷の子れみりゃが残った。
「う~まんまぁ~!!」
天上天下にれみりゃを慰めるものは一切ありはしなかった。深い怒りと絶望かられみりゃは叫んだ。
「ーーーーーーーーー!!ーーーーーーーーーーー!!」
声にならない叫びだった。
それを、森を探索していた一人の男が聞きつけ――
ある意味では偶然、ある意味では必然に、彼らは邂逅した。
肉饅が肉饅を憎まんとするお話
男は最近のゆっくり間の情勢をことごとく把握しており、その上である目的を持ってれみりゃを探していた。
男は地面に這いつくばるれみりゃを見下ろして問う。
「れみりゃ、力が欲しくはないか?」
れみりゃは空ろな声でつぶやく。
「うーざぐやー、あまあまたべたいどー?」
「……」
次に男は子れみりゃに聞いた。
「ふらんに復讐したくはないか?」
先ほどよりもやや誘導的ではあるものの答えやすい質問。子れみりゃは目に涙を溜めて頷いた。
「うー!」
「それは重畳」
男は背に背負った袋を下ろし、中から小刀を取り出した。それを横に薙ぐ。
「よっと」
「う………?………?……?」
子れみりゃの腹が横一文字に裂けた。
「う?う?う?」
「でびりゃのおぢびぢゃんんん!!!???」
「騒ぐな」
男は袋からやや匂いを放つ小袋を出して、その内容物を子れみりゃの腹に摺り込む。
内容物は、ニンニクやコウライニンジンなど強壮作用があり、れみりゃ種の肉餡と親和性のある食物だ。
「うっうー!?なんだかいいきぶんなんだどぉー!?」
「おちびちゃん~よかったどぉ~」
傷はすぐにふさがり、その体内に新たな力が燃えるのを子れみりゃは感じる。力強く吠えた。
「うー!おぜうさまはとってもざんにんなきぶんだどぉ!
あのくされきらきらつばさのふらんどもにほうふくしてやるどぉ!」
「よしよし。やはり小さい方が利きがいい、しかし」
男は一瞬迷ったが、言葉を続ける。
「れみりゃ、よくお聞き」
「あう?まずおまえからちまつりにあげてやろうか?ぎゃおー!」
それを口にするのは心が痛んだ。それでも言わずにいるよりはいいと判断して男は言葉を次ぐ。
「聞きなさい。
……お前に施した作用は数日のうちに消えてしまう」
体が小さい子れみりゃには処置が効果を表しやすい半面、活発な新陳代謝のせいで効果が消えるのもまた早い。
攻撃性は多少は残るだろうが、いずれはもとのような性格に戻ってしまうだろうという予測を男は既に立てていた。
「うーうー」
子れみりゃはそれを聞き、燃え立つような感覚とともに上昇した知性でなんとなく理解した。
同様に、この目の前の人間がしてくれたこともなんとなく理解していたので感謝を述べる。
「それでもいいどぉ。かんしゃしてあげるどぉ、このぶたやろう」
「……ま、森のどこかででもまた会おう。こっちも事後報告の義務があるからな。期待してるよ」
男は荷物を再び担ぎ上げると、どこかへと去っていった。
* * * *
子れみりゃは親れみりゃを見下ろす。その瞳には決意がみなぎっている。
「まんまぁ、いってくるどぉ」
「あう~!?なにいってるどぉ!?おちびちゃん!?おちびちゃん~~!!??」
子れみりゃは何処かを目指して飛び立った。
子れみりゃはあたりを飛んで回り、日が暮れるころになって一匹のれいむを見つけた。
「ゆっ、ゆっ」
口いっぱいに食べ物を含んで、どこかにあるおうちにでも帰ろうとしているのか。
「ゆゆっれみりゃだよ、かってにゆっくりしていってね」
れいむはれみりゃをちらりと見たが、ふらんという後ろ盾があるため何とも思ってはいない。
「ゆっくり、ゆっくり……ゆふぅ、これだけあればまりさとゆっくりできるよ」
れみりゃは何も言わず、身重たげに跳ねるれいむの後について飛ぶ。
れいむはすぐに気づき、振り返った。
「ゆゆっ?
……ぷんぷん!れみりゃはついてこないでね!ついてきたらふらんをよぶよ!」
出来るなら家まで案内して欲しかったのだが、そこまでなめられてはいないようだ。
「ばかにするんじゃないど」
れみりゃは一気にれいむに飛び掛り、その髪飾りを取り上げてしまった。
「ゆううううう!!!???」
れいむは仰天した。
「ぷくー!!れいむのだいじなおりぼんかえしてね!かえさないとふらんをよぶよ!」
れいむは居丈高に跳び跳ねるが、れみりゃの手の髪飾りを取り返すことはできない。
「わめいてるひまがあったらよべばいいんだどぉー。よばないから……」
れみりゃは残酷な微笑を浮かべた。
「……さっさとよばないから、こういうことになるんだど」
れみりゃはゆっくりと、髪飾りを左右に引っ張る。
「ゆ゛う゛う゛う゛!!!???やめでね!!やめでね!!でいぶのおりぼん……!?」
まさかやるはずがない、と思っていたれいむは今こそ半狂乱になってれみりゃにとびかかる。しかし奪還には至らない。
「ゆううううう!!!!ゆううううううう!!!!」
れいむが見ている前で少しずつ、少しずつ、髪飾りは引き延ばされて行く。
そして、
「こんなもの、ぽーい、だどぉー」
音を立てて、二つに裂けた。
「もうあきたからかえしてあげるど、せいぜいだいじにするといいど」
「ゆーん!ゆーん!ゆーん!」
悲しみを表現してでもいるのか、体をくねらせて嘆くれいむ。
その前に二つに裂けた髪飾りが投げ捨てられるが、もちろん今更どうしすることもできない。
二度と身に付くことのないそれは、むしろ悲嘆を増すだけだ。
れみりゃは今度は言葉でれいむを攻撃する。
「ん?どうしたんだど?おまえゆっくりしてないんだど?」
「ゆんゆんゆん!」
「こんなゆっくりしてないゆっくり、みたことないんだど。はーずかーしいーんだどぉー」
「ゆびぃぃぃぃ!!!でびりゃのぜいでじょぉぉぉぉ!!!???」
やがてそれにも飽きたのか、れみりゃは本来の目的に取り掛かった。
「ばかみたいにくねってないでとっととふらんをよぶんだど」
「ゆぅぅぅぅ!!まりざにぎりわれぢゃうよぉぉぉぉぉ!!」
れみりゃはれいむに手を伸ばした。
「おぜうさまのはなしを……」
れいむを両手で持ち上げ、地面に叩きつける。
「ちゃんときくんだどぉ!」
ビターン!といういい音が響く。
「ゆぐぅぅぅぅ!!あんよがいだいぃぃぃぃ!!」
「と・っ・と・と・ふ・ら・ん・を・よ・ぶ・ん・だ・ど」
ここに至り、ようやくれいむに”従わなければ永遠にゆっくり出来なくなる”という恐怖がよぎる。
いつもながら実にゆっくりとした危機意識だ。
「わがりまじだぁぁぁよびまずぅぅぅぅぅ!!!ふらん~はやくきて~はやくきて~」
間をおかず、薄暮の空に一匹のふらんが現れた。
「うー!あまあまはふらんのなのー!かってにとっちゃだめなのー!おしおきなのー」
ふらんはれみりゃめがけて降下する。その速度はあまりにゆっくりしておらず、
夕闇とあいまってれみりゃにはまるで消えたかのように思えた。
「あうっ」
れみりゃは咄嗟に帽子を抱えるようにしゃがみこむ。
「うー!もうおそいのー!ふらんのあまあまとったばつなのー!」
ズン、とふらんの拳がれみりゃの頭を痛打する。縦に貫くような衝撃がれみりゃを襲う。
「……!!」
「うー!まいったかー!」
だが、これこそがれみりゃの仕掛けだった。
たとえ滑空状態を捉える事ができずとも、向こうが攻撃してくるのならば反撃は可能。
「とぉー!」
痛みに耐えて、れみりゃは上方に手を伸ばした。手に触れた柔らかい感触を全力でねじり上げる。
「うーうー!?はなすのー!」
「おことわりだど」
れみりゃは体を起こし、逆にふらんを地面にねじ伏せた。
「いだいのー!ふらんのほっぺとふらんのだいじなぴかぴかがいたいのー!!」
「いいこときいたど。ふらんはばかだど」
れみりゃはマウントポジションを取ったまま、片手をふらんの背中へと回す。翼の付け根を掴んで横へとねじる。
「いだいのー!やめてほしいのー!」
「おまえのなかまにいじめられたまんまぁはもっといたかったにちがいないんだど。むくいをうけるがいいど」
「うー!うー!」
格付けは済んだ。
ふらんも、れいむと同じように帽子を剥ぎ取られ、びりびりに千切られる。
「うー……もうゆるじでほじいの……」
「ぜったいにゆるさないどぉー。ふらんのなかまをよぶんだど?」
「うー!いやなのー!こんなの(帽子のない姿)みられるのはずかしいのー!みんなにひどいことされるのもいやなのー!」
「もっといたくてはずかしいめにあいたいど?」
「うー!」
それほど数は多くない、とれみりゃは踏んでいた。
この辺りのふらんの集落は小規模で、二桁に届くかどうかの数しかいないだろうと予測する。
それならば、どうにかやりようはある。
* * * *
夜の帳は全く下り、真円の月が野原を照らしていた。
「うー……うー!みん…な……きてぇ……!ふらんを……たすけて……!」
月下には致命傷を負わされ身動きの取れないふらん。
れみりゃは物陰に潜んで時を待つ。
その時、れみりゃは自身の内に違和感を覚えた。
「あう?」
違和感というより、どちらかといえば懐かしい感覚。治りかけたかさぶたの痒みのような暖かい疼き。
「うー。まずいどぉ~」
自身を衝き動かしている、内なる熱が消えようとしているのだとれみりゃは気づいた。
れいむをいじめ、ふらんを捕獲するために動きすぎた。
そのせいで、処置の効果が、失われはじめたのに違いなかった。
(もうすこしだけまってほしいどぉ。まんまぁとおぜうさまに、えれがんとなひびをとりもどすんだどぉ~。
おぜうさまはがんばるどぉー。うっうー!)
しかし、無情にも体は冷えていくばかり。
そんな中、一匹、二匹とふらんが夜空から舞い降りはじめた。
「うーうー!」
「どうしたのー?」
「うー!?」
「たいへんだどぉー!?」
「うー!」
* * * *
ふらん達が傷だらけの同胞を囲んで困惑する一方、れみりゃは物陰で震えていた。
「うー、ふらんがいっぱいだどぉ~。ふらんはおぜうさまをいじめるどぉ~。こわいどぉ~」
親れみりゃの元へ帰ろう。そうれみりゃは思う。
「あまあまはたべられなくても、やさしいまんまぁとだんすができればおぜうさまはしあわせだどぉー」
現れたふらん達は、重傷を負っているふらんに注意を向けている。
今なら、まだ逃げられる。
逃げ出すつもりでふらんの様子を窺う。
――重傷を負っているふらん
――ひどい目にあわされたまんまぁ
ふと、二つの姿が重なった。
「……まんまぁはぷちぷちをたべようとしただけなのに、あんなめにあわされたんだど」
わずかに体が火照った。
れみりゃは振り返る。
その熱を消さないよう、前へと踏み出した。
「ふらんをぶっとばして、まんまぁといっしょにあまあまたべるんだどぉー!
ふくしゅーだどぉー!う゛ぇんでっただどぉー!うっうー!」
ふらんの集まりきった野原へと、れみりゃは駆け出す。
速く、もっと速く。
「うー?れみりゃなのー」
一匹のふらんが、尋常ならざる様子のれみりゃに気づいた。
まだだ。もっと速度を、距離を稼げ。
「うー!ふしょうしゃがいるのー!いじめられたくなかったらあっちいくのー!」
まだだ……
「うー?れみりゃー?」
良し。
「うっうー!」
十分に引き付けて、れみりゃはなるべく多くのふらんを巻き込むように群集の只中へダイブした。
「うー!?」
「なんなのー!?」
そして次なる一手――重傷を負わせたあのふらんの足を掴む。
「ぎゃおー!」
今だ。
ふらん達を一堂に集め、不意を突いた今。
自分より素早く、力強いふらんを一網打尽に打ち伏せるチャンスは今だ。今しかない。
無抵抗の重傷ふらんを引きずって、れみりゃは回転をはじめる。
「うー!やめるのー!」
「かわいそーなのー!」
ふらん達はまだ状況を理解せず、重傷ふらんの身を案じている。
近づいてくるふらんを遠心力でなぎ倒していく。重い手ごたえのたびに、掴んだふらんの足を離しそうになるのを必死に堪える。
「うー!」
「うあー!」
(もうちょっとだどぉー)
「うー!もうゆるさないのー!あ゛う゛!?」
一体までなら残しても良い。一対一なら先ほどのように戦える。
――戦えるのか?本当に?
疑問を感じた瞬間、ふらんの足がすっぽぬけた。重傷ふらんは別のふらんを巻き込んであらぬ方向へ飛んでいく。
二匹のふらんは動かなくなり、れみりゃはつんのめった。
(う~まずいどぉ~!)
倒し損ねた三体のふらんがこちらを見ている。
辛うじて転倒は避けたものの、すでに体は完全に冷え切っていた。
(う~!ごあいどぉ~まんまぁ~、ざぐや~)
ふらんはついに混乱から立ち直り、れみりゃを取り囲むように三方から距離を詰める。
(もうだめだどぉ~~)
* * * *
夢の中で、子れみりゃは親れみりゃの狩りを見ていた。
「×××××××~!」
大好きな親れみりゃが何か言っている。
「まんまぁはすごいどぉ~!」
「う~おちびちゃんもおぜうさまならこのぐらいはできるようになるんだどぉ~」
親れみりゃはとってもえれがんとで、こんなりっぱなまんまぁからうまれたじぶんはとくべつなそんざいなんだどぉ~と
れみりゃは思った。
「×××××××~!」
まんまぁはつかまえたゆっくりに何事か声をかけている。
「まんまぁ?」
その言葉が聞こえない。
「うー?どうすればいいんだどぉー?」
三匹ものふらんをどうすればいいのだ。
「だからぁ、××××××~!っていえばいいんだどぉー」
* * * *
れみりゃは白昼夢から醒める。
「……あう」
眼前には、すでに殺意を漲らせ、戦闘態勢の三匹のふらん。
「ゆっくりしね……!」
「あ、あ、あう~~!!まんまぁ~~!!」
――うーうー。おぜうさまのおちびちゃんかわいいどぉ~
――おちびちゃんがおおきくなって
――おちびちゃんがりっぱなおぜうさまになって、ひとりでごはんをとれるようになったら
――たべちゃうどぉー!って、げんきよくいうんだどぉ。
――わすれちゃだめなんだどー?
「ぎゃおー!たーべちゃーうどぉーーーーー!!」
れみりゃはむなしく叫んだ。
「うー……!」
それが、この小さな抗争の終わりだった。
* * * *
「ふらんも限界に達していたんですよ。
あの時、れみりゃが用意した重傷のふらんを見て、他のふらん達はとても驚いた。なぜって、ふらん種があんな風になることは
野生ではまずありえないことですからね。
その動揺に、れみりゃの活躍がさらに拍車をかけた。れみりゃが三匹を取りこぼした時、しかしすでに勝敗は決していたのです」
「ふーん、俺も見に行けば良かったかな」
「僕は誘いましたよ。それなのに先輩ってば”れみりゃが勝つわけがない。絶対しくじるね”とか言って来なかったじゃないですか」
「……んで?それからどうなったの?」
* * * *
れみりゃの自棄っぱちの叫びで、最後に残ったわずかな戦意を打ち砕かれたふらんは、一匹ずつ帽子を奪われた。
「うー!おぼうしかえしてー!」
「だめだどぉ」
奪い返されないように胸元に帽子をしっかりと抱いて、れみりゃはふらん達に命令する。
「うっうー!じめんをほっておぜうさまのこーまかんをつくるんだどー!」
「うー!めんどくさいのやなのー!」
「そんなこというと、おぼうしぽーい!だどぉー!」
「うーうー!」
穴掘りは、その場のふらんだけでなく、周囲一帯のふらんを全て寄せ集めて行われた。
数日かかって大きな縦穴が完成すると、れみりゃは言った。
「みんなごくろうだったどぉー」
ふらん達はへとへとに疲れきっていた。
「つかれたのー!」
「ぼうしかえしてほしーのー!」
れみりゃは満足げにおぜうさまスマイルを浮かべる。
「いいどぉ。かえしてあげるどぉ」
自分の衣服の中にしまった、全てのふらんから召し上げた帽子を取り出す。
「うー!」
「はやくかえしてー!」
だが、れみりゃはそれをふらんに渡すのではなく縦穴へと投げ込み始める。
「なにするのぉーー!!??」
「ふりゃんのおぼーしー!」
次々と投げ込まれる帽子に吸い寄せられるように、ふらん達は縦穴の底へと殺到する。
やがてれみりゃは全ての帽子を投げ終えた。
「うーふらんのおぼうしー」
「よかったのー♪」
「うー!」
縦穴の底で帽子との再会を喜びあうふらん達。
パラ……パラ……
「う?」
一匹のふらんがそれに気づいた。土が降ってきて顔に当たったのだ。
「ふらんはぜーんぶ、ぽーい!だっどぉー!」
やがて土が雨のように降り注ぎはじめ、ふらん達は混乱に陥る。
見上げると、れみりゃが縦穴に土を投げ入れている。
「うー!?」
「なにするのー!?」
「いたいのー!めにはいったのー!」
慌てて飛び出そうとするが、連日の穴掘りで疲れ切った体は重く、その上縦穴にすし詰め状態なのでうまく動けない。
「うーあっちいってー!?」
「そっちこそどいてほしーのーー!」
さらにはふらん同士の翼が絡んで状況を悪化させる。
土はどんどんと積もり、ふらんの足から膝、胴体へと達し始める。ふらん達は声の限りに叫んだ。
「いきうめはいやなのー!」
「だしてほしいのー!」
穴の縁でれみりゃはだんすを踊っていた。踊りながら、足を使って穴を埋めていく。
「だめだどぉ♪ふらんばいばいだどぉ♪うっうーうあうあ♪」
「こんなのやぁーー!!うぷぅ!」
「おねがいなのー!ふらんを……うぶぅぅ!!ふら゛んをだじゅげでー!」
「じにだくないー!じにだくないー!」
END
■ □ ■ □
縦穴を埋め立てたあと、れみりゃが晴れやかな気持ちで踊りを続けていると一匹のまりさが通りかかった。
「ゆんゆん!ぐずのれみりゃはみちをあけるのぜ!まりさはいっかのだいこくばしらなのぜ!」
れみりゃは振り返る。
黒い帽子に、たっぷりとした白い体。
実に久しぶりのごちそうだった。
「うっうー!えれがんとなあまあまだどぉー!まんまぁにもってってあげるどぉー!」
「ゆへへ、こいつばかなのぜ」
憐れむような表情を浮かべるまりさに近づくと、しっかりとその体を掴む。
「うー!」
「……ゆぎぃ!?やべるんだぜ!!れみりゃのくせにそんなことすると、ふらんをよぶのぜ!」
「うー!」
「いだいぃぃぃぃ!!ゆっぐりでぎないぃぃぃぃ!!ふら゛んんんん!!はやぐぅぅ、はやぐくるのぜぇぇぇぇ!!??」
「うー!」
「やべろ!やべろぉぉぉ!!!ばりざのおぼうじぃぃぃぃぃ!!!」
「うー!」
「ゆ゛ううううう!!??
ばりざじにだぐないぃぃぃぃ!!ふらんんん!!??ふらんんんん!!!!???」
最終更新:2009年04月28日 11:09