ゆっくり。人語を解し、饅頭なのに自由に動く奇妙な存在。
何時人の世に姿を現したのかも判然としない現代の神秘はいつの間にか人々の暮らしの中に浸透していった。
あるものは美味しい食材になり、またあるものは人間とともに働き、あるものはペットに。
それに伴って、様々なゆっくり関連企業が相次いで誕生し、ゆっくり向けの商品を開発していった。
今日、俺が買ってきたのはそんな数ある商品の中のひとつである。
「ゆゆっ!おにーさん、それなあに?」
「これはな、ゆっくりカスタムキットさ」
「かすたむきっと?」
家に帰り、早速箱を開けるとまりさが興味津々と言った様子で中を覗く。
「ああ、そうさ。まあ言ってみりゃ化粧みたいなもんだ」
「ゆゆっ!おけしょーさんならしってるよ!とってもゆっくりできるんだよ!」
「そうだ。これさえあればどこにでもいる普通のゆっくりでもオンリーワンの特別なゆっくりに早変わりさ」
俺の言葉を聞いて、ぱぁっと後光が見えそうなほどに朗らかな笑みを浮かべるまりさ。
その表情は言葉よりもはっきりと「はやくおけしょうしてね!」と俺に語りかけている。
「それじゃ、さっそく・・・こいつを試してみるか。まりさ、こっちこい」
「ゆっくりりかいしたよ!」
そう言うが早いか、まりさは俺の傍に来ると後頭部を向けて、ゆーゆー歌い始めた。
一応信頼してくれているのか、帽子をとっても抵抗する気配は無い。
「えーっと・・・このクリームをくしでしっかり・・・」
「ゆぅ~ん・・・なんだかきもちいいよぉ~♪ おねむになってきちゃったよ・・・」
髪を梳かされるのがよほど気持ちよかったらしく、まりさは数分で眠りに落ちてしまった。
「ゆひぃ!?」
「流石に起きるか・・・痛いだろうけど、我慢しろよ!」
数分後、まりさは突然鋭い痛みに教われて覚醒を余儀なくされた。
鋭い痛みの正体は俺が手にしている刺青用のナイフで、ゆっくりに刺青を施す場合これを用いるらしい。
「ゆぐっ!?や、やべでね、ゆっぐぢぃ!?」
「お前のためにやってるんだから、我慢しろ!」
「ゆぶっ!?」
抵抗するまりさに平手打ちを食らわせてから、右頬を上に向ける。
ゆっくりに刺青を施すのは思いのほか簡単でまずペンで彫りたい模様を描き、その次に皮を少しだけ切り取る。
次に切った箇所を上に向けてから色素を流し込み、切り取った皮をくっつけて数分放置。
この工程を細かく分けて何度も繰り返すことで少しずつ完成に近づけてゆく。
「ゆびぃ!?いぢゃ!?いぢゃいいいい!?」
「うるせぇつってんだろ!?」
「ゆばぁっ!?」
今度は握りこぶしをまりさの底部にお見舞いした。
ゆっくりにとって最も重要な箇所に痛打を受けたまりさは素直に泣き止んだ。
「よし、いい子だ。抵抗しなけりゃ痛いことはしないんだからじっとしてろよ?」
「ゆぐっ・・・ゆっぐぢ、りがい・・・ぢぃ!?」
「喋ると手元が狂うから黙っててくれ」
しかし、痛いものは痛いらしく涙を堪えられないまりさ。
あまり長時間じっとさせておくのも可哀想なので、できるだけ急いでこの作業を済ませてやった。
次の作業はアクセサリーの装着。
しかし、生首饅頭のゆっくりにとってアクセサリーをつける方法と言えば髪以外はピアスのような方式しか存在しない。
よってこの作業にはキリが無いのでドライバーを片手に行うことになった。
「ゆひぃ!?」
「マジで動くなよ?動くと大穴が開くぞ?」
「ゆぐっ・・・!?」
まりさに注意を促しつつ、出来るだけ小さな穴を開けてからそこにキット付属のリングを通し、外れないように固定。
その度にまりさは短く悲鳴を上げるが、それ以上何かをする様子を見せずにじっと我慢している。
「いい子だ。すぐに終わるからな?」
「ゆっぐぢぃ・・・」
こうして5分ほどでキット付属のリング10個を全て装着し終えた。
流石に舌とまぶたに通すときは逃げようともがいていたが、頬を打てばすぐに大人しくなった。
それから帽子のカスタムも済ませ、髪がしっかり染まったのを確認した上で鏡の前へ。
そこには顔の右半分が色とりどりの星に覆われ、真っ白な髪をした、真っ赤な帽子を被ったまりさが映っている。
そいつは両目の瞼に1つずつ、舌に2つ、唇には4つ、それから下あご付近に2つ、左頬に1つのリングを装着していた。
「ゆぅ?・・・このこだあ・・・れ?」
「もちろん、お前」
そう言いながらまりさを指差してやると、この世の元は思えない悲鳴を上げ、白目を剥いて気絶した。
「・・・・・・やっぱダメか」
それから数週間後。
俺の家には新しいペットのゆっくりれいむの姿があった。
まりさは大分前に追い出してやった。
理由は単純で、俺に怯えるようになって可愛くなくなったからだ。
それに頭を冷やしてから改めてまりさを見ると、無数の星がなんだか薄気味悪かった。
それでもせめて可愛い子どもくらい産めれば住ませてやっても良かったのだが、まりさはそれすらも出来なかった。
原因は刺青に使った色素にゆっくりに有害な物質が含まれていたから。
要するにまりさからは奇形しか産まれなかったのだ。
こうなってはもはや飼う価値もないと判断し、子どもを産ませるために飼ったれいむと一緒にあいつを追い出した。
「宅配便で~す」
「はいはい・・・っと」
郵便物を受け取り、リビングで開ける。
それの正体はカスタムキットの有害物質を除去したものだった。
どうやらクレームに応じて購入者に無料で配っているらしい。
「ゆぅ?おにーさん、これなあに?」
れいむは興味津々と言った様子で箱を覗き込んだ。
‐‐‐あとがき‐‐‐
この間、体毛がめっちゃレインボーなポメラニアンを見た
捨てられたまりさの末路は・・・誰か書いてくれないかなぁ
あねきィとか
【ゆっくりカスタムキット】
大事なパートナーだからこそ世界で唯一であって欲しい・・・
そう思う貴方のゆっくりを可愛くデコレーション!
基本セットは以下の通り
- 刺青用ナイフと色素
- デコレーションシール
- 毛髪染色液
- お飾り染色液
- アクセサリー(人間で言う所のイヤリング)
最終更新:2011年07月30日 01:23