ゆっくりいじめ小ネタ561 箱

 箱


          十京院 典明



 黄金色に輝く立方体がある。
 大工道具の鉋(かんな)程の大きさで、面ごとにいくつかの穴が開いている。
 これは、豆れみりゃを入れるための箱だ。他にも、よほど小さな子ゆっくりであれば入れることができる。

 この道具と一緒に店で買ってきた豆れみりゃが、ガラスの小箱の中でぶんぶんとうなる。
「うっうー!きれーなおうちだどぉ~!」
 ぴかぴかに輝いて豆れみりゃを誘惑するそれは、十二の刃、二十四の釘、四十八の発条(ぜんまい)、
 九十六の旋盤によって構成された虐待機械。
 無数の室が、室へといざなう通路が、侵入者を待ち望む。
 内部で行われる無惨な行為は、ゆっくり自身が選んだ入り口と順路によって様々にその姿を変えて
 持ち主を飽きさせないというもっぱらの触れ込みだ。

 わくわくする。

 私は清酒を口に含み、胸を突くような熱さがじんわりと体へと沁みこんでしまうのを待つ。
 わずかに世界が変質する酩酊。
「うっうー!おぜうさまのこーまかんだどぉー!!」
「そうなの?これは私が買ってきたものなんだけど」
「う~おぜうさまのなっの~!!」
「ふーん」
 ガラス箱を開けてやると、豆れみりゃは元気よく虐待箱の周りを飛び回る。
「うっうー!たんけんだどぉー!」
 そう宣言すると、穴の一つから箱の中にもぐりこんだ。
 すぐに、豆れみりゃの声はくぐもった小さな音となり、耳を澄まさずには聞こえなくなる。

 私は箱に頭を近づけ、豆れみりゃにこれから訪れる、恐ろしい出来事を少しでも我が物としようとする。
「(うっうー♪ぐるぐるしておもちろいどぉー♪)」
 ばちんという小さな音。豆れみりゃが何かに触れたのだろう。
「(あ゛う゛!?いだいどぉ~ざぐやぁ~)」
 泣きじゃくるれみりゃ。
「(ううー!こんなのぜんぜんえれがんとじゃないどぉー!)」
 むくれるれみりゃ。
「(もーいいどぉー!つぎのおへやにいくどぉ!)」
 移動する。
「(うーせまいどぉ……)」
 細い通路を抜けて……
「(うっうー!こんどのおへやはえれがんどだどぉ♪)」
「(うっうーうあ☆うあ☆)」
「(れみ☆りゃ☆うー!)」
 ぐおん、という機械音。
「(あばぁぁぁぁぁ~~!!おぜうざまのおぼうじぃ~~)」
「(がえじでぇ~おぜうざまのおぼうじがえじでぇぇぇぇぇ~~)」
「(だめだどぉ!だめだどぉ!だめだどぉーーーー!!)」
 ぐおん、ぐおん、ぐおんと音は連続して鳴り響き、しかし私には内部で何が起きているのかを確かめる術はない。
「(ううーごあいどぉ~おぜうざまはにげるどぉ~~)」
 大事な帽子を諦めるほどの何があったのか。今、豆れみりゃは危機から逃れんと通路へと逃げ込んだ模様である。
「(せまいどぉ~えれがんとじゃないどぉ~……)」
「(うっうー……おぼうじなぐなっぢゃっだどぉ~~)」
「(どうしたらいいんだどぉ~~?)」
 きりきりきり……
「(あうー!もーやだどぉー!)」
「(でるのー!おぜうざまおそとにでるのーー!!)」
 豆れみりゃもとうとうこの箱の悪意に気づいたらしい。しかし、箱は機械仕掛けで通路や出入口を制御されており、
 来た道を戻ることはできず、また、ある程度以上順路を進むことなくして箱を出ることは叶わない。
「(いだいぃぃぃぃ!!!やだど!やだどぉぉぉぉぉ!!!!)」
「(おそとでだいぃぃぃぃぃ!!!!)」


 * * * *


「探検はどうだった?」
「…………………」
「そう、言葉もないのね」
 全身ずたぼろになった豆れみりゃを手当てしてやる。
 薬剤に漬けると回復力の高い身体はすぐに自己修復を始める。
 私は、箱に付録として付いてきた、換えのお帽子を被せてやる。
「…………………」
「よし。これで元通りね。
 それじゃあ、もう一度行ってみましょうか」
「……やだどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
 私は豆れみりゃの翼をつまむ。
「おねがいだどぉぉ!こんなえれがんとじゃないのはおぜうさまやだどぉ!」
「でも、さっきご自分のこーまかんだって言ってらしたじゃないです?」
 問答しつつ、じりじりと豆れみりゃを箱の入り口へと近づけていく。
「ぢがうの!ごんなのおぜうざまのごーまかんじゃないの!
 ぐるぐるで、ばちんで、いだぐっで、ぐおんぐおんじで、きりきりで、しゅーしゅーして、ぶちぶちなの!」
「大丈夫よ」
 私は言う。
「あう?」
「この入り口……わかる?さっきのとは別の入り口でしょう。
 ここから入ると別のお部屋に繋がっていて、そこではまたいろんな痛いのがれみりゃを待ってるのよ。
 つまり、今度は”ぐるぐるで、ばちんで、いだぐっで、ぐおんぐおんしで、きりきりで、しゅーしゅーして、
 ぶちぶち”ってわけじゃないの。 違う順番、違う方法でれみりゃを虐めてくれるのよ?
 まあ、ものは試しってことで、ね?」
「ぞんなのやぁぁぁぁぁ!!!!!いだいのやだどぉぉぉぉぉ!!!!」
 豆れみりゃは必死の力で私から逃れようと体を動かしている。指に伝わってくるわずかな力は、
 先ほどの痛みと恐怖から逃れようとする豆れみりゃの総力に違いない。
 赤子が握り返してくる握力にもみたないその力をねじ伏せて、私は豆れみりゃを入り口の一つへと運んだ。
「ごべんだざい!!いれな゛いでぐだざい!やべで………」
 かしゃん。小さな一枚戸は圧力を感知して豆れみりゃを迎え入れる。
「だじで~~だじで~~」
 私は箱に耳を側立てて、豆れみりゃが一枚戸を叩く音に酔いしれた。



「(うー!うー!)」
「(ぐるぐるやだどぉぉぉぉ!!!!)」
「(あ゛う゛ぅぅぅぅ~~!!)」
「(だじゅげで~~ざぐや~~ざぐや~~)」



 * * * *


 それから二週間後、豆れみりゃに子供が出来た。
「う~まんまぁ~」
「うーうー!おちびちゃんかあいいどぉ~」
 ああ、本当にれみりゃは可愛いなあ。

 ガラス箱の中で踊ったり飛んだりする二匹を飽きるまで眺めたあと、
 どこかにしまったはずのあの箱を探すために私は立ち上がった。






 END

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最終更新:2011年07月29日 18:15
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