2
「たしゅぇぇてぇえぇぇぇ、おかぁしゃん、まりさをはやくたしゅぇてね」
「きゃわいいれいむになにしゅりゅのぉぉぉ、はなせぇぇえ」
「はなせぇぇぇぇえ。まりさの可愛いにおちびちゃんたちにさわるなぁぁぁっぁぁ。」
「まっててねぇぇ、いまおかあさんがたすけてあげるからぁぁっぁっぁ。」
親まりさと親れいむの絶叫があたりに響き渡る。しかし人間につかまってしまった子まりさと子れいむを助けようとするが自分達もその体を押さえつけられ動くことができない。
ほんの少し前まで親まりさと親れいむ、そして子まりさと子れいむ家族が一家そろってひなたぼっこをしていた。とてもあたたかい光の中で
ゆっくりした幸福な時間のなかに家族はいた。しかし、その幸せは突然の闖入者によってあっというまに壊されてしまった。
「そっかぁ、
ゆっくりで練習すればいいのか。」
としえはなるほどといったようにうなずく。
「確かに、髪の毛生えてるし、人間のみたいだし。いい考えじゃん!あき!」
「そうでしょ!私もたまにはやるでしょ!」
としえに褒められたのがよっぽどうれしかったのか、子まりさと子れいむを持つ手に力がはいってしまった。
「「ゆげぇええぇ」」といううめき声とともに子まりさと子れいむの口から餡子が漏れる。
「げっ、あんこでた。どうしよう。」
「あぁ、別にいいよ。こどもは。小っちゃくて練習になんないし。」
「わかった。じゃあ潰すね。」
あきは子
ゆっくりを持った手を振り上げると、そのまま一気に地面に投げ付けた。子
ゆっくり達はゆぎゅぇっという短い悲鳴をあげると同時に、地面に叩き付けられた衝撃でその小さな体から餡子がはじけだし絶命した。お空をというあのセリフすらいうことないあっけない最後だった。
「きったな。まっ、短いゆん生ご愁傷様でした。」ふざけた調子であきは自分が殺した子
ゆっくりの死骸に向けて手を合わせた。
自分たちの理解を超える出来事を呆けたように見ていた親
ゆっくり達がようやく我に返り、叫び声をあげながら拘束から抜け出そうと体を激しくうごかす。
「ゆがぁぁぁぁぁ、まりさのおちびちゃんがぁぁぁぁ。ころしてやるぅううう。」
「うるさい。」
ゆっくりの反抗もあきの軽い平手打ちで終わってしまう。
「邪魔なこどもも殺したし、どっちからやる?」
「そうだなぁぁ、じゃあれいむからにしようかな。黒髪だし。」
「おっけー。じゃ、まりさはこっちで預かっとくわ。」
「よし、じゃあはじめましょうか。お客さん!」はさみをもったとしえがにっこりと笑う。
「なにいってるのぉぉぉ。れいむのかわいいおちびちゃんたちをころしたくそにんげんが
ぁぁぁぁぁ。」そう言って、当然のことだかれいむは自分の大切な子どもをえいえんにゆっ
くりさせた人間に攻撃しようとする。これでは髪など切ることはできない。
「……、あきぃー、なんとかしてぇぇー」
「もぉー、しょーがないなぁー。」
あきはそう言いながらも、頼られることにまんざらでもない様子であたりを見回し、道に落ちている看板に目を向けた。そして「これでいいんじゃない?」とれいむの頭にその看板を突きたてた。」
「ゆんげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」という絶叫とともに体をびくびくと痙攣させる。
「れいむぅぅぅぅぅぅ」そのれいむの姿を見て、まりさも叫びをあげるが、どうすることもできないで、ただうめき声をあげ目から滝のような悔し涙を流す。
「真ん中のちゅうすうあん?ってとこははずしてるから死んではないと思うよ。それに
ゆっくりって意外とじょーぶだからこれくらいじゃ死なないし。」
「さんきゅー、じゃあこんどこそ。」
としえは手に持ったはさみをれいむに近づける。
「ゆっ、ゆゆぅ。やめてねぇ、れいむになにするの。やめろっ、やめろぉぉぉ。」
頭に杭を突き立てられ、弱弱しいながらも拒絶の意思をれいむはあらわにする。
「まずはその重たいもみあげからね。ばっさりいきましょうか。」れいむの拒絶にかまうことなくじょきん、ととしえはれいむの左右のもみあげにはさみをいれる。
「ゆんやぁぁぁぁ、れいむのきれいなおかみがぁぁぁぁ。」
「あっ、ちょっと切りすぎた。」としえはぼそりとつぶやいた。しかしためらうことなく、
最後にバランスが取れればいいとどんどんはさみをいれていく。ちょきちょき、じょきじ
ょきとゆっくりにとって聞きなれない、ゆっくりできない音がたてられる。
「ゆぅぅぅ、どぼちてこんなことするのぉぉぉぉ。」
「ゆやぁぁぁ、れいむのきれいなおかみがぁぁぁぁぁ」
そんな
ゆっくりたちの悲鳴を聞きながらとしえが髪を切りつづけて、何分か過ぎたころ、
「ああっ、だめっ、失敗しちゃった!」
「ああ、こりゃたしかにね。」
わるいと思いながらもあきは苦笑してしまった。そこにいたのはあたまに穴の開いた7虎刈りのまんじゅう。あのわさわさとしたもみあげはいまやみるかげもない。前髪もすきばさみを入れようとしたのか、それも失敗してところどころに虫食いのような禿ができている。後ろ髪も切りそろえられることなくがたがただ。
「やっぱむずかしいわ。髪切るのって。」
としえは手についた髪を払い、ため息をつく。
「はじめてだししょうがないよ。」
ふたりのそんなやりとりをよそにまりさは「れいむぅぅぅぅぅ、れいむぅのきれいな
かみがぁぁぁ。」とさっきから同じような叫びをあげる。れいむは「ゆぅ、まりさぁぁぁ、
れいむどうなちゃったのぉ。」と不安げな声で答える。
「お客さんの要望もあるし、どうなってるか見せてあげれば。」
「そうだねぇ、はいどうぞ」
としえはカバンから手鏡を取り出すと、れいむに見せてやった。
「ゆぅぅぅ?まりさぁ、おかみのへんな
ゆっくりがいるよぉ。」
髪を切られたことはわかっているだろう。しかし、その姿、髪を切られた自分だとは
想像できないばかりにそんな間抜けなことをいったのだろう。
「れいむぅ、そのれいむがれいむなんだよぉぉぉ。くそにんげんにゆくっりさせられなく
なっちゃんただよぉぉぉ。」
まりさの言葉を聞き、首をかしげるようなしぐさをした後、れいむは叫びだした。
「うそだぁぁぁ、こんなのれいむじゃないよぉぉぉぉぉ。こんな
ゆっくりできないゆっく
りはれいむじゃないぃぃぃぃ。」
ゆっくりにとっては髪の毛はおかざりの次に大事なもの。一度大人
ゆっくりになり髪の
毛が生えそろうとその後
ゆっくりの髪は生えたり、伸びたりすることがない。
「うわぁっ、ちょー不評。わかっているけど、なんか
ゆっくりに言われるとむかつくわぁ。」
「きいてるのぉぉぉぉ。むしするなぁぁぁぁぁ。はやくれいむのかみをもとにもどせぇ。」
「いや、むりだよ。」
「ゆゆゆぅぅぅぅ!おまえがやったんだろぉぉぉぉ。おまえがやったんだからおまえがな
おせぇぇぇぇぇ。」
「……うるせぇなぁ。」
「ゆぅぅぅ。」としえのドスの利いた声にびくっと虎刈りれいむ体を震わせる。
「こんのぉ、だぼが。がたがたうるせんだよ。だったらなぁ。」
としえはれいむの不揃いの髪を引っ掴んだ。
「だったら、気になんないようにしてやるよ。」
じょきじょきじょきじょきとれいむの髪を根元から乱暴に切っていく。
「ごめんなさぃぃぃぃぃ、れいむがわるかったですからもうやべてくださぃぃぃぃ。」
「やめろぉぉぉぉぉぉ、もうまりさのれいむにひどいことするなぁぁぁぁぁ。」
「だからうるせぇってんだろ。……ほらっ、坊主まんじゅうのできあがり!」
としえはれいむに刺さっていた杭を引っこ抜きあきが押さえつけているまりさの前まで蹴り飛ばした。
「ゆぎゃぁぉぉ。うぅっ、まりさぁぁ。れいむどうなっちゃたのぉぉぉぉ。」
「れいむ、れいむ、れいむぅぅぅぅ。」まりさはれいむに必死になって近づこうとするが、あきの押さえつけは緩まることはない。
「うわぁっ、坊主頭のくせにでっかいリボンなんかつけてるから、なんかキモい。ほらっ、いまあんたこんな感じだよ。」
あきは手鏡でれいむにその姿を見せてやる。そこに映るのはあきの言葉通り、髪の毛の長さが不均等でへたくそな坊主頭の
ゆっくりだった。
「にんげんさん。…れいむ、れいむはね。」そんな自身の姿を鏡で見ると、れいむは先ほどと異なり泣き叫ぶこともなく、ぼそぼそとなにごとかをつぶやき始めた。
「おかあさんにも、おとうさんにも、まりさにもとってもきれいなかみをしてるねっていわれたんだよ…。れいむのじまんだったんだよぉ。おうたもかりもあんまりうまくなかったけど、このかみさんだけはみんなほめてくれたんだよ。」
「うんうん、それで?」つい合いの手いれるあき。小声であほとツッコむとしえ。
「それをそれをおまえがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
それこそ命もつきんとばかりにれいむは叫び声をあげ、としえに向かっていく。もちろん
ゆっくりが人間にかなうわけなどない。れいむの命をかけた突進も簡単に止められてしまう。
「確かに、ちょっとキレちゃってやりすぎたかも。それはあやまるわ。髪の毛きりすぎちゃってごめんねぇー。はいはいこれでいい?」
「ビッグダディじゃないんだから。」へたくそなモノマネなのにあきは満面の笑顔を浮かべた。
「でもさ、なに急にメンヘラみたいな自分語りしちゃってるわけ?」
「てゆーか、髪の毛しか自慢がないってイタイよ。こいつ。髪の毛がきれいってだけで
ゆっくりになにができるの?どうせすっきりーしかできないスケベ
ゆっくりでしょ。」
「切ってて思ったけど、べっつにそんなきれいな髪でもなかったよ。油っぽくてなんかべたべたして汚れてたし。せめて髪だけでも褒めてなぐさめてたんでしょ。むのーなれいむちゃん。」
「そうだね。そんな
ゆっくりはさ、もう死んだほうがいいか」
あきはぴょんと坊主れいむに飛び乗った。
「ゆげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
あきに飛び乗られた衝撃に、れいむは断末魔の叫びをあげる。一瞬で苦しみが頂点に達したかのようにゆがんだ顔、口からだらりとその舌がとび出しその痛みを表しているかのようだった。
「れいむ、れいむぅぅぅ。れいむがぁ、ずっと
ゆっくりさせられちゃったよぉぉぉ。」
無駄とはわかっているだろうが、れいむの体をまりさがぺーろぺーろと一心不乱に舐めている。としえやあきをせいっさいしようとしないところをみると、このまりさはもう人間に悪態をついたり、はむかう気力もなくなっているようだ。自分がかなわないことはっきりわかっているのだ。
そんな
ゆっくり達の悲劇的様子をしり目に二人は
「すんげー潰れかたしたよ。ウケるんですけど。ていうか、あきさ、ちょっと太ったんじゃね?」
「もうー、としちゃんちょー失礼なんですけど!」
「ごめんごめん、でもいいはじけっぷりだねぇ。」
「体が大きいぶん子
ゆっくりよりばぁーんてなるね。」
などと楽しげにじゃれあっている。
「れいむがいなくなってすっきりしたことだし。」
としえはまりさににっこりと笑みをむける。
「今度はまりさね。」
「ゆっ、ゆんやぁぁぁぁぁぁぁ。」
まりさはまるで死刑を宣告されたかのような悲鳴をあげた。
3
「でっ、まりさのほうはどうするの?」
「うん、れいむが失敗しちゃったのはビジョンがなかったからさ、まりさのほうはさっ、こうしよう。」
言うが早いか、としえはまりさの帽子を取りあげると、先ほどれいむと同じように頭に看板をさし、動けなくなるようにすると、その金色の頭髪にまたもやざっくりと深くはさみを入れた。
「ゆげぇぇぇぇ。いたいよぉぉ。いたいよぉぉぉ。まりさのかっこいいおぼうしがぁぁぁ。まりさのさらさらなかみのけさんがぁぁぁ。」
「えぇー、また坊主にしちゃうの。」
「ちがいまーす。まりさって金髪でしょ。だからなんか外人って感じじゃん。」
「うん、そいで。」
「だからパンク風にしようと思って。」
「あぁー、なるほどっ、なのかなぁ?」としえの言葉にあきは首を少し傾ける。
「そう、テレビで見たみたいにさ、アナーキーでロックにしてやるのよ。」
喋りながらもはさみを止めることはない。思い切りよくまりさの頭頂部にのみ髪が残るように切っていく。
「やめて、やめてねぇ、ゆやぁぁぁぁ、まりさの
ゆっくりした三つ編みさんがぁぁぁ。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。こんどはうまくいくと思うよ?」
「疑問形ってさ。頑張ってー、お客さんちょー不安そうだから。」
「まかせてまかせて。あともうちょっとだから。……はい、カットできあがりー!」
「うわっ、へんなのー。」と髪を切られたまりさの姿を見てあきは吹き出してしまった。今やまりさに先ほどまでの面影はなく、頭頂部直径7、8センチほど円形にだけ髪が残ったハゲまんじゅうだ。
「けっこーうまくいってない?さっきよりはきれいに切れたと思うんですけど。でもさ、まだ終わってないからね。ここからセットの段階に入りまーす。」
そう言うとまりさの頭に残る毛をはらい、工作道具が入った巾着袋のなかから液体のりを取り出した。
「ヘアワックスとかスプレーなんかはまんじゅうにはもったいないしね、てか持ってないし。あんたらにはこれくらいで十分でしょ。うわぁ、でも手ぇべったべった。
「ゆっ、つめたいよ。やめてくださぃぃぃ、もうまりさにひどいことしないでくださいぃぃぃぃ。」
「ひどいことなんてしてないんですけどぉー、むしろかっこよくしてやってるから感謝してほしんくらいんなんですけどぉー、お客さん。」としえはわざとらしく不満げな声をあげながらもまりさの残った髪の毛をのりで固めてたてる作業をやめない。
「そんじゃあわたしもまりさがかっこよくなるのに協力しちゃおうかなぁ。」
あきはまりさの髪を切るためにうっちゃておいた帽子を手に取り、こちらもはさみで切り刻み始めた。もちろんまりさはその様子をみて「まりさのおぼうしがぁぁぁ」とお決まりのセリフをあげたが、あきはそんなまりさを気にすることなく帽子を傷つけていく。
「あきは何やってんの?」
「へへぇー、こいつの帽子もパンクっぽくしてやんの。」
「りょーかい、りょーかい。あぁ、それならいいもんあるよ。わたしのカバン開けてみ?安全ピンはいってるからさぁ、それでかっこよくしてあげないよ。」
「おっけー。」まりさの帽子のつばのところにいくつも安全ピンをつけていく。
「いいかんじじゃーん、あき。こっちもよくなってきたよ。」
「うわぁ、イケてんじゃん。まりさちゃん。」にやにや笑いであきは答える。
「だしょ、三つ編みよりはずっといいでしょぉ、ほらお前も自分のことみてみ。」
そう言われまりさは鏡の中の自分の姿を見たが、変わり果てた自分の姿にショックを受け叫びだしたりするような反応を起こさなかった。
「ありゃ、無反応?生きてますかー、殺しちゃってないよねぇ、わたし。」
「かんどーしすぎちゃって、声もでないんじゃない。こんなにパンクなまりさなんて他にいないもん。」
「たぶんもてもてだよ、新しいすっきり相手見つけて、こどもつくれるよ。やったねまりさ!家族が増えるよっ!」
二人の自分には理解できないやり取りをぼんやりと聞きながら、まりさは考えていた。こんなに
ゆっくりできない姿になってしまいこれからどうしたらいいのか。あたらしいつがいなんて見つかるわけがない。お飾りはぼろぼろ、髪の毛はおかしい。こんな
ゆっくりを
ゆっくりさせてくれる
ゆっくりになんて絶対にいない。むしろ、
ゆっくりできない
ゆっくりとして、こっちがえいえんに
ゆっくりさせらてしまうかもしれない。
さっきれいむが人間にはむかいえいえんに
ゆっくりさせれたことを考えると、人間にせいっさいすることはできないし、自分の髪やお飾りも元にもどしてもらえることもないだろう。
じゃあ、いったいこれから自分はどうすればいいのか。どうしようもない。そのことを思うと、自然と不安と、恐怖、今まで経験したことのないような感情がその体に襲い掛かった。
「こんどは急に震えだしたよ。髪の毛切ったから、風邪でもひいたのかな。」
「ばかまんじゅうが風邪なんかひくわけないっしょ。」
「でもまっ、今日はいい経験できたよっ、あきのおかげ、ありがとねっ」
「どういたしまして、って、なんかあらためていわれるとすんごいてれるなぁ。」
「こんどはどの
ゆっくりでやろうか。」
「ありすなんかいいんじゃない、とかいはの。」
「ああっ、自称とかいはの」馬鹿にしたような笑いをとしえはたてる。
ゆっ、ゆっと震えるまりさを残し、一仕事終えた達成感につつまれふたりは帰っていく。50メートルほど離れたところで、としえはまりさのほうを振り返り、思い出したかのように「おかねはいらないからねぇー」と大声をあげた。