ゆっくりいじめ系694 餡餡。新聞


「今回の文々。新聞は面白いな」
「ああ。椛さんのあんな写真が掲載されるとは」
「購読料を払うだけのことはあったな」
……ガサ
「ゆ? こーどくりょー?」


~~~~~~~
「おじさん!!! おじさん!!!」
 既に仕事をリタイアし、気ままに毎日を過ごす男の家。
 文字通りゆっくりと過ごしているこの男の家には、よくゆっくりが集まってくる。
「おお。れぇーむじゃないか!! どうしたんだい?」
 この霊夢は好奇心旺盛な事も相まって、よく男の家に来ては色々と疑問に思ったことを聞いてくる。
 おそらく今回もその件だろう、と男は解釈しゆっくりと視線を合わせるためにしゃがみこんだ。
「あのね!! あのね!! こーどくりょーーってなぁに?」
 予想通り、今回も質問だった。
 男は、孫に聞かせるように優しく微笑みながら説明する。
「それはね、新聞を取っている家が、纏めてお金を払って新聞を買うことだよ」
「ゆ~~? しんぶん? しんぶんってなに?」
「あはは。そうだね~~……」
 困った。と言う顔をしながら、ゆっくりにも分かるように言葉を選んでいく。
「世なのかで起こったこと、君達にしてみれば、ここできれいなお花が咲いたとか、あっちでれみりゃが出たとか、だれそれの家で赤ちゃんが生まれたとか、そういう事を紙に書いたモノかな」
 ほら。と男が霊夢に今日の朝刊を差し出す。
 そこには、椛がこっそりと焼き芋を買う写真と記事が書かれていた。
「ゆゆ!! すごいね!! きれーなえだね!! たくさんもじもかいてあるね!!」
 初めて見る新聞に興味津々の霊夢は、日が暮れるまでゆっくりと眺めて、男の家を後にした。
「ゆっゆ♪ ゆっくりしていってねぇ~~♪」
 自分達の家に帰る間、ずっとご機嫌に歌を歌っていた霊夢。
 霊夢はあの男が好きだった。
 ゆっくりしていて、色々な話を聞かせてくれるあの男が心底好きだった。
 そして、その男から聞かされた事を家族や、群れの皆に伝える事も好きだった。
 自分だけが知っている知識を、知らない者に知らせることが好きだったのだ。
「ただいま!! きょうもゆっくりしてきたよ!!」
「ゆっくりおかえりなさい!!」
 家族の中でもやんちゃ盛りのこの霊夢は、帰宅時間も一番遅い。
 すでに他の家族は集まっており、全員がこの霊夢を迎えてくれた。
「みんなきいてね!! きょうね…………」
 早速、今日仕入れた知識を一家に紹介する。
 この一家は話が大好きなので、明日には群れ中のゆっくりに知れ渡っているだろう。
 そして、あの霊夢は頭がいいね!! 群れ中霊夢が話した話題でいっぱいだよ!!
 と、夕飯のときに母親が褒めてくれる。
「ゆっゆ♪」
 その情景を想像し、その日の霊夢は何時もより多く口から零しながら食事を終えた。

~~~~~~~

 翌日は、霊夢の思っていた通り、新聞の話題で持ちきりだった。
「しんぶんっていうのは……」
「あのれいむが…………」
「むきゅ!! よのなかのじょーせーを……」
「とかいはのありすは、すぽーつししかよまないわ!!」
 群れのどこに行っても新聞。新聞。
 時々聞こえてくるのは霊夢。霊夢。
「ゆ~~~♪」
 その霊夢とは自分のことである。
 今日は群れの外へは出かけず、辺りをグルグル回っている霊夢の顔は一日中緩みっぱなしだ。
「そうだ!! まりさたちもしんぶんをかいて、こーどくりょーをとればいいんだぜ!!!」
「ゆゆ♪ れいむたちおかねもちになるね!!」
「むきゅ!! そうすれば、ふゆのしょくりょーもたくさんあつまるわ!!」
「しゅっぱんぎょーなんて、とかいてきなしごとね!!」
 リーダー格の発言を聞き、あちらこちらで賛同の声が上がる。
「ゆ!! ゆゆゆ♪」
 霊夢は正直驚いた。
 特に発言力もない、普通の一家である自分が、群れにこれだけの影響を与えられたことを。
 そして、自分のおかげで、村の暮らしがよくなりそうな事を。
「そうときまれば、さっそくさくせんかいぎだよ!!」
「ゆっくりおやたちをあつめてね!!」
 今までで一番早い速度で、霊夢は自分の親を呼びに行った。

 それからはとんとん拍子に事が進んでいった。
 紙を集めるもの。
 書くものを集めるもの。
 どうやって人間に集めるかを考えるもの。
 その、考えるものの中に、あの霊夢の姿もあった。
「れいむは。そのおじさんからしんぶんのことをいろいろきいてきてね!!」
 リーダー魔理沙から直々に言いつけられたこの命令に、霊夢の心は躍った。
 すぐさま男の下へ向かい、来る日も来る日も新聞のことを聞いていった。

 そして、ある日。
「ゆ!! おじさん、きょうもきたよ!!」
「おお。いらっしゃい」
「あやや? ゆっくりですか?」
 今まで霊夢が見た事が無かった女性がそこに居た。
「ゆゆ? おねーさんだれ?」
「あやや。これは失礼。私は射命丸文です」
「しゃめーまる、あや?」
「この新聞を書いてる人だよ」
 男が付け加える、それで霊夢もなんとなく理解したようだ。
「ゆ!! しんぶんをつくってるおねーさんなの!!?」
「そうですよ。本当は購読料集めは椛に任せているのですが、この前から引きこもってしまって……」
 苦笑いする二人を尻目に、霊夢はここぞとばかりに言葉を続ける。
「おねーさん!! おねーーさん!! しんぶんってどうすればおかねたくさんあつまるの!!?」
「え? あやや、そうですね~~……」
 うんうんと、無い首を必死に振りながら、文の言葉を聞こうとする霊夢。
「やっぱり、きちんと書くことですよ。手を抜かずにきちんと書いて、人様が読めるものに仕上がれば、それで大丈夫ですよ。でも、きちんと書かないといけませんね、それがジャーナリストとしての責任ですから」
 にゃはは。
 と笑ってはいるが、その声はどこか凛として、妙に説得力のあるものであった。
「それじゃあ私はこれで」
 これからも文々。新聞をよろしくお願いします。との言葉を残して去っていった文に続き、霊夢も今日は男の家をあとにした。

「わかったよれいむ!! まりさたちはさいこうのしんぶんをつくるよ!!!」
「ゆっくり」
 今日の事を報告した後、霊夢はリーダーの家をあとにした。
 元気が無いというわけではないが、何か突っかかることが霊夢の中で生まれていた。
 それは、喉の風邪をひくときの、ほんのちょっとした違和感のようなものであった。
「ゆゆゆ!! かんがえてもわからないよ!! きょうはゆっくりしようね!!」
 ここ毎日男のところに通い詰めだったこともあり、ゆっくり出来なかった霊夢はそれだけ呟き、友達と一緒に森の中に消えていった。


「ゆっゆ!! できたよ!!」
 それからさらに数日後、リーダー魔理沙が全員を集めて、新聞の完成発表会を行った。
「むきゅ!! こんしんのできよ!! みてちょうだい!!」
 目の前に置かれた紙に目をやる。
 この紙は先日、人里から盗んできたもの。
 その紙に書かれた幾何学模様のような線。
 この線を描くのにつかられたクレヨンも、同じく人里から盗んできたものである。
「いまからせつめいするよ!!」
 騒然とした群れを静まらせ、一匹のちぇんが新聞を咥え、リーダー魔理沙が自信たっぷりに説明する。
「これはまりさのおしらせだよ!! このあたりはれみりゃがいるから、ちかづかないでねってかいてあるんだよ!!」
「むきゅ!! これはぱちゅりーがかいたちえぶくろよ!! おやさいやくだものが、どうなったらたべられるのか、かいてあるのよ!!」 
「ゆゆ! これはありすがかいた、とかいはさいせんたんふぁっしょんよ!! にんげんでもつうようするてくにっくよ!!」
「これはれいむがかいた、こそだてのほうほうだよ!! これをよめばゆっくりしたあかちゃんがつくれるよ!!!」
 発表が終わると、今度は配る方法をリーダーが説明していった。
 内容はこうだ。
 一家の人数に応じて新聞を渡す。
 人間のお家一軒に対して新聞は一冊。
 配った家が分かるように、川で取れるこの平たい石を家の前に置いておく。
 全部配られたら、もらえたお金の半分を渡す。
 その後は、残った数に応じて分け前が減る。
 その半分のお金は、群れの食料庫に入れる食べ物を買うお金にする。
 ゆっくり達にも分かりやすい、シンプルなノルマ制である。
「それじゃあ!! きょうは、はやくねてあしたにそなえてね!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
 並々ならぬやる気を出しているゆっくり達が、ナチスもびっくりの掛け声を上げる。
 その熱気は、ゆっくりが家に帰るまで続いた。
「む~にぁむにぁ♪ し☆あ☆わ☆せ☆~♪ むにゃ……」
「ゆぅ~~~♪ ゆぅ~~~~♪ ゆゆぅ♪ みょうたべりぇにゃい~~♪」
 霊夢一家全員が寝静まった後でも、あの霊夢だけは起きていた。
「ゆ?……ゆ~~?」
 頭の中では以前、文から聞いた言葉が反芻し。
「ゆ……」
 あの一枚ごとに書かれている模様が違う新聞の映像が脳裏に焼きついていた。


 翌日早朝。
 何時もならまだ寝ている時間に、広場に集まったゆっくり達。 
「それじゃあ!! いまからしんぶんといしをくばるね!!」
「よばれたかぞくはまえにきてね!!!」
「さ~~~くやいっか~~~~!!!」
「はいですわ!!」
 リーダー魔理沙から、新聞をもらい次々にこの場から消えていく家族。
 のんびりしている霊夢一家は列の後ろになってしまったため、じゅんばんが回ってくるまで時間が掛かってしまった。
「れいむいっか!!」
「ゆっくり~~♪」
 漸く順番が回ってきた霊夢たちが、リーダー魔理沙のもとへ駆け寄る。
「はい!! これがれいむたちのぶんだよ!! ゆっくりくばってね!!」
「ゆ? いちまいだけ?」
「れいむがしんぶんをおしえてくれたから、こうやってらくにたべものをとるほうほうがかんがえられたんだぜ!! だから、れいむたちはそれだけでいいぜ!!」
「もちろん、おかねはあとで、じゅうぶんなだけわたすぜ」
 ぱちっとウインクをしたリーダー魔理沙にお礼を言い、一路人里を目指す霊夢一家。
「さて、あまったしんぶんは、よにんでくばりにいくぜ!!」

~~~~~~~

「おかーーさん!! れいむしんぶんをとどけたいおうちがあるよ!!」
「ゆゆ!! あのおじさんのおうちだね!! わかってるよ!!」
 既に母親の進行方向はあの家だったようで、ここからはあの霊夢を先頭にして進んでいく。
 森を抜け、道が見えてきたときに、不意に他の一家が話しかけてきた。
「ゆゆ!! あのおじさんはかんたんにおかねをはらってくれたぜ!!」
 それは、あのゆっくり咲夜一家だった。
 しかし咲夜一家とは名ばかりで、実際は霊夢と魔理沙一家の召使いである。
 どこの群れにも居る、ならず者のゆっくり一家である。
「ゆゆゆ!! あそこはれいむたちがもっていこうとおもったのにぃ!!!」
「かんけいないぜ!! まだたくさんあるから、これでしつれいするぜ!!」
 泣き喚く霊夢にそれだけ言って、大量の石を頬張っている咲夜に新聞を持たせ過ぎ去っていく。
 あとには、大好きなおじさんに新聞を渡せなくなった霊夢の泣き声だけが響いていた。
「ゆ~~。どうする?」
 お母さん霊夢が優しく声をかける。
 いまだ泣きじゃくる霊夢の周りに、姉妹達も心配そうに集まってくる。
「ゆ、やくそくだから、ほかのおうちに、……とどけようね……」
 嗚咽交じりで、何とかそれだけを口にする。
 お母さん霊夢は、ゆっくり俯くと霊夢の変わりに新聞を持って、再び先頭で歩き出した。
 しばらく歩き、漸く他のゆっくりが来ていない建物を見つけ、腰を落ち着ける一家。
「ゆ~~♪ よかったね♪ はやくしんぶんをわたそうね!!」
「れいむはここでまっててね!! おかーさんたちでいってくるよ!!」
 未だないている霊夢には可哀想だろうと一匹だけを残し家の中に入っていく一家。
 既に購入してもらえる気で居るのか、入り口に石を置くことを忘れていない。
 軒先では、鶏が鳴き始めた。
 そろそろ人間達も活動を始めるころ。
 新聞を配るにはちょうど良い時間だ。
「こんにちは!! こんにちはゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
 玄関前で大声を出す。
 小さい子供達はぴょんぴょんと玄関に体当たりをして住人をせかす。
「はいはい。オハロックどちらさん?」
 おそらくい今まで寝ていたのだろう、酷く機嫌が悪そうな人間が玄関から顔を出してきた。
 しかし、低血圧とは無縁のゆっくり達は朝からハイテンションである。
「ゆっくりしんぶんをもってきたよ!! おかねをちょーだいね!!!」
「おかねちょーだいね!!」
 頭の中にあるのは沢山のご馳走を食べている自分達の姿。
 しかも想像上の季節は冬。
 夢にまで見たゴージャスな越冬生活に、自然と一家のボルテージは上がっていく。
「はぁ、新聞? それが? しかもおかね?」
 寝起きに予想外のことを聞かされた人間は、矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。
「ゆ!! こーどくりょーだよおにーさん!!」
「ちっかりはりゃってにぇ!!」
 意に返さず、新聞を咥え男の胸元まで跳ね上がるお母さん霊夢。
 それから新聞を受け取った人間は、文句を言いつつ暫くの間それを見ていたが、何かを思い出したように黙り込んだ。
「これって? まさか……」
「おじさん!! おかねがまだだよ!! ひゃくごじゅーえんね!!」
「ゆっくりはやきゅはらっちぇね!!」
 しかし、既に人間の興味は新聞から別なものに移っている。
「お前ら、この紙どうしたんだ?」
 震える声で聞いてくる人間、それに笑みで答えるゆっくり一家。
「にんげんのおうちから、もってきたっていってたよ!!」
 詳しいことは、この一家は知らされていない。
 さらに、この紙がこの辺り一帯の大収穫際のお祭りを知らせるチラシに使われる予定だったことは、ゆっくり達は誰も知らない。
 そして、この人間がその祭りの役員だったこともゆっくり達は誰も知らないだろう。
「お前らのせいで祭りはぶち壊しだ!!」
「~~♪ ? ぷじゃら!!」
 趣味の虐待とは違う。
 怒りによる暴力がそこにはあった。
「ゆっきゅりやめちぇね!! あががっが!!」
「いもうとになにするのーー!!」
「だまれこの畜生が!!」
「!! ゆ!! れいぶのおめめどご? おがーーさん!! れいぶのおめめをみつけてね」
「やめでーーーーーーー!!!!!!」
「と゛う゛し゛て゛ーーー!!!」
 地面にたたきつけられ、致死量の餡子を漏らしたお母さん霊夢は、片目だけになったその目でわが子が殺される光景を最後まで見続けた。
「ゆっ!! ゆゆゆ……」
 それは外に居たあの霊夢も同じだった。
 声までは聞こえなかったが、いきなり母親が蹴られた事ははっきりと確認できた。
 その後、姉妹がどんどん死んでいくところも。
「!!」
 身の危険を感じ、その場から逃げ出してしまった霊夢。
 それを責める家族は誰一人居ないだろう。
 事実、既に居ないのだから。


 他の一家も同じような状態だった。
「うるせぇな!! こんな朝っぱらから金集りにきやがって!!」
 怒り狂う人間を目の前にしているのは、あの咲夜一家だった。
 しかし、一家に恐怖の色は感じられない。
「ゆ!! さくや!! まりさたちをまもるんだぜ!!」
 それは、今まで全ての雑務を咲夜に任せていた事、そして咲夜が強かったことに対する過信であった。
「かしこまりました!! おぜうさまにてだしはさせません!!」
「まよ!! ちゅっちゅ!!」
「んべ!!」
 強いと言っても饅頭相手の話である。
 あっという間にたたき付けられ、持ち上げられ、足に穴をあけられる。
「いたいですわ!! いたいですわ!!」
 そして、体を絞り上げ餡子を出し尽くそうとする。
「やめてください!! ほんものです!! ほんものです!! ゆぐぐぐぐ……!!!」
「さくや……なんで? どうして……?」
 目の前で強い咲夜がやられているのを見せ付けられ、既にこの一家に抵抗する力は残されていなかった。
「ま、まりさははなしてね……こ、このおかねあげるから……」
「れ、れいむからもおねがいするね……はなしてね」
 今まで集めたお金を男のもとに投げ、必死に許しを請う一家。
 しかし、はした金で何とかなるほど、寝起きの良い人間ではなかった。
「……だまれ。お前達はここで死ぬ」
「もっど、もっどゆっぐりじだがっだのにーーー!!!!!! と゛う゛し゛て゛ーーー!!!」
 結局、一家の願いが聞き届けられる事はなかった。
 次に、玄関の鍵が閉められていることに気が付き、子供達が向かっていったことに気が付き、子供達が死んでいったことに気が付いた。
 最後には、自分達の中が餡子であったことに気が付き、永遠の眠りに付いた。


 そして、企画したあの四匹にも運命の時はやってきた。
「ゆ!! おにーさんここからだしてほしーんだぜ!!」
「むきゅ!! だしてね!! はやくだしてね!!」
 四匹が入れられたのは大きな大きな樽だった。
 並の大きさしかない四匹には昇れそうにもないくらいの大きな樽。
 入れられた四匹は、わけが分からず大きな声で、樽の上に居るであろう人間に話しかける。
「お前らに聞くが、これは何だ?」
 ひょっこりと、顔をのぞかせた男に安堵したのか、顔に安堵の色を浮かべ、会話を再開する。
「ゆっゆ♪ しんぶんだよ!!」
「とかいてきでしょ!!」
「この紙切れがか?」
 ヒラヒラと、これ見よがしにはためかせながら話す人間に、四匹は苛立ちを覚える。
 自分達の中では、一生懸命に書いた最高の新聞を馬鹿にされたのだ、ゆっくりが起こらない筈がない。
「ゆ!! それはよにんでいっしょうけんめいにかいた……」
「こんな落書きのどこが一生懸命に書いた、だ。しかも書いてあるのはしょうもないことばかり」
「むっきゅーーー」
「こんなので金を取ろうと思ったのか?」
「ゆ……」
「しかも人間のものを盗んで?」
 どんな返答をしても、人間のほうが一枚上手である。
「ゆ~~~~!! まりさたちはふゆのあいだのしょくりょーを!!」
 痺れを切らした魔理沙が、本来の目的である、食料の確保を口にするが、男は眉一つ動かさずに次の言葉を口にする。
「ああ。わかったよ。食料ね。それじゃあ、それは今から君達が稼いでね!!」
「? どういうこと」
 新聞と言う方法でお金を得ようと考えていたゆっくり達は、突然稼ぐと言われても意味が分からなかった。
 お互い、顔を合わせても結局分からず、已む無く人間に尋ねる事にする。
「この大きな桶の中に、今から沢山のゆっくりの赤ちゃんを入れるから、髪飾りと髪の毛をとって四箇所においてある穴に入れてね!!」
 説明は単純明快。
 人間にとっては簡単な作業である。
 しかし、同じゆっくりの、しかも赤ちゃんを痛めつけると言うのは、ゆっくりにとってはまさしく地獄の作業である。
「むきゅ!! そんなことできないわ!!」
「そうだよ!! どうぞくごろしはおおきなつみだよ!!」
「やれなかったらいいぞ!! お前らの群れの位置は分かってるんだ!! 死ぬまで仲間の餡子食わせてやるからな!!!!」
 この一言が決めてとなり、四匹はしぶしぶ了承した。
 直後に放り込まれる大量の赤ちゃんゆっくり。
「いじゃいーーー!!!」
「まぁまぁどごーーー!!!」
「ゆっぐりしていってね!!」
「おながじゅいだーーー!!!」
 生まれたばかりの赤ちゃん達は、突然の環境変化に戸惑い泣き叫ぶ。
「ゆゆ!! おねーーさんたちはゆっきゅりできりゅひと?」
「ゆっきゅりさせちぇね!!」
 四匹を認めた赤ちゃん達が寄ってくる、が既に四匹は人間と約束してしまったのだ。
「ゆっくりごめんね!!」
「ゆぅ? ゆぐぐやめじぇーーーー!!!」
 思ったよりも簡単だった。
 力も、運動能力もはるかに劣る赤ちゃん相手に、成体ゆっくりの力は圧倒的だった。
「ゆびび!! れーーみゅのきれいなおかみぎゃーー!!」
「おかーーしゃんがきれいきれいしてくれちゃにょにーー!!」
 髪の毛を剥ぐのも同様。
 たった一度剥いだだけで、全ての髪の毛を取り除くことができた。
「ゆーー!! ごめんねーー!! ごめんねーーー!!」
 一日に四回、食事が与えられる。
 労いなのか別の意味があるのか、出される食事はどれも人間でさえ唸るようなものばかりであった。
 途中で死んだゆっくりはおやつとして食べさせられた。
 時々、蔓を生やした親から直接落とされることもあった。
 そして、四匹は死ぬまでこの作業を行い続けた。
 既に必要のなくなったお金のためと、既に居なくなった仲間のために。
 死ぬまで、ごめんなさいと呟きながら作業を続けた。


~~~~~~~~~~~~

 舞台は森の中に戻る。
 生き延びたあの霊夢が、息も絶え絶えに広場に戻ってきた。
「ゆうゆう…………。ゆゆゆ?」
 先ほどまで、あんなに賑わっていた広場には、誰も居ない。
 太陽が昇り始め辺りを照らすが誰の姿も確認できない。
 ポツンと、広い広場で一つの丸い影があるだけだ。
 その言い知れぬ恐怖感に、霊夢は手当たり次第に他のゆっくりの家々を尋ねる。
 しかし、返事はおろか姿すらない。
「ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!」
 初めは元気よく叫んでいたその言葉も、家々を訪ねるごとに静かになっていく。
「…………」
 最後には無言のまま、尋ね出て行く。
「きっとみんなしんぶんをとどけにいってるんだね!! れいむはゆっくりまつよ!!」
 そう意気込み、広い広場で待ってみるが、誰も帰ってこない。
「おかーーさん!! おいしーごはんたべちゃうよ!!」
「ゆゆ!! さくやがあつめためずらしいごはんたべちゃうよ!!」
「りーだーがもってる、びすけっとたべちゃうよ!!」
「ゆ~~♪ む~~にゃむ~~にゃ♪ し☆あ☆わ☆せ☆~♪」
 食べきれないほどのご馳走を食べ、ぐっすり眠って次の日が来ても、やはり誰も居なかった。
「ゆぐぐ!! と゛う゛し゛て゛ーーー!!!」
 食料を投げ飛ばし、家をめちゃくちゃにし、それでも収まらずに森を駆け回る。
 大きな木の根に躓き、仰向けに倒れたとき、霊夢は思い出した様に呟いた。
「ゆ……しんぶん。めちゃくちゃにつくったからだね……」
 以前、文が言っていたこと、それを破ったからこんなことになったのだ。
 男のもとで色々なことを知った霊夢は、そのことをなんとなく理解できた。
 他の皆も自分の家族と同じように死んだと言うこと。
 それもこれも新聞のせい。
 つまり、自分がこんな考えを話したからだ。
「でいぶがーーー!! でいぶがいっだがらごんなごどにーー!!!」
 事実は違っているが、そう感じた霊夢は自分だけが生きていることがいけない事だと感じた。
 自分が一番新聞を馬鹿にしていると感じたからだ。
 そして、霊夢は男のもとへと向かった。

~~~~~~~~~~~
「あやや? この子ですか?」
「ええ。それでは。自分はこれで」
 男に呼び出してもらったのは、文だった。
「それで? 何か御用ですか?」
 霊夢は、大好きだった男が完全に見えなくなってから、今までのことを話出した。
 新聞のことを話したこと。
 群れの食糧確保のために新聞を作る事になったこと。
 リーダーに褒められたこと。
 でも、それがいけないことだったこと。
「ふむふむ」
 文は、時折相槌を打ち、静かに霊夢の独白を最後まで聞いた。
「おねえさん。れいむもころして」
 全て話し終えると、霊夢は自らの命を絶ってもらうように、文にお願いした。
 何時もの、押しつけがましいお願いではなく、心のそこから込みあがってくるようなお願い。
「あやや。う~~ん……これはなんとも複雑な。……それじゃあ、一度私の家に連れて行きますか」
 霊夢を抱え込み、一枚の羽だけを残して飛び去った天狗。

 空中から見る民家は、あちらこちらに餡子がつぶれた後が見受けられ、その日どれほどのゆっくりが処分されたのか、容易に想像できた。

 しかし、余りの速度に霊夢は気を失ってしまう。
 ……

 そして、その日の出来事は、村はずれに住む男は知らなかった。

~~~~~~~~~~

 その日を境に、文々。新聞には、一匹のゆっくり霊夢の写真が貼られるようになった。
 それは、新たなスポンサーとなったゆっくり加工場のものであった。
 綺麗な目をした純粋そうなゆっくり霊夢。
 加工場の養殖モノの霊夢。
 文が持ち帰った野生育ちの小汚い霊夢とは、まったく違う気品が漂う霊夢。
 大事に育ってられ、文が持ち込んだ霊夢の容姿を散々罵倒し、初めて外に出され、メイクをされて写真に取られる。
 後は順番待ちのれみりゃの餌となる。
 それだけの為に生み出された霊夢。
 この笑顔を取るために、わざわざ小汚い霊夢を連れて行った事を、文は心底上手い育成ができたと考えていた。





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最終更新:2011年11月23日 22:46
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