「ゆっくりしていってね」
太陽が昇りきった頃、起きだす
ゆっくりれいむ
「まりさ、まりさ、ゆっくりしていってね!!」
「ゆあ・・・ゆー・・・ゆっくりしていってね」
まだ眠そうな相棒をゆっくり起こす
ここは二匹だけの幸せな場所だった
虫も花もたくさんあるし、食べ物には全く困らない
キツネや野犬といった危険な生き物もいないし
何より人間がいない
自分達の親からとても危険で陰湿で絶対に近づいてはいけないと言われていた人間
それがいない事が二匹をとても安心させている
「れいむ、ごはんとってくるからゆっくりまっててね」
狩りはゆっくりまりさの仕事だった
ゆっくりの中ではずる賢く、少し足の速いゆっくりまりさは狩りに適していた
「うん、ゆっくりがんばってね」
一方ゆっくりれいむは巣に残って掃除や食料庫の整理などをする
思いやりのあるゆっくりれいむができるお仕事だ
ゆっくりれいむはキレイにした帽子をゆっくりまりさにかぶせてやる
帽子やリボンなどのアクセサリーを他人に触らせるのはお互いをとても信頼している証拠だ
「ふふ、まりさ、きょうもかっこいいよ」
「ゆ?!・・・てれるよ」
二匹はお互いの頬を触れ合わせ、名残惜しそうに離すと
それぞれの仕事についた
「ゆ♪ゆ♪ゆ~♪」
昔に作った虫団子を前に、最近作った干草を後ろに
たっぷりとある食料だが、効率よく食べるには調節が大事
昨日と同じ献立にならないように、腐らせないように
あれこれやりくりするのがゆっくりれいむの仕事
外でがんばっているまりさのためにもせっせとゆっくり働きます
お次は藁を束ねたほうきで巣のお掃除入ってきたごみを掃きだす
砂や落ち葉や綿ぼこりを器用にサッサと外に出す
二匹の巣はいつもキレイ。これでゆっくりできます
「ゆっくりしてる!」
花の蜜を吸っている蝶をパクリと食べる
「むーしゃむーしゃしあわせー」
狩りの息抜きのちょっとしたつまみ食い
それができるほどにここの餌は豊富だった
今日もゆっくりまりさはたくさんのご飯を抱えて巣に戻った
日は落ち、食事も済ませた
二匹は身を寄せ合い愛の言葉をささやく
「まりさ、こどもがほしいね」
「ゆ!・・・そうだね。こどもとゆっくりしたいね」
「まりさ、すっきりしたくなちゃった」
「れいむ、いいの?」
ゆっくりれいむはゆっくりまりさに口付けをする
それがれいむなりのOKの合図なのだろう
しばらく経つと二匹には赤ちゃんれいむが一匹と赤ちゃんまりさが二匹生まれた
「「「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!」」」
元気に挨拶する子ども達を親たちはとても大切にした
ゆっくりまりさは子ども達に狩りのやり方や食べれる草と食べれない草の違いを教え
ゆっくりれいむは子ども達に掃除のやり方や虫団子の作り方を教えた
子ども達はスポンジのように親の教える事を吸収し
日が暮れるまで仲良く遊んだ
遅いとゆっくりれいむに怒られる事もあったが
ちゃんと謝れば許してくれた
「まあまあ、れいむ、こどもはげんきなほうがいいよ」
「まりさもちゃんとたまにはしかってあげてよね」
「ゆ・・・おまえたち、まりさがれいむにおこられちゃうからちゃんとかえってくるんだぞ」
アハハとみんなが笑う
「どれも陳腐でたいした実験結果は得られないわね」
モニターの前に映し出された家族団らんの映像
「『幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異にしているものだ』か」
八意永琳の言葉に鈴仙は首をかしげる
「幸せなアンナには魅力が無いのよ。それに実験の内容を切り替える良い機会よ」
資料にさらさらとガス注入の旨を書き込む
「あの部屋には一切誰も入っていないわね」
「え、あ・・・そのはずです」
「ま、兎には無害だし。いいわ」
警報なしにガス注入のボタンが押された
「ゆぎゅ!!!」
最初に苦しみ出したのは一番小さな子どものゆっくりまりさだった
「どうしたの、おねえぢゃ・・・ゆぎゅぎゅ」
親たちは驚愕した。今まで元気に目の前で遊んでいた子ども達が白目を向いて餡子を吹き始めたのだ
「だ、だいじょうぶ?ゆっくりおちついてね」
「おがぁざぎゅあ・・・ゆぎゅ!!!・・・ゆぎゅ!!!」
親れいむは最初に倒れた子の頬を必死に舐めているが
自分の体も何だかおかしくなってきた
「まりさ、ここはゆっぐ・・・ぎぃ!!」
親れいむは絶望する
目に映ったのは自分が愛したまりさが餡子を何度も吐き出している姿なのだ
「ゆげぇ・・・・ゆげぇ!!」
もう助からない子を捨て必死にまりさの元へ駆け寄るれいむ
しかし、思ったように進めない上手く前に飛べない
思っていたより低く、右にずれる
「まりざ・・・いばいぐがら・・ゆげぇ」
自分も大量の餡子を吹いているが
それでも必死に愛するまりさの元へ
「ゆぎゅ!!!」
「ずっと隠れてたかいがあったね」
愛するものの目の前、もう一歩、もう一歩のところで踏み潰される
ゆっくりれいむは薄れ行く意識の中で自分を踏んだものの姿を見た
手足があって体があって、ああ、これが人間なんだ凶悪で陰険な
親から聞いてたのと違って大きな耳があるが
「愛する人へは辿り着けません。残念でしたー」
れいむがなにをしたというの
れいむは自分が不幸だと思って死んだ
「はぁ・・・てゐね」
広い部屋に捨てられていたのは非常食とガスマスク、光学迷彩スーツだった
「手の込んだ事を・・・。まぁ、いいわ。次からはあの子の領分だし」
迷い竹林の中、えーりん実験室の地下にはすっきりルームというものがあった
そこにはゆっくりたちが集められていた
「幸福な家庭のお部屋」と可愛らしい文字で書かれた部屋の前に
八意永琳は立っていた
永琳は可愛らしい文字のプレートを
「不幸な家庭のお部屋」と達筆な文字で書かれたプレートと交換した
~あとがき~
アンナ・カレーニナは同名のトルストイの小説に出てくるとても美しい女性です
数ある選択肢の中で必ず不幸を最短距離で選んでしまう不幸の象徴の様な女性です
好きの度合いで言えば少女地獄の姫草ユリ子には劣りますが
by118
最終更新:2008年09月14日 08:29