ゆっくりデパート

作:キャベツ頭



 街にゆっくりが現れてはや数ヶ月、ゆっくりを飼うのがブームになりつつあった。
そこで、我が家もゆっくりまりさを飼いはじめたのだ。

「おにいさん!」

「何だい、まりさ」

「まりさ、でぱーとにいきたいよ」

「デパートって、買い物でもするのか?」

「そうだよ!でぱーとには、たべものも、おもちゃも、なんでもそろってて、
 とってもゆっくりできるんだよ!まりさいきたいよ」

「うーん、デパートは基本的に、どこもペット禁止だからなあ…」

「ゆ゛ッ!おじいざんびどいよ!!ばじざべっどじゃないっもん!!!」

「今お爺さんって言った?まあいいけど…。それより、泣くほど行きたいんだな。
 わかったわかった、何とかしてやるから、泣き止んでくれ。うんうんが漏れてるぞ」

「ゆ゛っっ!ぽんとう!!おにいざんだいずぎ!!だーいずっぎ!!
 ばでぃざ、うんうんじでぐるね!!」

「もうしちゃってるだろ…」

 古くなった餡子は、ゆっくりに言わせると臭く、汚く、ゆっくりできないものらしい。
それゆえ、うんうんと呼び習わしているようだ。
 うちでは、ラップを敷きつめたクッキー缶に、そのうんうんをさせているが、
しつけを施す前は、あたり構わずうんうんをひり出し、
「うんうんだらけでゆっぐじでぎないいいい」とか言っていた。



 翌日。僕は隣近所の人々に、「ゆっくりデパート計画」を打ち明けた。
近くの空き地に、食べ物やおもちゃをたくさん陳列し、
本物のデパートそっくりに仕立て上げる。
ゆっくりごときの為にそこまでしてやるべきかと悩んだのだが、
何だか面白い物が見られそうだと、神様が教えてくれたから実行するのだ。
数日後の試験オープンのため、僕たちは会場設営に奔走した。

「まりさ、今度デパートへ行かないか?」

「ゆっ?おにいさん、まりさいきたいよ!たべものたくさんかって、
 おもちゃもたくさんかいたいよ!でぱーといきたい!」

「よしよし、それじゃ一緒に行こうな。お友達も呼んでもいいぞ」

「ほんとう!それじゃ、なかよしのれいむもよんであげるよ!
 ゆぅ~、たのしみ!」

「よしよし、それじゃまりさとれいむと一緒だな。
 それはそうとお前ら、予算はどのくらいなの?金持ってるか?」

「ゆっ?よさん?おかね?まりさはいちもんなしだよ!!」

「一銭も持ち合わせてないのか。それじゃお前、デパートに行っても、
 何も売ってもらえないぞ。デパートは金持ちの味方なんだから」

「ゆ゛ん゛っっっ゛!!!!うぞ!!うぞだ!!
 ばじざ、いっばいかうん゛だいっ゛ほーせぎも゛ゆびわ゛も、
 ねっぐれずもいっばいがうのっ゛っ!!!いっばいみついで、
 ぜいぶどずっぎりずるんだもんっっっっっっ゛!!!!!!」

「お前、そのれいむとは分かれるべきだろ常識的に…」

 顔を真っ赤にして、すごい勢いで飛び跳ねるゆっくりまりさ。
『アゴの下のぺにぺに』が、激しく勃起している。
ゆる~く溶いた葛湯っぽい、ヌラヌラした半透明の汁が床に広がりはじめる。
そんなバイオ饅頭をなだめすかし、子供銀行発行のお札やコインをやって、
ゆっくりさせるまで、数時間かかった。



 そして、出発の日。ゆっくりまりさの「飼いゆっくり証明バッジ」を確かめ、
会場の空き地へと向う。まりさは上機嫌で、知り合いの女性が飼っている、
ゆっくりれいむと合流してからは、発情したようになってしまった。

「まりさ、ゆっくりしていってね!!!」

「ゆっ、でいむ!!!ゆっぐりじでいっでね!!!」

「ゆゆ~ん、まりさ、きょうはれいむにいっぱいかいものさせてね!!」

「もちろん、もっぢろん、だよ、ぜいぶ!!!
 ま゛りざ、いっばいはたらいて、よさん、ためたんだもん゛、
 ねっ、おにいざんっ!!!」

「あ、ああ。そうだね。頑張ったね」

「ゆっふぅ~ん、まりさ、こんやをおたのしみにね!!!」

「ゆヒッ!!!!!!!!!」

 バチッとウインクをかます、しもぶくれいむ。
ヌラヌラの液が出る前に、僕はまりさの帽子を奪い取って、
気を逸らすことに成功した。紆余曲折あって、会場に到着すると、
そこにはゆっくりの飼い主と、飼いゆっくりによる行列が出来ていた。

「ゆぅ~ん、すごいぎょうれつだね、おにいさん…
 これじゃ、まりさたちのかうものがなくなっちゃうよ!!ぷんぷん!!」

 へちゃむくれた饅頭顔を、ぷくーっとふくれ上がらせるまりさ。
れいむは涼しい顔で、お姉さんと買い物の計画を立てている。
 行列が動き始めた。ここで重要なことをまりさに教えてやらねばならない。

「まりさ、良く聞けよ。買い物はお前たちだけでするんだ」

「ゆっっ!?おにいさんはついてきてくれないの!?
 どぼじで!!!!!!!!!!!!!」

「すぐ泣こうとせずに、最後まで聞けよな。
 これはお前達のためにしつらえたものなんだから、お前達だけで楽しむのが道理だ。
 れみりゃが来ないように、テントを張った上からネットもかけてあるし、
 心配事は何もない。ゆっくり楽しんできなさい」

「ゆぅ~ゆっくりりかいしたよ。それじゃ、いってくるよ。
 れいむ、まりさといこ!!」

「ゆっくりどうはんするよ!!!」

 キャバ嬢か、お前は。まあうちのまりさだって、アブラハゲオヤジみたいなもんだが。
それはともかく、ゆっくりの群れが、会場になだれ込んでいった。
飼い主は「買い物」の様子を、会場内の監視カメラの映像で確認するのだ。
お楽しみはこれからである。

「ゆぅ~たべものがたくさんあるね、れいむ!
 まりさがなんでもかってあげるからね!!!」

「ゆっ!れいむあまあま~なのがたべたいよ!!!
 ゆっくりしないでもってきてね!!!」

「ゆっくりといそいでりかいしたよ!!」

 ゆっくり達に言わせれば、「美しい」れいむにお熱のまりさ。
脱兎の如く駆け出し、あまあまの陳列棚に突進する。
角砂糖にハチミツ、キャラメル、各種のケーキ、和菓子もある。

「ゆぅっ!まりさ、おいしそうなあまあまがいっぱいだね!!
 きょうはすごくゆっくりできそうだね!!」

「うん、ゆっくりしてこうね!!」

 会場になだれ込んだゆっくりは、うちのも含めて、
思うさまゆっくりしはじめた。棚のものを、舌でなめとっていく。
ゆっくりの舌は伸縮性のある煉り羊羹で、唾液はぎとっとした水飴だ。
お菓子の包み紙を意に介さず、「あまあま~」とむさぼる、共食いまんじゅう。

「れいむ、きょうはまりさが、れいむにぷれぜんとしてあげるよ!!
 なんでも、ほしいものをいってね。ききんぞくでも、ごちそうでもいいよ!!」

「ゆぅ~、れいむは『ねっくれす』がほしいよ!!
 あっちのうりばにあるみたいだから、そこでゆっくりえらばせてね!!」

「ゆっくりりかいしたよ!!」

 二匹のまんじゅうが、ころころと移動した先は、子供用アクセサリーを、
それらしく陳列してある、ショーケースが並ぶブースだ。
こうした光り物に目がないれいむは、ほくほく笑顔で品定めをはじめた。

「ゆっ!!きれいなほうせきさんでいっぱいだね!!
 れいむ、なんでもすきなのえらんでいいからね!!!」

「まりさはちょっとうるさいよ。れいむしんけんなんだからだまっててね!」

「ゆぎゃん!!!ひどいよ!!でいぶ!!!!!」

 まりさは滂沱の涙をながしている。精神不安定なキモまんじゅうをよそに、
れいむは「ぷれぜんと」を決めたようだ。

「ゆ~まりさ、このゆびわさんがいいよ!!ゆっくりとれいむにかってね!!!」

「ゆっ…ゆぐっ……ゆっぐり、りがいじだよ…」

 れいむの要求には、即座に応える殊勝なバカまりさ。
泣き顔が一転して、勇ましい表情を浮かべ、売り子のお姉さんに話しかける。

「おねえさん!!まりさこのゆびわさんがほしいんだよ!!
 おかねならあるから、ゆっくりしないでまりさにうってね!!!」

「分かりました、お客様。こちらの指輪は10万円になりますが、
 ご予算の方は足りてらっしゃいますか?」

「ゆっ!!まりさをみくびらないでね!!まりさおかねもちだもん!!」

 ふんぞり返って、口内に隠していた金銭を、じゃらっとばら撒いたまりさ。
生温かい水あめまみれのそれは、湯気を立てている。気色悪い。

「あの、お客様…数えさせていただきましたところ、これではとても足りませんわ。
 10万円どころか、1万円もありませんよ」

「ゆぶっ!?おねえさん、うそつかないでよね!!ちゃんとかぞえてよね!!
 まりさ、きょうのためにおしごとがんばったんだよ!!
 まりさのぼーなすなんだから、たりないわけないでしょおおおおおっ!!!!」

「そう言われましても…1000円札が1枚に、100円玉と10円玉が一枚ずつ。
 これでは、1110円にしかなりませんよ」

「ゆあああああああああ!!!!!だりなぐない!!!!!だりなぐない!!!!!
 ばりざ、おーがねもぢだもんっ!!おぐまんちょーじゃだもんっ゛っっ゛!!!
 かねのぢがらで、ぜいぶのあ゛い゛をがうんだもんっっっっ!!!!!」

 愕然とし、みにくくも泣き喚きはじめるまりさ。事実を嘘で塗り固めたうえに、
金でれいむの愛を買おうとする汚い計画を吐露している。
もしや、ゆっくりブレインが何かの病気にかかっているのではないか。
片想い相手のれいむの白けた視線も届かず、満たされない肉欲のただなかで、
あえぎ、のたうち、絶叫する肉まりさ。これは新種のゆっくりなのでは。

「ゆぅ~まりさ、れいむもういいよ。もっとやすい、およーふくがいいよ」

「ゆびっ!ゆびっ!びびっ!でいぶ!!でいぶ!!!でいぶやざじい!!!
 ばりざにやざじいでいぶ、だいずっぎ!!!!!!
 ぽうせきさんをうっでぐれないばばあはじね!!!!」

 鼻汁をすすりあげ、女性店員に悪態をつき、その場を去る二個のまんじゅう。
次に訪れた、「ふじんふく」売り場は、大勢のゆっくりでごった返していた。

「まりさ、れいむはあのぴんくのりぼんさんがほしいよ」

「わかったよ、れいむ!!まりさゆっくりとげっとしてくるね。
 きたいしてまってていいからね!!!」

 とは言うものの、会場はまさしく、「争奪戦」の様相を呈している。
人間世界にもよくある、「おばちゃん同士のセール品奪い合い」の構図である。
ゆっくりたちが押し合いへしあいしている会場へ、まりさは突進した。

「ゆっ!ゆっくりそこをどいてね!!」

「このまふらーはれいむのものだよ!!じゃましないでね!!」

「ゆっくり!!ゆっくりさせてね!!!!」

「あがぢゃん!!!どごいっだの!!!!!」

「ゆっ!!おさないで!!おさないで!!!」

 ゆっくりは欲望に忠実な生き物であり、他者への配慮といったことを知らない。
道徳観念に乏しく、そういう意味では究極の利己主義者なのだ。
そんなバカまんじゅうが一堂に会して、品物の奪い合いをはじめれば、
どんな事態になるものか、想像に難くないといえるだろう。
 目的の品をつかんだはいいが、別のゆっくりに奪い取られる者。
つまづき、後続のゆっくりに踏み潰される者。
目的もなく、ものめずらしさから「ゆっくりだかり」に近づき、
もみくちゃにされる者。
子供連れでやってきて、案の定、生き別れの目に遭う一家。
 事実、会場には、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。

「ゆっぐ!!ゆっぐじざぜで!!でいぶおうじがえるっっ!!!」

「ふま゛ないで!!ぶまないべっっ!!!あんごがああああああ!!!!」

「やべでっ!!やべで!!!!あがぢゃんふん゛でるうううううううう!!!!!」

「い゛やああああああああああっぶぎ!!!!!!!!」

 夕暮れ時、「ゆっくりデパート」はお開きとなった。
速やかに会場の施設が撤去された後には、つぶれたゆっくりだけが残された。
しかし、どうやらうちのまりさと、友達のれいむは生き残ったようだ。
ただ、まりさの方は、帽子はボロボロ、髪はストレスで抜け落ち、
歯は数本ばかり残して、へし折れ、片目が潰れていた。何があったんだ。

「お~、まりさ。どうだ、楽しかったか?」

「………」

「れいむ、どうだったの?来て良かったでしょう」

「………」

 二個の饅頭は答えず、ぷるぷると小刻みに震えるばかり。
ただ、れいむは帰り際に一言、まりさを痛罵してみせた。
「まりさはうそつきだよ!!!ちっともかっこよくないよ!!!
 まりさのさぎし!!れいぷま!!もうかおもみたくないよ!!!!
 まりさのはげまんじゅう!!!!はぬけ!!!!
 かたっぽだけでもいやらしいめつきだね!!!!!」



 家に帰り着いた途端、火のついたようにまりさが泣き始めた。

「ゆぎゃあああああああああああん!!!!ぎゃび、どぅびっ!!!!
 ぎゃいいいいいいいいい!!!ゆぎゃおおおおおおおおおお!!!!!」

「なんだなんだ、うるさいな」

「おじいざん!!!!びどいよ!!!!おじいざんのぜいで、ばじざだぢ、
 ぢっどもゆッぐじでぎながっだんだもんッ!!!!!!ぎぎぎいいぃぃ!!!」

「そんなこと言ったって、俺たちは精一杯……」

「うぞだっ!!うぞだもんっ!!!おじいざんがちゃんとやっでぐれでだら、
 ばりざいまごろ、でいぶどずっぎりじでるもんっっ!!!!!
 いま゛ごろ、ざんがいめ、とつ゛に゛ゅうじでるもんっっ!!!!」

「そこまで計算してたのか…」

 愛しいれいむに愛想を尽かされ、敗北感と、肉体的ダメージに打ちひしがれたまりさ。
それから夜中まで、まりさはずっと泣き続けた。何もかも、僕のせいにして。
れいむを抱きたかっただの、性欲を持て余すだの、かっこ悪いところを見せただの、
レイプ魔って言われただの、片目が見えないだのと、叫び続け、汁を垂れ流し続けた。
そのせいで、隣のカミナリ親父をたたき起こしてしまい、
まりさは一升瓶でたたきつぶされてしまった。「ゆじゅ」とか言って。

 友達のれいむは、今も元気に暮らしている。今度は別のゆっくりをひっかけたようだ。
僕はと言えば、二度目のゆっくりデパート開店を目指し、計画を練っている最中である。



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最終更新:2022年04月17日 00:30