「う~?」
ゆっくりれみりゃがパチュリーに連れてこられたのは、今までの自分の家では無かった。
「お姉さんも、ここでいっしょにゆっくりしようね」
ゆっくり霊夢が言ったが、ここはもうゆっくり達の家でもない。
「あら、思ったほど酷くなかったわね。これなら意外と早く終わりそうね」
「じゃあ、さっさとやって頂戴。私はここ数日働きすぎて疲れたわ」
「何を言っているの? あんたにも手伝ってもらって、やっと意外と早くよ」
「むきゅーん」
そういって人形を使い家を直してくアリス。
彼女がこの家の主である。
「あぁ、でも人形のダメージは酷いわね。コレが終わったらいったん修理しないといけないわね」
ブツブツ言いながら、同じくブツブツ言っているパチュリーにアレコレ指示をする。
ちなみに、パチェリーのブツブツは、小悪魔早くこっちに来いだったりするが。
「お姉さん、わたしたちもてつだうよ!」
三匹が、何か仕事は無いものかと、ウズウズしながら話しかける。
「大丈夫よ。あなた達は外で遊んでいらっしゃい。ずっと檻の中に居たから、体が鈍ってるんじゃない?」
「いいの?」
「えぇ、良いわよ」
「やったぁ、まりさ、ぱちぇりー行こう」
「むきゅー」
「お姉さんゆっくりしてくるよ!!!」
ゆっくり魔理沙がアリスにそう話す。
元が単純なゆっくり種であるゆっくり魔理沙は、先ほどの会話で、アリスが優しくなったと思ったらしい。
その口調は、普通のゆっくりが人に向けるそれと同じであった。
「いってらっしゃい」
「イッテラシャィ」
「ラシャーイ」
笑顔で送り出すアリスとその人形達。
「お庭もひどいねー」
「あらしだったからだよ」
「ぱちぇりーはものしりだね」
「きょうはおともだちこないねー」
「「ねー」」
日が天辺まで昇った時、木陰を求めて、何時もの木の下で話す三匹。
ゆっくり魔理沙も、アリスが居なくなってからの暮らしと、何も変わっていない事に安堵する。
「う~♪」
玄関からした声は、庭に追い出されたゆっくりれみりゃの声だ。
「う~! ゆっくりゆっくり♪」
一昨日、加工場内で見たゆっくり達が忘れられなかったのだろう。
木陰で屯っている三匹を見て、とても嬉しそうにダンスを踊る。
「いっしょに来たゆっくりだね」
「にんげんみたいに、からだもあるね」
「きしょうしゅっていうんだよ」
「「ぱちゅりーはものしりだね!!!」」
「むきゅ~」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
「う~~!!! ゆっくりしゅるしゅる!」
それから、四匹はいっしょになって遊んだ。
庭を駆け、一緒になって話をしている内に、日は森の木よりも低くなっていた。
家の修理もそろそろ終わるようだ。
「みんなー、修理は終わったわよ。そろそろ暗くなるから、入ってらっしゃい」
「「「はーい」」」
「うっう~」
四匹がドアに近づくよりも前に、ドアの前に一人の人影が立った。
「すいませーん。遅くなっちゃいました。もう修理は終わっちゃいましたか?」
小悪魔だ。
片手に持っている大きな紙袋は、荷物が入っているのだろう。
「小悪魔。あなた随分遅かったじゃない。外で様子でも見てたんじゃないの?」
「いいえー。そんなことないですよ。私は、パチュリーさまに使役される身ですから。主が必要としているなら、直ぐにでも駆けつけますよ」
「お姉さん、ずっと外に居たよ」
「れいむたちが、そとにでたときからいたよ」
「おそとでゆっくりしてたよ」
「う~♪」
「ちょ!! 止めてよ!! 折角直したんだから!!!」
それを聞いてスペルカードを使おうとするパチュリーを必死に止めるアリス。
「いえ、それは落としていった幻影のスペルカードがですね……」
必死に言い訳する小悪魔。
「ゆゆゆ!!」
「「ゆ~~♪」」
「うっう~♪」
面白そうに笑う四匹。
暗くなった外から見るそれは、とても幸福そうな生活の一ページに見えた。
翌日、数少ないゆっくりれみりゃの持ち物(主にきぐるみ)を置いて、パチュリーとその使い魔は帰っていった。
太陽が、地面から切離されたばかりの、まだ早朝と言ってもいいような時間。
今、この家で起きているのはアリスだけだ。
「さてと。それじゃあ、朝食の用意をしちゃいますか」
上海と蓬莱を起こし、朝食の用意に取り掛かるアリス。
二人で、必死に野菜を切る人形達。
そして、切った野菜を鍋に入れ、調理していくアリス。
クツクツと煮立つその鍋からは、食欲をそそる匂いが漏れている。
「うん! 上出来ね。二人とも、四匹を起こしてきて」
二人は頷いて台所から出る。
向かう先は、随分前から使っていなかった石造りの小屋。
二人が中に入ると、たっぷりと敷き詰められた藁の中で、三匹が気持ち良さそうに眠っていた。
外で寝ると言っていたので、アリスが急遽、藁をしいて寝室にしたのだ。
それまで、ベットやソファーの上で寝ることはあっても、専用の寝室がなかった三匹には、与えられた専用の寝室を非常に喜んでいた。
一方のれみりゃは、壁際で毛布に包まって眠っていた。
昨夜、仲良くなった三匹と一緒にこの部屋をみた直後、れみりゃだけは走って家の中に行ってしまった。
初めての寝室に興奮している三匹に、おやすみを言って家の中に入ったアリス達。
家に戻り、れみりゃを探すと、アリスの部屋のベッドで跳ねて遊んでいるところを見つけた。
「う~♪ ゆっくり!!!」
本人は、ゆっくりのつもりで遊んでいるのだろうその様子は、アリスを突き動かすには十分だった。
「ねぇ、れみりゃ。三匹はもう寝ちゃったわよ。一緒に寝ないのかしら?」
「ここでねりゅ~。べっど♪べっど♪」
加工場で床で寝ていた事はあっても、やはりベッドが恋しかったのだろう。
まして、あんなところで寝るなどということは、紅魔館ぐらしのれみりゃには考えられないことであった。
「ふーん。でもそこは私のベッドよ?」
「ん~ん。れみりゃの。ちかづくとた~べちゃうぞ~♪」
この時、ゆっくり魔理沙がいたならば気付いただろうが、今のアリスの目は何時もの、ゆっくりを見る目であった。
「せっかくお風呂にも入れてあげたのに。それでもまだそんなに図々しいなんてね」
つかつかと、無言で自分のベットに近づいていくアリス。
「きちゃだめ~♪ ぎゃお~♪ぎゃお~♪」
暖房を効かせた部屋と外の様な、二人の温度差はすさまじいものであった。
「た~べty!?」
かいじゅうの真似事をしているれみりゃに回し蹴り。
れみりゃは、衝撃をモロにくらって部屋の入り口に吹っ飛ぶ。
「うー。うー」
「コレは私のベッドよ? あんたはさっきの三匹と一緒に、あの中で眠るのよ。分かった?」
「うー。わがっだ。わがっだー!! うあ!!! ああ!!!」
れみりゃの返事も無視し、更に二三発蹴る。
とたんに、先ほどまで大泣きしていたれみりゃが大人しくなった。
「……あら、もう気絶しちゃったの?」
「本気で蹴り過ぎよ。あれじゃあ誰だって気絶するわよ。まぁ気持ちは分かるけど」
呆れた声で言うパチェリー、だが余程眠いのかしきりに目を擦っている。
「あんなのが私の部屋に入っただけで嫌気がするわ。小悪魔、コイツさっきの小屋に入れてきてくれるかしら」
同時に、シーツかと思う程つぶれた毛布が投げられる。
「人間らしく寝たがってたから、それでもかけてあげて」
「はい。分かりました、アリスさん」
アリスも疲れていたのだろう、後は小悪魔に任せて、自分も早々にベッドに潜っていった。
――
そして、昨日のそれが引きがねになったのだろう。
アリスは早々に、れみりゃを最重要に、と人形たちに命じた。
魔理沙たちには余力でいい、とも言った。
その言葉の通り、眠っているれみりゃの顔面にパンチをして起こす上海。
「うー? うー?」
れみりゃの方は、何が起こったのか分からずおろおろしていたが、やがて何時ものように泣き出した。
さらに、自分が小汚い小屋の中で寝て言うことに気付いてまた泣き出す。
「どーしたの?」
「なんでないてるの」
「むきゅー」
その声で起き出した三匹、れみりゃが泣いているのが不思議なようだ。
「ォコシタラナィタノ」
「イエ、カワテサビシークナタノ」
「そっか~」
「れみりゃもゆっくりしようね!!!」
「しよおねー、……むきゅ」
懸命にゆっくりれみりゃを気遣う三匹。
れみりゃも、三匹に励まされだんだんと泣き止んだ。
「「今日もいっしょにゆっくりしようね!!!」」
「むきゅ~」
「う~♪」
大声で泣いたので目も覚めたのだろう、れみりゃは機嫌よく返事をする。
「ゴハンダァヨ」
「アサゴーハン」
人形達に引きつれらて家の中に入る、玄関から既に美味しそうな匂いが漂っていた。
「おねえさん、おはよー。おいしようなにおいだよ」
「おはよー。おなかへったよ、おねえさん」
「ごはん。ごはん」
「はいはい、どうぞ。」
トン。
軽い音と共に、パンとスープを人数分床に置くアリス。
それは、犬用の入れ物であった。
「テーブルの上は狭いから、ここで我慢してね」
たしかに、アリスの家のテーブルは狭い。
仮にゆっくりが三人のったら、それだけでいっぱいになってしまうだろう。
それを食事代わりにするのであれば、話は別だが。
「だいじょうぶだよ、お姉さん」
「魔理沙おねーさんがきたときもこうしてたべたよ」
「ごはん。ごはん」
ガツガツと、意地汚く食べる三匹。
以前の魔理沙なら、ここまで汚く食べていたら、すぐにアリスにイジメられていたが、一年という月日ですっかり忘れていた為、他のゆっくりと同じような食べ方に戻っていた。
それを見て、嫌悪感を感じているのではないかと思われたアリスだったが、それよりも、突然飛び出た魔理沙の名前に、一瞬頬を赤らめていた。
しかし、すぐにその熱は直ぐに冷めることとなった。
この三匹が、魔理沙を慕っているのが許せなかったからだ。
「う~? う~?」
その上このゆっくりれみりゃである。
以前、レミリアから散々コケにされていたアリスにとって、このゆっくりに出会えたことは幸せだった。
普通のれみりゃ種を相手にしたところでは晴れない。
しかし、この『元』レミリアであれば、その気持ちが晴らせるのだ、これ以上このれみりゃができる恩返しは無い。
「う~! ぱちぇ? こぁくま?」
そのれみりゃは、嘗て大事にしてくれた人の名前を叫びながら、キョロキョロと辺りを伺っている。
どうやら、パチェリーと小悪魔が見当たらないので騒いでいるらしい。
「あの二人ならもう帰ったわよ」
「っ!!」
その表情を見るたびに、体が小刻み震えていく事を感じるアリス、あのレミリアを自分が責めている。
それだけで、それだけで最高の興奮剤になり得た。
「ほら、パチュリーがあなたにって置いていったわ」
パチュリーが作っておいたプリンを差し出す。
とたんに、飛びつかんばかりの勢いでアリスの元に駆け寄るれみりゃ。
「う~♪ぷりんたべるたべる♪」
その表情でうかがい知れる。
どうやら、早くよこせといっている。
スプーンを両手に持って、椅子に座って待っている。
「どこに座っているの?」
「う~♪はやくちょうだい♪」
昨日のことを既に忘れたのか、それとも気絶して記憶が無いのか、アリスのどす黒い空気を全く気に止めないれみりゃ。
そのまま、笑顔でプリンを出す、バケツ一杯分もある大きなプリンだった。
「う~♪おっきいおっきい」
自分の顔ほどもある大きなプリンにご満悦のれみりゃ、彼女ならものの数分で平らげてしまうだろう。
「そのまえに、きちんとご飯をたべなさい」
スープとパンを三匹と同じ皿に装ってれみりゃの前にだすアリス。
「い~らない♪ ぷりん~ぷりん~♪」
元からお菓子しか食べないれみりゃは、聞く耳を持たない。ましてや、目の前に大きなプリンがある状態ではなおさらだった。
「そう、仕方ないわね」
いざ、スプーンを付けようとした瞬間に取り上げる。
当然、れみりゃは不満爆発だ。
「うー!れみりゃのぷりん!ぷりん!」
意に返さず、一人前だけを切り取ってれみりゃの前に出しなおす。
残ったプリンは三匹の前に出し。
「好き嫌いしたからよ。……さぁ、デザートのプリンよ」
食事に夢中で気が付かなかった三匹、突然出された大きなプリンにご満悦だ。
「すっげっ、でっけぇ!」
「うまい! うまいよお姉さん!!!」
「ごはん! ごはん! むきゅ~」
むしゃぶりつく三匹、対照的に自分のプリンと三匹のプリンを交互に見るれみりゃ。
急いで自分の分を食べ終える。
そして、その中に割り込もうとする。
「う~!」
しかし、既にプリンは無くなっていた。
れみりゃに限らず、お菓子はゆっくり達にとってご馳走のようだ。
「うーー」
「好き嫌いした方がわるいのよ。これからはきちんと食べなさい」
紅魔館ではお菓子しか出されなかったれみりゃは、アレは違う人の食事だと思っていたのだろう。
「うー!! いぎゃあ!!!!」
「そして、あそこは私の席よ。分かった?」
突き破らんばかりの蹴りを放ったアリスは、代わりの椅子を準備して自分も朝食を取った。
――
「おーいアリス、いるかぁ?」
「まっ魔理沙! いっ居るわよ」
朝食を終えて、人形達の修理でもしようかと思っていたアリスの家に、意外な来訪者がやってきた。
「まぁ、もう入ってるけどな。それにしても一日でここまで直すとはなぁ」
いつでもあんたを迎え入れるためよ、とは口が裂けても言えないアリス。
適当に相槌を打ってごまかした。
「あっ、魔理沙おねーさんだ」
「魔理沙おねーさん~いらっしゃい」
「ゆっくりしていってね」
「おお、元気だったか。あの嵐だったから心配したぜ。まぁアリスがいたんなら、大丈夫だろうけどな」
とたんにアリスの表情が曇る。
馴れ馴れしく魔理沙に話しかけるゆっくり達を見ているアリスの顔、それは先ほどと同じ感情だった。
「はは、そうだな。ところでアリス、これからちょっと出かけないか?」
「でっ、でかける! 何処へ?」
ひっそりとアリスに耳打ちする魔理沙。
当の本人は、昨日はきちんとお風呂に入ったか、寝癖はないか、そればかり考えていた。
「紅魔館さ、フランの奴がたまには運動したいって言うからな。お前もずっと図書館に篭ってただろ? 運動しないと体に毒だぜ」
「……ごめんなさい。今日はちょっと行けそうに無いわ。家に置いておいた人形の修理もあるから」
そうか、それじゃな、と言い残して出て行った声も、さよならと言った三匹の声も、既にアリスには届いていなかった。
また、他の人の所に行くのは別に良い、こうして誘ってくれたから。
でも、私より饅頭三匹を心配していたのが気に食わなかった。許せなかった。
「ねぇ、あなた達。私はこれから街に行ってくるから、魔理沙の所に遊びに行ってきたら?」
「まりさのところ?」
「いくいく!」
「そう、場所は分かる? えぇ、大丈夫。蓬莱に道案内を頼むわ」
「ホラーイ」
蓬莱人形に連れられて家を出る三匹、もう一匹はもたもたと何かをしているようだ。
「あなたは、何をしているの?」
「うー、がお~!がお~!」
どうやら、お気に入りのきぐるみを着て行きたいらしい。
「それなら、何日も着ていたから洗濯するわよ」
「うー! もうひとつだして! だして!」
代わりのきぐるみを出せと、駄々をこねるれみりゃ。
「これかしら?」
「う~♪はやくはやく」
良くやったと言わんばかりの顔をしているれみりゃの前で、きぐるみに朝のスープの残りをかける。
「う゛ー!」
ころころと表情が変わるれみりゃ、それを見て興奮するアリス。
「あらあら、これも洗濯しないとね。ダメじゃない、こぼさずに食べないと」
「う~! やってない! やってない!」
ブンブンと首を振って否定するれみりゃ。
「……その態度がムカツクのよね。いいわ、きぐるみを着せてあげる」
ちょっと待ってなさい、そう言いながら上着を脱がす。
ドロワーズ一枚になったゆっくりれみりゃを取り合えず庭に出しておく。
「そのこのきぐるみを乾かすまでちょっと待っててもらえるかしら」
「うん、いいよおねえさん。ゆっくりまってるよ!!!」
魔法を使えば直ぐ乾くが、あえて一時間ほど自然乾燥させてから魔法を使う。
傍から見ると何をしているのか分からないが、当の本人は酷く嬉しそうなので何か意味が有るのだろう。
「ほら、乾いたわよ。自分で着れるでしょ?」
「う~!きる~!」
ばしっとアリスの手から奪い取る、きぐるみが着れる事が嬉しいようで、ドロワーズの上から直接着ていることに気付いていない。
「がぁお~♪ た~べちゃ~うぞ♪」
「ゆっくりしてね!!!」
「おおこわいこわい」
「むきゅー」
三匹の元へ駆け寄っていくれみりゃ、これで全員準備はできたようだ。
「じゃぁ、きおつけていってらっしゃい」
「うん、ゆっくりしてくるよ!!!」
四匹を送り出したアリスも町へ向かった。
そこで、急遽製作した特製のゆっくり専用のセルフ販売ボックス設置する。
勿論、ゆっくり達の餌代対策であるが、思いのほか順調に事が運んでいる。
これは、なかなかいいビジネスかもしれない。
アリスはそう思っていた。
最終更新:2022年05月03日 17:18