一方、森の中。
 四匹は楽しげに魔理沙の家へ向かっていた。
 蓬莱人形に案内されながら森を進んでいく。
「おねえさんのおうちにいったらゆっくりできるね!!!」
「むきゅー! みんなでゆっくりしようね!」
 自分達の所へ来て、おいしいご飯を作ってくれた優しい魔理沙。
 程なくして魔理沙の家へ到着した一行。
「ここがまりさおねえさんのおうちだね!!!」
「いきなりきたからびっくりするかな?」
「ゆっくりするする!!」
「う~♪」
 四匹は玄関へ向かう。
 どうやら呼び鈴を鳴らそうとしたらしいがたどり着けなかった。
「ゆ!?」
「いだい!」
 家に近寄ったとたん、見えない壁でもあるかのように跳ね飛ばされたのだ。
 これは魔理沙が仕掛けておいた泥棒除けのトラップだが、元々人間以上用にしてある為に三匹は数十メートルも飛ばされた挙句、木にぶつかってようやく止まった。
「ゆ! いたかったよ!! ぱちゅりーだいじょうぶ?」
「むきゅー、だいじょうぶ。ゆっくりできるよ」
 改めて玄関を見る。
 見た限りでは何も変哲のない、ただの玄関がそこにはあった。
「う~♪ とびたいとびたい!!!」
 知らない人の家の為、出遅れていたれみりゃが玄関に駆け出す。
 どうやら飛んでいったのが面白そうだったようだ。
 自分も跳ねたくて勢いよく玄関に直進する。
「!? うーーー!!!」
 しかし、物言わぬ玄関が突きつけたのは弾幕。
 トレードマークの星型の弾幕だった。
 段々とパワーが上がるのであろうそれは、妖怪や並以上の人間にとっては何て事のないものだ。
「うー! っえぐ、いだい。ぱじゅりー、こぁくまー、ざぐやー!!!」
 人間では無いがそれ以上に弱い、ゆっくりれみりゃには大分威力があったらしい。
 傷こそ付いていないが、きぐるみから出ていた顔面に弾幕が当り、鼻の上が真っ赤に腫れていた。
 その泣き声を聞いて駆け寄ってくる三匹。
「だいじょうぶ? ゆっくりできる?」
「むきゅー? ぱちゅりーはここだよ!!」
「うー! ちがうちがう!! ぱちゅりーちがう!!! おせえさんのぱじゅりーなの!!!」
「まりさおねえさーん!!! れいむたちだよ!! わるいひとじゃないからおうちにいれてよ!!!」
 ゆっくり霊夢がそう叫ぶ。
 この時に一歩近づいたのがいけなかったのか、またトラップが発動してしまう。
 今度のトラップはアリスから盗んだ五寸釘。
 それがどんどんばら撒かれる。
「むっきゅーー!!!」
「ゆっぐりでぎないよーー!!!」
 最初に声をあげたのは魔理沙とパチェリー、あの日五寸釘を打たれた二匹のトラウマが再発した。
「やめてね! まりさたちがゆっくりできないよ!!!」
「うー! やだー! おうじがえる!!!」
 次に混濁した意識の中でそれを見ていた霊夢、釘が当って打ち付けられた木を見て威力を理解したれみりゃが続いた。
「ゆっぐりできないよ! まりさおねえさんのおうちはゆっぐりでぎないよ!!!」
「ゆっくりはやくかえろうね! でないとゆっくりできなくなるよ!!!」
「むきゅー! むきゅー! ゆっぐりざぜでー!!!」
「うあー! ざぐやー! ぱじゅりー! こぁぐまー!!!」
 未だ放たれ続ける釘を避けながら、必死にアリスノ家まで森を逆戻りする四匹。
 ゆっくり達の遥か上を釘は飛んでいたのだが、それには気付かなかったようだ。
 息も絶え絶えに逃げ帰った。
 家に帰ると、真っ先に厳寒に駆け寄っていった。
 しかし、まだアリスは戻っていないようで、鍵がかかった玄関は見た目通りの重量感を醸し出していた。
「カギカカーテルヨ! アリスガカエーテクルマデ、オソトデマーテテネ!」
「お姉さん、まだまちからかえってきてないね」
「おねーさんのおにわならゆっくりできるね」
「ゆっぐりじだい! むきゅ~」
「うっ、ぐす。うぅ、うー」
 何時もの木下で休む。
 健康な霊夢と魔理沙も未だに息が乱れている、大分疲れたらしい。
「なんで。なんでおねえさん、ゆっくりさせてくれなかったんだろう」
「いつもおいしいたべものつくってくれたのに……」
 しかし、ゆっくりがいくら話し合っても答えが出るわけも無く、無意味なおしゃべりはアリスが帰ってくるまで続いた。
「ただいま、さぁ鍵は開けたわよ。中に入りましょう」
「「「おねえさんおかえりなさい、ゆっくりはいるよ」」」
「う~。はやくはいる!はいる!」
 ゆっくり達がアリスを出迎える。
 街で何か良い事があったのだろう、その顔はとても嬉々としていた。
「はいお土産のおかしよ」
 そういって袋を床に置く、立ち込める食欲をそそる香り。
「ゆ!こんなにいっぱい! おねえさんおかねだいじょうぶなの?」
「大丈夫よ、遠慮しないでたべなさい」
「むしゃ……! これめっちゃうめぇ!」
「むしゃむしゃ。まりさ、ぱちゅりー、おいしいね」
「ごはん!ごはん!」
「う~?」
 お土産のお菓子はたこ焼き。
 勿論、朝食の時同様、お腹は減っていたがれみりゃは食べはしなかった。
「あらあら、あなた達。れみりゃは食べなくってもいいみたいよ。代わりに食べていいわよ」
「うっめ!いただきます」
「これまじうめぇ。おねえさんありがとう」
「めし!めし!」
「うー! れみりゃのごはんは! おかしじゃなきゃやだー!!!」
 目の前で美味しそうに食べる三匹を、終いには泣きながら眺めるれみりゃ。
 早く自分のおやつが食べたいのだろう。
 昨日はきちんと、小悪魔がれみりゃ用の甘いおやつを出してくれ、朝もきちんとパチュリーがプリンを作っていって帰っていったのだ。
 れみりゃがそう思うもの無理は無かったが、実際は出てこない。
 食べ物の匂いが立ち込める中、三匹の意地汚い食いっぷりが更にれみりゃの涙腺を刺激する。
「うーー!うーー! おがじー! おがじぐれないとたーべちゃうぞー!」
 それを濁った目で見るアリス。
 思いつきで始めた元手0円の副業。
 思いの他上手くいったが、利益をれみりゃに還元する気は更々ないらしい。
「れみりゃが早く遊びたがっているから、食べたら遊んであげてね」
「「「ゆっくりたべたらいっしょにあそぶよ!!!」」」
「そう……。食事は楽しく食べないとね」
 仲良くおしゃべりしながら食べる三匹、この調子だと三十分はかかりそうだ。
「ゆっ! おねえさん。まりさおねえさんのおうちにいったけど、ゆっくりできなかったよ」
「あら? どうして、いままでお世話になってたんでしょ?」
「おうちのまえまでいったのに、いれてくれなかったの」
「あらあら、本当に?」
「むきゅー! はじきとばされたり、ぱちゅりーのあたまをさしたぼうで、またさそうとしてきたの!」
「……、そう。やっぱりね」
 肩を落としながら答えるアリス。
 これは勿論演技だが、ゆっくり達には見抜けないだろう。
「どうしたの? おねえさんだいじょうぶ?」
 ゆっくり魔理沙が心配そうに駆け寄ってくる。
 圧倒的な身長差の為に魔理沙の方は下から見上げる形になる。
「えぇ、大丈夫よ。だからそんなに心配しないで」
 そう答えるアリスの顔は満足そうだ。
 顔だけでも、魔理沙に心配してもらっている、計り知れない充実感がアリスの体に満ちていく。
「実は魔理沙は悪い魔法使いでね、あなた達に人形を使って釘を打ち付けたのも、あなたの餡子を取り出して食べたのも魔理沙の魔法の力なのよ」
「「「ゆ!!」」」
 信じられない、と言った表情の三匹。
 だって魔理沙お姉さんは何時もゆっくり達に食べ物を作ってゆっくりさせてくれたのに……。
「それはね、一杯食べらせて太らせるためなのよ……」
 どうやら声に出していたらしい。
 アリスからの返答にさらに困惑する三匹。
 どうもゆっくりの頭では、理解するのに数分かかってしまうらしい。
「魔理沙お姉さん、ゆっくり達のこと騙してたんだね!!!」
「ゆっくりさせて食べちゃうつもりだったんだね!!」
「むきゅー! はじりだぐない! はじりだぐないよー!!」
 三者三様の反応。
 しかし、三匹とも魔理沙に対しての評価がガラッと変わったのは事実。
「おーいアリスいるかぁ?」
 確かめるチャンスが来た。
「はいはい。いるわよ、紅魔館に行ったんじゃなかったの?」
 アリスは平然を装って対応する、片目で三匹を見ながら。
「それがさぁ、いざ始めようとした時に八卦炉忘れたのに気付いてな。昨日色々いじってそのままにしてきちまったんだよ」
「ふーん、あんたらしいわね」
「それで戻る時にお菓子を頂戴してきたんだ、ゆっくり達に食わせてやろうと思ってな」
「っ!」
 今はゆっくりガ主役だと分かってはいても、自分の為にではなくゆっくりに為に家に来た魔理沙。
 ゆっくりの分際で魔理沙に馴れ馴れしくする上に、お菓子まで強請るなんて……。
 声に出しそうになった口を必死に閉じる。
 もうすぐそれも終わるのだから。
「はらゆっくりども、魔理沙様が紅魔館から頂いてきたケーキだぜ!」
 そういってゆっくり達の前にケーキを並べる、どれも色とりどりで美味しそうだ。
「う~♪ け~き! け~きた~べちゃうぞ~♪」
 れみりゃがケーキに駆け寄る。
 なにせ紅魔館のけーきだ、散々目の前で三匹が美味しそうに食べているのを見せられたれみりゃは勢いよくケーキへ向かっていく。
 が、すでにケーキは潰れていた。
「魔理沙お姉さんの食べ物なんか要らないよ! ゆっくりできないならでていってね!!」
「いっぱい食べさせて霊夢を食べるつもりだったんだね!!」
「むきゅー!! あやまってね!!! あやまってね!!!」
 ドンドンと、音を立てながらケーキを踏みつけていく。
 あっという間に床のしみに成り果てるケーキ。
「おっおい! いったいどうしたんだよ……」
「出て行ってね! おねえさんのお家から出て行ってね!!」
「うわっ、わかった! わかったよ!」
 勢いに押されれ逃げるように玄関から出て行く魔理沙。
 訳が分からず玄関先で固まっていた魔理沙にアリスが声をかける。
「ごめんなさい。あの子達なにか勘違いしてるみたいなの、後できちんと話しておくから」
「そうか。よろしくたのむぜ、アリス。」
 元気が出た魔理沙は、アリスの肩を軽く叩いて、箒にまたがって紅魔館へと飛び立った。
「おねーさん! 魔理沙おねーさん帰った?」
「れいむ、魔理沙お姉さんとはもうゆっくりしないよ!!!」
「パチュリーも!!! おねーさんとゆっくりするよ!!!」
 アリスの顔から笑みがこぼれる。
「三匹とも、魔理沙には私からよく言っておくから。その時はまたゆっくりしてあげてねくれる?」
 驚きとも、困惑ともつかない表情の三匹。
 やっぱり、自分たちに酷いことをしてきた人を許す事は、ゆっくりでも出来ないんだろうか?
 そんな考えがアリスの頭を過ぎった時だった。
「……。良いよ!! おねーさんが許すんだったら魔理沙もゆるすよ!!!」
「おねーさんは優しいから!! 霊夢も許してあげる!!」
「むっきゅー!! ぱちゅりーもぱちゅりーも!!!」
「そう……。ありがとう。……良かったわ」
 コイツラはやっぱり馬鹿だ、馬鹿正直に自分の演技に掛かってくれている。
 アリスの本音はゆっくり達が思っているものとは違う。
 しかし、ゆっくり達の本音はアリスも理解している。
 だから面白い、楽しい、快感なのだ。
「それじゃあ、夕飯まで遊んでいらっしゃい。日が暮れたら帰ってくるのよ」
「」
「うん、ゆっくり帰ってくるよ!!」
「「お姉さんいってきまーす!!!」」
「行ってらっしゃい」
 笑顔のまま三匹を見送る。
 そのまま家の中に入る、が今度は異質の笑顔を向けていた。
「うーー!! れみりゃのけーきがぁ!! けーきがぁ!!!」
 そう言いながら、地面に落ちたケーキを見て泣き叫ぶれみりゃ。
 かつてのレミリアの面影は全く無いが、アリスにはそんな事関係ない。
 レミリアが無様に泣き叫んでいる、そう思うと不思議のアリスの心も満たされていく。
「う~!! れみりゃのけーぎ!! ……う~♪」
 あろう事か、床に落ち潰れたケーキを食べようとするれみりゃ。
「う~♪ げーぎ♪ げーぎ♪」
 うつ伏せになり、顔を近づけ、正にれみりゃの舌がケーキに触れよとしたとき。
「うぇぶ!! え゛ーー!! ぎ゛ょ゛ーーーーー!!!!」
 アリスの人形がれみりゃの舌を打ち付けた。
 しっかりと打ち付けられた舌の所為で上手く話すことも、動くことも出来ない。
 少しでも動くと舌が抜けそうな程の激痛が走る。
 今まで紅魔館でぬくぬくと暮らしていたれみりゃが感じた本当の痛み。
「うがーーーー!!! じゃぐあーーー!!! じゃくがーーー!!!」
 肉汁を口から溢して、必死に叫び声をあげるれみりゃ。
「だめじゃないれみりゃ、あなたは紅魔館のお嬢様なんでしょ? そんな汚いの食べちゃいけないわ」
 アリスが口調は優しく語りかける。
「う~!! いだいーーー!! ざぐやー!! ぱじゃりーー!! ごぁぐまーー!!!」
 何度目かも分からない助けを求める声。
 生憎と呼んだ人物の中にゆっくり愛玩者は無く、ただ煩いだけの叫び声と成り果てる。
「ふふ。無様ね、れみりゃ。でも安心して、貴方と違って私はとっても慈悲深いから助けてあげるわ」
「うわーーー!!! うっ? う~~~♪」
 首根っこを掴んで持ち上げる。
 猫を持つような格好だが、持っているのは猫ではなく元紅魔館のお嬢様。
「う~♪ たかいたがーーい♪」
 そのまま、二階まで上がり一番日当たりの良い部屋まで連れて行く。
「う~!!! もっと~~~♪ もっとたかいたか~い♪」
 床に降ろされたれみりゃは、よほどさっきのが楽しかったのかしきりにもっともっととおねだりをして来る。
「……」
 それを無視して、アリスはあの大きな透明な箱の中にれみりゃを入れる。
「う~? だしてーーー!!! だしてーーーー!!!!!」
 防音になっているのか、その声を無視してアリスは下に降りてしまった。
「うーーー!!! あーーーーー!!!!!」
 残されたれみりゃは、必死にそこから出ようともがくがそれも叶わない。
 それどころか、事態は段々と悪い方向へ転がっていく。
「う!! いだいーー!!! いだーい!!!!!!」
 突如れみりゃの体に激痛が走る。
「ああーーー!!!! いだーーーい!!!!」
 それに驚き、飛び跳ねるとまた激痛が。
「あがが!!! しゃくやーーー!!! ぱじゅりーーー!!! こぁくまーーー!!!!」
「ぎゃーーーー!!!!」
 知能の低いれみりゃに動かない、と言う選択ができるはずもなく延々と苦しみを味わい続ける。
 朝、裸で外に出された事、そしてその上からきぐるみを着せられた事。
 その二つが、今回もれみりゃの体中をかぶれさせた原因だった。
「あぎゃーーー!!! うぎゃーーー!!! いだいーーー!!!!」
 夜中も相変わらず叫び続けるれみりゃ。
 既に、アリスも他のゆっくり達も夢の中に旅立っているが、痛さで寝るどころではない。
「うーーー!!! うーーー!!!」
 それでも、ずっと泣き叫んでいる事で疲労が溜まっているのだろう。
「うーー!!! ……いだい……」
 徐々に、そのれみりゃも夢の中に落ちていった。
 翌朝。
「う~♪ おながすいたぞ~♪」
 れみりゃは空腹で目が覚めた。
「う!! いだい!!! いだい!!!」
 しかし、直ぐに体中に痛みが襲ってくる。
「あが!! ううう!!! うーーー!!!」
「あら、起きたの? れみりゃ」
 部屋に入ってきたアリスの腕には、美味しそうな料理が載せられていた。
「うああーー!! いだいーー!! おながへっだーーー!!!!」
「はいはい。ちょっとまってね」
 箱からだし、きぐるみを脱がせる。
 それで、痛みが幾分和らいだれみりゃの興味は、今度は食事の方へと向いた。
「うーー!! ごはんたべりゅーー!!!」
「ええ。どうぞ」
「うっう~~♪」
 思えば、昨日の朝から食事をしていなかったれみりゃは、目の前に出された食事にがっついた。
「う!! まずいーー!! これいらない!!! おがしちょーーだい!!!」
 飛び散る食事。
 どうやら、この状態になっても、お菓子以外は食べたくないらしい。
「はーーやーーぐーーーおーーーーがーーじーー!!!!」 
「……」
「おーーーーがーーじーーーー!!!!」
「だまれ」
「おーーー!! むぐぐ!!」
 飛び散った食事を、無理矢理れみりゃの口の中に押し込んでいく。
「まったく、何時から紅魔館のお嬢様はこんなに我侭になったのかしら? ダメじゃない好き嫌いしちゃ?」
「ううーー!!! うーーー!!! まずーー!!」
「だまれっていってるのよ!!!」
「!!! ぎゃーーー!!! いだいーーー!!!! もご!!」
 アリスは、れみりゃの傷だらけの肌を思い切り掻き毟る。
 悲鳴を上げたくても、口には大量の食べ物がドンド運び込まれる。
「ほら、ドンドン食べてね。折角作ったんだから」
「うーー!! ぎゃーーー!!!!」
 吐き出そうとすると体に激痛が走る。
 そんな事を繰り返しているうちに、少しずつ喉の奥に運び込んでいくようになった。
「うーー!! ごくん!! うーーー!!!!!」
「そうそう。偉いわ」
「うーーー!!! ぜんぶたべだーーー!!!!」
 死に物狂いで、全ての料理を平らげたれみりゃはその泣き顔でじっとアリスを凝視した。
「ええ。今度から食事はきちんと食べるのよ」
「うーーー!!!」
 口答えする気も起きないらしく、ただただアリスの言う事に頷く。
「そうだ、体痛いでしょ?」
「う? うーー!! いだいーー!!!」
 どうやら、今まで忘れていたらしい。
 思い出した今は、しきりにイタイイタイとアリスに叫ぶ。
「これがいけないのよ? こっちを着なさい」
「あああーーー!! きぐるみがーー!!! どーじでーーー!!!」
 目の前で着ぐるみを完全に灰にしたアリス。
 そして出されたのは、れみりゃの服だった。
「う~~♪ きぜで~~~♪ びぎゃ!!!」
「自分で着れるでしょ?」
「うーーー!!!」
 痛い体に鞭を打って、必死に服を着ていくれみりゃ。
「うっぎゃ!!」
「そこはそうじゃないでしょ?」
「う? う? うっぎゃーーー!!! いだいーー!! いだいーー!!!!」
「ほら、きちんと着なさい」
「うーー!!! うーーー!!!」
 この痛みから逃れるためには、はやく服を着てしまうしかない。
 この服を着る時も痛みがあるだろうが、アリスに蹴られるよりは痛くはない。
 何度も蹴られながら、それでも必死に、そうして何とかきちんと服を着ることができた。
「そう。やればできるじゃない」
「う……、う~~~♪」
「じゃあまたそこに入っていなさい」
「うーーーー!!!!!! だじでーーー!!! だじでーーー!!!!」
 またしても、アリスはれみりゃの叫びを無視して行ってしまった。
 それから一週間、れみりゃは毎日同じ生活を続けた。
 食事は一日三回、お菓子などは一切出てこない。
 服は朝、一度脱がされる、そして着替えさせられる。
 一度だけ、そのまま過ごしていたことが有ったが、その時は体中に唐辛子を塗りつけられた。
 一方の三匹は、その一週間をゆっくりと過ごしていた。
 朝は可愛らしい人形に起こされ、朝食を取り森に出かける。
 そしてお昼に帰ってきて昼食を取り、今度は家の庭で遊ぶ。
 夕食後は、庭か自分達のベッドで遊ぶ。
 ゆっくりとした一週間。
 三匹が気になった事といえば、今まで遊んでいたお友達がめっきり来なくなってしまった事だけだった。

 ――

 そして一週間後。
 その日の朝は、何時も通り始まった。
「ホーライ!!」
「ゆゆ!! おにんぎょ~さんおはよう!!」
「今日も霊夢たちはゆっくりするよ!!」
「むきゅむきゅ!! きょうも元気にすごすよ!!!」
 人形に連れられ、家の中に入る三匹。
 三匹は気付いていたのだろうか。
 家の人形達は、全て修理を終えていた事に……。
「「「おねーーさん!! おはよう!!」」」
「おはよう。さぁ朝ごはんよ」
 何時も通りの朝の挨拶。
 そう言ってアリスが食事を出してくれる事も何時も通りだった。
「いっただきま~す!!」
「むっきゅ~~!! おいし~~~!!!」
「むっしゃ!! うめぇ!! めっちゃうめ~~!!」
 ガツガツ!! ムシャムシャ!!
 辺りには、モノを咀嚼する音だけが響く。
 そして、ニコニコと美味しそうに食べる三匹を眺めるアリスの姿。
「むっぐもぐ……? ……?」
 最初に、異変に気付いたのはゆっくり魔理沙だった。
「……おねーさん。このあんこどーしたの?」
「ゆゆ?」
「むきゅ?」
 他の二匹も、食べる口を留めて魔理沙のほうを向く。
「どういしたの魔理沙? ゆっくりおいしーよ」
「そうだよ!! おいしーよ!!」
「だって!! だってこのあんこおかしいよ!!!」
 小刻みに、魔理沙の体が震え出す。
 自分は、以前にもこの味を食べたことがあった。
「美味しいでしょ? いままで遊んでいたお友達の餡子よ?」
「ゆ? なにを言ってるのおねーさん? 霊夢にも分かるようにせつめいしてね!!」
「むっきゅ~~~?」
「今まで仲良く遊んでいたお友達は、皆加工場に連れて行って餡子になっちゃったのよ」
 クリクリした瞳を向けて尋ねてくる二匹に、アリスは端的に言い放った。
「!!! やっぱりおねーーさんがやったんだね!!」
 ゆっくり魔理沙が、アリスの下に駆け寄ってくる。
「ゆ!!!」
 しかし、多くの人形達にそれは阻まれてしまう。
「ええ。貴方達が加工場の中で楽しくゆっくりしていた時に、全部捕まえてあげたのよ」
「ゆー!! おねえさん!! どうしてそんなことするの!!」
「むっきゅーー!!!」
「どうしてって、あんた達が私の家をメチャクチャにしたからでしょ。折角魔理沙一緒に暮らすために、一緒に魔法の研究をしようと綺麗にしていたお家を……」
 押し黙るアリス。
 ボソボソと、魔法使い特有の早い口調で言葉を続ける。
「でもね、あなたたちはころさないであげたのよ。せっかく魔理沙が気に入ってたしね。魔理沙は優しいのね。でもね!!!」
「「「!!!!」」」
「でも、あんた達三匹は折角魔理沙が持ってきたお菓子を台無しにしただけじゃなくて、魔理沙を悲しませる事を行ったりして。それが許せなかったのよ!!!」
 アリスの独白が終わると、家中の人形が三匹を取り囲んだ。
「ゆゆ!! おねーさん!! おねーさんが魔理沙おねーさんはゆっくりできないっていったんだよ!!!」
「私がそんなこと言うわけないじゃない!!! 魔理沙は、魔理沙は一緒に居るだけでゆっくりできるのに!!!!!」
「ゆゆーーーー!!!!!!」
「れいむーーーー!!!!!!!!」
 一体の人形が、霊夢の頭に釘を突き刺す。
 深く、深く突き刺さった釘が、霊夢の体に痛みを伝える。
「ゆーー!! いだいよーー!! ゆっくりさせてよーーー!!!」
「やめて!! やめておねーーさん!!」
「むっきゅーー!! やめてあげてね!!! やめてあげてね!!!!」
「……忘れたのかしら?」
「!!! ぶげっ!!!!」
 魔理沙の顔面にアリスのつま先がめり込む、余りの痛みに、ヨタヨタと転がりまわる魔理沙。
「返事は、だぜ! っておしえた筈よ?」
「ゆ!! ゆるしてほしいんだぜ!! ありす!!!」
「そう。それで良いのよ。魔理沙」
「ゆ!! ゆぐぐ!! ゆーーー!!」
 魔理沙は泣いていた。
 今までの一年間は夢だったのだろうか。
 三匹が仲直りして眠りについて見た夢だったのだろうか。
「ゆぶ!!」
 霊夢を掴みあげ、釘を引き抜く。
「ゆぎーーー!!!!」
 そのまま、頭の後ろに大きな穴を開ける。
「貴方は、毎朝美味しい餡子を出すのよ。だから今まで通りゆっくり過ごしてね。もし不味くなったら、お友達が困った事になるかもしれないわよ?」
「ゆゆ!! ゆっくりすごす、……ぜ? ぶげら!!!」
「何を言っているのか分からないんだけど、貴方ってそんな喋り方だったかしら?」
「ごめんなぜい!!! ありすおねーーざん!!!!!」
「うん。それじゃあ毎朝よろしくね」
「はい!! はい!!!」
 霊夢を床に降ろし、パチュリーの元へと近づいていく。
「むきゅ? むきゅーーー!!! ごめんなざいーー!!!!」
「なんで謝るのかしら、貴方は何か悪いことしたの?」
「むきゅ!! まりざおねーざんに、わるいごといいまじた!!!!」
 パチュリーが、自分に出せる精一杯の声でアリスに話す。
「そうだったわね、でも正直に言ったから許してあげる」
「むきゅ~♪」
「でも、貴方も体が弱いのに、家のゆっくり魔理沙と遊ぼうとしてたわよね? おかげで、魔理沙はゆっくり出来なかったのよ」
「むぎゅ!!!」
 パチュリーは魔理沙のほうを見るが、そこには必死に顔を横に振っている魔理沙が居るだけだ。
「でも安心して、これからも、魔理沙と遊んで良いわよ。ただし」
「むきゅ?」
「毎朝、きちんと走って体を鍛えてね。人形を一体付けてあげるから」
「むぎゅーー!!!! むぎゅーーーー!!!!!」
「ふふ。それじゃーね。……さて」
「!!!!!」
 再び、魔理沙の前に立ったアリス。
 その顔は笑ってはいるが、これは本当の笑いではないと、魔理沙の眠っていた記憶が教えている。
「貴方、私の首を思いっきり突き飛ばしたわよね?」
「ゆ!!!」
「その前に、自分で自分は幸せですって言ったわよね?」
「ゆー!!!」
「それなのに、どうしてそんな事したのかしら?」
「ゆゆゆ!!!!……」
「どうなの?」
「ゆ……ゆーー!!!」
「答えられないの? だったらそこのお友達も加工場に連れて行かないとね」
「!!! まっで!! 魔理沙が悪かったです!!! おねーさんからにげようとしまじた!!!」
「それで?」
「ごめんなざいーー!! もうぜっだいにじまぜんからーー!! ぱじゅりーーとまりざをゆるじでーーー!!!!!」
「私が聞いているのは、そんな事じゃないの」
「ゆ?」
「今、幸せかどうか聞いているの」
「!! はい!! 魔理沙はいまどっでもしあわせです!! だいずきなアリスとくらぜてしあわせd……だっぜ!!!!」
「嬉しい!! やっぱり魔理沙はゆっくりでも魔理沙ね!!!」
「ゆーー!! 好きだぜアリズ!! アリズーーー!!!」
 やっぱりあれは夢だった。
 笑顔で頬を寄せ合う一人の魔法使いと一匹のゆっくり。
 そして、二匹のお友達。
 四匹の幸せな日々は、何時までもゆっくりと続く事だろう。



~koumakan part~

「うーー!! さぐやーー!!! ぱちゅいーーーー!! こあぐまーーー!!!」
 既に一週間の殆どを箱の中で過ごしていたれみりゃは、今まで自分を大事にしてくれた紅魔館の人のことを考えていた。
「うーー!! ぱじゅりーーー!!! こあぐまーーーーー!!!!」
「呼んだかしら? レミィ」
「!!!!! ぱじゅりーーー!!!! ぱじゅりーーーー!!!!!!」
 そこには、嘗て自分を大事にしてくれたパチュリーの姿があった。
「はいはい、どうしたの?」
 箱かられみりゃを出してやり、胸に抱き寄せ優しく尋ねる。
「うーー!!! ごごいやだーーー!!!! おうじかえるーー!!!!」
「そう。おうちにかえりたいの?」
「うんーーーー!!! かえりたいーーー!!!」
 余程辛かったのだろう、滝のように涙を流し続けるれみりゃ。
「それなら、帰りましょうか?」
「う!! いーのーー!!!」
「ええ、でもね」
「う?」
「帰っても、貴方は前のように生活できないわよ? お菓子も出ないわよ?」
「ぞれでもいーーー!!! おねがいーーーー!!! がえらぜてーーー!!!!!」
 この一週間、普通の食事をしていたれみりゃにとってそれはもう苦労でもなんでもなかった。
「そう。それじゃあ帰りましょう。そうそう、お友達を連れてきたわ」
「う? おともだち?」
「これですよ」
 隣に立っていた、小悪魔の後ろから顔を出したモノ。
 姿形は、れみりゃに良く似ているが、服と羽が大きく違っている。
「うーーー!! ゆっくりしねーー!!!」
 それは、紛れもなく、あの怖かったお姉さんそっくりのゆっくりだった。
「うーー!! ゆっくりs!!! いだいーーー!! いだいーー!!!」
 そして、このゆっくりも体中に湿疹や汗疹の痕が有った。
「この子も、今日加工場から引き取ってきたの」
 幾ら今まで風評が良かったとしても、ゆっくりになっては意味がない。
「さて、帰りましょうね。帰ったら、二人とも仲良くお風呂に入りましょう」
「うーーー!!! うーーー!!!!」
「うーーー!!! うーーー!!!!」
 今までは、折り合いが悪かった姉妹だったが、これからは仲良くメイド達のイジメに絶えながら生活できる事だろう。
 紅魔館。
 現在はスカーレット血縁者が途絶えたため、前当主・前々当主の友人であるパチュリー・ノーレッジが党首の座についている。
「小悪魔。さっさと帰るわ。これをお風呂に入れないとね」
「はい。パチュリー様。そうだろうと思って出かける前にメイドさんに言っておきましたよ」
 しかし、殆ど図書館に篭りっきりの当主に代わって従者でも有る司書が屋敷を纏めているらしい。

The end


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最終更新:2022年05月03日 17:18