家庭餡園
ちょっと奥さん、見ていかないかい?
家庭で簡単に出来る餡子のなる木だよ。
え? これは唯のゆっくりが土に埋まっているだけじゃないかって?
それにゆっくりってうるさいし、生意気なことばかり言うから手が付けられないって?
これは普通のゆっくりとはちょっと違うんだよ。
見ての通り、下半分が土に埋まっているから忌々しいことなんか何にもいえないし、
勝手に動き回って家の中を荒らされたりしないからね。
それでこれに実を成らせる方法だけど、ここに種となる液体があるんですよ。
これを埋まっているゆっくりに引っ掛けるだけ、これで簡単に実が成りますよ。
それに餡子の実がなるまでもすごく早いんですよ。
種付けをした次の日には収穫できますからね。
でもこの液体をかける前にしっかり揺すってくださいね。
しっかり揺すらないとちゃんと芽が生えてこなかったりしますから。
揺するのはだいたい30秒ぐらいで大丈夫ですよ。
あ、待ってください。面倒とか言わないでくださいよー。
行っちゃったなあ。
そこのお兄さん、この餡子のなる木はどうだい?
これの育て方?
簡単ですよ。1日1回オレンジジュースや砂糖水をかけてあげるだけで大丈夫なんですよ。
連作させたい場合は、少し大目のこれくらいかけてあげてください。
栄養さえあれば何個でも実をつけるので複数の種を沢山かけることもできるんですよ。
その場合もしっかりかけてあげてくださいね。
餡子は好きだけどしばらくすれば飽きちゃうって?
大丈夫ですよ。その場合はこのカスタードの成る種や紫蘇餡の成る種、
チョコレートが成る種など豊富にそろえていますので別の甘味が楽しみたいって方にも安心です。
それに母体、埋めるゆっくりによっても基本にできるものが変わるんですよ。
れいむやまりさなら普通の餡子ですが、ありすならカスタード、少しお値段が張りますがこのれみりゃだど肉餡になるんですよ。
あれ? あんまり興味ない? そんな、ここまで説明したんでもうちょっと見ていってくださいよー。
仕方がない。次の人を探そう。
そこの粋な鬼意山。お兄さんじゃないよ。鬼意山は君しかいないからね。
でこういう風に餡子が成る木があるんですが…
悲鳴が聞こえなくて面白くない?
そんな鬼意山用の特別なものがこちらです。
さっきと埋まってる体が逆になっているだけじゃないかですか。
さっきと違って口が上に出てるだけなので気持ち悪さも半端ない?
でもこれで悲鳴もしっかり聞くことが出来ますし、目が見えないことも合わさって恐怖心を煽る事も出来ます。
それに口が外に出ているので、オレンジジュースのかわりに残飯なんかを突っ込めばそれもちゃんと食べてくれますね。
いわゆるコンポストとしても使えます。
で種付けの方法は通常型と同じですが、こちらは餡子の実ができるのに1週間ぐらいかかります。
数も通常型と比べると半分から1/3ぐらいに減ってしまいますが、その分、実も大きくなりますよ。
鬼意山待ってくださいよー。
それぐらいなら自分でできるからそんなものはいらない?
後生ですからー。これはあのきもんげさん公認なんですよー。
私は1ヵ月後やたらとしつこかった餡子のなる木の店に行ってみた。
それ自体は特別珍しくない繁殖法であると思ったが、あの餡子の種とやらは気になった。
しかし店のあった場所に行くと張り紙が張ってあり戸も閉まっていた。
張り紙にはこう書いてある。
誠に申し訳ありませんが「餡子の成る木屋」は17日をもって閉めさせていただきます。
買っていかれたお客様は以後、加工場のほうでアフターサービスを行っているので
そちらへお越しいただきたい所存であります。
潰れてしまったらしい。
その店から出てくる影が。あれはこの店の店主。
「おじさん、どうしたんですか?」
「君はあのときの冷やかしかい?
どうもこうも潰れちゃったんだよ。
最初は物珍しさに買いに来ていたお客さんもいたんだが、加工場のほうに目をつけられちゃってね。
うちを潰す気か? って怒られたんだよ。
こんな店じゃ加工場とやりあえるだけもないし、体力も続かないからね…。
きもんげさんもひどいよなぁ。他には絶対言わないって約束したのに加工場に言ったのはきもんげさんらしいし。」
「おじさん、知らなかったんですか? 噂ですがきもんげは加工場を作ったときの中枢にいたらしいですよ。」
「そうだったのか。まあ知っていても言わなかったかわからないなぁ。
きもんげさんのお墨付きは、このゆっくり業界でもかなり有利だからなぁ。」
「その話はどうでも言い訳なんですが、あの種について教えてくれませんか?」
「どうでもいいとはひどいなあ。まあもう店を畳んだし欲しかったらあげるよ。」
「ほんとですか? ありがとうございます。でもこれからの生活は大丈夫なのですか?」
「うちでやってたことをそのまま加工場にあげたから、
謝礼として生活するのには困らないお金は入ってくることになっているから大丈夫だよ」
そうして店主の倉庫に入っていく。
そこにあったのは一升瓶にれいむやまりさ、みょん、れみりゃなどラベルが貼られていた。
「これが種ですか…」
「好きなだけもって行くといいよ。他に欲しい人がいるなら君が連れてきた場合にのみ譲ろう。」
「でもこの液体どうやって集めたんですか?」
「その機械もこっちにあるよ。おいでや。」
倉庫の死角になっていた一室に明かりを灯す。
そこはゆっくりを縛り付けるであろう空間が一本の棒で支えられてあり下に受け皿があるだけだった。
「こいつは?」
「これでゆっくりを揺すって体から分泌液を出させる装置さ。
今はもう加工場に渡しちゃったから、残ってるのは試作機だけどね。」
電源を入れると小刻みに震えだす機械。
おじさんが店を開いていたときは各種のゆっくりを24時間振動させていたらしい。
上気した生首が鎮座してなくてよかったと私は今更ながら思った。
「じゃあ、おじさん。これとこれとこれをもらっていくよ。」
「もっと持っていってもいいのに。」
「一度じゃ運びきれないからね。また欲しいのができたらもらいに行くよ。」
「そうかい。じゃあ次の機会にでも。」
こうして私はホクホク顔で帰るのであった。
by しゃべらないゆっくり
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最終更新:2022年05月03日 09:46