~注意~
- 舞台が少し特殊です。キノの旅みたいな感じです。もしくはドラクエ
- 虐待描写が少ないと思われます。頑張ったんですが…
『虐める国と愛でる国』
さわやかな朝日が大地を照らす早朝、旅人は二つの看板の前で立ち往生していた。
看板はそれぞれの看板が指し示す先の場所が書いており、
片方の看板には「ゆっくりを虐める国」もう片方は「ゆっくりを愛でる国」と書いてあった。
旅人は別にゆっくり愛護派でも虐待派でもなかったので、どっちでもよかったのだ。
旅人はゆっくり三十分もの間悩んだのち、両方行くことに決めた。
「やあやあよくいらっしゃいました。我が国はあなたを歓迎いたします」
旅人が最初に行った虐める国で、旅人は歓迎されながら入国した。
珍しかったり、貴重である物資を運んでくることがある旅人は、その国では大層人気があったのだ。
旅人は自分の持っていた、前の国で仕入れたものを適当に食料や消耗品などと交換したのち、国の広場で住人たちとの交流を図った
「すいません。よろしければこの国について教えてはいただけないでしょうか」
「ああ、旅人さんはこの国に興味がおありですか。喜んでお教えいたしましょう」
するとたくさんいた住人の中から、代表格と思われる男か一歩前に出てきて、旅人に答えた。
旅人は、国に入ってからずっと気になっていたことを、男に聞いた。
「あの歩道は何ですか?」
旅人が示した先には、透明な物質で作られている歩道があり、中は空洞であるらしく、そこにはたくさんのゆっくりたちが蠢き合っていた。
その口から見てとるに、「ごごがらだじでぇぇぇぇ!!」「でいぶわるいごどじでないよぉぉぉぉ!!」などといっているようにみえる。
防音加工なのか、その声を聞き取ることはできなかったが。
そしてその歩道の上を、行き交う住人たちが何事もないように通過していく。
「あれですか。あれは我が国のゆっくりにゆっくりさせない政策の一環として作られた、専用の歩道です。
閉じ込めて死ぬまで放置します。しんでも放置しますが。
我が国の歩道は、すべてあのような作りとなっています。歩くときにも、ゆっくりの苦しむ顔が見れると好評なんですよ。
騒音対策のため防音加工にしておりますが」
「そうですか。さすがゆっくりを虐める国ですね。その政策は、ほかに何かあるんですか?」
「もちろん、ありますよ。ここからだとちょっと見えないですが、ゆっくりを使った奴隷農園などもあります。
ゆっくりに強制労働させる農園です。
ゆっくりをいじめることができて、かつ野菜も収穫できるんですからまさに一石二鳥ですね」
男は自分の趣味の分野に入ったせいか、少し興奮した様子だった。
対照的に、旅人は落ち着いた様子で言葉をつなげていく。
「なるほど。しかしあのゆっくりたちに労働させるのは大変でしょう?」
「そんなこともないですよ。従わなかったらいじめるだけですから。
肉体的に攻撃する以外にも、家族を殺したり、餌をひどいものにしたり、手段はたくさんあります。
最近だと、見せしめなどがはやってますかね」
旅人が怪訝そうな顔になるのを見て、住人は饒舌に語りだす。
「見せしめ、ですか?」
「ええ。百メートル間隔で棒を立てて、そこにゆっくりを突き刺しておくのです。もちろん生きたままで。
そして、見せしめとされるゆっくりは、私たちに逆らったものが優先的に選ばれます。
するとゆっくりたちは自分がああなったらという恐怖感と、自分でなくてよかったという安心感が両方得られるわけですね。
こうなったらもうそのゆっくりは逆らいませんよ。限界ぎりぎりの労働を死ぬまで続けるだけです。
あくどい奴だと、告げ口してほかのゆっくりを貶めようとするやつだっているんですから、笑っちゃいますよね」
旅人は男の笑みに対し愛想笑いで応える。
それでも興奮していた男は愛想笑いと気づかなかったようで、旅人も楽しんでいるよう勘違いして勝手に気分を良くしていた
「そのほかにもありますよ。我が国の自慢である、ゆっくり加工品です」
「ゆっくり加工品、ですか。どんなおやつなんですか?」
「あっはっは、食べ物じゃないですよ。ゆっくり硬化剤を利用して、いろんなものを作るんです。
例えば…このストラップですか」
住人は懐から赤ちゃんゆっくりを模したストラップを旅人に見せた。
その顔は苦悶に満ちた表情で作られており、そして本物と見まごうほどに精巧にできていた。
「これは…まさか、本物を固めたんですか?」
「その通りです。生きたゆっくりに苦しめながら硬化剤を与え、固めたものです。もちろんまだ生きてますよ。
これはかなり簡単なもののほうで、ほかにも机や椅子などの家具などもありますし、花瓶などの調度品もあります。
柔化剤を与えてゴムのように柔らかくしてから鋳型にはめ込んで、それから少しずつ硬化剤を流し込むんです」
旅人が触れると、かすかにそのストラップは震え、そしてかすかながらうめき声のようなものが聞こえてきた。
それはゆっくりの、まだ自分は生きているのだという懸命の訴えだったかもしれない。
しかし、それすらもここの国の民にとっては娯楽の対象でしかない。
「生かさず殺さず、ゆっくりに地獄を味わわせられるんで、今国中で大人気です。
これもわが国の技術のたまものです」
住人は自慢げに胸を張り、自らの国の技術について語った。旅人は愛想笑いでそれに応えた。
それからも旅人はずっと、住人たちからゆっくりいじめの話を聞き続けた。
共食いをさせた。
目の前で家族を三枚に下ろした。
やすりで削った。
火鉢を目に突っ込んだ。
皮を全部剥ぎ取った。
蟲の巣にした。
そんな、健常な精神の持ち主ならば失神してしまうような話をするときでも、住人達の顔に浮かぶのは悦のはいった笑みだった。
子供のような、本当に楽しそうな笑み。会話の中から漏れ出てくる純粋な悪意。
住人たちの心は、ひたすらにまっすぐだった。普通の人の心とは、すこしも交わることがないくらいに。
旅人は、そんな住人たちのことを乾いた笑みで眺めていた。
旅人は翌日から、国内にあるいろんな施設を覗いてまわった。
奴隷農場や、専用のショップ、そして加工場など、多くの施設があり、多くの人間がそこでゆっくりをいじめていた。
「あづい、あづいよぉぉぉぉぉ!!あじがやげちゃうよぉぉぉぉぉ!!」
「でいぶのあがじゃんをころざないでぇぇぇぇ!!」
「いだいっ!!まりさしっかりはたらくからだだぐのやべでねぇぇぇぇぇ!!」
「ゆっくりでぎないぃぃぃぃぃ!!」
施設の特色を生かして、さまざまな方法でゆっくりはいじめられていた。
いや、施設外ですらも、ゆっくりはいじめられている。
定時の時報はゆっくりの悲鳴で、大時計の中に閉じ込められているゆっくりが鳩時計のように中から出てきて、そして解体される。
その悲鳴を発する種族で、人々は時間を知るようだった。
公園では、子供たちが無邪気にゆっくりの体に箸を突き刺して遊んでいた。ゆっくりがどれだけ痛いと、やめてと叫んでもやめなかった。
むしろ、その悲鳴がどれだけ絶望に満ちているかで、子供たちは競っているようだった。
旅人が街の中を普通に歩くだけでも、近くの家の中からゆっくりの悲鳴が聞こえた。
それを聞いて、道端の人が「きょうはまりさにするかぁ…」と呟いていた。
どこもかしこも、悪意だけが蔓延っていた。
旅人は、ただそれらをじっと眺めていた。
一週間ほど滞在したのち、旅人はその国から出ることにした。
入国した時と同様に、出国する時も住民に歓迎されながら見送られた。
その際に、虐待用にと、一匹のゆっくり(この国の技術によって、何も与えずとも一カ月以上生き続ける用に加工された特殊タイプ。
しかしおなかは減るらしいく、空腹のまま生き続けるというタイプのいじめらしい)を無料で譲渡され、旅人は快く受け取って住人たちに別れ告げた。
そして国と外の世界を隔てる門にて、一人の門番に旅人に話しかけられた。
「旅人さん、どうでしたか?我々の国は。楽しんでいただけましたでしょうか」
「ええ、とても。退屈しない一週間でした」
「それはよかった!いやね、ここに来る人って、私たちの行為に嫌悪感を表す人が多いんですよ。
わざわざ国の名前までにして、うちの特色を示しているっていうのに。
特に隣の国のやつらがしつこくてね。ゆっくりを助けろーだとか言ってうちにやってくるんです」
「そんな人もいるんですか。あなたも大変ですね」
「まったくですよ。あんな下等生物、生きているだけでも罪なんです。
だから、苦しめて殺してやるのが当然ってものでしょう?ほんとうに何考えているんだか…」
そうですね、と旅人は答え、そして門番に別れを告げた。
それから旅人が門から一時間ほど歩き、国の門すら見えなくなるほど離れたことを確認すると、
旅人は懐にあったゆっくりを何の躊躇もなく口の中に放り込んだ。
それは旅人にとって邪魔なだけであったし、またそれをわざわざ虐める気も起きなかった。
コクのあるあんこの甘みが口の中に広がり、結構おいしいな、と旅人は思った。
「やあやあよくいらっしゃいました。我が国はあなたを歓迎いたします」
旅人が虐める国を出てから一週間後。今度は愛でる国で、旅人は同じように歓迎を受けた。
そして同じように、旅人は手持ちの荷物をその国の商品と交換した。
その後も同じように住民との交流のために広場に向かい、特筆すべきでもない会話を交わした。
旅人が入国してから翌日の昼、旅人は町中を散策していた。
「なんていうか、どうやっていうか、要するにっていうか、ひまだ」
旅人はずっと国中を回っていたが、珍しい商品も、面白い話もなにも見つけられないままこれまでを過ごしていた。
人がんはみな自分のゆっくりを自慢するだけだし、そのゆっくりは確かに人間に懐いているように見えたが、
みなどこか目がうつろで、正直気味が悪かった。
仕方なく、出国の準備のために買い物をしていた時、
明らかに過剰装飾な一匹のゆっくりれいむを連れた、これまた気味が悪くなるほど豪華な身なりをした若い女に声をかけられた。
「おや、旅人さん。こんにちは」
「こんにちは。そちらのれいむは、あなたが飼っているゆっくりですか?」
旅人が目を向けたゆっくりれいむは、しかしなにも言葉を発することなく、ただじっと旅人のことを見つめていた。
その髪につけられたきらびやかな飾りが、旅人に反射された光を送るだけだった。
女は愛おしそうにゆっくり霊夢の頭をなで、
「ええ、そうですよ。ほら、れいむも旅人さんに挨拶しなさい」
「たびびとさん、こんにちは。ゆっくりしていってね!!!」
女に言われて初めて、れいむは旅人に言葉を発した。
通常のゆっくりならば出会いがしらにそう叫ぶものだが、ここのゆっくりは躾が行き届いているのだろうか、みな同じようだった。
「飼い主の言うことをよく聞く、立派なゆっくりですね。これほど躾けるのにはとても苦労しそうです」
女は旅人の言葉に一瞬キョトンとした後、あはは、と笑い出す。
「いやいや。実はそんなこともないのですよ、旅人さん。
我々の国にかかれば、ものの二週間でゆっくりを人の言うことをしっかり聞くまで躾けることができます」
「二週間でですか?それはまたすごいですね…」
旅人は女の言った事実に、驚きを隠せないようだった。
通常、ゆっくりブリーダーがゆっくりの躾を完了するのに、半年ほどかかるといわれている。
あのゆっくりのあの異常なまでに強い自我を根本から変えるには、それほどの時間がかかるのだ。
それをこの国では、たったの二週間である。どれだけ腕のいいブリーダーだとしても、この早さは不可能である。
どうしてだろうか、と考えを巡らす旅人の様子を見て、女は少し得意げになったようだった。
「そうだ!旅人さん、これからうちの仕事場に来ませんか?」
「仕事場に、ですか?なんでまた?」
「実は足国営のゆっくりを躾ける施設の館長なんです。
旅人さんさえよろしければ、ゆっくりを躾ける過程をお見せ出来ます」
「いいんですか?国家機密とかじゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。むしろこの素晴らしいしすてもを旅人さんに知っていただいて、ほかの国に伝えてほしいくらいです」
女の話が気になったというのもあったし、何より暇だった。
旅人はいったん買いものを切り上げて女のあとについていくことにした。
「ようこそ、旅人さん。さあさあ、お座りになってください」
旅人は女に案内され、『館長室』という札が書かれている部屋に入った。
その部屋は、優に十五メートルはあろうかという無意味に広い部屋に、見るからに眩しそうな、
金やら銀やらでできている調度品の数々が所狭しと並べられている。
壁にはどでかい薄型テレビがかけられており、そのふちも例外なく金ぴかだった。
女は身につけていた装飾品をとり、身軽な格好になってからゆっくりを部屋の外から追い出して鍵を閉めた。
そして棚から急須を取り出し、机にあるカップに注いで旅人の前に差し出した。
「はい、お茶です。遠慮なくお飲みになってください」
「ありがとうございます。わざわざすいません。でもいいんですか?れいむを外に追い出してしまって」
「いや、いいのですよ。お気になさらないでください。ここには今人もいませんから」
二人はゆっくりの絵がバックに施された、見るからに高そうなソファーに並んで座った。
そのソファーはテレビに向かって座るように配置されており、
旅人はデモビデオでも見るんだろうかと思ったが、近くにビデオデッキのようなたぐいは見受けられない。
女は自分の分のお茶を注ぎ、一口だけお茶を口に含んだ。
「このモニターで、わが国が誇る最新のゆっくりしつけシステムについて解説したいと思います。
どうぞ、くつろぎながらお聞きになってください」
旅人は自分もいっぱいお茶を口に含んだ。
味の薄い、庶民が飲むようなあっさりとしたお茶だった。
ソファーの端にあったリモコンに手を伸ばす。
女がリモコンのボタンを押すと、先ほどまで何も映していなかったテレビに映像が浮き出る。
そこには、一匹のゆっくりが、壁も床も天井も、すべて真っ白く装飾された部屋に閉じ込められていた。
また、そのゆっくりは動けないようにワームのようなもので固定されており、
口にはガムテープ、耳にはヘッドフォンのようなものがつけられている。
また、そのゆっくりの脳天には一本のチューブがつき刺さられており、白い壁とつながっている。
「ここは転生の間と言って、野性としての本能を忘れさせる部屋です。いち早く教育するための下準備ですね。
野生の、野蛮な環境で培ってきたものは、私たちの国では必要ありませんから」
「はぁ、でもなんか辛そうですけど」
身動きが取れず、涙をだくだくと流しながら必死に動こうと震えているゆっくりを見て、旅人は率直な感想を漏らした。
確かに旅人の言う通りのものが映像として映っていたので、女も苦笑するしかない。
躾にしてはあまりに過激なその仕打ちは、旅人が以前いた国で見たそれに酷似していた。
「大丈夫ですよ。躾が完了するころにはこのころの記憶なんて残っていませんから」
忘れてればいいという問題ではないような気がしたが、
そうにこやかな表情を少しも崩さずにそう言い切った女を見て、旅人はそうなんですか、とだけ相槌を打った。
「それで、具体的な内容はというと、白以外の、すべての視覚的刺激を奪った部屋に閉じ込め、また時間の感覚を奪うために一定の光量を与え続けます。
耳についているヘッドフォンからはこれまでのゆっくりを否定する言葉を流し続けます。
そして死なないように、適度にオレンジジュースを投資ながら二日間ほど放置すればたいがいのゆっくりはすべてを忘れてくれますね。
まあ個体差があるので、念のため四日間これを続けます」
女は口のテープには触れていなかったが、あれはおそらく自殺防止用だろうと旅人は推測した。
虐める国で、発狂したゆっくりが体中のあんこを吐いて死ぬのは散々見てきたので、女に確認はとらなかった。
女は一口お茶を口に注いで、のどの渇きをうるおす。
「ふぅ。で、これが終わった次の工程はこちらです」
女はリモコンを操作してテレビの画面を切り替える。
今度映ったのは大学の講堂のような空間だった。
壁に掛けられたスクリーンを取り囲むように、扇状に椅子のような段差が並んでいる。
そして生徒が座る場所にはうつろな顔をしたゆっくりたちが整然と並べられていた。
「わが国で人間と一緒に暮らしていくために、ビデオ教育を施します。
ああ、ちなみにあのゆっくりたちは身動きが取れないように、地面から突き出ている杭に突き刺しておりますので、脱走の心配はありません。
またゆっくりたちに痛みを与えることで、意識を回復させることも目的の一つです。
ゆっくりたちにとって辛いことかもしれませんが、ここが踏ん張りどころです」
「まあ、気を失ったままの状態でビデオを見せても、意味はないでしょうからね」
女の言う通り、テレビに映っているゆっくりたちは個体差はあるものの、だんだんと目に光がともってきたようにみえる。
しかしそれは、自身に走る激痛による強制的な覚醒であったが。
「意識を回復、といっても自我は崩壊しておりますので、あのゆっくりたちの頭の中はかなり白紙に近い状態となっております。
だからその白紙のゆっくりたちに…ええと、なんだっけな…」
女はことばを度忘れしたのか、少しの間首を傾けながら悩んでいた。
そして目をかっと開いたかと思うと、指で空中に人間の顔のようなものを描き、
「つまり、ヘブンズ・ドアー!!するわけです」
旅人はポーズを取ったまま固まっている女をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「……つまり、命令を書き込む、ということですか。白紙のゆっくりに情報を『刷り込む』わけですね」
「ええまあそうなんですが……もうちょっとリアクション取ってくれても……」
「………………………………」
女はそこで旅人が「だが断る」と言ってくれることをアイコンタクトで知らせたつもりだったが、旅人は黙って女を見返すだけだった。
現実は非情である。
女は仕方なく画面のほうに視線を戻し、何事もなかったかのように説明を続けた。
「ええ、その『刷り込み』をするわけです。ゆっくりに、ゆっくりすることのに対する新しい概念を刷り込みます。
いくらがんばって躾を施しても、ゆっくりとしての本能だけは残ります。つまり、自分がゆっくりすること、ですね。
ですから、そのゆっくりすることに対する概念を変えれば、必然的にゆっくり自体の性質も変わるわけです」
女はそこまでいってリモコンをいじり、再び画面が切り替わる。
そこにはかわいい女の子がゆっくりれいむを抱きかかえている絵を背景として、文がいくつか書かれていた。
画面上方には『ゆっくりすることってなあに?』というタイトルのような文が、少しだけほかの文の文字よりも大きめの文字で書かれている。
そのタイトルの下に、いくつかの文が箇条書きにして書かれていた。
「みんなとと仲良く暮らすこと。他の人の言うことはきちんと聞くこと。自分だけでなくみんなも大事にすること……」
旅人がその内容を音読していくが、どれも野生のゆっくりの持つ『ゆっくりすること』とはかけ離れていた。
自分よりも、人間のため。自分よりも、ほかのゆっくりのため。
自身を最も至高とするゆっくりにとって、ありえないことばかりであった。
「その内容を教え込むために、この内容を何度も何度も音声として流し、また復唱させます。
そして約三十回ごとに、声に気持ちがこもっていない等の理由で罰を与えます。
この罰は、実際にゆっくりたちがしっかりと復唱できてようがいまいが関係なく与えます。
ゆっくりできないとどうなるか、体に覚えさせるわけですね。ここら辺は、一般のブリーダーの教育方法と変わりません」
女が講堂のほうに画面を戻したその瞬間、一斉にゆっくりたちの悲鳴が室内に響き渡る。
その声の大きさに旅人は思わず顔をしかめ、女はあわてて音量を下げた。
「ああ、すいません。音量調節を忘れていました……」
「いや、いいんですけど、それよりもどうしてあのゆっくりたちは悲鳴を上げているんですか?」
画面に映ったゆっくりたちは、一目見た感じでは、なにもされている様子が見受けられない。
しかし、当のゆっくりたちは何かに苦しむように、ひたすら絶叫を上げていた。
「中に刺さっているとげから、さらに細長い針のようなものが出てきて、中身をこねくり回すんです。
あまり外側を傷つけると、回復が困難になったり、傷が残ったりしますから。
まれにここであんこを吐いて死んでしまうゆっくりがいるんですが、大半はもどすことはありません。
先の部屋でさんざん口の中にあんこを吐いて、またそれを飲み込む作業を続けていますから、体が吐くことを嫌がっているんです」
女の言ったとおり、その画面の中でどれだけゆっくりたちが苦しんでいても、あんこをぶちまけるようなゆっくりはいなかった。
ただずっと、内部に走る激痛と不快感に、悲鳴を上げ続けることで耐えているだけだった。
「まあ、ここまでこればもう見せるようなことはないですね。
後はこれを五日間ほど続けた後、残りの五日間で低下した運動能力、張り、艶などの保全作業をして、国民のもとへ送り届けられます。
細かいしつけは、それぞれの家で独自にやっていただきます。
通常のゆっくりを躾けるよりも、はるかに簡単に躾けられるでしょう」
女はそこでテレビの電源を落とし、旅人のほうに向きなおった。
「ここまではすべて機械が自動で行っており、作業員はその工程を見ることはありません。
仕事といってもジュースの補給や機械の点検くらいなものです。
あと、今のは成体ゆっくりで見せましたが、子ゆっくりにも専用の工程があります。まあ似たようなものなんですが、ご覧になりますか?」
「いや、結構です。ありがとうございました」
旅人は太ももに肘をつけて前傾姿勢をとり、女からは顔が見られないような位置をとった。
そしてその状態のまま、口を開く。
「……最初にも言ったかもしれませんが、これってかなりゆっくりにとってつらいんじゃないんですか?
私には、この国の人も虐める国の人々と大差ないように見えます」
旅人の言葉に、女はむっとしたように眉をひそめた。
「あんな野蛮な国の人々と一緒にしないでください!
我々の国がこのようなことをするのは、ゆっくりのためを思ってのことです。
事実、この国のゆっくりたちはみな幸せです!向こうの国のゆっくりのような地獄のような仕打ちも一切なく、私達と楽しく暮らしているんです!
旅人さんだって見たでしょう?我が国のゆっくりたちの様子を」
「ああ、そうでしたね。すいませんでした」
興奮して次々にまくしたてる女をなだめようと、旅人はとりあえず謝罪を述べる。
旅人がここで見たあの目のうつろなゆっくりを見る限り幸せそうには思えなかったが、嘘も方便である。
「ああ、もうこんな時間ですか。申し訳ありませんが今日はもうお暇させていただきますね」
旅人は時計のほうに目を向けながら、ポリポリと頭をかく。
女はまだ言い足りなさそうだったが、ホストとしてはお客が帰るというのに無理に引きとめるわけにもいかない。
そして少し悩んだあと、女は話を始める前に部屋から追い出した、装飾過多のゆっくりれいむを旅人の前に持ってきた。
「旅人さんに、このゆっくりれいむを差し上げます。
このゆっくりれいむを旅人さんの目で何日もじっくりと見ればおのずと誤解も解けることでしょう」
女は抱えていたゆっくりれいむを旅人に手渡す。
いきなり飼い主を変更されたそのゆっくりれいむは、しかしほとんど動揺するそぶりを見せない。
それどころか、「あたらしいれいむのごしゅじんさま、これからよろしくね!!」と、完全に事態を受け入れていた。
その順応性の早さに感心しつつ、旅人は女のほうに向きなおる。
「はぁ、ありがとうございます。でもいいんですか?あなたの大切なゆっくりれいむでしょうに」
「いえ、いいのです。この国の誤解が解けるのなら、私ごときいくらでも犠牲となりましょう。
ですから、どうかそのれいむを大切にしてくださいね」
旅人はええ、とだけうなずいて、今度こそその部屋を後にした。
扉を閉めた時女の泣き声のような音を耳にしたが、旅人は立ち止まることなくさっさと歩き去ってしまった。
「では旅人さん、よい旅を」
「ええ、ありがとうございます。そちらも、お仕事がんばってくださいね」
翌日、旅人は愛でる国から出国した。
この国での収穫と言えるようなものは胸に抱える一匹のゆっくりだけだったが、旅人は満足げである。
「この飾り、いくら位するんだろう。見たところ結構高そうな気がするんですけど」
旅人はゆっくりにつけられた装飾品を、すべて取り去って鞄の中におさめた。
このゆっくりの飼い主であった女が金持ちであったのだろうか、ゆっくりにつけられていた飾りは、なかなかに豪華だった。
実は次の国では貴重な資源が使われたりしてて、しばらく贅沢するほどのお金が手に入れられるかもしれない。
妄想が膨らんでいって自然とにやける旅人の顔を、ゆっくりれいむはじっと見ていた。
「ん?なに?もしかしてこれ取られるの嫌だったの?」
かなりさみしくなったゆっくりれいむをみて、旅人はゆっくりれいむがそれ返せだのわめいてくるかと思ったが、
ゆっくり霊夢はあわてて顔を横に振る。
「そんなことないよ!!れいむはそのかざりうっとうしいっておもってたもん!!
とってくれてありがとう!!」
「ああ、嫌だったのそれ……。確かに飼い犬に服着せるようなものなのかもしれないかな。
他にも、前飼われてた時にいやなこととかあった?」
「うん!!まえのごしゅじんさまは、れいむにいやなことばっかりしてきたんだよ!!
おそとでるときにはひもでくくられるし、いえにかえればせまいところにとじこめられたよ!!
すきなゆっくりができても、じゆうにあうこともできなかったよ!!れいむはいちどもしあわせにかんじたことなんてなかったよ!!」
「そう、かわいそうにね」
やはりというかなんというか、結局女はれいむを苦しめていただけのようだった。
旅人はそのゆっくりれいむに同情を感じざるを得なかった。
「ゆー、おにいさんはほかのにんげんとちがうかんじがするよ!!」
本気で自分をあわれがる旅人を見て、ゆっくりの中で小さな希望のようなものが生まれた。
今まで本能に従ってゆっくりしてきたのだが、それは少しも幸せじゃなかった。
ゆっくりするためにいろんな人間に奉仕してきたけれども、返ってくるのは自分勝手なエゴばかり。
でも、この人間は違う。自分が幸せでないことに理解を示し、同情してくれた。
これからは、自分の生活も一変するのではないか。幸せになれるのではないか。
温かな未来を想像し、久しく忘れていた、喜びという感情によって自然とゆっくりれいむのほほは緩み、
「じゃあ、いただきます」
「ゆ?]
旅人によって、食いちぎられてしまった。
[い、いだいぃぃぃぃぃぃ!!れいむのほっぺたがぁぁぁぁぁ!!」
「うーん、この前食べた虐める国のゆっくりと味が変わらないんだけど……。
あの国、結構えげつないね」
れいむは意味がわからなかった。ほっぺに走る激痛も、目の前で自分のほっぺをおいしそうに食べる人間も。
おかしい、なにかがおかしい。ありえない。
この人間は、私を助けてくれたんじゃなかったのか。幸せにしてくれる人じゃなかったのか。
先ほどまで目の前にあった未来が、急速に遠のいていく。
「どぼじで、どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉぉ!?」
「残念なことに、私にとってゆっくりは食料でしかないから。
ゆっくりなんて持っていてもかさばるだけだし、だからさっさとここで食べるだけ」
旅人は淡々とした口調で、そう告げた。
そしてもう一度大きく口をあけて、ゆっくりにかぶりついた。
「いだいよ……どぼじで、どぼじでぇぇぇぇぇぇ……」
「もぐもぐ。別に食べなくてもよかったんだけど、もったいないし。
それと、私はお兄さんでなくてお姉さん。確かに髪は短いし胸はぺったんだからわからなかったかな?」
「…………………」
体の半分以上持っていかれたゆっくりれいむは答えられない。結果的に旅人の言葉は独り言となる。
しかしそれを気にする様子もなく、旅人は黙々とれいむを食べ続け、やがて完食した。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
自分が平らげた命に感謝をして、旅人は食事を終える。
そしてすっくと立ち上がると、次の国に向かって歩みを始めた。
歩きながら旅人は一度だけ今来た道を振り返り、
「どこに行ったって、ゆっくりたちは絶対にゆっくりできない運命なのかね」
その旅人の問いにこたえるかのように、どこかからゆっくりの悲鳴が響き渡った。
おしまい
by味覚障害の人
今回の主人公は味覚障害でも何でもないんですが、まあ毎回そうするのもあれなんで。
最終更新:2022年05月03日 15:19