「ここはゆっくりたちがみつけたおうちだよ!
はやくでていってね!!」
突然聞こえた声に俺は目を丸くした。
ちょっと考えてみて欲しい。
家でくつろいでいたら、玄関先で音がしたんだ。俺はしがない一人暮らし、誰かが訪ね
てくることなんてほとんどない家だ。ちょっと気になって玄関を開けてみたんだ。
そしたら開口一番、このセリフだ。なにを言っているんだこいつら。
「いや……お前らの家とか言われても……ずっと俺が住んでいたんだが」
「そんなことないよ! ここは魔理沙とれいむの家だよ!」
「ゆっくりでていってね!」
いやいや、お前ら今までどこにもいなかっただろうが!
「どこにも行かないなら、ご飯ちょうだいね」
「うめぇ飯ちょうだいね!」
……。
ああ、なるほど。
どこで身につけたか知らないが、どうもこいつら変な知識を身につけたらしい。こう言
えば、きっと面倒くさがって餌を与える人がいたんだろう。
気持ちは分からなくもない。正直、疲れている時にこいつらの相手をするのは苦痛だ。
「はやくちょうだいね!」
「はやく!」
まぁ、調子に乗られたらそれ以上にムカつくけどな!
思いっきりれいむの頭を踏みつぶした。
「あ゛がっ! あががあ゛がががががぁぁっ!」
「れ、れいむぅううぅうう! あんこが、あんこが!!」
思いっきりやったから、生地の横からあんこが漏れてきている。でも気にしない。
これ以上は潰れないように力を調整して、足をぐりぐりと動かしてやった。
「ぎゃあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁあ゛ぁっ! ぐり゛ぐり゛じないでぇえ゛え゛ぇぇっ!」
あー、なんかうどん踏んで捏ねてる気分だわ。こっちの方が気分爽快だけど。
「ま、魔理沙は悪くないよ! 全部れいむがやったんだよ!」
「ゆ゛っ!」
ああん?
そう叫んだ瞬間、白黒大福はこの場から逃げ出した。
あいつ、仲間を見捨てて逃げやがった。
「ま゛りざぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁっ!」
さすがにショックだったんだろう、足を動かしていないのにれいむが泣き叫ぶ。
ぶっちゃけ俺も面白くない。せっかくの気分は一気に悪くなっている。
ここは、あの白黒大福を捕まえるのは当然として……。
……よし。
れいむの頭から足を外してやる。
「……ゆ゛っ?」
「おい、ここにいろよ。逃げてたら踏みつぶすからな!」
俺はれいむをその場において、駆け足で大福を追いかけていった。
急いで逃げたと言っても所詮ゆっくり。ゆっくりゆゆこや空を飛べるれみりゃ達ならと
もかくゆっくり大福なら、追いつくのは容易だった。
もし隠れられていたら微妙だったが……ゆっくりにそんな知能はない。
俺に手で鷲づかみにされた瞬間、大福は悲鳴を上げた。
「い゛や゛ぁあ゛ぁぁぁっ! ゆ゛っぐじざぜでぇえ゛ぇえ゛ぇっ!」
「わかった」
「ゆ゛っ?」
一瞬、泣き叫ぶのを止め、こっちを見る大福。
そんな大福を地面に戻すと、そのまま思いっきり踏みつぶす。
「ぎや゛ぁぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛っ!!」
「好きなだけゆっくりしてな」
すぐさま足を離す。さっきのれいむで加減はわかっていた、強めにしたせいか返事はな
いが痙攣を繰り返しているので生きているだろう。
もちろん、これで殺すつもりはさらさらない。
こいつには報いを受けてもらわないとな。
俺は家へと戻っていく。
玄関前には、言われたとおりれいむが待っていた。待っていたのか動けなかったのかは
分からないが。
「ゆ、ゆっくりしてたよ?」
俺に気づくと早々に声をかけてきた。どうやら俺の踏んだダメージもちょっとは回復し
ているらしい。
「ああ、よく待ってた」
俺は潰れた大福をれいむの目の前に置く。
「ゆっ! ま、まりさぁ!」
「ゆっ、ゆっくり……」
心配そうに駆け寄っていくれいむ。裏切られたのに律儀な事だ。
「お前言ってたよな?」
「ゆっ?」
「ご飯おくれって。ほら、ご飯だ」
俺は大福を指さした。
「ゆ゛っ!」
俺の言葉を理解したのか硬直するれいむ。さすがに抵抗があるか? まぁしかし……。
「そいつな、最後の最後までれいむが悪いって言ってたぞ」
「!?」
俺の言葉に、れいむの顔が強ばった。
「……ま、まりざ……そんなこと、言って……」
「れいむが悪いから、やるなられいむにしてだってよ。いい仲間を持ったな」
「……」
れいむが静かに大福へ近づいていく。
「……れいむっ……」
「……まりさぁ」
「ご、ごめ……」
「ゆっくりしていってね!」
瞬間、れいむは大福の顔に食らいついた。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁぁあ゛ぁっ!」
「うめぇメッチャうめぇっ!!」
「や゛ぁあ゛ぁめ゛でぇえ゛え゛ぇぇっっ!!」
「ゆっくりしね! ゆっくりしね!」
れいむに食われてどんどん小さくなっていく大福。ものの数分もすれば、食べかすぐら
いしか残らないだろう。
ああ、すうっとした。今夜はよく眠れそうだ。
俺は満足げに玄関を後にした。
最終更新:2019年10月08日 01:56