薄暗くじめじめとした空間をたいまつの光がぼんやりと赤く照らす。
いくつかの黒い人影が、黒く、球形に近いぶったいと向き合っていた。
時刻は正午を回ったところだと言うのに、活力の根源たる陽の光はまったく見られなかった。

そう、ここは洞窟の中。
それも、ドスまりさが率いるゆっくりの群れが住処としている場所。


人間の集団と正面切っての戦いでは勝ち目が無い事を知っているドスまりさは、群れのゆっくり達へ田畑や人間の所有物を荒らさないよう言い聞かせていた。
しかし、生物の集団としての宿命か必ず一定量存在するならず者のゆっくりはドスの言うことなど聞かず、たびたび人里へ行っては己が欲求を満たすために田畑を荒らし、作物を盗んでいく。
そのたびに人間達は畑荒らしの実行犯を捕獲し、ゆっくりのルールで裁かせる為にドスへ引き渡していた。
今までは。

いくら引き渡しても一向に減らないならず者ゆっくりに業を煮やした人間達は、ついに最終的解決手段としてドスの群れを屈服させる事を決定。

その結果がこの睨み合いの状況と言うわけだった。




 ドスまりさに相対する人間達の手がゆっくりをぶら下げていた。
いずれも群れでは腕の覚えのある者ばかり。
洞窟を防衛するために人間達に立ち向かったは良いが所詮はゆっくりで、同数の人間と戦うことになってはどうしようもなかった。
防衛ゆっくりはドスまりさを屈服させるための担保とされていた。

「いた゛い゛よおおぉぉぉ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「やっぱりにんげんにはかてないよ…」
「どす…もうあきらめようよ…ゆっくりしたいよ」

戦闘意欲をなくしたゆっくりたちがわずかに体を揺らしつつ呟く。
人の耳には聞こえがたいような音量であったが、ドスまりさの責任感を刺激するには十分だった。

「ごめ…ゥッ…んねえ゛ェッ…ぇぇぇ!ま゛り゛さ゛ッ…だめなどす…ュッ…ごめんゥッ…え゛えええぇぇ!!」

巨体に相応しい巨大な目から帯状の涙を流し、大切な仲間へ許しを請うドスまりさ。

大玉な饅頭とバレーボール大の饅頭の悲鳴とも会話ともつかない音声の大合唱は暫く続き、地底湖でも作るつもりかというほどの涙を流した後のドスまりさが人間に提案をした。

「ま゛り゛さ゛はと゛うなって゛もいいか゛らほ゛か゛のゆっく゛りはた゛す゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛!おねか゛いし゛ます!!」

ドスまりさは自分の命を対価に群れの保全を願う。

ドスがいなくなったところでならず者ゆっくりはまた現れるのは確実。
人間にとって本来ならば割に合わない取引であるが、意外な事にドスまりさの願いは聞き届けられた。
ドスの命も保障すると言う破格の好条件で。




 ドスまりさは人間に見せられた文章を読み、健康的な肌色を怒りで赤くし、ついで己の立場を思い出して青くなり、内容を理解してからは真っ白にと愉快な光景を見せていた。

「な゛に゛こ゛れ゛え゛えぇ゛ぇぇっ゛!!」

文章は人里とドスの群れが交わす約束を記した物だったが、その内容がドスに顔色の変化を強要していた。
以下にその内容を一部記す。



  • にんげんとどすはただちにたたかいをやめる。

  • はたけをあらしたわるいゆっくりは、にんげんとゆっくりがさばく。

  • どすのむれがすむばしょは、どすのどうくつとそのまわりのしんりんにかぎる。

  • どすのむれは、にんげんにあたえたそんがいをすぐにおぎなう。
  • どすのむれは、こわしたにんげんのいえをしゅうりするためにはたらくゆっくりをひとざとにおくる。
  • どすのむれはにんげんにめいわくをかけたおぎないとして、ふゆまでのあいだひとつきにあつめたしょくりょうのはんぶんをにんげんにわたす。

  • ゆっくりはとくべつなきょかがなければひとざとにはいってはならない。
  • にんげんはゆっくりがすむばしょにじゆうにはいれる。

  • ゆっくりがひとざとでじけんをおこしたばあい、にんげんがさばく。
  • にんげんがむれのすむばしょでじけんをおこしたばあい、にんげんがさばく。

  • どすのむれがほかのゆっくりのむれとやくそくをするばあい、にんげんにそうだんする。
  • どすのむれできまりをつくるときは、にんげんにそうだんする。

  • これらをどすのむれがまもっているかかくにんするため、ひつようなにんずうのにんげんがどすのどうくつにちゅうざいする。どすはかれらのせいかつにきをくばらなければならない。

  • いじょうのやくそくはとりきめのつぎのひからじっしする。



苛烈というほか無い内容だった。ドスまりさが怒りを覚えるのも無理はない。
いくらなんでもこれは酷いと感じたドスまりさは目の前の人間に注文をつけはじめた。

「こんなひどいやくそくできないよ!ぷん!ぷん!」
「にんげんだけじゃなくてゆっくりもゆっくりできるようにしてね!!」

まりさは頬を膨らませて威嚇するが文書を渡してきた男は涼しげな顔を崩さない。

「いやならこの群れは地上から消えることになる。もう少し立場と言う物をわきまえた方が良い。」

「ゆ゛っ!ゆ゛う゛う゛うぅ゛ぅーーーー!!」




 結局、ドスまりさは人間達の要求をほぼそのまま飲んだ。
まりさが唯一引き出せた譲歩といえば「ゆっくりがひとざとにはいりたいばあいは、さとのいりぐちできょかをもらう。」という事ぐらいだろう。

賠償が終われば少しは楽になるだろうとまりさは考えていたが、それが甘い考えであったことをすぐに知ることになる。



饅頭と対等な協定を結ばなきゃならん理由など無い。   ───ある里長  ドスの群れ対策会議にて

by sdkfz251

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最終更新:2022年05月03日 15:51